なぜ米マクドナルドの「安さの約束」は店舗に届かなかったのか――値ごろ感戦略の失敗とフランチャイズモデルの限界

2026年8月7日 16:26

米マクドナルドは2026年第2四半期の決算発表で、米国の客数が計画を下回った主因が、自社の戦略上の判断にあったと異例の説明を行った。フランチャイズ店が値上げできる余地を残したバリューメニューの導入と、常連客向けデジタル特典の廃止が重なったことが原因だとしている。同社は米国事業の新社長を任命し、フランチャイズ店による推奨価格の順守を促す仕組みを強化するなど、2027年の本格回復に向けた立て直しを進める。

■自ら招いた不振への異例の言及

2026年8月4日(現地時間)に行われたマクドナルドの第2四半期決算説明会では、大企業としては珍しく、自ら招いた業績不振について具体的かつ定量的な説明があった。同社は、意図的に実施した2つの施策が、同四半期における米国の客数未達の約3分の2を占めたと認めた。その施策とは、フランチャイズ店が値下げではなく値上げにも利用できるほど価格設定に柔軟性を持たせたバリューメニューの導入と、常連客が利用していたデジタル特典の同時廃止である。

その結果、米国の既存店売上高は0.8%増にとどまり、既存店の客数は前年同期を下回った。売上高の伸びはすべて平均客単価の上昇によるものであり、来店客数は減少している。さらに、7月の米国の既存店売上高は前年同月比でマイナスに転じており、四半期末を過ぎても問題が解消していない可能性を示している。

決算発表と同日に、スカイ・アンダーソン(Skye Anderson)氏がマクドナルドUSAの新社長に就任したことも、同社が現状をどう捉えているかを明確にしている。これは体裁を整えるための経営陣刷新ではなく、オペレーションを立て直すための人事であり、同社もその目的を明確に説明している。

調整後1株当たり利益(EPS)は3.38ドル(約534円、1ドル=158円換算)となり、ウォール街の市場予想である3.35ドルをわずかに上回った。総売上高は前年同期比4%増の71億ドル(約1兆1218億円、同レート換算)だった。世界全体の既存店売上高は1.3%増で、ドイツ、オーストラリア、英国が牽引した海外直営市場部門は1.5%増、日本が牽引した海外開発ライセンス市場部門は1.9%増となった。

■米国の業績:利益は予想を上回るも、オペレーションは不調

米国事業の結果は、他部門とは様相が異なっていた。既存店売上高は0.8%増と、第1四半期の3.9%増や前年同期の2.5%増から大幅に減速した。マクドナルドの開示によると、この伸びはすべて平均客単価の上昇によるもので、商品構成の改善と小幅な値上げが寄与した。一方、既存店の客数は前年同期を下回った。1回の来店当たりの売上高はわずかに増えたものの、来店客数は減少している。

決算発表後の時間外取引ではなく、米国市場の取引開始前のプレマーケット取引で、マクドナルドの株価は約2%上昇した。投資家は、客数データだけを見た場合よりも、EPSの市場予想上振れと新社長の任命を好意的に受け止めたとみられる。

■EDAPが抱えていた致命的な柔軟性

「EDAP(Everyday Affordable Price)」プログラムは、米国における値ごろ感戦略の柱として、2026年4月下旬に全米で導入された。3ドル(約474円、1ドル=158円換算)未満の10品目を終日提供し、これに4ドル(約632円、同レート換算)の朝食セットを組み合わせる内容だった。「5ドル・ミール・ディール」と「エクストラ・バリュー・ミール」が復活した後も残っていた、マクドナルドの低価格商品体系の空白を埋めることが狙いだった。

しかし、実際の導入を通じ、フランチャイズシステムにおける「値ごろ感の約束」と「値ごろ感の保証」との隔たりが浮き彫りになった。

米国の店舗のうち、推奨されたEDAPの価格体系に従ったのは60~65%にすぎなかった。固定価格ではなく「3ドル未満」とだけ定めたメニュー設計により、フランチャイズ店はその範囲内で各商品の価格を設定できた。価格が固定された5ドル・ミール・ディールとは異なり、EDAPは店舗運営者に裁量を与えており、一部の店舗はこれを利用して、Sサイズのフライドポテトなどを値下げするのではなく値上げした。クリス・ケンプチンスキー(Chris Kempczinski)CEOは、2026年第2四半期の決算説明会で、「この2つの施策の結果、第2四半期にはかなり大幅な値上げが行われた」と述べた。

マクドナルドの推奨価格に従った店舗は、従わなかった店舗を上回る業績を上げた。その差は大きく、ケンプチンスキーCEOは、天候や人口動態、競争環境ではなく、推奨価格の順守状況を業績差の最大の要因として挙げた。

