ソフトバンクG、建機自律化のGravisに2億ドル出資―既存の油圧ショベルをAIで後付け自動化
2026年8月22日 00:13
ソフトバンクグループは、スイスの建設ロボティクス企業Gravis Roboticsが実施したシリーズAラウンドに2億ドル(約318億円、1ドル=159円換算)を出資した。Gravisが2026年8月17日に発表したもので、同社は建設ロボティクス分野で過去最大のシリーズAだとしている。
Gravisは、既存の油圧ショベルなどにセンサー、コンピューター、制御ソフトウェアを後付けし、掘削や整地、ダンプトラックへの積み込みといった作業を支援・自律化するシステムを開発している。今回の資金は人材採用、国際展開、稼働現場と対応機種の拡大に充てる方針だ。
■変化し続ける地面を扱う自律掘削
油圧ショベルの自律制御では、バケットを動かすたびに地形や土の状態が変わる。硬さや締まり具合が均一ではなく、地中に岩などが含まれる場合もあるため、機械は自らが変化させた環境を継続的に把握しながら次の動作を決める必要がある。
Gravisは、さまざまな土質や機械特性を再現したシミュレーションを使って学習モデルを強化し、その成果を実機に移す「Sim-to-Real」の手法を採用している。同社によると、仮想空間では軟らかい粘土から岩を含む土まで、数十億立方ヤード相当の仮想材料を扱ってきたという。
実機では、LiDAR、カメラ、GNSSなどから周辺環境を取得するとともに、エンジン負荷や油圧系を含む機械側の情報を解析する。視覚的な地形だけでなく、機械が外部から受ける抵抗や動作状態を制御に反映することで、作業中に変化する条件へ対応する仕組みだ。
こうした情報処理は、熟練オペレーターが機械の音や振動、油圧抵抗などから地面の状態を読み取り、操作を調整する構造と共通する。Gravisの技術は、その判断材料をセンサーと機械データから取得し、制御指令へ変換することを目指している。
■既存建機に取り付ける「Gravis Rack」
中核製品の「Gravis Rack」は、センサー、コンピューター、ソフトウェアを組み合わせた後付け型のシステムだ。恒久的な改造を前提とせず、既存の建設機械が備える電子・油圧制御系と接続する。
Gravisは、キャタピラー、ジョンディア、JCB、日立建機、ボルボ、ヤンマー、CASE、Develon、住友建機など、12を超えるブランドの機械でシステムを展開しているとしている。小型機から大型機まで、メーカーや機体ごとに異なる油圧特性、アーム形状、重量などへ学習ベースの制御モデルを適応させる設計だ。
同社は、コンパクトな油圧ショベルからその数倍の大きさの機械まで、同じ中核ソフトウェアを個別の再プログラミングなしで適応させられると説明している。異なるメーカーの建機が混在する現場でも導入しやすいことが、Gravisの商業上の特徴となる。
一方、メーカーや機種をまたいだ適応性能、土質の違いに対する安定性、生産性への効果については、複数の現場を同じ条件で比較できるデータの蓄積が重要になる。Gravisは手動操作のピーク時と比べて最大30%の生産性向上を掲げているが、これは同社が公表した数値である。
■ETHチューリヒの研究から商用システムへ
Gravisは2022年、スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHチューリヒ)のロボティック・システムズ・ラボからスピンアウトして設立された。共同創業者には、CEOのライアン・ルーク・ジョンズ氏、CTOのドミニク・ユート氏、同大学教授のマルコ・フッター氏が名を連ねる。
技術的な源流の一つが、油圧ショベルを自律作業に対応させる研究用プラットフォーム「HEAP」だ。HEAPにはLiDAR、GNSS、慣性計測装置、関節センサーなどが搭載され、自律掘削や不整地での移動、岩石の把持と配置に関する研究が進められた。
研究チームは2023年、現場にある岩石や解体材を認識し、自律型油圧ショベルで石積み壁と地形を構築する研究を査読誌Science Roboticsに発表した。実証では、高さ最大6メートル、長さ約65メートルの擁壁と、その周辺の段状地形を構築している。
この研究では、周辺環境を三次元で把握し、不均一な石の形状や重心を推定したうえで、配置場所をその都度計算する。あらかじめすべてを固定した手順ではなく、作業によって変わる状態を観測し、次の動作を更新する構造は、Gravisが建設現場向けに展開する自律制御の技術的な背景を読み解く手掛かりになる。
■建設業の人手不足と生産性が導入の背景
建設業では、需要の増加に対して労働力と生産性が追いつかないことが課題になっている。McKinseyの分析では、2000年から2022年にかけて世界の建設業の労働生産性は約10%の伸びにとどまった一方、製造業は約90%向上した。
米国の業界団体Associated Builders and Contractorsは、現在の労働需給を均衡させるため、米国の建設業が2026年に34万9,000人、2027年に45万6,000人の新たな労働者を確保する必要があると推計している。この数字には、建設支出の予測だけでなく、求人、失業、退職者の見通しも反映されている。
