米イーライリリー株が上昇、好決算とレタトルチドの成長期待―独占期間はFDAとの係争が焦点

2026年8月20日 21:55

米製薬大手イーライリリーは、糖尿病・肥満症治療薬の急成長を背景に、2026年第2四半期の売上高を大幅に伸ばした。アルツハイマー病候補薬の権利取得や創薬提携も進める一方、次世代の肥満症治療薬候補「レタトルチド」を生物学的製剤として申請できるかを巡り、米食品医薬品局(FDA)との規制上の論点が残っている。

■第2四半期は売上高48%増

イーライリリー株は8月18日の取引を前日比3.6%高の1,225.73ドルで終えた。同日、スウェーデンのAlzeCure Pharmaは、アルツハイマー病の前臨床候補薬「ACD680」を含むAlzstatinプロジェクトについて、イーライリリーから一時金1,000万ドル(約15億9,000万円、1ドル=159円換算)を受領し、契約の初期取引が完了したと発表した。

両社が6月9日に締結した契約により、イーライリリーはAlzstatinとACD680の世界的な権利を取得し、今後の臨床開発と商業化を担う。開発・販売マイルストーンを含む契約総額は、ロイヤルティーを除いて10億ドルを超える可能性があり、将来の製品売上高に対する1桁台半ばのロイヤルティーも設定されている。

ACD680は、アミロイドβ42の生成を抑え、より短いアミロイドβ37とアミロイドβ38の生成を増やすことを目指す低分子のγセクレターゼ調節薬である。現段階では前臨床候補であり、有効性や安全性は人を対象とする臨床試験で確認されていない。

イーライリリーはこのほか、OmniAbとイオンチャネルを標的とする新たな創薬プログラムについて、世界的な共同研究・ライセンス契約を締結した。標的や創薬モダリティーは開示されていない。OmniAbは一時金に加え、研究・開発・販売の進展に応じて最大3億7,000万ドルを受け取る可能性があり、製品化された場合には世界売上高に連動する段階的なロイヤルティーも受け取る。

■マンジャロとゼップバウンドが成長をけん引

イーライリリーが8月5日に発表した2026年第2四半期決算では、売上高が前年同期比48%増の229億7,000万ドル(約3兆6,522億円)となった。報告ベースの1株当たり利益は7.94ドル、買収関連の仕掛研究開発費などを調整したNon-GAAPベースでは前年同期比33%増の8.38ドルだった。

成長をけん引したのは、いずれも有効成分にチルゼパチドを用いる2型糖尿病治療薬「マンジャロ」と肥満症治療薬「ゼップバウンド」である。マンジャロの四半期売上高は前年同期比91%増の99億4,000万ドル、ゼップバウンドは46%増の49億3,000万ドルとなり、合計で148億7,000万ドルに達した。

同社は2026年通期の売上高予想を従来の820億~850億ドルから850億~870億ドルへ引き上げた。一方、第2四半期には事業開発に伴う仕掛研究開発費が1株当たり3.03ドル発生しており、新たなパイプラインへの投資が短期的な利益を押し下げる構図も示された。

心血管・代謝領域以外でも、免疫、がん、神経科学分野の主要製品が成長した。アルツハイマー病治療薬「キスンラ」、炎症性腸疾患治療薬「オンボー」、血液がん治療薬「ジェイピルカ」、アトピー性皮膚炎治療薬「イブグリース」などが、事業の多角化を支えている。

■経口GLP-1薬ファウンダヨの利便性

1日1回服用する経口GLP-1受容体作動薬「ファウンダヨ(一般名オルフォルグリプロン)」は、米国での最初の本格的な販売四半期となった第2四半期に9,800万ドルの売上高を記録した。

オルフォルグリプロンは、ペプチドではなく低分子化合物として設計されたGLP-1受容体作動薬である。米国の承認用法では、食事の有無にかかわらず1日1回服用できる。空腹時に少量の水で服用し、その後少なくとも30分間は飲食を避ける必要がある経口セマグルチドと比べ、服用条件が少ない点が特徴となる。

米FDAは2026年4月、肥満または体重に関連する併存疾患を伴う過体重の成人に対し、食事療法および運動療法と併用する体重管理薬としてファウンダヨを承認した。英国の医薬品・医療製品規制庁も8月10日、体重管理と血糖コントロールが不十分な2型糖尿病を適応として承認した。英国では承認時点で国民保健サービスを通じた提供対象にはなっておらず、保険適用には英国国立医療技術評価機構による評価などが必要となる。

利便性の一方で、オルフォルグリプロンについては、主要な心血管イベントに対する効果を直接評価する心血管アウトカム試験の結果がまだ得られていない。心血管疾患リスクの高い患者における薬剤選択では、体重減少や血糖管理のデータに加え、今後蓄積される長期的なアウトカム情報も重要になる。

■レタトルチドは第3相試験で平均28.3%の体重減少

次の成長候補として注目されているのが、週1回投与する開発中の治療薬レタトルチドである。レタトルチドは、GIP、GLP-1、グルカゴンという3種類の受容体を活性化するトリプル受容体作動薬として開発されている。

2型糖尿病のない肥満または過体重の成人を対象とした第3相試験「TRIUMPH-1」では、12mg投与群の参加者が80週時点で平均70.3ポンド、体重比で28.3%減量した。試験登録上の実参加者数は2,335人で、イーライリリーが発表した主要解析では、9mg群の平均減量率は25.9%、4mg群は19.0%だった。

