【分析】米国が対イラン制裁を拡大、中国大手銀行への制裁は見送り―NVIDIA決算週の市場を揺らす原油・金利リスク

2026年8月25日 20:18

米財務省は8月24日、イランとその取引網を経済的に孤立させる新たな圧力策「オペレーション・エコノミック・アウトキャスト」を発表した。デジタル資産、金、航空、テクノロジー、海運などを二次制裁の対象になり得る分野として拡大し、約60の個人、組織、船舶を新たに制裁対象とした。

今回の措置は、中国を含む第三国の企業や金融機関にイラン関連取引の見直しを迫るものだが、イラン産原油取引に関与しているとみられる中国の大手金融機関は、発表時点では指定されなかった。米政府は対象となる取引を停止するための猶予期間を設ける方針で、制裁が原油供給や国際金融市場へ与える影響は、今後の指定と執行の範囲に左右される。

市場では、ホルムズ海峡を巡る供給不安が原油価格やインフレ見通しを押し上げ、米長期金利を通じてAI関連株の評価に波及する可能性が注目されている。8月26日にはNVIDIAの2027会計年度第2四半期決算と米国の7月個人消費支出(PCE)物価指数が発表され、28日にはケビン・ウォルシュ米連邦準備制度理事会(FRB)議長がジャクソンホール会議で講演する予定だ。

■米財務省が二次制裁の対象分野を拡大

スコット・ベッセント米財務長官は、今回の圧力策を第二次世界大戦の「Dデー」になぞらえ、イランを支える世界各地の金融・取引網を遮断する方針を示した。発表された措置には、二次制裁を適用し得る行為や分野の拡大、約60の個人・組織・船舶に対する制裁、一部の一般許可の停止などが含まれる。

二次制裁は、米国人や米企業による直接取引を禁止する一次制裁とは異なり、イランと取引する第三国の銀行、海運会社、製油所なども対象にできる仕組みだ。指定された企業や金融機関は、米国内の資産を凍結されたり、米国の金融システムやドル決済へのアクセスを制限されたりする可能性がある。

ベッセント長官は、イランに資金を提供したり、制裁回避や資金洗浄を支援したりする組織を米ドルの金融システムから排除すると警告した。一方、直ちにすべての取引先を指定するのではなく、各国や企業が問題とされた取引を停止するための猶予期間を設ける考えも示している。

米財務省は今回、デジタル資産、テクノロジー、金、航空、海運などを新たな重点分野に位置づけた。これまでの制裁が主に石油輸出や影の銀行網、船舶を対象としてきたのに対し、イランが収入を得たり資金を移動したりする経路をより広く捉える構成となっている。

■中国大手金融機関への制裁は発表されず

制裁の実効性を考えるうえで最大の焦点となるのが中国だ。調査会社Kplerの2025年データによると、中国はイランが船舶で輸出した原油の80%以上を購入していた。主な買い手は「ティーポット」と呼ばれる中国の独立系製油所で、米国はすでに一部の製油所や関連する海運会社を制裁対象としている。

しかし、8月24日に公表された制裁対象には、イラン産原油の取引を支えているとみられる中国の大手金融機関は含まれなかった。ベッセント長官は中国の銀行について問われ、「誰も米国の制裁の及ばない場所にはいない」と述べたものの、具体的な対象名や実施時期は明らかにしなかった。

中国政府は、イランとの協力は国際法の枠内で行われており、外部から妨害されるべきではないとの立場を示している。中国側が対抗措置を取れば、重要鉱物を含む米中間の通商問題に影響が広がる可能性があるため、米政府には制裁の実効性と金融市場への影響を見極めながら対象を選ぶ必要がある。

ベッセント長官は、週内に主要な国外金融機関を制裁対象として発表するとの見通しも示した。中国の銀行が含まれるかは確認されておらず、具体的な指定内容が今後の原油市場と米中関係を左右する材料になる。

■原油供給を巡る不安は解消せず

ホルムズ海峡では商業船舶の通航が大幅に減少し、イランは自国の許可を得ていない船舶への攻撃を警告している。米国はイランの港湾と船舶に対する封鎖を続けており、イラン産原油の輸出も7月中旬以降に減少した。

イランは、自動船舶識別装置の停止や偽装、洋上での積み替え、船籍の変更、フロント企業を利用した取引などを含む制裁回避網を構築してきた。中国向け取引では人民元建て決済や米国との接点が限られた事業者も利用されており、制裁対象を増やすだけで輸出を直ちに止められるとは限らない。

一方、米国による港湾封鎖と制裁圧力はすでに供給に影響している。船舶追跡データでは、中国向けのイラン産原油の提示量が減り、従来は割安だった原油の価格条件も悪化している。中国の独立系製油所には、ブラジルやイラクなどから代替原油を調達する動きも出ている。

今回の措置で原油そのものが直ちに市場から追加で失われるかは、猶予期間の長さ、実際に指定される金融機関、米国が制裁をどこまで執行するかによって変わる。発表当日の原油相場が下落したことからも、市場は強い警告と即時の供給減少を区別して受け止めたとみられる。

■米国市場では半導体株が下落

8月24日の米国市場では、ナスダック総合指数が0.76%下落し、S&P500種株価指数は0.28%安となった。一方、ダウ工業株30種平均は0.26%上昇した。半導体株の下落がナスダックを押し下げ、NVIDIA株も決算発表を前に2.9%下落した。

