ボルト超えの100m快走も重量挙げ15kgで転倒―人型ロボット自律制御の現在地
2026年8月25日 23:27
北京の国家速滑館「アイスリボン」で開催中の第2回世界人型ロボット運動会で、人型ロボットの走行性能と負荷を扱う能力の違いが鮮明になった。100mでは人間の世界記録を数値上上回るタイムが相次ぐ一方、初採用された重量挙げでは、15kgのバーベルを持ったロボットがバランスを崩して審査員席方向へ倒れる場面もあった。
もっとも、重量挙げ競技は失敗だけで終わったわけではない。8月24日の重量級では、北京人形・華科連合チームのロボットが16kgの挙上に成功し、この大会で初となる人型ロボット重量挙げの金メダルを獲得した。高速走行と重量物操作は異なる制御能力を必要とし、その双方が同じ競技会で試されている。
■100mは8秒台、走行性能が急速に向上
大会は8月22日から26日までの5日間の日程で開催され、16カ国から666チーム、2,056台のロボットが参加している。競技は30の競技種目と21のシナリオ種目で構成され、試合数は1,301に上る。
開幕日の100m大型組予選では、北京人形ロボットイノベーションセンターのロボットが9.39秒を記録した。8月25日の大型組復赛では、同センターの「天工」が8.86秒までタイムを縮め、大会におけるロボットの100m記録を更新した。
これらのタイムは、ウサイン・ボルトが2009年に記録した男子100mの世界記録9.58秒を数値上上回る。ただし、大会独自の機体区分や計測・競技条件で行われたロボット競技の記録であり、世界陸連が公認する人間の陸上記録と同じ枠組みの記録ではない。比較から読み取れるのは、人型ロボットの直線走行速度と姿勢制御が短期間で大きく向上していることだ。
前年の第1回大会では、100mの優勝タイムは21.50秒だった。機体、関節駆動、姿勢推定、走行制御など複数の改善が積み重なり、1年間で競技タイムが大幅に短縮された。
■重量挙げで問われた負荷と全身の協調制御
8月24日に行われた重量挙げ重量級には4体が出場し、15kgのバーベルから試技を始めた。このうち1体はバーベルを持ち上げる途中でバランスを崩し、審査員席方向へ倒れた。競技は直ちに止められ、その試技は終了となった。
重量挙げは軽量級と重量級に分かれ、遥控半自動と完全自律の両方の制御方式が認められている。ロボットは自ら競技台の中央へ移動し、3本以上の指を備えた手でバーを握る。バーベルを頭上まで比較的連続した動作で持ち上げ、2秒間安定させると成功となる。
重量級を制した北京人形・華科連合チームのロボットは、15kgから重量を増やし、最終的に16kgの挙上に成功した。大会では人間の重量挙げのようにスナッチとクリーン&ジャークを分けず、成功した最大重量で順位を決める。
この競技で問われるのは、腕の出力だけではない。ロボットが物体を持つと、ロボットと荷物を合わせた系の重心や慣性が変化する。手でバーを保持する力、各関節の出力、足裏にかかる力を連動させながら、全身の姿勢を保つ必要がある。
バーを握る手には、滑りや荷重の偏りを検出し、握力を調整する機能も求められる。重心の変化を推定して腰や脚の関節を動かす処理と、手の接触力を調整する処理を同時に成立させることが、重量物操作の中心的な課題となる。
■走る制御と持ち上げる制御の共通点と違い
走行も重量挙げも、多数の関節を協調させて転倒を防ぐ全身制御という点では共通している。一方、走行では一定の周期を持つ脚運びと着地を繰り返し、前方への運動量を保ちながら姿勢を修正する。平坦なトラックでは、シミュレーションで訓練した走行方策を実機へ移す手法を適用しやすい。
重量挙げでは、バーが床を離れた瞬間から機体の力学的な状態が変わる。荷物の位置が腕の動きに伴って移動し、手とバーの接触状態も安定しているとは限らない。走行用に学習した姿勢制御だけでなく、荷重を考慮した全身制御と接触力の調整が必要になる。
競技規則も、こうした能力の違いを反映している。平地の100m、400m、1,500mなどでは完全自律が求められる一方、障害走や重量挙げでは遠隔操作を含む方式が認められている。シナリオ競技でも遠隔操作を選べるが、自律完了の得点係数が1.0、遠隔操作が0.5となり、自律性の高いシステムが有利になる。
なお、格闘競技などには複数の制御方式が同じ区分で参加できる種目もある。このため、完全自律と遠隔操作の境界を大会全体で一律に捉えるのではなく、各種目の規則に沿って評価する必要がある。
■400mで強化学習が生んだ独特のフォーム
走行競技では、速度だけでなく、ロボットが選択した動作も注目を集めた。400m大型組では「天工Ultra」が38.15秒で優勝し、小型組では「天工Omni」が45.66秒で金メダルを獲得した。1,500mでは天卓チームが2分21秒64で優勝している。
