TSMC、台湾・龍潭に1.4nmとCoWoSの集積拠点を計画か──地元反対の軟化で再始動
2026年8月11日 00:10
台湾・桃園市の龍潭第3期科学園区におけるTSMCの工場建設計画が、再び動き始めた。サプライチェーン関係者の情報によれば、供給能力が逼迫している1.4nmプロセス「A14」とCoWoS先進パッケージングの両方を担う拠点が計画されているという。ただし、環境影響評価や用地取得などの課題が残っており、施設の具体的な内容についてTSMCから正式な確認はない。
■龍潭計画が復活した経緯
台湾で注目を集めてきた半導体工場用地の計画が、再び軌道に乗りつつある。桃園市龍潭区の住民が第3期科学園区の拡張に対する反対姿勢を軟化させたことを受け、TSMCは、かつて計画を断念したこの土地に次世代の1.4nm製造工場を2〜3棟、先進パッケージング工場を2棟建設することを計画していると報じられている。両技術の供給能力が世界的に逼迫するなか、龍潭第3期は、現時点でこれら2つの技術に対応する施設を同時に建設する計画がある唯一の拠点になるという。自由時報(Liberty Times)が引用したサプライチェーン関係者の情報によると、この計5施設の計画は、数十年前に新竹科学園区の集積が形成されて以来、台湾で最も高密度な最先端半導体生産能力の集積になるとアナリストはみている。行政院による審査は継続中で、環境影響評価も完了していない。大部分が民有地である対象用地の取得も、早くて2029年までかかる見通しだ。それでも、TSMCが計画から全面的に撤退した2023年当時と比べ、状況は大きく変化している。
龍潭第3期の経緯は、政府が半導体メーカーから示された「ノー」を受け入れず、計画を進めようとした場合に何が起こるかを映し出している。台湾政府が2022年末に龍潭科学園区の第3期拡張計画を初めて発表すると、対象地の約88%を占める民有地の強制収用に反対する地元地権者の反発を招いた。住民を代表する自救会は、政府が産業成長の名の下に地域社会の意向を押し切ろうとしていると批判した。Taipei Timesは、住民による抗議活動と、用地取得計画の全面撤回を求める動きを報じている。
2023年10月、TSMCは計画の継続を断念した。同社は「現在の条件下では、龍潭園区第3期への拠点設置をもはや検討していない」と声明を出し、国内で特に注目されていた工場計画を事実上棚上げした。Digitimesは2023年10月17日、この撤退を報じている。その後、TSMCは台湾南部に軸足を移し、台南と高雄の南部科学園区への投資を拡大した。現在、高雄のFab 22では2nmプロセスの生産立ち上げが進められている。
しかし、同園区を管轄する新竹科学園区管理局は働きかけを続けた。2025年末から2026年初めにかけて、第3期拡張に関する公聴会を2回開催した。村長の葉来旺(Ye Laiwang)氏は、大規模なテクノロジークラスターがもたらす雇用や教育面の利点を挙げ、開発を支持する意向を公に表明した。地元の政治家らは、場所によっては50年近く改善されてこなかったインフラ上の課題に対処するため、都市計画の見直しを求めた。Taipei Timesも地域住民の姿勢の変化を報じており、影響を受ける住民の多くがTSMCの工場計画を受け入れる方向に傾いているという。
反対姿勢が和らぐにつれ、行政手続きも加速した。新竹科学園区管理局は2026年5月、第3期計画を台湾の国家科学及技術委員会(NSTC)に提出し、同委員会は同月中に承認した。その後、計画は追加審査のため6月に行政院へ送られたが、記事公開時点では審査中である。Focus Taiwan/CNA(中央社)は、NSTCへの計画提出と、TSMCがオングストローム世代の技術開発計画を否定していないことを報じている。
■TSMCが建設を予定する施設と両技術の重要性
報道されている龍潭第3期の施設構成には、明確な狙いがある。自由時報が引用したサプライチェーン関係者によると、この拠点にはTSMCの1.4nm「A14」プロセスを採用するファブが2〜3棟、CoWoS(Chip on Wafer on Substrate)技術を使用する先進パッケージング工場が2棟設けられるという。
現在、両技術とも深刻な供給制約に直面している。しかも、これは別々に存在する問題ではなく、相互に結び付いている。AIアクセラレータを完成させるには、先端プロセスで製造するロジックチップと、それを高帯域幅メモリに接続する先進パッケージングの両方が必要になるためだ。
