日本の7府省庁、SNS型投資詐欺の被害拡大でGoogle・Metaなど5社に広告主確認を要請

2026年8月8日 12:33

日本の7府省庁は、Google、Meta、LINEヤフー、TikTok、Xの5社に対し、広告主の本人確認や、著名人になりすました詐欺広告の迅速な削除などを求める共同要請を行った。各社は2026年10月16日までに具体的な取り組みを報告し、2027年3月16日までに実施結果を報告するよう求められている。一方、2025年末から2026年1月にかけてReutersが報じたMetaの内部文書からは、同社が広告主の全面的な本人確認による効果を認識しながら、費用や収益への影響を懸念していたことが示されている。

■異例の共同要請と被害の現状

日本の7府省庁は8月7日(金)、Google、Meta、LINEヤフー、TikTok、Xの5社に対し、広告主の本人確認、広告の透明性向上、なりすまし詐欺広告の削除要請への迅速な対応を求める共同要請を行った。デジタル庁などの発表によると、7府省庁は各社に対し、電子的な認証手段を含む方法で広告主の本人確認を確実に実施することなどを求めている。

Reutersが2025年12月31日に報じ、2026年1月5日に更新した調査報道によると、Metaの内部文書には、全広告主の本人確認を世界規模で実施する場合の技術面、費用面、収益面の検討が記されていたという。Reutersは、同社が世界規模での本人確認を比較的短期間で導入できると社内で見積もる一方、導入費用や広告収益の減少を懸念していたと報じている。

警察庁の2025年確定値によると、日本におけるSNS型投資詐欺の認知件数は9,538件、被害額は約1,274億7,000万円で、被害額は前年比46.3%増加した。特殊詐欺、SNS型投資詐欺、SNS型ロマンス詐欺を合わせた認知件数は4万3,000件、被害総額は約3,257億4,000万円で、前年比63.6%増となった。

警察庁の確定値を基にしたNippon.comの分析では、SNS型投資詐欺とSNS型ロマンス詐欺を合わせた既遂事件1件あたりの被害額は約1,213万3,000円で、被害者は男女とも40代から60代が多数を占めた。これはSNS型投資詐欺だけの平均値ではなく、SNS型投資詐欺とSNS型ロマンス詐欺を合算した数値である。

こうした被害状況を受け、警察庁、金融庁、消費者庁、デジタル庁、総務省、法務省、経済産業省の7府省庁が連携して要請を実施した。読売新聞は、7府省庁が連携してこのような要請を行うのは初めてだと報じている。

■日本の規制対応を巡りMetaが構築したとされるプレイブック

今回の要請に先立ち、Reutersは2025年12月31日、Metaの過去4年間の内部文書を調査した特別報道を公開した。Reutersによると、日本の規制当局がMetaの公開データベース「広告ライブラリ」を使って詐欺広告の状況を調査していた際、Metaの担当者は、詐欺広告がどの程度蔓延していると受け止められるかを管理するための対策を検討していたという。

Reutersが確認した内部文書によると、Metaは、日本で広告ライブラリの検索に使われていた主要なキーワードや著名人の名前を特定し、同じ検索を繰り返しながら、詐欺と判断した広告を削除した。文書には、問題のある広告を「規制当局、捜査機関、ジャーナリスト」にとって「見つけられない」状態にするとの表現があったという。

ある内部メモには、対策の結果について「直近1週間に発見した広告は100件未満となり、スプリントの最後の4日間は0件だった」と記されていたとReutersは報じた。また、Metaの内部文書は、日本の有力議員が広告ライブラリ上の改善を評価したことにも言及していたという。

ただし、詐欺広告が広告ライブラリから削除されただけで、プラットフォーム全体の詐欺広告が隠蔽されたと断定することはできない。Metaの広報担当者Andy Stone氏はReutersに対し、広告ライブラリから詐欺広告を削除すれば、同じ広告はプラットフォームからも削除されるため、この対応を誤解を招くものとみなすのは適切ではないと反論している。

Reutersによると、Metaはその後、規制対応に関する考え方を「一般的なグローバル・プレイブック」として整理した。内部文書には、予想される規制に先立って自主的な対策を提示し、期限延長を求め、法的義務が導入されるまでは段階的な対応を続ける方針が記されていたという。

元Metaの詐欺調査担当者で、現在はサイバーセキュリティ会社Risky Business Solutionsの共同経営者を務めるSandeep Abraham氏は、Reutersの取材に対し、この対応を「規制当局向けの演出」と批判した。「Metaのプラットフォーム上の広告について正確な状況を伝えるのではなく、Metaが規制当局から良い評価を得ようとしている状況を示すものになっている」と述べた。

Stone氏は一方で、Metaが規制を意図的に遅らせようとしたとの見方を否定した。また、同社は詐欺削減の目標を追跡しており、利用者から寄せられた詐欺の報告が前年に比べて50%減少したと説明している。規制当局との協力も、同社が進める幅広い詐欺対策の一部だとしている。

