ヒョンデとキア、EV充電・売電サービス「AllDayEnergy」を発表 英国で2026年後半に開始
2026年7月27日 22:44
ヒョンデ自動車グループは2026年7月24日、新たなグローバルV2Xエネルギーサービスブランド「AllDayEnergy」を発表した。対応するヒョンデおよびキアのEVオーナーは、電力価格が安い時間帯に充電し、電力が不足する時間帯に蓄えた電力を電力網(グリッド)へ売ることで、収益を得られる可能性がある。2026年後半から英国の「Kia App」を通じて順次提供される予定だが、売電機能の利用には、対応する双方向充電器の認証を待つ必要がある。
今回の発表は、既存のハードウェアに新たな名称を付けるだけのものではない。ヒョンデ自動車グループが、自らを単なる自動車メーカーとしてではなく、車両を継続的なエネルギーサービスとの接点として位置付ける姿勢を公に示したものだ。車載バッテリーは走行時だけでなく、駐車中にも価値を生み出すことになる。
■AllDayEnergyの概要
AllDayEnergyは、ヒョンデ自動車グループのE-GMPプラットフォーム採用車両(IONIQ 5、IONIQ 6、キアEV9、ヒョンデIONIQ 9など)に搭載済みの双方向充電ハードウェア上で機能するソフトウェアおよびサービス層である。このブランドは、以下の3つのサービス階層を1つの消費者向けブランドに統合している。
スマート充電(V1G):最初に提供される最もシンプルな階層である。EVが接続されている間、常に電力網から充電するのではなく、電力網の負荷状況や電力価格に基づき、ソフトウェアが充電のタイミングと出力をリアルタイムで調整する。標準的なスマート壁掛け充電器があれば利用でき、電力網への送電承認も必要ない。ドライバーが夜間にプラグを接続すると、ソフトウェアが充電する時間帯を決定する。
Vehicle-to-Grid(V2G):技術的に最も高度な階層である。需要が高い時間帯に、バッテリーに蓄えたエネルギーを車両から電力網へ逆方向に流す。対応する電力会社のプログラムに参加するオーナーは、電力網向けサービスの提供によって収益を得られる。英国のOctopus Energyが提供する「Power Pack」料金プランでは、標準料金プランと比べて年間約620ポンド(約830ドル、約13万6000円、1ドル=164円換算)を節約できると報告されている。ただし、V2Gには双方向充電器と対応する電力料金プランが必要であり、後述する英国での認証上の課題もある。
Vehicle-to-Home(V2H):蓄えたバッテリー電力を電力網ではなく家庭の電気設備に供給し、停電時には住宅全体のバックアップ電源として機能する。キアEV9の99.8kWh(キロワット時)のバッテリーパックは、米国の平均的な家庭に数日間電力を供給できる。キアは2025年2月に米国でV2Hサービスを開始しており、大規模な山火事によって電力網が停止し、家庭への電力供給が途絶えた際にも利用されている。
ヒョンデ自動車グループは、これらを組み合わせた価値を「エネルギーが安い時に充電し、必要な時に蓄えた電力を使い、残った電力を電力網が必要とする時に売る」という形で説明している。
■技術の仕組み
V2Gは、標準的なEV充電器と同じ仕組みでは動作しない。従来の充電器は、電力網の交流(AC)を直流(DC)に変換してバッテリーを充電する一方向の変換を行う。双方向充電では、この変換を両方向に行うとともに、送り出す電力を電力網の電圧、周波数、位相と正確に同期させる必要がある。
車両、充電器、アグリゲーター(電力集約事業者)、系統運用者の間の通信には、EVと電力網の連携に関する主要な国際規格であるISO 15118が用いられる。従来のISO 15118-2はスマート充電に対応していたが、相互運用可能な双方向の電力伝送には対応していなかった。現在の欧州および韓国のEVの多くが採用し、ヒョンデとキアのE-GMPプラットフォーム車両でも使われているCCS規格による双方向充電が正式に標準化されたのは、2022年に発行されたISO 15118-20からである。ISO 15118-20では双方向のネゴシエーションが可能になり、オーナーが求める最低充電量と系統運用者からの指令信号に基づき、どの方向へ、どれだけの電力を、いつ流すかを車両と充電器がリアルタイムで調整する。
経済的な仕組みは、時間帯による価格差を利用する価格裁定(アービトラージ)である。英国のような市場では、変動型の電力料金が1日のうちに10倍以上変動することがある。対応するEVは、夜間の低料金時に充電してエネルギーを蓄え、午後4時から8時までの需要ピーク時に電力網へ送り出す。英国では現在、Octopus Energyがアグリゲーターとして電力の送出を調整し、取り分を差し引いたうえでオーナーのアカウントに還元する。
■先行展開されているV2Xパイロットとサービス
