Asahi Linux、M3 Mac対応版を「数週間以内」に発表へ WebカメラやThunderboltが前進
2026年8月31日 00:35
Asahi Linuxプロジェクトは、M3シリーズを搭載したMacへの対応が最終段階に入り、今後数週間のうちに正式リリースについて詳しく発表する方針を明らかにした。Webカメラや内蔵マイク、USB 3.0、Thunderboltなどの対応が進んだほか、M4およびM5搭載Macに向けた初期開発でも、ストレージやPCIe、マルチコア起動に関する基盤が整いつつある。
■M3 Mac対応版はリリース目前
Asahi Linuxプロジェクトは2026年8月26日、Linux 7.2の開発サイクルにおけるApple Silicon対応の進捗を公表した。M3シリーズ搭載Macについて、これまでに進めてきたハードウェア対応を踏まえ、正式リリースを準備できる段階に近づいたとしている。具体的な公開日は示さず、「今後数週間のうちに、さらに詳しく伝える」と説明した。
Asahi Linuxは、Apple Silicon搭載MacでLinuxを動作させるためのプロジェクトだ。仮想マシン上ではなく、Macのハードウェア上でLinuxを直接起動できる環境を目指している。Apple Siliconの詳細なハードウェア仕様は一般向けに公開されていないため、開発者は各ハードウェアブロックの動作を解析し、Linux用のドライバや起動環境を整備してきた。
今回の発表はM3搭載Macへの対応が大きく進んだことを示す一方、プロジェクトの機能対応表では、正式インストーラやメインディスプレイなど一部の項目がなお開発中とされている。したがって、現時点でM3搭載Macが公式インストーラから一般利用できる状態になったわけではない。
■USB 3.0とThunderboltをM3シリーズへ拡大
M3世代では、従来世代から引き継げる部分がある一方、一部のハードウェア変更に合わせた追加開発が必要になった。
M1から標準構成のM3までのMacでは、USB-Cポートの制御にApple向けのTexas Instruments製コントローラ「CD3217」が使われている。Asahi Linuxでは、このコントローラを「ACE2」とも呼んでいる。ACE2はI2Cと呼ばれる通信バスを通じて制御される。
M3 ProおよびM3 Maxでは、新しい「ACE3」コントローラが採用され、通信方式もI2CからSPMIに変更された。開発者のmildsunrise氏とchaos_princess氏が解析したところ、ACE3の基本的なレジスタ構成はACE2に近く、異なる通信インターフェースで包んだ構造になっていたという。
SPMIとACE3への対応により、プロジェクトはUSB 3.0とThunderboltがM3シリーズで動作するようになったと報告している。USB Type-C経由でUSB 3、DisplayPort、Thunderboltの接続を調整するATCPHYについても、M3世代の製造プロセス変更に合わせた初期設定が追加された。
ただし、正式リリースに含まれる機能や対応モデルごとの状態については、今後の発表を確認する必要がある。
■Webカメラと内蔵マイクも対応が進展
Webカメラの画像処理を担うISPは、以前の世代から大きく変わっていなかった。M3 Maxでは初期化メッセージの一部が省略されるため、従来のドライバが想定する処理手順と食い違っていたという。ドライバ側でこの違いに対応したことで、内蔵Webカメラを持つM3シリーズの機種で利用できるようになったとプロジェクトは説明している。
内蔵マイクでは、M3世代に「High Frequency」デシメータと呼ばれる信号処理機構が加わった。これはマイクから得た信号を後段で扱える形に変換する処理の一部で、新しいフィルタ係数と、従来より大きな初期化メッセージが必要になる。
chaos_princess氏による解析とドライバ対応により、内蔵マイクを備えたM3シリーズの機種でもマイク入力が動作するようになったとしている。
ディスプレイコントローラの対応も進められている。GPUとディスプレイコントローラのファームウェアインターフェースはmacOSのバージョンと密接に結び付いているため、Asahi Linuxではハードウェア世代ごとに特定のmacOSファームウェアを対象として開発する。M3シリーズではmacOS 14.8.3に含まれるインターフェースを対象とし、M1およびM2で利用している環境に近い機能水準へ近づいているという。
■ハードウェア動画デコードをデスクトップで使う取り組み
Apple Siliconには、動画デコードを処理するAVDと呼ばれるハードウェアブロックが搭載されている。Asahi Linuxでは、H.264、H.265、VP9のハードウェアデコード対応を進め、サポート対象機種でおおむね安定して動作する段階に達したと報告した。AV1についてもM3以降を対象に開発が進められている。
