Googleのデータセンター取水計画、ベルギー・ワロン政府が却下―干ばつ下のサンブル川を保全
2026年8月18日 21:26
ベルギー南部のワロン地域政府は2026年8月14日、Googleが建設を進めるデータセンターの冷却にサンブル川の水を使うための許可変更を認めなかった。ワロン地域で続く干ばつと将来の水資源への不確実性を踏まえ、フランソワ・デケンヌ副首相兼国土・インフラ相が予防原則に基づいて判断した。
変更許可はワロン地域の水路当局から一度認められていたが、市民が行政上の不服申し立てを行ったことで大臣による再審査の対象となった。Googleは決定を分析中としており、当初の冷却設計への回帰やベルギー国務院への不服申し立てなど、今後の対応を検討することになる。
■毎時600立方メートルの取水を計画
対象となったのは、エノー州のファルシエンヌ、エゾー・プレル、サンブルヴィルにまたがる産業用地「エコポール」でGoogleが開発しているデータセンターである。
Googleは当初、この施設に空気を利用する冷却方式を採用する計画だった。その後、サンブル川から毎時600立方メートルの水を取り込み、蒸発を利用して施設を冷却する方式へ変更するため、許可の修正を申請した。
計画では取水量の25%を川へ戻し、残る75%を冷却過程で蒸発させる想定だった。河川へ戻す水の温度は30度とされていた。施設が年間を通して同じ量を取水すると仮定した場合、取水量は年間約526万立方メートルとなる。
ワロン地域の水路当局は変更案に好意的な見解を示し、修正許可はいったん交付された。しかし、市民による不服申し立てを受けて案件が大臣の判断に移り、デケンヌ氏の担当部局が内容を再検討した結果、許可は認められなかった。
デケンヌ氏は現地メディアに対し、水文環境が大きく変化するなかで長期的な取水を約束することは望まないとの考えを示した。Googleが求めた取水量についても、将来にわたって地域が負担できるとの見通しを持てず、不確実性が大きいと説明している。
■ワロン地域では河川流量が低下
判断の背景には、ワロン地域で続く深刻な乾燥がある。ワロン地域の干ばつ監視当局によると、2026年8月13日の時点で河川の流量は季節として非常に低く、一部では過去の最低水準を下回っていた。
サンブル川上流部の流量も季節的な最低水準にあり、航行可能な河川を含めて状況は引き続き憂慮すべき状態とされた。地下水位もおおむね平年を下回り、雨が少ない状態が続けば水資源への圧力が一段と強まる可能性がある。
ワロン地域では7月下旬までに、ブイヨン、レグリーズ、マンエ、ロシュフォール、サン・ユベール、トロワ=ポン、ヴレス=シュル=スモワ、テンヌヴィルの8自治体が水利用を制限する措置を講じていた。河川や貯水池の状況には地域差があるものの、当局は住民や事業者に節水を呼びかけている。
デケンヌ氏は、気候変動を踏まえて水資源を保全する必要があるとし、大規模な取水要求を生活上不可欠な需要などと比較して判断するための制度的な枠組みも検討する考えを示した。
■蒸発冷却は電力と水のトレードオフ
データセンターでは、サーバーなどのIT機器が発する熱を継続的に取り除く必要がある。蒸発冷却は、水が液体から気体へ変わる際に熱を奪う性質を利用する方式で、冷却に必要な電力を抑えやすい一方、水の一部を蒸発によって消費する。
AIの学習や推論に使われる高性能なプロセッサーを高密度に配置すると、設備当たりの発熱量も増える。こうした環境では、空気だけでなく、液体をチップやラックの近くで循環させる冷却技術が重要になる。
もっとも、液体冷却と河川水を消費する蒸発冷却は同じものではない。施設内部で冷却液を繰り返し循環させる閉ループ方式や、外気を利用する方式など、水の蒸発を抑えながら高密度な設備を冷却する設計もある。導入する方式は、気候、水資源、電力供給、設備密度、建設費などを総合して選ばれる。
Google自身も、データセンターの所在地ごとに水とエネルギーの条件を評価し、水リスクが高い地域では空冷や再生水などの代替手段を検討する方針を示している。
■サン・ギスランでは工業用水を活用
Googleは同じエノー州のサン・ギスランでもデータセンターを運営している。同施設では、近隣の工業用運河から飲用ではない水を取り込み、敷地内で処理したうえで蒸発冷却に利用している。
Googleによると、サン・ギスラン施設は機械式冷凍機を使わない設計を採用し、2017年の年間平均PUEは1.09だった。PUEは、データセンター全体の消費電力をIT機器の消費電力で割った指標で、1に近いほど冷却や電力供給に伴う追加のエネルギーが少ないことを示す。