■Metaの内部データが示す広告主確認の効果

Reutersの調査報道では、広告主の本人確認による効果を示す事例として台湾が取り上げられている。台湾では、金融商品を宣伝する広告主の本人確認をプラットフォームに求める制度が導入され、Metaも対応した。

Reutersが引用した台湾当局のデータによると、対策実施後、投資詐欺広告は96%、なりすまし広告は94%減少したという。また、Metaの内部分析では、広告主の全面的な本人確認によって詐欺広告が約29%減少する可能性があると見積もられていたとReutersは報じている。

Reutersが確認した内部文書には、Metaが世界規模の広告主確認を短期間で導入できるとの社内見積もりも記されていたという。ただし、これはMetaが公表した導入計画や実施期限ではなく、Reutersが入手した内部資料に基づく情報である。

同報道によると、Metaは全広告主の確認に約20億ドルの導入費用がかかり、未確認の広告主を排除すれば総収益が最大4.8%減少する可能性があると試算していた。2024年半ばの内部戦略文書では、世界中ですべての広告主の本人確認を求められる事態を、発生可能性は低いものの影響が極めて大きい「ブラックスワン」と表現していたという。

Googleは2020年に広告主確認プログラムの拡大を発表しており、Reutersは、同社が広告主の90%以上を確認済みだと報じている。一方、Metaについては、2022年に新たに活動を始めた広告主の相当部分が詐欺、違法商品、低品質商品に関連していたとの内部分析があったという。Reutersは別の調査報道で、Metaが詐欺や禁止商品に関連する広告から多額の収益を得ているとの内部推計も報じている。

これらはいずれも、Reutersが入手した非公開の内部文書に基づく報道である。Metaが公式に公表した監査済みの数値ではなく、対象範囲や分類方法の詳細が十分に公開されていない点には注意が必要だ。

■誰が対象となり、日本に対して何を求められたのか

8月7日の共同要請は、主に3つの対策を求めている。第一は、電子的な認証手段の活用を含む広告主の本人確認を確実に実施すること。第二は、広告主の名称、所在地、身元確認の有無、広告である旨、生成AIを主に用いて作成した広告である旨、広告の表示理由などを利用者が確認できるようにすること。第三は、違法である可能性のあるなりすまし詐欺広告について、公的な窓口や法令所管省庁から削除要請を受けた場合、遅滞なく判断し、迅速かつ適切に対応することである。

要請先は、Google LLC、LINEヤフー株式会社、Meta Platforms, Inc.、TikTok Pte. Ltd.、X Corp.の5社である。これは法的な処分ではなく、行政手続法上の行政指導に当たる。要請文にも、プラットフォーム事業者による自主的な取り組みの強化を求めるものだと明記されている。

各社は2026年10月16日までに、広告主の本人確認方法、広告の透明性を高める措置、広告審査基準におけるなりすまし詐欺広告の扱いなどをデジタル庁へ報告するよう求められている。

さらに、2026年10月1日から2027年2月28日までに実施した本人確認の件数や割合、本人確認の不備を理由に広告掲載を却下した件数、なりすまし詐欺広告の削除件数、削除要請への平均対応時間などを、2027年3月16日までに報告するよう求めている。

現在の要請は、自主的な取り組みを促す行政指導であり、広告主確認や広告削除を新たに法律で義務付けたものではない。また、今回の要請文には、各社の対応が不十分だった場合に直ちに法制化するとの方針は明記されていない。

経済産業省はデジタルプラットフォーム取引透明化法を所管しているが、同法は主にプラットフォームと利用事業者の間の取引の透明性と公正性を対象とする制度である。同法には命令違反に対する100万円以下の罰金などが定められているものの、今回要請された広告主確認や詐欺広告削除に違反するごとに100万円の罰金が科されるという制度ではない。

■著名人のなりすまし広告が投資詐欺の入口になる仕組み

各府省庁が対策の対象としている典型的な手口では、著名な起業家、スポーツ選手、経営者などが投資を推奨しているように見せかけた広告がSNS上に表示される。生成AIで作成した映像や音声が使われる場合もある。

広告をクリックした利用者は、LINE、WhatsApp、Telegramなどのメッセージングサービスへ誘導される。そこで詐欺グループが数日から数週間にわたって連絡を重ね、投資で利益が出ているように装ったサイトやアプリを示したうえで、送金を促す。

日本で著名ななりすまし被害の対象となった一人が、ZOZO創業者の前澤友作氏である。前澤氏はなりすまし広告への対応チームを設け、被害相談窓口を開設した。前澤氏側の発表によると、開設から10日間で180件を超える相談が寄せられ、申告された被害額は合計約200億円に上ったという。

裁判資料では、前澤氏の画像を使い、「1万円から始めて4日間で130万円になった」などと表示する詐欺広告が確認されたとされる。ただし、相談窓口に寄せられた申告額は被害申告者の回答を集計したものであり、警察の認知額や裁判で確定した被害額とは異なる。

前澤氏や実業家の堀江貴文氏がMetaに広告削除を求めた際の対応については、関連訴訟の原告側代理人が、Metaが十分に対応しなかったと主張している。2024年4月には、詐欺被害者4人がMetaの日本法人に対し、約2,300万円の損害賠償を求める訴訟を神戸地方裁判所に起こした。その後も、なりすまし広告を巡る複数の民事訴訟が提起されている。