AVDは、圧縮された映像フレームの処理をハードウェアに担わせるステートレス型のデコーダだ。LinuxカーネルのV4L2 Stateless APIと組み合わせやすい一方、Webブラウザなど多くのデスクトップアプリケーションは、これまで主としてVA-APIなど別のインターフェースを利用してきた。
この違いを埋めるため、開発者のsofus氏は、VA-APIからV4L2 Statelessへ処理を受け渡す変換レイヤーをAVDで利用できるように改良した。変換レイヤーを導入して必要な環境変数を設定すれば、VA-API対応アプリケーションからAVDを利用できる段階になっているという。
現時点では、この仕組みはFedora Asahi Remixに標準搭載されていない。また、Firefoxのサンドボックス化された動画デコーダでは動作しない。プロジェクトは、一般提供できる構成を目指して引き続き統合作業を進めている。
■GPUを介さず映像を表示するダイレクトスキャンアウト
Asahi Linuxでは、動画デコーダやGPUが生成したフレームをディスプレイコントローラへ効率的に渡す「ダイレクトスキャンアウト」の実現にも取り組んでいる。
通常の動画表示では、デコードしたフレームをGPUが扱えるメモリへコピーし、デスクトップ画面と合成したうえで、ディスプレイコントローラへ受け渡す。ダイレクトスキャンアウトでは、条件が整えば一部のコピーやGPUでの合成を省略でき、メモリ帯域や消費電力の削減につながる。
Appleのハードウェアには「Interchange」と呼ばれるフレームバッファ形式があり、GPU、ディスプレイコントローラ、動画デコーダの間で効率的にデータを受け渡すために利用される。Asahi Linuxでは、ディスプレイコントローラ用ドライバとMesaのグラフィックスドライバでInterchangeへの対応を進め、GPUが描画したフレームをディスプレイコントローラへ直接渡すための基盤を整えた。
一方、AVDがInterchange形式のフレームを出力するための対応は調査中だ。KDE PlasmaのコンポジタであるKWinも、AppleのGPUとディスプレイコントローラを別々のGPUに相当する構成として扱うため、現状ではDMA-BUFを使ったダイレクトスキャンアウトが無効になる。KWin側では、このような構成への対応が進められており、早ければPlasma 6.8で利用可能になる可能性がある。
■CPU電源管理をLinux本流へ統合する提案
今回の進捗報告では、Apple SiliconのCPU電源管理をLinuxカーネルの本流へ統合するための新たな提案も紹介された。
Arm系プラットフォームでは、CPUコアの休止や復帰をファームウェアに依頼する標準インターフェースとしてPSCIが使われる。Linuxのarm64メンテナは、CPU電源管理に関する機種固有の実装が増えることを避けるため、本流へ取り込むハードウェアにPSCIの利用を求めている。
一般的な構成では、Linuxカーネルが動作する例外レベルから、SMCまたはHVC命令を使って上位の例外レベルにあるPSCIファームウェアを呼び出す。ところがApple SiliconのCPUはEL3を実装しておらず、Asahi Linuxが利用してきた機種固有のCPUアイドルドライバを、そのままLinux本流へ統合することが難しかった。
開発者のSven Peter氏は、PSCIの呼び出し経路としてUEFIランタイムサービスを利用する方式を提案した。m1n1ブートローダの一部を起動後もメモリ上に残し、LinuxカーネルからPSCIの処理を呼び出せるようにする構想だ。
この提案に対応するLinuxカーネルのパッチは、意見募集段階であるRFCとしてメーリングリストに提出されている。採用されるかは決まっていないが、受け入れられれば、Apple SiliconのCPU電源管理をLinux本流へ統合するための重要な前進になる。
■M4とM5ではストレージやPCIeが動作
M4および初期のM5システムに向けた開発も始まっている。現段階はハードウェア解析と初期起動を進める「bring-up」の途中であり、日常利用を想定したリリース段階には達していない。
M4以降では、macOS 15.xのファームウェアに含まれるNVMeストレージコントローラの初期化手順が従来と変わった。この違いに対応しなければ、Linuxから内蔵ストレージを読み取れなかった。
Yureka氏とSven Peter氏は、m1n1とLinuxカーネルドライバの双方を更新し、M4とM5でNVMeストレージを動作させた。PCIeについても、Linuxがバス上のデバイスを検出できる段階に達している。複数のCPUコアを有効にして起動した際にクラッシュする問題も修正され、関連パッチはlinux-nextに取り込まれている。
M4では、待機中のCPUコアにWFI命令を実行するとコアの状態が失われるという問題も確認された。M1からM3では低レベルの構成レジスタを調整できたが、M4以降ではAppleの起動ファームウェアが設定後にレジスタをロックする。
