CPOはAI計算資源の利用効率を改善できるか、OCPが300ページの設計構想を公開
2026年8月16日 20:23
AIデータセンターの相互接続における銅配線の物理的な制約に対応するため、19社からなる業界連合が、Open Compute Project(OCP)でコパッケージド・オプティクス(CPO)のアーキテクチャ構想を公開した。連合は2026年第4四半期(Q4)に最初の仕様を提出する計画だ。ただし、この時点でマルチベンダー製品が調達可能になるわけではなく、ウエハーレベルの試験や光学パッケージングなど、量産に向けた課題も残されている。
■銅配線が直面する物理的限界と計算資源の利用効率
19社による業界連合は2026年8月13日、AIデータセンターの相互接続を光技術へ移行するための約300ページのホワイトペーパーを公開した。この取り組みは「Open Silicon Photonics for AI Systems」と名付けられ、OCPの公式ワークストリームとして活動する。
ホワイトペーパーの名称は「Architecture Vision: Open Silicon Photonics for AI Systems」だ。OCPのModular Hardware System(MHS)とOpen Rack v3(ORv3)に対応し、72ノードから1,024ノード超へ拡張できるAIクラスタ向けの共通アーキテクチャ策定を目指している。
この構想は、2026年3月の光通信分野の国際会議「OFC」でLightmatterと10社の創設メンバーが発表した取り組みを発展させたものだ。その後9社が加わり、参加企業は合計19社となった。連合は2026年Q4に最初の仕様を提出する予定であり、これまで「12~24か月」と幅をもって語られていた標準化の進展に、具体的な節目を設けた。
標準化が急がれる背景には、高速化に伴って銅配線で伝送できる距離が短くなるという物理的制約がある。SerDesの信号速度が448Gに近づくと、銅配線の到達距離は数十センチ程度まで縮まり、複数ラックにまたがる接続ではリタイマーなどの信号補償回路が必要になる。こうした回路は電力を消費し、システムの複雑さも増大させる。
Lightmatterのエコシステム開発ディレクターであるビジャン・ナウルージ(Bijan Nowroozi)氏は、OCP APAC Summitの講演で、大規模AI学習クラスタのMFU(Model FLOPS Utilization)が38~43%程度にとどまる例を示した。MFUは、理論上利用できる演算性能のうち、モデルの計算に実際に使われた割合を表す指標だ。
ただし、MFUの低下はネットワーク通信だけで決まるものではない。データ転送の待ち時間に加え、メモリアクセス、並列化方式、パイプラインの停止、負荷分散など複数の要因が影響する。CPOは、このうち相互接続に由来する帯域、遅延、消費電力の制約を緩和する技術として期待されている。
■CPOの仕組みと業界標準が必要とされる背景
CPOは、電気信号と光信号を変換する光学エンジンを、スイッチASICや計算チップの近くに一体実装する技術である。従来の着脱式光トランシーバでは数十センチに及ぶことがある電気信号の経路を、ミリメートル単位まで短縮できる。
電気経路が短くなることで、信号補償に使うデジタル信号処理回路の負担を抑え、帯域密度や電力効率を改善できる可能性がある。Nvidiaは、自社のシリコンフォトニクス技術について、従来の着脱式トランシーバを使用する構成より電力効率を高められるとしている。
一方、CPOには保守性の課題がある。着脱式トランシーバであれば故障したモジュールだけを交換できるが、光学エンジンをスイッチASICの近くに統合した構成では、故障箇所や実装方式によって、より大きな単位での交換や保守が必要になる可能性がある。このため、交換可能な外部レーザー光源やモジュール構造など、保守性を確保する設計も重要になる。
インフラ調達担当者にとってもう一つの課題が、ベンダーロックインである。共通仕様がなければ、光学エンジン、スイッチASIC、パッケージ、コネクタ、冷却機構、管理インターフェースなどが各社固有の構成となり、異なる企業の製品を組み合わせにくい。
Lightmatterが主導するOCPワークストリームは、複数のサプライヤーが共通のインターフェースに沿って製品を開発できる環境の構築を目的としている。ただし、今回公開された文書はアーキテクチャの構想であり、相互運用性が確認された製品仕様や認証済み製品が完成したことを意味するものではない。
■ブループリントの規定内容と技術的アプローチ
約300ページのホワイトペーパーは、OCPのMHSおよびORv3に準拠し、72ノードから1,024ノード超へ拡張できるAIクラスタ向けのCPO導入フレームワークを示している。