A14は、2nmに続くTSMCの次世代主要プロセスノードである。2025年の北米テクノロジーシンポジウムで発表されたこのプロセスは、第2世代のナノシート型GAA(Gate-All-Around)トランジスタと、TSMCの「NanoFlex Pro」アーキテクチャを組み合わせる。これにより、チップ設計者はトランジスタのチャネル幅を段階的に選ぶのではなく、より連続的に調整できるようになり、従来のFinFETトランジスタでは得られなかった設計の自由度が生まれる。2026年に量産立ち上げが進む2nmプロセスと比較すると、A14は同じ消費電力で10〜15%の性能向上、または同じ性能で25〜30%の消費電力削減を実現し、ロジック密度も約1.23倍になるとされる。TrendForceと工商時報(Commercial Times)によると、台中の中部科学園区では2028年半ばの量産開始を目指している。台中工場の最初の建屋は当初の建設スケジュールを上回るペースで工事が進み、2027年4月より前に完成する見通しだという。
CoWoSは、シリコンインターポーザ上でロジックダイと、その隣に置かれた高帯域幅メモリ(HBM)スタックを接続するパッケージング技術である。インターポーザは、従来の2Dパッケージングでは実現が難しい速度と帯域幅で、演算部分とメモリの間のデータ転送を可能にする中間層だ。NvidiaのBlackwell世代GPUは毎秒9,000GBを超えるメモリ帯域幅を必要とする。このスループットを実現するには、ロジックダイとメモリダイをミリメートル単位ではなくマイクロメートル単位の距離で接続する必要があり、原記事は、量産規模でこれを実現できるのがCoWoSだとしている。TechTimesのこれまでの報道によれば、CoWoSの生産能力は2026年分がすでに予約で埋まり、2027年分についてもかなり先まで確保されている。リードタイムは52〜78週間に達するという。2026年の需要は約100万枚に達すると予測され、2024年通年の約37万枚のおよそ3倍となる。TSMCはCoWoSの生産能力を年率約80%で拡大しているが、TrendForceのデータを引用したTechTimesの報道によると、パッケージングの需給ギャップは2026年末時点でも約10%残る見通しだ。
龍潭第3期が構造的に重要なのは、TSMCが現在進めている拡張計画のなかで、A14ロジック製造とCoWoSパッケージングの両方を同一クラスターに置くことを前提に、ゼロから計画された新規開発拠点がほかにないためだ。台中のFab 25はA14を生産する予定だが、専用のパッケージング能力は嘉義と竹南で拡張されている。アリゾナ拠点は2029年ごろのCoWoS対応を目指しているが、A14ロジックを製造する計画ではない。龍潭第3期が現在の計画に沿って完成すれば、TSMCの既存の製造集積地の中心部で、両工程を担うために整備された例外的な拠点となる。TechTimesは、巨額の投資が行われた後も米国で先進パッケージング能力の不足が続く背景を報じている。
■龍潭におけるCoWoS展開の意義
龍潭にとって、先進パッケージングは新しい事業ではない。Tom's HardwareによるTSMCの工場拡張計画の分析によれば、龍潭キャンパスにある既存の先進パッケージングFab 3では、ハイエンドのApple向けプロセッサに対応するウェーハレベル・マルチチップモジュールとInFOのパッケージングラインがすでに稼働している。第3期拡張で計画されている2棟の新しいパッケージング工場は、既存のFab 3敷地内ではなく、隣接する第3期用地に建設される見通しだ。これらの工場は、Apple向けチップのパッケージングにとどまらず、AIアクセラレータのロジックダイとHBMスタックを接合するCoWoSに対応する可能性が高い。
TechTimesによると、TSMCは2026年4月の北米テクノロジーシンポジウムで、5.5レチクルサイズのCoWoSを98%を超える歩留まりで生産していると発表した。また、約10個の大型コンピュートダイと20個のHBMスタックを統合できる14レチクル版を、2028年に向けて計画している。TSMCの中核的な研究開発施設に近い新竹回廊に龍潭のパッケージング拠点が設けられれば、AIチップの大型化が続くなか、こうした大規模な次世代CoWoSの生産を支える立地となり得る。
■投資規模と経済効果