Meta自身も詐欺広告の運営者に対して法的措置を講じている。2026年2月には、著名人を使った広告から偽の投資グループへ利用者を誘導したとして、ブラジルの広告主や、中国を拠点とするShenzhen Yunzheng Technologyなどを提訴したと発表した。

■世界的なプラットフォーム規制の強化

日本の共同要請は、オンラインプラットフォームに詐欺広告や広告の透明性への対応を求める国際的な動きの中に位置付けられる。

2025年12月、欧州委員会はデジタルサービス法に基づく透明性義務への違反を理由に、Xへ1億2,000万ユーロの制裁金を科した。これは、デジタルサービス法に基づいて欧州委員会が下した初の違反決定だった。

2026年5月には、欧州消費者機構BEUCと各国の消費者団体が、Meta、TikTok、Googleなどによる金融詐欺広告への対応が不十分だとして、デジタルサービス法に基づく申し立てを行った。削除率などの数値は消費者団体側の調査に基づくものであり、各プラットフォームが公表した統一基準の数値ではない。

日本ではこれまで、事業者の自主的な対応と行政によるモニタリングを組み合わせる方式が重視されてきた。今回の7府省庁による共同要請も法的な命令ではないが、具体的な本人確認件数、掲載却下件数、削除件数、対応時間などの報告を求めている点で、結果を数値で検証する仕組みを含んでいる。

■今後の展開

今後の焦点は、第一に、2026年10月16日までに各社がどの程度具体的な本人確認方法や透明性向上策を提示するかである。単に既存の方針を説明するだけでなく、確実な本人確認をどの広告主に、どの手段で実施するのかが問われる。

第二に、2027年3月16日までに提出される結果報告である。要請文は、本人確認の国内外別の実施件数と割合、本人確認の不備による広告掲載却下の件数、削除要請への平均対応時間など、比較可能な数値を報告するよう求めている。

第三に、行政指導によって実際に詐欺広告や被害が減少するかである。今回の要請文は、対応が不十分だった場合の追加的な法規制を明記していない。今後法制化が行われるかどうかは、各社の報告内容、被害の推移、政府や国会での検討によって決まる。

2025年には、SNS型投資詐欺だけで9,538件、約1,274億7,000万円の被害が警察に認知された。さらに2026年上半期の被害額は約798億円に達し、前年同期から約445億円増加したと読売新聞は警察庁の集計を基に報じている。

広告主の確実な本人確認、広告情報の開示、削除要請への対応が、詐欺広告の流通と被害の抑制につながるのか。2026年10月と2027年3月の報告は、5社の対策を具体的な数値で検証する最初の重要な機会となる。

■注目ポイントQ&A

●なぜすべての広告主の本人確認が直ちに実施されないのですか?

Reutersが確認したMetaの内部文書によると、全広告主の本人確認には約20億ドルの導入費用がかかり、未確認の広告主を排除すると総収益が最大4.8%減少する可能性があると同社は試算していました。また、ある国で規制を強化すると、詐欺広告が別の国へ移る可能性も課題として挙げられていました。ただし、これらはReutersが入手した内部資料に基づく情報であり、Metaが公式の導入見積もりとして公表した数値ではありません。

●ディープフェイクを用いた投資詐欺広告はどのような仕組みなのですか?

著名人が投資を勧めているように見える動画、音声、画像などを使った広告をSNSに掲載し、利用者をLINEなどのメッセージングサービスへ誘導する手口です。その後、詐欺グループが連絡を重ね、利益が出ているように装った偽サイトやアプリを見せて送金させます。すべてのなりすまし広告がディープフェイクを使用しているわけではなく、実在する写真を無断利用した広告も含まれます。

●日本の7府省庁の要請はプラットフォームに何を求めているのですか?

電子的な認証手段を含む広告主の確実な本人確認、広告主の名称や所在地、身元確認の有無、生成AIの利用などに関する情報開示、法令違反の可能性があるなりすまし詐欺広告への迅速かつ適切な削除対応を求めています。2026年10月16日までに具体策を、2027年3月16日までに本人確認件数や削除件数などの実施結果を報告するよう求めています。

●要請を無視した場合、直ちに罰金や処分が科されるのですか?

いいえ。今回の要請は行政手続法上の行政指導であり、処分ではありません。要請に応じなかったことだけを理由に、直ちに罰金が科される仕組みではありません。今後、各社の対応や被害状況を受けて新たな法制度が検討される可能性はありますが、今回の要請文は法制化の実施時期や制裁を定めていません。

●この問題は日本特有のものですか?

日本だけの問題ではありません。台湾や欧州でも、広告主の本人確認、金融詐欺広告への対応、広告の透明性を巡る制度整備や申し立てが行われています。一方、被害統計や広告削除率の定義は国や調査主体によって異なるため、各国の数値を単純に比較する際には注意が必要です。

元記事: Meta Had Six Weeks to Stop Japan’s $804M Scam Crisis: It Chose Revenue

関連記事

最新記事