『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』予習15作を科学で読み解く プラズマからブレーン宇宙論まで
2026年8月20日 22:23
Disney+には、2026年12月18日公開の『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』に備えるための特集が設けられている。そこに並ぶ15作品を科学の視点から眺めると、超高温プラズマの磁場閉じ込め、衝撃を吸収する材料、放射線によるDNA損傷、複数の宇宙が接触する物語など、異なる設定の間に「大きなエネルギーや変化をどう制御するか」という共通構造が見えてくる。
これは15作品に共通する公式設定ではなく、現実の研究を作品理解の補助線として重ねる試みだ。MCUの架空技術を現実の科学へそのまま置き換えるのではなく、入力、制御、破綻、出力という情報処理や工学の流れに注目すると、『ドゥームズデイ』へつながる物語を別の角度から整理できる。
■15作品をつなぐ「制御と破綻」のモチーフ
Disney+の特集に含まれるのは、『X-メン』『X-MEN2』『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』『アベンジャーズ』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』『ロキ』シーズン1・2、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』『デッドプール&ウルヴァリン』『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』『サンダーボルツ*』の15タイトルだ。
作品群には、メインのMCUだけでなく、旧20世紀フォックスの「X-MEN」シリーズや、『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』で描かれた別世界のヒーローも含まれる。『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』の公式紹介でも、3つの異なる宇宙のヒーローが衝突へ向かう物語であることが示されている。
このため、15作は単純な時系列ではなく、異なる世界から集まる人物や、世界の境界が揺らぐ過程を確認するための作品群と考えると理解しやすい。各作品がどの宇宙論を採用しているかを厳密に分類するよりも、別々の歴史を持つ登場人物が同じ危機へ収束していく構造に注目する方が、『ドゥームズデイ』への自然な導入になる。
■インカージョンとブレーン宇宙論
『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』では、異なる宇宙の境界が崩れ、片方または双方が破壊される「インカージョン」が語られた。複数の世界が接触するというイメージには、理論物理学で研究されてきたブレーン宇宙論を補助線として重ねられる。
2001年にジャスティン・クーリー、バート・オヴラット、ポール・スタインハート、ニール・トゥロックが発表したエキピロティック宇宙モデルでは、余剰次元を含む空間内のブレーンと境界面との衝突から、熱いビッグバン宇宙が生じるシナリオが提案された。MCUのインカージョンはこの理論を映像化したものではないが、高次元空間、宇宙を担う膜、接触による大規模な変化という発想に共通点がある。
『ロキ』シーズン2で示された枝分かれする時間軸も、別の有用な補助線になる。同作はマルチバースを独立した世界の寄せ集めではなく、多数の時間軸が相互に関係する構造として視覚化した。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』と『マルチバース・オブ・マッドネス』は異なる宇宙の人物や物質が同じ場所へ集まる危険を描き、『ロキ』はそれを時間軸の管理という観点から示している。
■セントリーと核融合プラズマに共通する構造
『サンダーボルツ*』に登場するボブは、圧倒的な力を持つセントリーと、その力が生み出すヴォイドという二面性を抱えている。この人物像は、巨大なエネルギーを制御状態に保ち、周囲への影響を抑えるという点で、核融合研究におけるプラズマ閉じ込めを連想させる。
トカマクでは、電気を帯びた超高温プラズマを強力な磁場で形作り、真空容器の壁から離して保持する。国際熱核融合実験炉ITERは、プラズマを約1億5000万℃まで加熱し、磁場によって閉じ込めることを計画している。磁場は単なる容器ではなく、状態を継続的に監視しながら形や位置を制御する仕組みでもある。
セントリーの力と核融合プラズマは、エネルギーの種類も規模も対応するものではない。それでも「大きな出力を生み出す存在に対し、安定を保つ制御機構が必要になる」という構造は共通している。ボブの内面とセントリーの力が連動する描写には、閉じ込め状態が使用者やシステムの状態によって変化するインターフェースという見方もできる。
核融合産業協会の2026年調査では、調査対象となった民間核融合企業56社が直近1年間に計44億8000万ドルを調達した。1ドル159円で換算すると約7123億円となる。この数字はセントリーとの類似を裏付けるものではないが、高エネルギーの生成、安定化、材料保護が現実の重要な工学課題であることを示している。
■ヴィブラニウムと衝撃吸収メタマテリアル
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のヴィブラニウムは、受けた運動エネルギーを吸収し、必要に応じて放出できる素材として描かれる。この性質を考える手掛かりになるのが、内部構造を人工的に設計して変形や波の伝わり方を制御する機械メタマテリアルだ。
二つの安定状態を持つ双安定構造を利用し、衝撃エネルギーの一部を構造の変形として保持する研究が進められている。こうした材料では、構成物質そのものだけでなく、梁やセルの形状、配列、変形順序がエネルギー吸収性能を左右する。