AllDayEnergyは、ゼロから始まる取り組みではない。ヒョンデ自動車グループはブランドの立ち上げに先立ち、3つの市場でV2Xの実証実験や商用サービスを展開してきた。
韓国では、再生可能エネルギーのみで構成する電力網への移行を積極的に進めている済州特別自治道において、キアEV9およびヒョンデIONIQ 9のオーナーを対象としたV2Gの実証実験を行っている。2026年7月には、実証実験に参加する個人住宅へのインフラ設置を完了し、試験環境を研究施設から実際の家庭へと移した。
オランダでは、Vattenfallとの提携により、V2Gとスマート充電の両方を運用している。2026年5月に発表されたVattenfallの実証実験は、EV9またはIONIQ 9を所有する選定済みの最大80世帯が対象である。電力価格がリアルタイムで大きく変動する市場において、双方向充電に対応するEV群が電力の需給バランス調整にどのように貢献できるかを検証するために設計されている。
米国では、2025年初頭に一部の州でキアEV9オーナー向けのV2Hサービスが開始された。山火事や停電の際に緊急用のバックアップ電源として使用することが、主な用途となっている。
■英国先行戦略と立ちはだかる課題
英国がAllDayEnergyの最初の商用市場に選ばれたのには、明確な理由がある。英国は、欧州の中でも双方向充電を導入しやすい環境が比較的整った市場の一つだからだ。スマートメーターが広く導入され、V2G対応の料金プランもすでに存在する。Octopus Power Packは現在、EVのリース、充電器、電力料金プランを組み合わせ、月額約299ポンド(約400ドル、約6万6000円、1ドル=164円換算)で提供されている。電力網への送電に関する規制の枠組みも、同種の市場と比べて整備が進んでいる。
しかし、AllDayEnergyブランドを立ち上げるだけでは解決できない、重大なハードウェア上のボトルネックが存在する。
2026年初頭の時点で、英国における双方向充電器の型式試験申請14件のうち、11件が電力網への接続認証に不合格となっている。合格した3件はいずれもCHAdeMO充電規格に対応しているが、同規格は欧州では大部分が採用されなくなっており、現行のヒョンデおよびキアのEVには使われていない。E-GMPプラットフォーム車両のほぼすべてはCCS2(Combined Charging System)コネクターを使用し、双方向通信にはISO 15118-20を利用する。英国の電力網への接続認証に合格したCCS対応の双方向充電器は、まだ存在しない。
このため、2026年後半に英国でKia Appを通じてAllDayEnergyが開始された際、V1Gスマート充電は大半の対応車両オーナーが利用できる見込みだ。V1Gに必要なのは標準的なスマート充電器だけであり、電力網への送電承認は必要ない。V2Hも、電力を電力網へ送らず、家庭内だけで利用する構成であれば機能する。
一方、電力網への送電やエネルギー市場への参加を可能にし、年間620ポンドの節約という経済的な利点につながるV2Gには、英国市場にまだ存在しない認証済みのCCS対応双方向充電器が必要となる。電力を電力網へ売りたいオーナーは、充電器の認証が進むのを待たなければならない。
■V2Gによるバッテリー劣化への影響
バッテリーの劣化は、V2G普及の障壁として最もよく挙げられる問題だが、研究結果は一様ではない。
Stellantis、LG Chem、米国立再生可能エネルギー研究所が関わった査読済み研究によると、V2Gによる電力網向けサービスに毎日高い頻度で参加した場合、バッテリーの劣化率は年間約1.8%となった。同様の条件でEVとしての走行だけに使用した場合は、年間約1.5%だった。これを10年間累積すると、走行だけに使用したバッテリーは当初の容量の約15%を失う可能性があるのに対し、毎日積極的にV2Gを利用した同じバッテリーでは、容量低下が約33%に達する可能性がある。
一方、最適化されたV2G運用を調べた別の研究では、システムを適切な動作範囲内で管理すれば、V2Gによる追加的な劣化を年間1%未満に抑えられることが示された。特に、バッテリーを大幅に放電するのではなく、浅く短い充放電を繰り返す周波数調整サービスが対象となっている。
E-GMPプラットフォーム車両のバッテリー管理システムは、充電量が極端に高い状態や低い状態にならないよう制御し、劣化を抑えている。また、ヒョンデの800Vアーキテクチャは、400Vシステムと比べて効率の高い双方向変換を可能にし、電力を送り出す際の熱負荷を軽減する。したがって、バッテリーが空になるまでオーナーが手動で充放電するのではなく、ソフトウェアに運用を任せる場合、V2G参加による劣化は最悪条件の数値よりも大幅に小さくなるとみられる。
■V2X普及後の顧客関係を握るのは誰か