これは単なる導入上の偶発的な失敗ではなく、フランチャイズモデルそのものが抱える構造的な問題である。米国のマクドナルド店舗の約95%は同社の直営ではなく、フランチャイズ加盟者が所有し、それぞれが価格を設定している。フランチャイズ本部がブランドとしての約束を管理する一方、実際の顧客体験を左右するのは各フランチャイズ店だ。EDAPは、「3ドル未満の商品」という訴求を、当時は本部が実務上強制できなかったフランチャイズ店の推奨価格順守に依存させたことで、その隔たりを露呈させた。

■デジタル特典の廃止:ケンプチンスキーCEOが認めた「判断ミス」

EDAPの展開と並行して、マクドナルドはもう1つの判断を下した。新しいEDAPプログラムに予算を振り向けるため、「1品購入すると、もう1品を1ドル(約158円、1ドル=158円換算)で追加できる」というデジタル特典「Buy One, Add One for $1」を廃止したのだ。この判断には、単独で見れば予算配分上の合理性があった。しかし実際には、アプリを利用し、その特典を目当てに繰り返し来店していた利用頻度の高い顧客に対する、安定した集客策を失う結果となった。しかも同じ時期に、店舗によって実施状況が異なる、顧客になじみの薄い新しい低価格プログラムへの移行を求めていた。

ケンプチンスキーCEOは、「多くのデジタル特典を取り下げたことで、意図せず問題をさらに悪化させてしまった」と述べ、「結果として判断ミスだった」と認めた。同氏はこの判断を、避けられないトレードオフや、予想外の結果を招いた計算上のリスクとは説明せず、明確に「bad trade」と表現した。

EDAPの実施状況のばらつきとデジタル特典の廃止を合わせると、同四半期における米国の客数未達の約3分の2を占めた。3つ目の要因は6月のFIFAワールドカップ関連プロモーションで、社内や店舗網では盛り上がりを生んだものの、マクドナルドの社内客数予測を下回った。残る下押し要因は、映画『マインクラフト』関連プロモーションとの前年比較だった。2025年4月には同映画の劇場公開に合わせ、世界的に人気を集めた期間限定プロモーションが行われており、2026年4月の比較対象となる前年実績が例外的に高かった。

■相次ぐ施策がオペレーション上の問題を増幅

実行上の失敗は、価格設定やデジタル特典だけにとどまらなかった。マーケティング施策の過密なスケジュール自体が、問題の一部となった。

店舗では、『KPop Demon Hunters』のプロモーションからEDAPの展開、新しいスペシャルティ飲料プラットフォーム、FIFAワールドカップキャンペーンへと、短期間に相次いで対応する必要があった。それぞれの導入には、新たな研修、販促物の切り替え、顧客への案内が必要だった。利用者になじみのあるデジタル特典が廃止されたことで、カウンターやドライブスルーの従業員は、なぜ「1品購入すると、もう1品を1ドルで追加できる」特典がなくなったのかという顧客からの質問にも対応しなければならなかった。こうした業務負荷が重なり、サービス提供時間は長くなり、顧客満足度も低下した。

ケンプチンスキーCEOは、「書類上はどれほど優れて見えても、実行できなければ意味がない」と述べた。

マクドナルドはすでに問題の是正に着手している。同社は、顧客からは見えない社内スケジュール上の複雑さを減らすため、2026年の残りの計画から複数の施策を取り除いている。全米規模の期間限定デジタル特典を復活させ、利用頻度の高いロイヤルティ会員向けのパーソナライズされた特典も再開する。マーケティング投資は、エクストラ・バリュー・ミールなど、すでに顧客に認知されている既存プログラムへと戻している。まずオペレーション指標が改善し、マーケティングと値ごろ感の改善にはさらに時間がかかると見込んでいる。第4四半期が次の本格的な調整局面となり、2027年を全面的な回復の目標としている。

■フランチャイズ店の説明責任を強化する構造改革

第2四半期の決算説明会で最も重要な進展は、EDAPの再設計やデジタル特典の復活ではなく、ケンプチンスキーCEOの「判断ミス」との発言ほど注目を集めなかった、ある説明かもしれない。

推奨価格の順守状況がフランチャイズ加盟者の事業評価に組み込まれ、新規出店など事業拡大の資格に影響する可能性があるという点だ。

これは新しい動きである。マクドナルドはこれまで、フランチャイズ加盟者をオペレーション基準や財務実績で評価してきたが、価格設定については加盟者の自主性に委ねてきた。ただし、その自主性は無制限ではなかった。同社は2026年1月1日付でフランチャイズ基準を改定し、値ごろ感に関する評価を盛り込んだ。これを受け、独立系のフランチャイズ加盟者団体である全国オーナー協会(National Owners Association)は、不利益を受けることを恐れずに価格を設定する権利を主張する「フランチャイズ加盟者の権利章典」を公表した。1月の基準改定は方向転換の兆候だったが、第2四半期の説明によって、具体的な影響が明らかになった。推奨されたバリュー価格に従わないフランチャイズ加盟者は、新規出店の機会が制限される可能性がある。新規出店は、フランチャイズ事業者が事業価値を拡大する主要な手段である。

