サムスン、インド・プネにAIデータセンター向け冷却設備工場 年6500台体制へ
2026年8月14日 17:59
サムスン電子は、傘下のフレクトグループ(FläktGroup)がインド西部のプネに新たなHVAC(暖房・換気・空調)製造施設を開設したと発表した。AIデータセンターを含む高密度なコンピューティング環境向けの冷却設備を生産し、インド国内とアジア太平洋地域への供給を強化する。
■プネ工場の概要と設立の背景
サムスン電子は8月13日、インドのマハラシュトラ州プネでフレクトグループの新工場が稼働を開始したと発表した。2025年11月にフレクトグループの買収を完了してから、初めて稼働を開始した同社の新たな製造施設となる。
8月12日に開かれた式典には、サムスン電子デジタル・アプライアンス事業部門長のキム・チョルギ副社長(EVP)、フレクトグループのデビッド・ドーニーCEOをはじめ、両社の幹部や主要顧客の関係者など100人以上が出席した。
新施設は、生産ライン、オフィス、付帯設備を合わせて約1万3826平方メートルの規模を持つ。設備の設置から量産開始までの期間は約6カ月で、フレクトグループは今後、生産能力を年間最大6500台まで段階的に拡大する計画だ。
同施設は「プロジェクトGAGAN」として整備され、投資額は570万ユーロ(約660万ドル、約10億5000万円、1ドル=159円換算)とされる。プネはインドのデータセンターやグリーンエネルギー関連産業が集積し、主要な産業回廊や港湾へのアクセスにも優れる。フレクトグループは、新工場をインド国内だけでなく、アジアや東南アジアを含む輸出市場への供給拠点と位置付けている。
ドーニーCEOは、「プロジェクトGAGANは単なる工場への投資ではなく、インドとその先の成長段階に向けた戦略的な能力構築だ」と述べた。「プネは、高成長のテクノロジー市場に対応し、当社のグローバルな製造ネットワークを強化するために必要なエコシステム、人材、インフラを備えている」という。
■AIデータセンター向けの冷却設備を生産
プネ工場では、エアハンドリングユニット(AHU)、ファンウォールユニット(FWU)、コンピュータールーム・エアハンドラー(CRAH)などを生産する。2026年5月に公表されたプロジェクト計画では、コンピュータールーム・エアコン(CRAC)、冷却水分配ユニット(CDU)、加熱・冷却コイルも製品ラインアップに含まれている。
AHUは、冷水などを利用して建物内の温度や空気の状態を調整する大型空調設備で、データセンターや大規模な商業施設などに使われる。FWUは複数のファンを壁面状に配置して大きな風量を確保し、サーバールームなどから効率よく熱を排出する。
CRAHは、データセンター内の暖まった空気を取り込み、冷水コイルを介して冷却したうえで、サーバーの吸気側に戻す装置だ。空気を利用して室内全体を冷やす方式であり、設備構成やラックの発熱密度に応じてほかの冷却方式と組み合わせて使われる。
CDUは、建物側の冷却水系統と、サーバーやラック側の冷却ループの間で熱を交換し、冷却液の流量や温度を管理する装置である。GPUやCPUに取り付けたコールドプレートへ冷却液を循環させる直接液冷システムでは、両方の冷却系統を隔離しながら安定して運用するための重要な構成要素となる。
■高密度AIシステムで高まる液冷の重要性
生成AIの学習や推論に使われるGPUシステムでは、ラックあたりの消費電力と発熱量が従来のサーバー環境より大幅に増えている。このため、空調設備で室内の空気を冷やす従来方式に加え、プロセッサーの近くで熱を回収する直接液冷の採用が進んでいる。
NVIDIAの「GB200 NVL72」は、36基のGrace CPUと72基のBlackwell GPUを1つのラックスケールシステムとして接続し、液冷を採用する。メーカーによる実装例では、ラック全体の電源容量が132kWに達する構成も示されている。
液体は空気よりも熱を効率的に運べるため、限られた空間に多数のGPUを搭載する高密度ラックでは、直接液冷が有力な選択肢となる。ただし、必要な冷却方式はラックの消費電力、機器構成、建物側の設備、外気条件などによって異なり、空冷設備も周辺機器の冷却や室内環境の管理に引き続き使われる。
このため、プネ工場がAHU、FWU、CRAHといった空気系の設備に加え、CDUを生産対象としている点は重要だ。フレクトグループは、従来型のデータセンターから高密度なAIシステムまで、複数の冷却方式に対応できる製品供給体制を整えようとしている。
■拠点として存在感を高めるインド
クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドの「Global Data Center Market Comparison 2026」によると、インドの稼働中のデータセンター容量は1.6GWで、アジア太平洋地域では2番目の規模となっている。建設中または計画中の開発パイプラインは3.1GWで、同地域の上位3市場に入る。
インドの主要市場であるムンバイは、2026年末までに稼働容量が1GWを超えると予測されている。データセンター開発はムンバイだけでなく、ハイデラバード、チェンナイ、デリー首都圏、プネ、ベンガルールなどにも広がっている。
市場拡大の背景には、AIの導入、ハイパースケールクラウドの拡張、企業によるデジタルインフラ需要の増加がある。一方で、データセンターの開発競争では需要の大きさだけでなく、電力の確保、土地やインフラの準備状況、設備を計画通りに供給・建設できる能力も重要になっている。
Future Market Insightsの予測では、AIデータセンター向け液冷市場は2025年の32億ドル(約5088億円)から、2026年には37億ドル(約5883億円)へ拡大する。2036年には178億3000万ドル(約2兆8350億円)に達し、2026年から2036年までの年平均成長率は16.9%になると見込まれている。
■フレクトグループ買収後のサムスンの戦略
サムスン電子は2025年11月、欧州の大手HVAC企業であるフレクトグループの買収を完了した。買収額は15億ユーロ(約17億3000万ドル、約2750億円)規模とされる。
フレクトグループはドイツのヘルネに本社を置き、100年以上にわたる空調・換気技術の歴史を持つ。年間売上高は7億ユーロ(約8億800万ドル、約1285億円)以上で、約3300人の従業員と14カ所の生産拠点を擁し、65カ国で事業を展開している。
同社の製品はデータセンターだけでなく、医薬品・バイオ医薬品施設、病院、工場、船舶、教育施設など、温度、湿度、空気品質を精密に管理する必要がある環境で利用されている。
サムスンは、フレクトグループを独立した子会社として運営し、社名、既存の経営体制、人員、施設を維持する方針だ。その一方で、フレクトグループのHVAC制御技術と、サムスンの「SmartThings Pro」や「b.IoT」などのビル管理プラットフォームを組み合わせ、スマートビルやエネルギー効率化の分野で新たな事業機会を探る。
プネ工場は、フレクトグループがインド北部のノイダに持つ既存の製造拠点を補完する。サムスンは現地生産の拡大によって納期や物流面での対応力を高め、インドとアジア太平洋地域で拡大するAIデータセンター向け冷却需要を取り込む考えだ。
■注目ポイントQ&A
●サムスン傘下のフレクトグループが開設したプネ工場では、何を製造しますか?
エアハンドリングユニット(AHU)、ファンウォールユニット(FWU)、コンピュータールーム・エアハンドラー(CRAH)などを製造します。先に公表された工場計画には、CRAC、冷却水分配ユニット(CDU)、加熱・冷却コイルも含まれています。生産能力は段階的に年間最大6500台まで拡大する計画です。
●CDUはAIデータセンターでどのような役割を果たしますか?
CDUは、建物側の冷却設備とサーバー側の液冷ループの間で熱を交換し、冷却液の温度や流量を管理します。GPUやCPUのコールドプレートに冷却液を循環させる直接液冷システムでは、施設側の水系統とIT機器側の系統を隔離する役割も担います。
●高密度なAIシステムでは空冷を使えないのですか?
必要な冷却方式は、ラックの発熱密度や機器構成、建物の設備によって異なります。GB200 NVL72のような高密度システムでは直接液冷が採用されていますが、ネットワーク機器やストレージなどの冷却、室内環境の管理には空冷設備が併用される場合があります。
●インドのデータセンター市場はどの程度の規模ですか?
クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドによると、インドには1.6GWの稼働中データセンター容量があり、アジア太平洋地域で2番目の規模です。建設中または計画中の容量は3.1GWで、ムンバイに加えてハイデラバード、チェンナイ、デリー首都圏、プネ、ベンガルールなどでも開発が進んでいます。
●フレクトグループとはどのような企業ですか?
ドイツに本社を置くHVAC企業で、100年以上にわたる技術の歴史を持ちます。約3300人の従業員と14カ所の生産拠点を擁し、65カ国でデータセンター、医薬品施設、病院、工場、船舶などに空調・換気ソリューションを提供しています。サムスン電子は2025年11月に同社の買収を完了しました。
元記事: Samsung Opens India Liquid Cooling Hub as Blackwell Heat Renders Air Cooling Obsolete