フレームワークでは、MFUを55~65%へ引き上げることや、光リンクのエネルギー効率を1ビット当たり5ピコジュール未満にすることなどが目標として示されている。これらはアーキテクチャが目指す設計目標であり、現時点で製品や実運用環境において達成が実証された性能値ではない。
対象となる光リンクには、単一波長構成から16波長の高密度波長分割多重構成までが含まれる。CPOに加え、NPO(Near-Packaged Optics)、XPO、CPXなど、光学エンジンを配置する位置や実装形態が異なる方式も検討対象となっている。
このフレームワークの特徴は、特定の光デバイス技術を指定しない点にある。機械、電力、信号、熱、管理などのレイヤーで共通インターフェースを定義し、シリコンフォトニクス、VCSEL(垂直共振器面発光レーザー)、microLEDなど、複数の光技術を利用できる構成を目指している。
シリコンは間接遷移型半導体であり、一般に効率的な発光が難しい。このためシリコンフォトニクスでは、外部レーザーを利用するか、インジウムリンなどのIII-V族半導体を用いた光源を異種集積する必要がある。VCSELやmicroLEDは異なるデバイス構造を利用するため、製造方法、コスト、出力、効率、実装密度などの面でそれぞれ異なる特性を持つ。
特定の方式に限定せず、複数の実装を受け入れられるインターフェースを定めることで、量産性や性能に優れた技術を各社が選択できる余地を残す狙いがある。
ホワイトペーパーは、SerDesの世代が変わっても、光ファイバー配線、コネクタ、フェイスプレート、光配線盤などの受動部品を可能な限り継続利用し、主に光学エンジンの更新で対応できる構成も重視している。長期運用されるラックや光配線を世代ごとに全面更新する必要が生じれば、導入コストが大きくなるためだ。
Lightmatterの創業者兼CEOであるニック・ハリス(Nick Harris)博士は、「インターコネクトは、AIインフラの性能において計算能力と同じくらい基本的な要素になった」と説明した。そのうえで、19社がシステムレベルのアーキテクチャ構想で合意した今回のホワイトペーパーを、ハイパースケーラーの構築工程に適合するMHSベースのCPOラックアーキテクチャを開発するための基盤と位置づけている。
■2026年Q4の目標と依然として残る課題
連合の次のステップは、2026年第4四半期に最初の仕様を提出することだ。Q4という時期が示されたことで、標準化作業の最初の節目は明確になった。
ただし、Q4に予定されているのは標準化プロセスの初期成果であり、複数企業から相互運用可能なCPO製品が同時に発売されることを意味しない。
CPOの製造には、電子回路と光回路を組み合わせた状態での検査、ウエハーレベルの試験、光ファイバーアレイの実装、高速光パッケージの組み立てなど、従来の半導体とは異なる工程が必要になる。各工程の試験方法や合否判定が企業ごとに異なれば、複数サプライヤーによる互換性のある量産体制を構築することは難しい。
ASE Groupのシニア・テクニカルプログラムマネージャーであるニコール・ティエン(Nicole Tien)氏は、OCP APAC 2026において、ウエハーレベルの試験標準や共通のシミュレーション手法が不足していることを課題として挙げた。TSMCのJun He氏も、ウエハーレベル試験、ファイバーアレイユニットの統合、高速光パッケージの組み立てを、業界全体で取り組む必要がある課題として示した。
OCPの仕様策定では、共通の基盤を定めるBase Specificationに続き、具体的な設計や製品に関する仕様が整備される。独立したサプライヤーが共通要件に沿って製造し、製品を認定できる環境を整えるには、こうした後続作業と検証の仕組みが必要になる。
したがって、2026年Q4のマイルストーンはマルチベンダー市場の完成時期ではなく、その形成に向けた標準化作業の開始点として捉える必要がある。
IDCでコンピュートインフラストラクチャ&テクノロジー部門のバイスプレジデント兼グローバルリードを務めるジェフ・ジャヌコウィッツ(Jeff Janukowicz)氏は、AIシステムの規模拡大に伴い、エネルギー効率やデータ転送速度の最適化が演算性能と同様に重要になったと指摘した。また、この取り組みを、CPOのエコシステムにおける協業を促進するベンダー中立の枠組みと評価している。
■参加企業の陣容とサプライチェーンの動き
CPOは、光学エンジン、スイッチASIC、半導体パッケージ、基板、ラック、光配線、電源、冷却、管理ソフトウェアなど、多数の構成要素にまたがるシステムレベルの技術である。単一企業だけで、すべての層を相互運用可能な形で供給することは難しい。
今回の連合には、Lightmatterのほか、Celestica、Dell Technologies、Flex、Foxconn Interconnect Technology、Global Unichip Corporation、Hyve Solutions、Keysight、Qualcomm、Quanta Cloud Technologyなどが参加している。半導体、システム、製造、試験・計測など複数分野の企業が参加することで、部品単位ではなくラックやクラスタ全体を対象とした仕様づくりを進める。