これは、フランチャイズモデルに必要な構造的修正である。3ドルの商品を約束するブランドは、自ら店舗を所有するか、フランチャイズ加盟者の利益最大化を優先する判断を変えさせるほど強い順守インセンティブを設けない限り、その価格を保証できない。マクドナルドはインセンティブによる仕組みを選んだ。その仕組みが十分に強力か、また、低価格戦略によってフランチャイズ店のキャッシュフロー自体が圧迫される中でも維持できるかは、今後数四半期の結果によって明らかになるだろう。

■スカイ・アンダーソン氏:マーケターではなくオペレーションの専門家

決算発表と同時に公表されたスカイ・アンダーソン氏のマクドナルドUSA社長就任により、6年以上にわたって同部門を率いてきたジョー・アーリンガー(Joe Erlinger)氏は退任した。

アンダーソン氏は、財務とオペレーションの経験を持つ経営幹部である。マクドナルドでのキャリアは2000年に財務部門から始まった。マクドナルド・オーストラリアのCFO、フィールド・バイスプレジデント、ウェストゾーン・プレジデントを歴任した。ウェストゾーン・プレジデント時代には5700店を超える店舗を統括し、既存店売上高を30%以上伸ばし、1店舗当たりの平均キャッシュフローを10万ドル(約1580万円、1ドル=158円換算)引き上げた。直近では、マクドナルドのグローバル・ビジネス・サービス部門をゼロから立ち上げ、ハイデラバードとメキシコシティに拠点を置く規模へと拡大した。2026年初めには、マクドナルドが同氏のために米国事業の最高執行責任者(COO)職を新設した。米国事業にCOO職が置かれたのは初めてで、第2四半期の業績が明らかになる前から、施策を一貫して実行する体制に課題があると認識されていたことを示している。

マクドナルドが米国事業の問題を解決するために選んだのは、ブランド戦略や消費者調査を専門とする幹部ではない。大規模で複雑な組織のシステムを近代化し、施策実行の一貫性を高める能力を示してきた幹部だ。この人事は解決策であると同時に、経営陣による問題の診断でもある。経営陣は米国事業の不振を、ブランドやメニューそのものではなく、根本的にはオペレーションと説明責任の問題だとみている。

アンダーソン氏は、食品の品質、ファンとの共創、店舗運営の簡素化、接客に重点を置く「McDonald's > NEXT」戦略の下で、米国事業を率いる。ケンプチンスキーCEOは2026年6月、ラスベガスで開催されたマクドナルドの隔年世界大会で同戦略を詳しく説明した。目標、必要な投資、再フランチャイズ化計画などの財務上の詳細は、2026年9月23日にシカゴで開かれるインベスター・デーで公表される予定だ。

■明るい材料も残る

第2四半期のすべてのデータが不振を示していたわけではない。マクドナルドのロイヤルティプラットフォームは急速な拡大を続けている。70市場における全店舗ベースのロイヤルティ関連売上高は、直近12か月で400億ドル(約6兆3200億円、1ドル=158円換算)を超え、前年同期比で20%以上増加した。過去90日以内に利用したアクティブなロイヤルティ会員は13%増え、約2億2000万人に達した。この規模は、小規模な競合企業にはまねしにくいマーケティング効率上の強みとなる。マクドナルドは現在、個人を識別できる2億人以上の顧客に対し、それぞれに合わせたプロモーションを提供できる。

5月に米国、カナダ、ドイツで導入されたスペシャルティ飲料プラットフォームも、予想を上回っている。飲料目的の来店の半分以上が昼食後に発生しており、既存の需要を奪っているのではなく、新たな利用機会を生み出している可能性を示す。また、飲料と一緒に食品を購入する割合が高まり、平均客単価を押し上げた。「レッドブル・エナジャイザー」を含む全商品を展開したドイツでは、飲料の販売実績が既存店の客数増加に大きく寄与した。レッドブル・エナジャイザーは、今後数週間以内に米国でも導入される予定だ。飲料プラットフォームは、食品の価格競争力を維持しながら、付加価値の高い商品によって1回の来店当たりの売上高を伸ばせる可能性を最も明確に示している。

2026年10月5日のレイ・クロックの誕生日には、マクドナルドが同社史上最大規模の再研修プログラムを開始する予定だ。店舗スタッフ、本社などの従業員、サプライヤーの関係者を合わせた200万人以上を対象に、基準となる味、品質、接客について研修する。