このためYureka氏は、カーネルの初期起動時に使用するアイドルループを変更できるコマンドラインパラメータを追加した。CPUアイドルドライバが読み込まれるまでは単純な処理ループを使い、初期化中のクラッシュを避ける仕組みだ。
■M4でm1n1の解析環境を再構築
M4では、Asahi Linuxがハードウェア解析に使用するm1n1ハイパーバイザにも変更が求められた。Appleはメモリ管理を保護する仕組みとして、SPTMと呼ばれるSecure Page Table Monitorを採用している。M4以降では、AppleのOSカーネルを動かす際にSPTMが必須となった。
SPTMは、Apple独自のGuarded Execution Frameworkと呼ばれる実行環境内で動作し、ページテーブルやメモリ権限を管理する。従来のm1n1ハイパーバイザはこの仕組みに対応しておらず、M4上でAppleのカーネルを監視しながら動かす解析環境を利用できなかった。
Sven Peter氏は、以前に進めていたGXFとSPRRの解析成果を基に、m1n1がこれらの環境をエミュレーションできるようにした。その上でAppleのSPTMバイナリをハイパーバイザ内へ読み込み、M4でもMMIOアクセスを追跡できる環境を再構築した。
これにより、M4以降のハードウェアがどのように制御されているかを調べ、Linux用ドライバの開発につなげるための手段が整った。M4とM5はまだAsahiインストーラの対象ではなく、提供時期も発表されていない。
■Fedora Asahi Remixと対応状況
Asahi Linuxは、AppleがIntel製プロセッサからApple Siliconへ移行した2020年から、LinuxをApple Silicon搭載Macへ移植する作業を進めてきた。
現在の中心的なディストリビューションはFedora Asahi Remixである。Fedora LinuxをApple Silicon搭載Mac向けに調整したもので、Fedora Asahi SIGとAsahi Linuxプロジェクトによって開発されている。
M1およびM2搭載Macでは、GPUアクセラレーション、Wi-Fi、Bluetooth、オーディオ、Webカメラなど多くの機能が利用できる。一方、機種によって未対応または制限のある機能もあるため、導入前には公式の対応表と既知の問題を確認する必要がある。
M3対応版が公開されれば、2023年以降に発売されたM3搭載MacBook Pro、iMac、MacBook Airにも対象が広がる。ただし、M3 Ultra搭載Mac Studioを含むすべてのM3世代機種が同じ時期にインストーラの対象になるとは発表されていない。正式な対象モデルと利用可能な機能は、今後のリリース案内で明らかになる見込みだ。
■注目ポイントQ&A
●今すぐM3 MacへAsahi Linuxを正式にインストールできますか?
現時点では、M3搭載Macは公式インストーラの一般向け対応が完了していません。プロジェクトは正式リリースの準備が整いつつあるとしており、今後数週間のうちに詳しい情報を発表する予定です。
●M3 Macではどの機能の対応が進んでいますか?
Webカメラ、内蔵マイク、USB 3.0、Thunderbolt、ディスプレイコントローラなどの対応が進んでいます。ただし、機種や機能によって開発状況が異なり、正式インストーラやメインディスプレイなど一部の項目は開発中です。リリース時点の対応状況は公式の発表と機能対応表を確認する必要があります。
●ハードウェア動画デコードは標準で利用できますか?
AVDを利用するためのドライバと変換レイヤーの開発は進んでいますが、デスクトップ向けの統合は完了していません。VA-APIとの変換レイヤーはFedora Asahi Remixに標準搭載されておらず、Firefoxのサンドボックス化された動画デコーダでも利用できません。
●PSCIに関する提案は何を変えるものですか?
Apple SiliconのCPU電源管理を、Linuxで標準的に使われるPSCIの枠組みに接続する提案です。UEFIランタイムサービスを呼び出し経路として利用することで、機種固有のCPUアイドルドライバに依存せず、関連コードをLinuxカーネル本流へ統合できる可能性があります。現在はRFC段階であり、採用は決まっていません。
●Asahi LinuxはいつM4およびM5 Macに対応しますか?
提供時期は発表されていません。NVMeストレージ、PCIeデバイスの検出、マルチコア起動など、追加開発に必要な初期基盤は動作していますが、対応していない機能が多く、公式インストーラからは利用できません。
元記事: Asahi Linux M3 Mac Release Due in Weeks: Webcam, Audio, Thunderbolt Now Working