SBIデジタルプラクティスと韓国Nodeinfra、日韓決済網「Musubi」を共同検討

2026年8月8日 23:51

SBIグループ傘下のSBIデジタルプラクティスと韓国のブロックチェーン企業Nodeinfraは、日韓を結ぶクロスボーダー決済ネットワーク「Musubi(むすび)プロジェクト」の構築に向けた基本合意書(MoU)を締結した。Canton Network上で、ステーブルコインやトークン化資産を活用し、双方の決済を同時に成立させるPvP方式などを検討する。現時点では基本合意の段階であり、具体的なサービス内容や提供時期は決まっていない。

■日韓決済の効率化を目指す新たな取り組み

日本と韓国の間におけるクロスボーダー決済では、米ドルを介した逐次的な決済プロセスが用いられるケースも多い。ウォンを米ドルに換え、コルレス銀行のネットワークを通じて資金を移動させ、最終的に円へ換えるといったプロセスである。複数の通貨や金融機関を経由するため、決済時間やコスト、為替リスク、決済リスクなどの面で構造的な非効率性が残されている。

SBIホールディングスの100%子会社で、Canton Network関連事業を手がけるSBIデジタルプラクティス(SBIDP)と、Cantonのバリデーター運用実績を持つ韓国のデジタルアセット関連ソフトウェア企業Nodeinfraは、2026年8月7日、日本と韓国の間におけるクロスボーダー決済ネットワークの構築に向けた基本合意書を締結した。

両社が検討する「Musubi(むすび)プロジェクト」は、プライバシー保護型の分散型台帳技術であるCanton Network上に、関係法令や規制に準拠した形でステーブルコインやトークン化資産などを活用する、参加メンバー主導型の決済ネットワークを構築する取り組みである。スマートコントラクトには、Digital Assetが開発したプログラミング言語「Daml」を使用する。

このプロジェクトは、まだ基本合意という出発点にある。注目されるのは、両社が検討しているPvP方式や分散型ネッティング、参加メンバーによるガバナンスが、従来のクロスボーダー決済に残る課題をどこまで改善できるかという点だ。

■コルレス銀行を介する決済の課題

Musubiプロジェクトの仕組みを理解するには、それが改善を目指す従来の決済プロセスを確認する必要がある。

現在、韓国の輸入業者が日本のサプライヤーに支払いを行う場合、ウォン側と円側の決済が同時に完了するとは限らない。資金は1つ以上のコルレス銀行、すなわち他の銀行のために口座を保有して決済を仲介する銀行を経由し、必要な通貨へ交換されたうえで受取側へ支払われる。

双方の通貨が逐次的に決済される場合、一方が支払いを終えた後、もう一方の支払いが完了しないリスクが生じる。これは外国為替市場で「ヘルシュタット・リスク」と呼ばれる決済リスクである。

この用語は、1974年にドイツのヘルシュタット銀行が破綻した事件に由来する。同行は外国為替取引の相手からドイツマルクを受け取った後、営業日の途中で規制当局により閉鎖されたため、ニューヨークで予定されていた米ドルの支払いが行われなかった。取引相手は自らの通貨を引き渡したにもかかわらず、反対側の通貨を受け取ることができなかった。

国際決済銀行(BIS)が2026年6月に公表した、2025年の外国為替・デリバティブ市場に関する3年ごとの調査の分析によると、2025年4月の1日平均FX決済額のうち、PvPによって決済されたのは約5兆ドルで、全体の36%だった。さらに7兆6000億ドル、全体の54%はリスクを軽減するものの完全には排除しない方法で決済され、1兆4000億ドル超、全体の10%は決済リスクに全面的にさらされるグロスの二者間決済だった。

2002年に開始されたCLS(Continuous Linked Settlement)は、外国為替決済リスクを大幅に削減してきた。CLSでは複数の参加者の支払い債務を集計し、相殺後の差額を同時に決済するマルチラテラル・ネッティングが用いられる。

一方、Musubiプロジェクトは、Canton Network上で個々の決済を同時に成立させるPvP方式を検討する。もっとも、具体的なサービス設計や参加条件は今後の協議事項であり、CLSとの機能的な違いや利用対象についても、実装内容が確定した段階での検証が必要になる。