ヴィブラニウムのように、軽量性、強度、衝撃吸収、エネルギーの再放出を一つの素材で自在に実現するものではない。それでも「物質の組成だけでなく構造を設計することで、衝撃への応答を変える」という現実の研究は、ワカンダの技術表現を読み解く興味深い補助線になる。
■X遺伝子と発生を制御する遺伝子
『X-メン』と『X-MEN2』では、ミュータントの多様な能力がX遺伝子と結び付けて描かれる。一つの遺伝的要素からまったく異なる能力が現れるという設定は、現実の特定の遺伝子へ直接対応させることはできないが、発生を広範囲に調節する遺伝子の働きを連想させる。
代表例が、動物の体の基本的な構造形成に関わるHox遺伝子群だ。これらは個々の器官や能力を直接設計する単一の設計図ではなく、発生の過程で他の遺伝子が働く場所や順序に関わる。そのため、調節系の変化が複数の組織へ影響を及ぼす場合がある。
『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』の宇宙線も、現実の放射線生物学と接点を持つ。電離放射線がDNAを損傷し、変異の原因になり得ることは確立している。作品ではこの仕組みを出発点として、4人の性格や役割を反映するような能力へ大胆に展開している。
■テン・リングスと未知の信号
『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のテン・リングスは、その起源や動力が完全には説明されていない。物語の終盤では、リングがどこかへ信号を送っている可能性が示されており、重要なのは具体的な物理機構よりも、使用者の動作を読み取って出力へ変換するインターフェースとしての性格だ。
シャン・チーとウェンウーでは、同じリングを使っても動作や攻撃の形が異なる。これは、入力を認識し、エネルギーや運動として出力する装置という情報処理構造を持つ。使用者によって出力が変わる道具という点で、テン・リングスは『ドゥームズデイ』に登場する多様な技術や能力を整理する手掛かりになる。
■科学と魔術をまたぐドクター・ドゥーム
ロバート・ダウニー・Jr.が演じるドクター・ドゥームは、マーベル・コミックでは高度な科学技術と魔術の双方を扱う人物として知られる。一方、『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』で、その能力や装備がどのような仕組みとして描かれるかは、公開前の段階では確定していない。
科学と魔術を同じ理論で説明する必要はない。むしろ、異なる規則に従う複数の手段を理解し、目的に応じて組み合わせることがドゥームという人物の特徴になる。装置、呪文、知識、政治的権力を横断して扱う姿は、単一のエネルギー源に依存しない多層的なシステムとして見ることができる。
『ドゥームズデイ』の公式映像や紹介は、ドゥームと複数宇宙のヒーローとの対立を中心に据えている。15作を通して描かれてきた異なる技術、能力、世界観が、ドゥームを軸にどのように接続されるかが新作の注目点だ。
■選ばれなかった作品から断定できることは少ない
特集には『シークレット・インベージョン』『マーベルズ』、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」3部作、「アントマン」3部作などが含まれていない。しかし、除外理由についてマーベルやDisney+から詳しい説明は示されていない。
したがって、特定の物語が今後軽視される、カーンを中心とした展開が撤回された、量子世界が新作に関係しないといった結論を、この選定だけから導くことはできない。15作は『ドゥームズデイ』へ備えるための整理された入口だが、新作の全展開を示す設計図ではない。
ジョー・ルッソ監督は『ドゥームズデイ』への取り組みを「フェーズ・ゼロ」「ゼロからの再出発」と表現し、過去の出来事だけに依存しない作品を目指す考えを語っている。これは正式なシリーズ区分というより、新たな出発点を意識した創作上の表現と捉えるのが自然だ。
15作の特集も、長大になったMCUから、登場人物とマルチバースに関係する作品を選び直す役割を果たす。現実の科学は、その選定意図を証明するものではない。それでも、エネルギーをどう閉じ込めるか、異なる世界をどう接続するか、使用者の意図をどう出力へ変えるかという観点は、作品を横断して楽しむための有効な補助線になる。
■注目ポイントQ&A
●Disney+の特集に含まれる15作品は何ですか?
『X-メン』『X-MEN2』『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』『アベンジャーズ』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』『ロキ』シーズン1・2、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』『デッドプール&ウルヴァリン』『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』『サンダーボルツ*』です。配信状況は地域や時期によって変わる場合があります。
●MCUのインカージョンは実在の物理理論に基づいているのですか?
公式に特定の理論を原典としているとは確認されていません。一方、宇宙を高次元空間内の膜として扱うブレーン宇宙論や、ブレーンの衝突から熱い初期宇宙が生じるエキピロティック宇宙モデルには、作品設定と重ねられる発想があります。
●セントリーと核融合プラズマにはどのような共通点がありますか?
大きなエネルギーを安定した状態に保つには、継続的な制御が必要になるという構造が共通しています。セントリーの力を核融合エネルギーへ換算できるという意味ではなく、制御の維持と破綻を描く物語上の補助線です。
●特集に含まれない作品は『ドゥームズデイ』と無関係なのですか?
そのようには断定できません。Disney+やマーベルから各作品の選定理由や除外理由は詳しく説明されておらず、新作に登場する人物や設定のすべてを網羅した一覧ではない可能性があります。
元記事: Avengers Doomsday Watchlist Decoded: Plasma Physics to Brane Cosmology in 15 Films