データセンターや電力網、住宅、交通インフラなどの建設では、多くの工程に先立って掘削、造成、資材の移動が必要になる。ソフトバンクのマネージングディレクター、ダイ・サカタ氏は、フィジカルAIを同社のAI戦略における次の段階の中心と位置付け、建設がAIインフラと電力網の整備における重要なボトルネックになっているとの認識を示した。
GravisのジョンズCEOも、住宅、電力網、データセンターのいずれも地面を動かす作業から始まると説明する。同社は今回の資金を使い、道路、公益設備、採石場、エネルギー関連施設、データセンターなどを含む現場への展開を広げる計画だ。
■自律運転、操作支援、遠隔監視の3つの使い方
Gravisのシステムは、定型化された作業を機械が実行する自律運転、運転席のオペレーターを支援する「Gravis Copilot」、離れた場所から機械を監視する遠隔監督という複数の運用形態を想定している。
Gravis Copilotでは、オペレーターが運転席に残り、システムから三次元の作業案内や周辺状況に関する情報を受け取る。遠隔監督ではタブレット型インターフェース「Slate」を利用し、オペレーターが安全な場所から複数の機械を確認する構想だ。
自律化の対象には、掘削、造成、溝掘り、ダンプトラックへの積み込み、土砂の集積管理などが含まれる。ただし、現場には人や他の機械、埋設物が存在し、地形や作業手順も変化する。導入はまず、大規模な現場における反復的で明確に定義できる作業から進むとみられる。
雇用への影響について、Gravisはオペレーターの全面的な置き換えではなく、1人がより多くの機械や工程を管理できるようにする能力拡張を掲げている。実際の役割分担は、作業内容、安全管理、現場の運用体制、自律化の水準によって変わる。
■英国の実証事業とレンタル展開
Gravisは英国の建機レンタル会社Flannery Plant Hireと協力し、英国政府が支援するコネクテッド・自動モビリティー分野の事業にも参加する。発表された計画では、6台の油圧ショベルにGravis Rackを導入し、溝掘り、大規模掘削、トラックへの積み込みなどを検証する。
両社は実証事業とは別に、Gravis Rackを搭載した建機をFlanneryの保有車両から貸し出す提携も進めている。自律化システムを搭載した建機を従来の建機と同じように借りられる形にすることで、導入時に新車を購入する必要を減らす狙いがある。
後付け型の自律化を手掛ける企業には、GravisのほかにもBedrock Robotics、Built Robotics、Teleoなどがある。建機メーカーも自動化技術を開発しており、競争の焦点は、対応できる作業の種類、既存機への導入性、複数メーカーへの適応、安全性、現場全体での生産性に移りつつある。
■フィジカルAI投資を広げるソフトバンクグループ
ソフトバンクグループは、AIチップ、AIロボット、AIデータセンター、電力を重点領域に位置付け、フィジカルAIへの投資を進めている。2025年10月には、ABBのロボティクス事業を総額53億7,500万ドルで取得する最終契約を締結した。
ABBの取引は、EU、中国、米国を含む規制当局の承認などを条件としており、ソフトバンクグループは2026年半ばから後半の完了を見込む。今回のGravisへの出資は、工場内の産業用ロボットに加え、屋外で稼働する建設機械にもフィジカルAIの対象を広げる動きとなる。
Gravisは、今回の資金によって技術者や建設分野の人材を採用し、国際展開と販売・レンタルパートナー網の構築を加速する。今後の評価では、メーカーや機種をまたぐ適応性に加え、設置、監督、手直し、停止時間、燃料、保守、安全性まで含めた現場全体での効果が焦点になる。
■注目ポイントQ&A
●Gravis Rackはどのように既存の建機を自律化するのですか?
既存の電子・油圧制御系に接続し、LiDAR、カメラ、GNSSなどのセンサーと制御用コンピューター、ソフトウェアを追加します。周辺環境と機械自身の状態を解析し、機種や作業条件に応じた制御指令を生成します。
●どのメーカーの建機に対応していますか?
Gravisは、キャタピラー、ジョンディア、JCB、日立建機、ボルボ、ヤンマー、CASE、Develon、住友建機など、12を超えるブランドで展開していると説明しています。個々の機種や作業への対応状況は、導入時に確認する必要があります。
●自律掘削の技術的な難しさは何ですか?
バケットを動かすたびに地形や土の状態が変化する点です。システムには、周辺を認識するだけでなく、自らの作業によって変わった環境を把握し、次の動作を継続的に更新することが求められます。
●Gravisのシステムで生産性はどの程度向上しますか?
Gravisは、手動操作のピーク時との比較で最大30%の向上を掲げています。ただし、同社が公表した数値であり、機械の大きさ、土質、作業内容、オペレーターの経験、監督や保守を含む運用条件によって結果は変わります。
●自律化によって建設作業員の仕事はなくなりますか?
Gravisは、作業員を全面的に置き換えるのではなく、AIによる操作支援や複数台の遠隔監督によって能力を拡張する運用を掲げています。実際の雇用や役割への影響は、導入する作業、自律化の水準、現場の運用体制によって異なります。
元記事: SoftBank’s Record $200M Bet on Gravis Robotics Proves Autonomous Excavators Have Hit Scale