■Cantonの仕組みで同時決済を目指す

Canton NetworkのGlobal Synchronizerは、異なる参加者間の取引について、メッセージの順序付けや確認処理を調整する。各参加者は、自身に関係する取引内容を検証し、必要な当事者すべてから確認が得られた場合に取引結果が参加者へ通知される。

Damlスマートコントラクトでは、取引に関与する当事者やそれぞれの権利・義務、取引成立に必要な条件などを定義できる。Canton Networkでは、関係する参加者がそれぞれ必要な内容を検証し、取引全体の成立または不成立を調整することで、一部だけが成立した状態を避ける設計が可能になる。

Musubiプロジェクトでは、この仕組みを利用し、双方の決済を同時に成立させるPvP方式を検討する。実現すれば、一方の支払いだけが完了し、反対側の支払いが完了しないという決済上の時間差を抑えられる。

ただし、現時点の公式発表は、PvP方式などの「仕組みを検討する」としている段階である。実運用される決済プロトコルの仕様や利用する資産、参加機関、提供開始時期はまだ決定していない。

英国金融行動監視機構(FCA)の認可を受けたデジタル金融市場インフラ事業者ClearTokenも、2026年3月にCanton Network上でステーブルコインとトークン化資産の決済に対応する「CT Pay」を発表している。Musubiプロジェクトは、Canton Networkのアーキテクチャを日韓間の決済に応用しようとする取り組みである。

■Damlと取引情報のプライバシー

Musubiプロジェクトで使用が予定されているDamlは、複数企業間の契約を自動実行するためにDigital Assetが開発したプログラミング言語である。

Damlでは、契約の当事者や、それぞれの当事者が確認できる情報を契約レベルで定義できる。Canton Networkでは、取引に関係する参加者だけが必要な情報を受け取り、検証、記録する仕組みが採用されている。

このため、共有ネットワークを利用しながら、すべての取引情報を全参加者に公開することなく処理できる。金融機関が機密性の高い取引を扱ううえで、プライバシーと相互運用性を両立させるための重要な特徴となる。

SBIホールディングスによると、Canton NetworkにはGoldman Sachs、BNP Paribas、Broadridge、Franklin Templeton、Euroclearなど600以上の機関が参加し、ブロックチェーン上で管理される資産規模は6兆ドルを超えている。

■Musubiプロジェクトにおける両社の役割

両社は、それぞれの既存の強みに沿って役割を分担する。

代表取締役の下津龍生氏が率いるSBIDPは、既存の伝統的金融システムをCanton Network上の決済ネットワークへ接続する統合レイヤーの開発に参画する。また、Canton Networkの創設パートナーかつスーパーバリデーターとして、日本の金融機関によるネットワーク参加や、円建てステーブルコインの活用可能性の検討を支援する。

SBIグループはCanton Networkの設立当初から、ネットワーク上の取引の承認・管理を担う中核的な役割であるスーパーバリデーターとして参画している。

Nodeinfraは、Damlスマートコントラクトの開発力とCantonバリデーターの運用実績を生かし、中核となる決済プロトコル、スマートコントラクト、開発者向けツールの開発を主導する。また、韓国の金融機関やカストディアンの参加支援と、韓国における規制環境への対応を担う。

プロジェクトでは、PvP方式に加え、参加者間で相殺可能な取引をまとめる分散型ネッティングと、参加メンバーによる自律的なガバナンスも検討する。円建てステーブルコインと、ウォン建て・米ドル建てのステーブルコインまたはトークン化資産などとの間で、より効率的なクロスボーダー決済を実現することが目標となる。

■実用化には制度・サービス設計の具体化が必要

Musubiプロジェクトは、関係法令や規制に準拠したステーブルコインやトークン化資産などを活用する方針である。英語版のSBI公式発表では、初期のテスト段階において、円建てのテストトークンとウォン建てのテストトークンを使ったリアルタイムの同時決済を目指し、両国の制度が認める範囲で規制対象のステーブルコインを採用する構想が示されている。