これらは企業発表によるトップライン結果を含み、用量ごとの有効性と安全性、治療中止率、解析方法などを含む全体像については、査読論文や規制当局による審査資料での評価が引き続き重要となる。イーライリリーによると、レタトルチドでは肥満症に加え、閉塞性睡眠時無呼吸症候群や変形性膝関節症の疼痛に関する第3相データもまとまり、世界各地での承認申請を支える臨床データパッケージが整ったとしている。

GLP-1受容体への作用は食欲や摂食行動、GIP受容体への作用は血糖調節などに関係する。さらにグルカゴン受容体への作用を組み合わせることで、エネルギー消費や脂質代謝を含む複数の経路に働きかける設計となっている。この三つの情報入力を一つの治療薬に統合する構造が、チルゼパチドとは異なるレタトルチドの特徴である。

■12年間の独占期間はまだ確定していない

イーライリリーは、レタトルチドについて2027年第1四半期にFDAへ生物製剤承認申請を提出する方針を示している。しかし、FDAが同薬を生物学的製剤として受け入れるかどうかは、2026年8月時点で確定していない。

争点は、レタトルチドが米国法上の「生物学的製剤」に該当するか、それとも通常の医薬品として扱われるかである。イーライリリーは、レタトルチドの構造が生物学的製剤の定義を満たすとしている。これに対しFDAは、同薬を構成するアミノ酸の数え方などを理由に、当初は生物学的製剤ではなく医薬品に分類した。

イーライリリーはFDAの判断を巡って訴訟を起こした。連邦地裁はFDAの判断を取り消して同庁に再検討を求めたものの、レタトルチドを生物学的製剤と認定するところまでは踏み込まなかった。同社はさらに上訴しており、分類問題は解決していない。

生物学的製剤として承認されれば、米国では原則として最初の承認から12年間、後続のバイオシミラー申請を承認できない制度上の保護が適用される。一方、通常の新薬申請として承認される場合、基本となる新規化学物質のデータ独占期間は5年間である。特許など別の知的財産権も実際の競争開始時期に影響するため、12年間という期間だけから競合品の参入年を確定することはできない。

したがって、「2039年ごろまでバイオシミラーの参入を防げる」という見方は現時点の確定事項ではない。レタトルチドの規制区分は、承認申請の経路だけでなく、将来のデータ独占期間や後続品との競争条件を左右する重要な論点となっている。

■成長期待と開発リスクを分けて見る必要

イーライリリーは2026年、Orna Therapeutics、Ajax Therapeutics、Centessa Pharmaceuticals、Kelonia Therapeuticsの買収を完了したほか、感染症分野の事業基盤を構築するための買収も進めた。インディアナ州の製造拠点には45億ドルを追加投資し、マンジャロやゼップバウンドを含む製品需要への対応力を高めようとしている。

ただし、前臨床候補のACD680や、内容が非開示のOmniAbとのプログラムが、将来の製品承認や売上高に結び付くとは限らない。初期段階の提携は、短期的な業績への寄与よりも、将来の候補薬を幅広く確保するための投資として位置付ける必要がある。

レタトルチドについても、第3相試験の体重減少データは有望であるものの、FDAへの申請、審査、製造関連データの確認、規制区分の決着が残る。申請時期や審査期間から承認日と発売日を機械的に算出することはできず、優先審査の対象になるかどうかもFDAの判断を待つ必要がある。

株価は好決算や新薬への期待を反映して上昇しているが、特定の日の値動きを個別の提携だけに帰属させることは難しい。今後は、オルフォルグリプロンの販売動向、既存主力薬の成長率、製造能力の拡大、レタトルチドの申請経路と審査状況が、企業価値を判断するうえでの主要な材料となる。

■注目ポイントQ&A

●イーライリリー株は現在買い時と言えますか?

第2四半期は売上高が前年同期比48%増となり、通期予想も引き上げられました。一方、株価には主力薬の成長や新薬候補への期待が相当程度反映されている可能性があります。レタトルチドには申請・審査リスクがあり、生物学的製剤としての区分や12年間の保護も確定していません。投資期間、許容できる損失、ほかの資産との組み合わせを踏まえて判断する必要があります。

●レタトルチドはゼップバウンドと何が異なるのですか?

ゼップバウンドの有効成分チルゼパチドがGIPとGLP-1の二つの受容体に作用するのに対し、レタトルチドはグルカゴン受容体を加えた三つの受容体に作用します。TRIUMPH-1では12mg群が80週で平均28.3%の体重減少を示しましたが、レタトルチドはまだ開発中で、承認された治療薬ではありません。

●レタトルチドには承認後12年間の独占期間が与えられるのですか?

現時点では確定していません。イーライリリーは生物製剤承認申請を予定していますが、FDAとの間で生物学的製剤に該当するかを巡る争いが続いています。生物学的製剤として承認されれば12年間の制度上の保護が適用されますが、通常の医薬品に分類された場合は異なる制度が適用されます。

●ファウンダヨの特徴と課題は何ですか?

ファウンダヨは、食事の有無にかかわらず1日1回服用できる低分子の経口GLP-1受容体作動薬です。注射を必要とせず服用条件も比較的少ない一方、主要な心血管イベントへの効果を確認するアウトカム試験の結果はまだ得られていません。

●レタトルチドはいつ薬局で入手できますか?

イーライリリーは2027年第1四半期のFDA申請を計画していますが、承認時期や発売時期は確定していません。FDAが申請を受理した後の審査区分、追加資料の必要性、規制上の分類問題などによって日程が変わる可能性があります。

元記事: Lilly Stock Rises on Alzheimer Deal: Retatrutide Moat Still Not Fully Priced

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