今回のエコポール計画では、同様に蒸発を利用する冷却方式であっても、取水先が干ばつの影響を受けているサンブル川だった。冷却方式の効率だけでなく、地域の水源が継続的な取水に耐えられるかが許可判断の中心となった。
■Googleは空冷への回帰か不服申し立てを検討
Googleには、当初の許可に沿った冷却設計へ戻すか、今回の決定についてベルギー国務院に不服を申し立てる選択肢がある。Googleはベルギーの報道機関に対し、決定を分析していると回答した。
地元のエゾー・プレル市長は、河川以外の水源も検討できるとの考えを示している。候補として雨水の収集や水の再利用が挙げられているが、毎時600立方メートルに相当する需要を安定的に賄うには、大規模な貯留設備や追加の冷却設備が必要になる。
閉ループ方式も選択肢の一つだ。Microsoftは、冷却水を建設時に充填した後、サーバーと冷却装置の間で循環させるデータセンター設計を発表している。同社によると、この方式では冷却のために水を蒸発させず、従来設計と比べて施設当たり年間1億2,500万リットルを超える水使用を回避できる。一方、蒸発冷却を使わない機械式の放熱は、設備構成や気候によって電力消費が増える場合がある。
■ベルギーで進むGoogleのインフラ投資
Googleは2025年10月、2026年から2027年までの2年間にベルギーで50億ユーロを投資すると発表した。主な対象はサン・ギスランのデータセンター拡張で、AIやGoogle Cloudなどを支える計算基盤の増強と300人の雇用創出を計画している。
今回の決定は、この投資計画全体を中止するものではない。エコポールの施設について、冷却設計や許認可手続き、工期を見直す要因となる。
取水許可の変更が認められなかったことと、Googleがベルギーで進める他の投資は分けて考える必要がある。現時点で、今回の判断を理由としてベルギー全体の投資計画が縮小または中止されるとの公式発表はない。
■欧州各地で問われるデータセンターの資源利用
データセンターの新設や拡張をめぐっては、欧州以外でも水や電力への影響が審査の焦点となっている。チリの環境裁判所は2024年、Googleがサンティアゴで計画していたデータセンターについて、気候変動が地下水に及ぼす影響を審査へ反映するよう求め、許可を一部取り消した。Googleはその後、冷却方式を含む計画を再設計する方針を示した。
アイルランドでは同年、南ダブリン県議会がGoogleによる新たなデータセンターの建設申請を却下した。電力網の供給能力、敷地内の再生可能エネルギー、電力購入契約に関する説明不足などが理由とされた。
EUのエネルギー効率指令は、一定規模以上のデータセンターに対し、エネルギー性能や水使用量に関する情報の公開と欧州データベースへの報告を求めている。この制度は透明性を高めるためのものであり、個別施設の取水可能量を一律に定めるものではない。
ワロン地域の判断は、既存の許可手続きと予防原則の枠内で、地域の水資源の状況を個別に審査したものだ。他の地域を法的に拘束する判例ではないが、AI向け計算基盤の拡大に伴い、施設の立地や冷却方式を水源の持続性と併せて検討する必要性を示している。
■注目ポイントQ&A
●なぜワロン地域政府はGoogleの取水計画を認めなかったのですか?
サンブル川の流量が低い状況で、毎時600立方メートルを取水し、その75%を蒸発冷却で消費する計画だったためです。デケンヌ副首相兼国土・インフラ相は、将来の水資源に関する不確実性を踏まえ、予防原則に基づいて変更許可を認めませんでした。
●市民の申し立てはどのような役割を果たしたのですか?
水路当局の審査を経て一度交付された変更許可に対し、市民が行政上の不服申し立てを行いました。これにより案件が大臣による再審査の対象となり、最終的に許可が認められませんでした。
●蒸発冷却では水がどのように使われますか?
水が蒸発する際に周囲の熱を奪う性質を利用して、サーバーから出る熱を取り除きます。冷却に必要な電力を抑えやすい一方、蒸発した分の水は施設や取水元の河川へ直接は戻りません。
●Googleにはどのような選択肢がありますか?
当初の許可に沿った冷却設計へ戻すか、ベルギー国務院に不服を申し立てることが考えられます。雨水、再生水、閉ループ冷却など、河川からの継続的な取水を減らす設計を検討する余地もあります。
●この判断は欧州全体を拘束する先例になりますか?
他の地域や事業を直接拘束する判例ではありません。ただし、既存の環境法制と許可手続きを通じて、干ばつや将来の水資源を理由に大規模取水を認めない判断が可能であることを示した事例です。
元記事: Wallonia Blocks Google River Cooling Permit for AI Data Center Over Drought