日本では、SBI新生信託銀行が2026年6月24日に信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」を発行し、SBI VCトレードの口座内に限定して先行提供を開始した。JPYSCは資金決済法上の第3号電子決済手段で、資金移動業型のステーブルコインに適用される100万円の滞留・送金制限を受けない。

一方、先行提供中のJPYSCは、現時点ではSBI VCトレードの口座外へ移転できない。パブリックチェーン上での流通については、関係法令や税務実務上の取り扱いが整理され、監督当局の確認が得られることを前提に移行を目指している。

Musubiプロジェクトの日本語公式発表は、特定の円建てステーブルコインを採用すると確定しておらず、SBIDPが円建てステーブルコインの活用可能性の検討を支援すると説明している。したがって、JPYSCがMusubiプロジェクトの指定決済手段として接続されることが決定済みとはいえない。

韓国では、ウォン建てステーブルコインの発行主体や準備資産、利用者保護、韓国銀行と金融委員会の役割分担などを巡る制度設計が議論されている。政府と与党はデジタル資産に関する基本法制の整備を進めているが、2026年8月8日時点では具体的な法案内容や成立時期は確定していない。

このため、実際にどのステーブルコインやトークン化資産を利用できるかは、両国の制度整備と両社の今後の協議に左右される。

■日韓から通貨・法域・資産クラスの拡大へ

日韓間では、米ドルを介した逐次的な決済プロセスが用いられるケースが多く、企業間取引や貿易決済において時間、コスト、為替リスク、決済リスクの面で課題が残されている。

Musubiプロジェクトは、まず日韓の決済ネットワークを起点とし、その後、対象となる通貨、法域、資産クラスの拡大を図る構想である。両社はエンジニアの交流や共同開発を通じて、技術力の強化も進める。

ただし、現時点では、すべての日韓貿易決済を米ドル経由から置き換えることや、特定のウォン・円通貨ペア専用ネットワークとして商用化することが決定しているわけではない。

プロジェクトが実際の決済インフラとして機能するためには、対応するステーブルコインやトークン化資産の選定、参加金融機関の確保、十分な流動性、規制対応、既存金融システムとの接続などが必要になる。

具体的なサービス内容と提供時期は今後の協議によって決定される。したがって現段階では、日韓間の決済効率化を目指す構想と技術開発の枠組みが合意された段階と捉えるのが適切である。

■注目ポイントQ&A

●CantonのPvP方式は、ヘルシュタット・リスクにどう対応するのですか?

双方の支払いを一体として処理し、両方が成立するか、どちらも成立しないように設計することで、一方だけが支払いを終えた状態を避けることを目指します。ただし、Musubiプロジェクトは現在、PvP方式を検討している段階です。具体的な決済プロトコルの仕様やリスク管理機能については、今後の発表を確認する必要があります。

●なぜ日韓の企業間決済では米ドルを経由するケースがあるのですか?

直接的な取引関係を持たない銀行同士は、コルレス銀行などの仲介機関を通じて決済します。その際、広く決済に利用されている米ドルを中間通貨として、ウォンからドル、ドルから円へ交換する方法が使われることがあります。SBIデジタルプラクティスの公式発表では、日韓間の決済で米ドルを介した逐次的なプロセスが用いられるケースが多いと説明されています。

●Musubiプロジェクトはいつ実際のステーブルコインを使用するのですか?

具体的なサービス内容や提供時期は決まっていません。日本ではJPYSCが2026年6月24日に提供を開始していますが、現時点ではSBI VCトレードの口座内に利用が限定されています。また、Musubiプロジェクトの日本語公式発表は、JPYSCの採用を確定事項としていません。どの資産を使うかは、両国の規制と今後の協議によって決まります。

●Cantonのアーキテクチャは、ほかの通貨や法域にも展開できますか?

両社は、日韓の決済ネットワークを起点として、対象となる通貨、法域、資産クラスの拡大を図る方針です。ただし、具体的な展開先や時期は発表されていません。まずは日韓間で技術、制度、参加者、流動性などの条件を整えられるかが焦点になります。

元記事: Japan-Korea Stablecoin Rail Cuts Dollar Out of Asia’s Busiest Trade Corridor

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