対象となる敷地は全体で約104ヘクタール(257エーカー)に及び、そのうち約46ヘクタール(114エーカー)が工業用地に指定される。用地取得は2029年末までの完了を目標としており、その後、TSMCやほかの入居企業が本格的な建設に着手できる見通しだ。
Focus Taiwan/CNAによると、2026年5月の報道で引用されたサプライチェーン関係者は、TSMCが龍潭のオングストローム世代プロジェクトに5,000億〜6,000億台湾ドルを投資する可能性があると推定している。米ドル換算では約155億〜186億ドル、1ドル=158円で換算すると約2兆4,490億〜2兆9,388億円に相当する。狙いは、同社の最先端技術開発を台湾に定着させることだという。台湾電力も、新たな産業需要を見越した電力網の増強を準備しているとしている。龍潭キャンパスが全面稼働すれば、極めて大きな電力需要が生じると見込まれているためだ。
これまでの分析では、龍潭第3期が全面稼働した場合、年間6,000億〜6,500億台湾ドル相当の生産額を生み、約5,900人の雇用を創出すると推定されている。米ドル換算では約186億〜202億ドル、1ドル=158円で換算すると約2兆9,388億〜3兆1,916億円に相当する。
■台湾国内における最先端拠点の確保
龍潭計画の復活には、敷地面積だけでは捉えられない地政学的な意味がある。TSMCは海外投資を加速し、米アリゾナ州フェニックスの半導体工場に650億ドル(約10兆2,700億円、1ドル=158円換算)以上を投じるほか、日本の熊本とドイツのドレスデンでも施設を整備している。一方、台湾の政策担当者は、TSMCの最先端プロセスを国内にとどめることを重視してきた。TechTimesが報じたように、TSMCの魏哲家(C.C. Wei)CEOは、台湾が同社の最先端生産の拠点であり続けると繰り返し表明している。
龍潭を巡る約3年間の交渉では、2回の公聴会に加え、インフラ整備の確約や都市計画の見直しが行われた。これは、TSMCに海外拠点の建設を強制することはできない台湾政府が、国内で第2のA14生産拠点を確保するため、どこまで取り組んだかを示すものだ。
龍潭は、台湾の半導体産業の地理的配置において特有の位置を占める。TSMCは2004年から同地に施設を構えており、龍潭は同社の最先端研究開発・製造拠点が集まる新竹回廊に近い。このため、国内クラスターを拡張するうえで自然な立地となる。既存のAP Fab 3は、すでにApple向けの高度なパッケージング需要に対応している。A14ロジックファブと新たなCoWoS生産能力が加われば、龍潭は先進パッケージングの補完拠点から、最先端の製造工程を幅広く担う一体型拠点へと変わる可能性がある。
■今後の課題と未確定要素
すべてが決まったわけではない。正式承認を得るには、環境影響評価と行政院による追加審査を終える必要がある。対象用地の約88%が民有地であるため、用地取得の手続きも複雑になる。楽観的な見通しに立っても、2029年より前に完了することはないとみられている。
園区の区域を巡る問題も、不確実性を高めている。Taipei Timesによると、桃園市政府は園区周辺の追加用地を都市・農村開発区域に指定し直そうとしてきた。しかし、台湾の国土計画審議会(Spatial Planning Review Committee)はこの提案の大部分を認めず、NSTCがすでに計画している約89ヘクタールだけを承認した。桃園市政府は修正せずに計画を再提出しており、区域を巡る問題は解決していない。
さらに、A14ファブ2〜3棟とCoWoSパッケージング工場2棟からなる計5施設の計画は、TSMCの公式発表ではなく、サプライチェーン関係者の情報に基づく。TSMCは同地に計画する施設数を確認していない。台湾を主要な生産拠点とする方針を示す一方、龍潭における「新技術開発のいかなる可能性も排除しない」と述べるにとどめている。Focus Taiwan/CNAは、このTSMCの公式声明を報じている。
こうした未解決の問題は残るものの、計画は以前より前進している。度重なる計画の停滞と地域社会との厳しい対立を経て、龍潭第3期は最初の主要な行政上のハードルを越えた。これにより、AIインフラが強く必要としている先端チップとパッケージングの両方に対応するクラスターが実現する可能性が見えてきた。
■注目ポイントQ&A
●TSMCは龍潭第3期に何を建設する計画ですか?なぜその組み合わせが重要なのですか?
