欧州ロケット「アリアン6」、初の静止トランスファ軌道投入に成功―次世代気象衛星「MTG-I2」を打ち上げ
2026年8月30日 23:34
欧州の大型ロケット「アリアン6」は日本時間8月28日、次世代気象衛星「MTG-I2」を静止トランスファ軌道(GTO)へ投入する初のミッションに成功した。MTG-I2は欧州と北アフリカを2.5分間隔で観測する高速スキャンを担い、急速に発達する雷雨や霧、砂じん、山火事などの監視強化に使われる。
MTG-I2は打ち上げ後、地上との通信を確立し、太陽電池パネルを展開した。今後は自らの推進系を使って約2週間かけて高度約3万6000kmの静止軌道へ移動し、観測機器の較正やデータの検証を進める。
■アリアン6初の静止トランスファ軌道ミッション
アリアンスペースは8月27日午後5時11分、南米フランス領ギアナの欧州宇宙港から、2基の固体ロケットブースターを使用する「アリアン62」を打ち上げた。日本時間では8月28日午前5時11分に当たる。
MTG-I2は打ち上げから約36分後、高度2778kmでロケット上段から分離された。アリアン6にとって9回目の打ち上げであり、静止トランスファ軌道へ向かった初のミッションでもある。欧州宇宙機関(ESA)は、これまででアリアン6が最も遠方まで飛行したミッションだとしている。
静止トランスファ軌道は、静止軌道へ衛星を運ぶために使われる楕円軌道だ。衛星はロケットから分離された後、自身の推進系によって軌道を引き上げ、赤道上空約3万6000kmの静止軌道へ移る。地球の自転とほぼ同じ周期で公転するため、静止軌道の衛星は地上から見てほぼ同じ位置にとどまり、同じ地域を継続的に観測できる。
アリアン6の上段には、複数回の燃焼に対応する極低温エンジン「Vinci」が搭載されている。2024年7月の初飛行では、技術実証段階で補助推進装置の再着火が予定通り行われず、飛行ソフトウェアがVinciの3回目の着火を指示しなかった。その後、補助推進装置の着火準備シーケンスが改修され、以降の商業ミッションは計画された軌道投入を完了している。
今回の成功により、アリアン6は低軌道や極軌道に加え、大型の通信衛星や気象衛星などで広く利用される静止トランスファ軌道への輸送能力も実証した。アリアンスペースのDavid Cavaillolès CEOは、欧州の重要な機関ミッションに対応する、信頼性の高い欧州独自の打ち上げサービスの提供を示す成果だと述べた。
■2.5分間隔で欧州を観測するMTG-I2
MTG-I2は、欧州気象衛星開発機構(EUMETSAT)が運用する第3世代気象衛星システム「Meteosat Third Generation(MTG)」の2機目の画像観測衛星だ。重量は約3.8トンで、Thales Alenia Spaceを主契約者とする欧州企業のチームが開発した。
中心となる観測機器の一つが「Flexible Combined Imager(FCI)」である。可視光線と赤外線の16チャンネルを使い、静止軌道から見える地球の円盤全体を10分間隔で観測できる。MTG-I2は主に欧州と北アフリカを対象とした高速スキャンを担当し、2.5分ごとに画像を更新する計画だ。
従来のMeteosat-11による高速スキャンは5分間隔であり、MTG-I2では更新頻度が2倍になる。短時間で発達する積乱雲や雷雨のほか、濃霧、砂じん、山火事と煙の広がりなどを、より細かな時間間隔で追跡できる。
特に、激しい上昇気流によって雲頂が周囲より高く突き出す「オーバーシューティング・トップ」は、短時間で形成されるため、高頻度の観測が重要になる。こうした雲の変化は、ひょうや突風、激しい降雨を伴う対流活動を把握するための手掛かりとなる。
MTG-I2には、雷が発する光を宇宙から継続的に検出する「Lightning Imager」も搭載されている。4台のカメラで欧州、アフリカ、中東、南米の一部をカバーし、雲内、雲間、雲と地上の間で発生する雷を観測する。
欧州の静止気象衛星による雷観測は、先行するMTG-I1によってすでに始まっている。MTG-I2は同じ種類の観測機器を追加することで、雷観測を含むMTGサービスの継続性と予備能力を高める役割を担う。
雷活動の位置や強度の変化は、対流性の嵐が発達する様子を把握するための重要な情報になる。FCIによる雲の高頻度画像とLightning Imagerの雷データを組み合わせることで、気象機関は嵐の形成から発達、衰弱までをより連続的に追跡しやすくなる。
■軌道上にそろった3機のMTG衛星
MTG-I2の打ち上げにより、MTGシステムの最初の3機が軌道上にそろった。すでに運用されている画像観測衛星「MTG-I1」は、運用名を「Meteosat-12」といい、2022年12月にアリアン5で打ち上げられた。
もう1機の「MTG-S1」は2025年7月に打ち上げられたサウンダー衛星で、大気の温度や水蒸気の鉛直分布を観測する赤外線サウンダーを搭載している。2026年末までの運用開始が見込まれており、MTG-I2の打ち上げ時点では試運転と検証が続いている。
最初のMTG体制は、2機の画像観測衛星と1機のサウンダー衛星で構成される。Meteosat-12が地球の円盤全体を観測し、MTG-I2が欧州を中心とする高速スキャンを担当することで、広域観測と高頻度観測を両立させる。
MTG-I2については、地上局との通信確立と太陽電池パネルの展開が確認された。衛星は今後、静止軌道への移動と初期運用を経て、観測機器の較正やデータ品質の検証を受ける。EUMETSATの計画では、サービス開始の基準時期は打ち上げから約6カ月後とされているが、欧州向け高速スキャンを本格的に引き継ぐ時期は、試験結果や既存衛星との移行計画に沿って決まる。
■欧州の自律的な宇宙輸送を広げる一歩
欧州では、アリアン5の退役、アリアン6の開発遅延、Vega Cの打ち上げ失敗、ロシアによるソユーズ打ち上げサービスの停止が重なり、一時期は大型衛星を独自に打ち上げる選択肢が限られていた。ESAは一部の重要な衛星について、米SpaceXのロケットを利用する対応を取った。
アリアン6は2024年7月の初飛行後、フランスの軍事衛星、欧州のGalileo測位衛星、Copernicus計画の地球観測衛星、Amazonの低軌道通信衛星などを打ち上げてきた。2026年2月には4基のブースターを使用する「アリアン64」も運用を開始し、同年6月には推力を強化したP160Cブースターによる飛行を実施している。
今回、アリアン62がMTG-I2を静止トランスファ軌道へ正確に投入したことで、アリアン6が対応できる軌道とミッションの範囲はさらに広がった。欧州の宇宙輸送能力を一度の飛行だけで全面的に回復したと評価する段階ではないものの、重要な気象衛星を欧州のロケットで静止軌道への経路に送り出したことは、自律的な打ち上げ能力を再構築する上で大きな節目となる。
元記事: Ariane 6 Completes First Geostationary Mission, Carrying Europe Storm-Warning Satellite