天工Omniは、両腕を顔の近くに上げ、腰を左右に動かす独特の姿勢で400mを走った。開発チームによると、当初は人間のように腕を前後へ振る動作を想定していたが、シミュレーション環境での強化学習を重ねる過程で別の姿勢へ収束したという。
高速で腕を振り続けると肩関節の負荷と発熱が増え、消費エネルギーも大きくなる。腕を高い位置に保つフォームは、肩の負荷を抑えながら脚の出力を維持する方法として学習された。設計者が人間の動きをそのまま与えるだけでなく、機体固有の構造や熱的制約を学習条件に含めることで、ロボットに適した動作が見つかる例である。
■競技記録と実用性は異なる尺度
大会では走行のほか、卓球、サッカー、格闘、ダンス、綱引き、跳躍などが実施されている。工場、ホテル、家庭、病院、店舗、緊急対応などを想定したシナリオ競技では、物体の認識、運搬、工具操作、接客や設備対応といった複合的な能力が評価される。
固定されたトラックを高速で走る能力は、ロボットの駆動系や姿勢制御の進歩を測る明確な指標になる。一方、工場や物流施設では、大きさや位置の異なる物体をつかみ、人や設備の近くで安全に運び、予期しない変化にも対応しなければならない。
重量挙げでの転倒と16kgの成功は、この違いを同時に示した。挙上できる機体が登場した一方、安全性、反復性、周囲への適応を含む実用性能は、1回の成功試技だけでは判断できない。競技は、荷重下の重心制御や手の強度、全身の協調といった課題を比較可能な形で表面化させる役割を持つ。
■米国での調達は複数の制度を分けて確認
米国で人型ロボットの調達を検討する場合、競技性能とは別に、機器認可や政府調達に関する制度を確認する必要がある。
米連邦通信委員会は2026年7月、外国製の先端ロボット機器をカバードリストへ追加した。この措置は中国製品だけでなく、原則として外国製の対象機器全体に適用され、新たな機種は例外または条件付き承認がない限りFCCの機器認証を受けられない。すでに認証された機種や購入済み機器の継続使用まで一律に禁止するものではない。
また、米国防総省は2026年6月、Unitreeを国防権限法1260H条に基づく中国軍事企業のリストへ追加した。この指定は一般企業や個人による購入を直ちに全面禁止する制度ではなく、国防総省の契約に関する制限と結び付く。FCCの機器認証制度とは対象と効果が異なるため、調達目的、機種の認証状況、利用する契約を個別に確認する必要がある。
■大会が示す人型ロボット開発の次の焦点
ロボットが人間より短いタイムを記録したという話題性の一方で、競技から得られる重要な情報は、どの条件なら安定して動作でき、条件が変わるとどこで失敗するかにある。
平坦なコースを走る能力は急速に伸びている。次の焦点は、外力、荷重、接触状態、路面や物体の違いを含む環境で、同じ動作を安全かつ繰り返し実行できるかどうかだ。重量挙げ、障害走、精密作業、現実環境を使ったシナリオ競技は、その能力を読み解く補助線になる。
100mの8.86秒と重量挙げの16kgは、それぞれ異なる技術領域の競技結果である。速く走ることと、物を安全に持ち上げて扱うことを別々に評価することで、人型ロボットが得意とする領域と、開発が続く領域がより具体的に見えてくる。
■注目ポイントQ&A
●人型ロボットは本当にウサイン・ボルトの世界記録を破ったのですか?
大会の100mでは8.86秒が記録され、ボルト氏の9.58秒を数値上上回りました。ただし、ロボット大会独自の条件による競技記録であり、世界陸連が公認する人間の世界記録が更新されたわけではありません。
●重量挙げでは15kgを持ち上げられなかったのですか?
1体は15kgの試技中に転倒しましたが、別のロボットは16kgの挙上に成功して重量級で優勝しました。大会全体を「15kgを持ち上げられなかった」とまとめるのは正確ではありません。
●重量挙げは完全自律で行われたのですか?
完全自律に限定された競技ではありません。大会規則では、遥控半自動と完全自律の両方が認められています。
●走行と重量挙げでは何が違うのですか?
走行は周期的な脚運びと着地を通じて動的な姿勢を保つ制御が中心です。重量挙げでは、荷物によって変化する重心や慣性に対応しながら、手の接触力と全身の関節出力を同時に調整する必要があります。
●競技で優勝すれば、そのまま工場や倉庫で使えるのですか?
競技結果は特定条件での能力を比較する指標です。実際の配備では、長時間の反復動作、安全性、故障時の対応、異なる荷物や床面への適応なども評価する必要があります。
元記事: Robots Beat Bolt’s Sprint Record, Cannot Lift 33 lbs: Beijing Robot Games Day Three