■今後の展望

回復には時間がかかる見通しだ。7月の米国の既存店売上高は前年同月比で依然としてマイナスで、イアン・ボーデン(Ian Borden)CFOは第2四半期決算説明会で「わずかなマイナス」と説明した。ケンプチンスキーCEOも、第3四半期はすでに進行しているため、調整策の効果は「まちまち」になるとの見方を示した。第4四半期は、デジタル特典の復活、オペレーションの簡素化、マーケティングの見直しといった一連の是正策が、初めて同時に実施される四半期となる。米国事業の業績が全面的に正常化する目標時期は2027年である。

マクドナルドはこれまでも、米国での客数減少という逆風を乗り越えてきた。ブランドとしての約束とフランチャイズ加盟者の自主性との間にある構造的な緊張は新しいものではなく、ファストフード業界には、是正策が成功した事例も数多くある。今回新しいのは、失敗が起きた経緯をCEOが具体的に公表したことと、推奨価格に従わないフランチャイズ加盟者に対して、事業拡大の制限という構造的な影響が生じ得るようになったことだ。どちらも、マクドナルドが米国のフランチャイズ網をどう統治するかについての方針転換を示している。アンダーソン氏は、こうした変化を店舗レベルで一貫した実行につなげられるかを問われることになる。最終的に成果が決まるのは、顧客と接する店舗の現場だからだ。

■注目ポイントQ&A

●EDAPメニューとは何ですか?なぜ客数の増加につながらなかったのですか?

EDAP(Everyday Affordable Price)は、3ドル未満の10品目を終日提供し、4ドルの朝食セットを組み合わせたマクドナルドのプログラムです。2026年4月下旬に全米で導入されました。問題は、その価格設計にありました。固定価格の5ドル・ミール・ディールとは異なり、EDAPは固定価格ではなく「3ドル未満」という上限だけを定めたため、フランチャイズ店はその範囲内で各商品の価格を設定できました。推奨価格体系に従った米国の店舗は60~65%にとどまり、一部のフランチャイズ店は、プログラムに参加しながら特定の商品を値上げしました。また、同時期に複数のプロモーションが展開され、十分なマーケティング期間を確保できなかったため、EDAPの顧客認知度もマクドナルドの目標を下回りました。

●「1品購入すると、もう1品を1ドルで追加できる」特典の廃止は、なぜ常連客に影響したのですか?

「Buy One, Add One for $1」は、特にマクドナルドのアプリを頻繁に利用する顧客を呼び込む、安定したデジタル特典でした。マクドナルドはEDAPの導入に予算を振り向けるため、この特典を廃止しました。その結果、利用頻度の高いデジタル顧客が来店する具体的な理由を失わせることになりました。しかも同時期に、店舗によって実施状況が異なる新しいバリュープログラムへの移行を顧客に求めていました。ケンプチンスキーCEOは、これを「bad trade」、つまり判断ミスだったと認めています。この特典は復活する予定で、アプリ上の期間限定デジタル特典や、利用頻度の高いロイヤルティ会員向けのパーソナライズされたプロモーションも再開されます。常連客にとって、アプリが再び値ごろな特典を確認する重要な手段になるということです。

●フランチャイズ店の推奨価格に対する説明責任強化は、長期的に何を意味しますか?

マクドナルドは、推奨価格の順守状況を、フランチャイズ加盟者にとって重要な事業拡大の資格と正式に結びつけました。推奨されたEDAPの価格体系に従わない加盟者は、新規出店の承認を得にくくなる可能性があります。新規出店は、フランチャイズ事業者が事業価値を拡大する主要な手段です。店舗ごとに価格が異なれば、「3ドルの商品」というブランドの約束に対する顧客の信頼が損なわれかねません。一方、独立系のフランチャイズ加盟者団体である全国オーナー協会は、不利益を受けることを恐れずに価格を設定する権利を主張しています。この仕組みが加盟者側からの反発を受けても維持されるかどうかが、今後のマクドナルドの低価格戦略を左右します。

●マクドナルドの米国事業はいつ回復しますか?

米国の既存店売上高は2026年7月に前年同月比でマイナスに転じました。経営陣は、2026年第3四半期について、是正策が全面的に効果を発揮する段階ではなく、まだ導入が続く四半期だと説明しています。デジタル特典の復活、オペレーションの簡素化、エクストラ・バリュー・ミールへのマーケティング投資の再配分といった一連の施策が同時に実施されるのは、2026年第4四半期になる見通しです。米国事業が社内目標の水準まで全面的に回復する時期としては、2027年が目標とされています。ケンプチンスキーCEOは、まずオペレーション指標が改善し、その後にマーケティングと値ごろ感に関する指標が改善するとの見方を示しています。

元記事: McDonald’s Admits Value Menu Design Let Franchisees Raise Prices, Erasing Loyal Customers

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