自由時報が引用したサプライチェーン関係者によると、TSMCは台湾・桃園市の龍潭第3期に、1.4nm「A14」プロセスを採用するファブを2〜3棟、CoWoSに対応する先進パッケージング工場を2棟建設する計画です。この組み合わせが重要なのは、龍潭がTSMCの現在の拡張計画において、両技術を同一クラスターに置くことを前提に整備される唯一の新規開発拠点になるとみられるためです。A14は2nmに続く次世代プロセスで、CoWoSはロジックチップを高帯域幅メモリに接続するパッケージング工程です。CoWoSは現在、AIチップ供給のボトルネックとなっており、リードタイムは52〜78週間に及びます。2026年末時点でも、需要が生産能力を約10%上回ると予想されています。
●なぜTSMCは2023年に龍潭計画から撤退したのですか?計画が復活した理由は何ですか?
Digitimesの報道によると、対象地の約88%を占める民有地の地権者が、強制収用と政府の拡張計画に反対したため、TSMCは2023年10月に龍潭第3期の計画から撤退しました。同社は当時の条件下では同地への拠点設置を「もはや検討していない」とする正式な声明を発表しました。その後、新竹科学園区管理局が交渉を続け、2025年末から2026年初めにかけて2回の公聴会を開催しました。葉来旺村長をはじめとする地域の代表者は、雇用や教育、インフラ整備による利点を挙げ、開発を支持する意向を表明しました。地域の反対姿勢が和らいだことを受け、同局は2026年5月に拡張計画を国家科学及技術委員会へ提出し、同月中に承認されました。
●CoWoSとは何ですか?なぜ供給能力が世界的に逼迫しているのですか?
CoWoS(Chip on Wafer on Substrate)は、ロジックダイと高帯域幅メモリ(HBM)スタックを共通のシリコンインターポーザ上に接合する、TSMCの2.5D先進パッケージング技術です。インターポーザは微細な回路基板のように機能し、従来型の2Dパッケージングでは実現が難しい速度で、演算ダイとメモリの間のデータ転送を可能にします。原記事では、NvidiaのBlackwellおよびRubin GPU、AMDのInstinctアクセラレータ、GoogleのTPUなど、主要なAIアクセラレータが必要なメモリ帯域幅を実現するためにCoWoSを利用するとしています。また、TSMCがCoWoS生産で極めて大きなシェアを持ち、インターポーザにも専用のシリコン製造ラインが必要なため、HBM統合を必要とするチップ設計企業が利用できる大規模な代替供給源はないと説明しています。2026年の需要は約100万枚と、2024年の約3倍に達すると予測されています。TSMCが生産能力を拡大しても、2026年末時点で約10%の需給ギャップが残る見通しです。
●龍潭第3期はTSMCのグローバル展開でどのように位置付けられますか?
TSMCは米アリゾナ州フェニックスの半導体工場に650億ドル以上を投じるほか、日本の熊本とドイツのドレスデンでも施設を整備しています。しかし、これらの海外拠点はいずれも、A14世代のロジックを量産すると同時にCoWoS先進パッケージングを担う計画ではありません。アリゾナ拠点は2029年ごろのCoWoS対応を目指していますが、A14ロジックウェーハを製造する計画ではありません。台湾・台中のFab 25はA14を生産する予定ですが、専用のパッケージング能力は別の地域で拡張されます。用地取得が2029年まで続き、その後に建設が始まる見通しの龍潭第3期が計画通りに完成すれば、ロジック製造と先進パッケージングの両方を新竹回廊に定着させようとする台湾の取り組みを象徴する拠点となります。
元記事: TSMC Revives Longtan for 1.4nm Fabs and CoWoS Hub as Both Sell Out Globally