原油価格は、米国の制裁が直ちに大幅な供給減につながるとの見方が後退したことなどから下落した。米国産標準油種WTI先物は米東部時間午後4時時点で約2.2%安の1バレル85.15ドル、北海ブレント先物は約2.3%安の92.20ドル近辺で取引された。

米30年国債利回りも、前週に約5.34%と約20年ぶりの高水準を付けた後、24日には5.23%前後まで低下した。それでも長期金利は歴史的に高い水準にあり、将来の利益成長を大きく織り込んだテクノロジー株には重荷となる。

長期金利が上昇すると、企業が将来得ると予想されるキャッシュフローを現在価値に換算する際の割引率も高くなる。遠い将来の成長を株価に反映している企業ほど、この影響を受けやすい。ホルムズ海峡を巡る供給不安とAI関連株の間には、原油価格、インフレ期待、金利、割引率という情報の連鎖を見いだせる。

もっとも、原油高だけでFRBの政策やNVIDIAの株価が決まるわけではない。雇用、個人消費、基調的な物価、企業業績など複数の要因が同時に影響するため、対イラン制裁は今週の市場を構成する重要材料の一つとして捉える必要がある。

■NVIDIA決算では売上高と次四半期見通しに注目

NVIDIAは8月26日の米国市場終了後、2027会計年度第2四半期決算を発表する。同社が5月に示した第2四半期の売上高見通しは910億ドルを中心に上下2%で、約14兆4,690億円に相当する。市場予想は約920億ドル、約14兆6,280億円となっている。円換算はいずれも1ドル159円で算出した概算だ。

市場が注目する1,030億~1,050億ドルという金額は、発表対象となる第2四半期の会社見通しではなく、その次の第3四半期に対する市場予想の水準である。したがって、決算評価では第2四半期の実績が約920億ドルの市場予想を上回るかに加え、NVIDIAが第3四半期についてどの程度の売上高見通しを示すかが重要になる。

同社は前四半期に816億ドルの売上高を計上し、うちデータセンター部門が752億ドルを占めた。今回もAI向け設備投資の勢い、次世代システムの供給計画、粗利益率、顧客の投資継続性が主な確認項目となる。

メモリー価格の上昇がAIサーバー全体の価格を押し上げるとの報道もあり、NVIDIA製品を導入するデータセンター事業者の投資負担が新たな論点となっている。NVIDIA自身の売上高だけでなく、顧客が高額なAIインフラ投資を継続できるかが、中期的な需要を見る手掛かりになる。

■PCE物価指数とジャクソンホールも焦点

米商務省経済分析局は8月26日午前8時30分、7月のPCE物価指数を含む個人所得・消費支出統計を公表する。PCE物価指数はFRBが物価動向を判断する際に重視する指標で、エネルギー価格の影響だけでなく、食品とエネルギーを除くコア指数の動きにも注目が集まる。

8月28日には、ウォルシュFRB議長がジャクソンホール経済政策シンポジウムで、議長就任後初となる基調講演を行う予定だ。金融市場は、インフレに対する評価や今後の政策判断の枠組みに関する発言を注視している。

ホルムズ海峡の混乱が長引けば、エネルギー価格を通じて総合物価の上昇圧力が残る可能性がある。一方、FRBの実際の政策判断は幅広い経済指標に基づく。今週は、対イラン制裁の執行方針、NVIDIAの業績、PCE物価指数、ウォルシュ議長の講演という異なる材料を、原油、インフレ、長期金利、企業利益の経路に分けて見ることが重要になる。

■注目ポイントQ&A

●米国の対イラン二次制裁とは何ですか?

イランと取引する第三国の銀行、海運会社、製油所などに対し、米国の金融システムへのアクセス制限や資産凍結などを科し得る制度です。今回の措置では対象になり得る分野が拡大されましたが、個々の企業への影響は、実際の指定内容や適用される制裁措置によって異なります。

●なぜ中国の対応が重要なのですか?

Kplerの2025年データでは、中国がイランの海上輸出原油の80%以上を購入していたためです。米国は一部の中国系独立製油所を制裁対象にしていますが、8月24日の発表では中国の大手金融機関を指定しませんでした。今後、どの金融機関を対象とするかが制裁の実効性を左右します。

●ホルムズ海峡の問題はAI関連株にどう影響しますか?

原油供給への不安がエネルギー価格とインフレ期待を押し上げ、長期金利の上昇につながれば、将来利益の現在価値を計算する際の割引率も高くなります。このため、将来の高成長を織り込んだAI関連株の評価には下押し圧力となり得ます。ただし、株価や金融政策は企業業績、雇用、個人消費など多くの要因によって決まります。

●NVIDIAの決算では何が注目されますか?

第2四半期の市場予想である売上高約920億ドルを達成できるかに加え、第3四半期についてどのような会社見通しを示すかが注目されます。AIインフラ需要、粗利益率、次世代システムの供給計画、メモリー価格上昇が顧客の設備投資へ与える影響も重要です。

元記事: Iran Sanctions Launch Into Nvidia Week: Oil Shock Tests AI Stock Multiples

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