Celesticaは、CPOイーサネットスイッチの設計・製造に関する案件をハイパースケーラーから受注し、2027年の生産拡大を見込んでいる。こうした個別企業の量産計画はCPO市場の進展を示す材料になるものの、複数ベンダー間の相互運用性を保証するものではない。
ナウルージ氏は、アジア太平洋地域で50社を超えるサプライヤーがAI向けMHS機器を製造していると説明している。既存の製造基盤を標準化作業に取り込めるかどうかが、オープンなCPOエコシステムの形成速度を左右する。
■インフラ調達における現実的な判断基準
2026年後半にAIネットワークインフラを検討するハイパースケーラーや大規模事業者にとって、今回のホワイトペーパーは、CPOのマルチベンダー化に向けた標準化作業が正式に始まったことを示す。
一方、ホワイトペーパーの公開だけを根拠に、2026年Q4に競争力のあるマルチベンダー市場が成立すると判断することはできない。Q4の目標は最初の仕様提出であり、認定済み製品の投入時期や、製品間の相互運用性が確立する時期は示されていない。
ネットワーク更新が近い事業者は、従来型の着脱式光トランシーバ、光学エンジンをパッケージの近くに置く方式、CPOなどを、消費電力、帯域密度、保守性、調達先の選択肢、導入実績を踏まえて比較する必要がある。CPOは高い帯域密度と電力効率を期待できる一方、供給元の集中や保守方法、試験標準の未整備といったリスクも考慮する必要がある。
今回公開された約300ページの文書は製品仕様書ではなく、今後の仕様策定を支えるアーキテクチャ構想である。OCPの枠内で19社が共通の方向性を示し、2026年Q4に最初の仕様を提出する計画を明らかにした点が、今回の発表の中心となる。
■注目ポイントQ&A
●CPO(Co-Packaged Optics)とは何ですか。なぜマルチベンダー対応に業界標準が必要なのですか?
CPOは、電気信号と光信号を変換する光学エンジンを、スイッチASICや計算チップの近くに一体実装する技術です。電気信号の経路を短くすることで、帯域密度や電力効率を改善できる可能性があります。
製造には半導体、光デバイス、パッケージング、組み立て、試験、冷却など複数分野の技術が関係します。共通仕様がなければ、各社が互換性のない独自構成を採用することになり、調達先や交換部品が特定企業に限定される可能性があります。OCPのワークストリームは、複数企業が共通インターフェースに沿って製品を開発できる環境の構築を目指しています。
●複数の競合ベンダーからCPOスイッチを選べるようになるのはいつ頃ですか?
現時点では明確になっていません。2026年第4四半期の目標は最初の仕様を提出することであり、複数ベンダーの認定製品が同時に調達可能になる時期を示したものではありません。
製品化には、その後の設計・製品仕様の整備に加え、ウエハーレベル試験、シミュレーション、光ファイバー実装、パッケージ組み立てなどに関する共通手法の確立が必要です。このため、具体的な調達時期は各仕様の完成、認証制度、対応製品の発表を確認して判断する必要があります。
●OCPの構想がシリコンフォトニクスだけでなくVCSELやmicroLEDも対象にしているのはなぜですか?
シリコンは効率的な発光が難しいため、シリコンフォトニクスでは外部レーザーや、インジウムリンなどを用いた光源の異種集積が必要になります。VCSELやmicroLEDは異なる構造で光を生成するため、製造方法、コスト、出力、効率、実装密度などの特性も異なります。
特定の光技術に限定せず、複数方式を利用できるインターフェースを定めることで、技術競争を維持し、用途に応じて適切な実装を選択できる余地を確保する狙いがあります。
●インターコネクトのボトルネックは、AIクラスタのコストにどの程度影響しますか?
MFUが38~43%の場合、理論上の演算性能の57~62%がモデル計算に使われていないことになります。ただし、そのすべてがネットワークや銅配線に起因するわけではありません。メモリアクセス、並列化、負荷分散、パイプラインの停止などもMFUに影響します。
例えば5億ドル(約795億円、1ドル=159円換算)のクラスタにこの比率を単純に当てはめると、モデル計算に使われていない理論性能の取得費用は約2億8,500万~3億1,000万ドル(約453億~493億円)に相当します。しかし、これはネットワーク改善だけで回収できる金額を示すものではありません。CPOが改善を目指すのは、そのうち相互接続の帯域、遅延、電力消費に由来する部分です。
元記事: Co-Packaged Optics Standard Gets Q4 Deadline: OCP Blueprint Targets Wasted AI Compute