AllDayEnergyの背後にある戦略上の問題は、双方向充電が標準になるかどうかではない。業界予測では、世界のV2X双方向充電器市場は2036年までに41億ドル(約6724億円、1ドル=164円換算)に達し、年平均成長率は14.8%になると見込まれている。GMは2026年6月、ソフトウェアアップデートを通じて、双方向充電に対応する既存EV25万台以上のV2G機能を有効化した。新たなハードウェアを必要としない、米国史上最大規模の単一自動車メーカーによるV2G機能の有効化だった。
問題は、V2Gが普及した際に誰が顧客のエネルギー利用との関係を管理するかである。自動車メーカー、電力会社、エネルギーアグリゲーターはいずれも、同じ顧客との関係を築こうとしている。ヒョンデ自動車グループは、既存の車両用アプリに組み込む独立したブランドとしてAllDayEnergyを立ち上げることで、その関係を自ら担う姿勢を明確にした。すでにKia Appに車両の管理を任せているドライバーなら、聞いたことのない新しいエネルギー会社に任せるよりも、電気料金の管理も同じアプリに任せる可能性が高い、という考えに基づいている。
もっとも、Octopus EnergyやVattenfallなどが、すでにV2Gを実現する電力網側のインフラを運営している状況で、この考え方が通用するかどうかは分からない。エネルギー企業には大規模な電力の集約が必要であり、自動車メーカーは車両を保有している。AllDayEnergyが成功するかどうかは最終的に、エネルギー企業がEVオーナーとの直接的な関係を築くよりも速く、ヒョンデ自動車グループが電力会社との提携を拡大できるかにかかっている可能性がある。
ヒョンデ自動車グループのEVエネルギー戦略グループ責任者兼バイスプレジデントであるWoong Tae Hwang氏は、今回の立ち上げについて、顧客がエネルギー利用をシームレスに最適化し、エネルギーコストを削減するとともに、電力網の持続可能性に貢献できるようにすることを目指しており、同グループがスマートエネルギーサービス事業者としての立場を確立するための重要な一歩だと説明した。
英国では、2026年下半期にKia Appを通じたV1Gスマート充電から提供を開始する。サービスの拡大に伴い、V2GとV2Hも追加される。その後、各市場で必要となる充電器の認証、電力会社との提携、規制面の準備が整い次第、欧州の他地域、米国、韓国へ展開する予定である。
■注目ポイントQ&A
●英国のキアまたはヒョンデのEVオーナーは、現在実際に電力網へ電力を売ることができますか?
まだできませんが、必要な仕組みの整備は進んでいます。Octopus EnergyのPower Pack料金プランは、すでに対応するEVオーナーから電力網へ送られた電力を買い取り、標準料金プランと比べて年間平均約620ポンド(約830ドル、約13万6000円、1ドル=164円換算)を節約できるとしています。
ボトルネックとなっているのは、充電器のハードウェアです。2026年初頭の時点で、英国の電力網への接続認証に合格したCCS対応の双方向充電器はありません。このため、AllDayEnergyのV2G機能を利用するには、現時点では入手できない認証済み充電器が必要です。充電のタイミングを制御するV1Gスマート充電は、既存のスマート充電器で利用でき、2026年下半期にKia Appを通じてAllDayEnergyが展開される際、最初に提供される見込みです。
●V2Gを使用するとEVのバッテリーの劣化が早まりますか?
早まる可能性はありますが、その程度はシステムの管理方法によって大きく異なります。毎日積極的にV2Gを利用する条件を想定した研究では、10年間でバッテリー容量が約33%低下する可能性が示されました。EVとしての走行だけに使用した場合は約15%でした。
一方、毎日深く放電するのではなく、浅い充放電を行う周波数調整など、最適化された運用を調べた研究では、V2Gによる追加的な劣化を年間1%未満に抑えられることが示されています。ヒョンデ自動車グループのバッテリー管理システムは、バッテリーを保護するために電力の送出を制御します。AllDayEnergyのV2Gプログラムへの参加を検討する際には、このような制御方法が重要になります。
●V2G、V2H、V1Gの違いは何ですか?また、どれが最初に提供されますか?
V1Gはスマート充電です。ソフトウェアが充電のタイミングを制御し、料金の安い時間帯を選ぶことでコストを抑えますが、車両から外部へ電力を送り出すことはありません。
V2Hは、バッテリーの電力を家庭の電気設備へ供給します。停電時のバックアップ電源として利用でき、電力網へ送電しない構成であれば、電力網側の承認は必要ありません。
V2Gは、バッテリーの電力を電力網へ送り返します。電力アグリゲーターが需要のピーク時に電力の送出を調整し、オーナーの貢献に応じて料金を還元します。AllDayEnergyは、ハードウェアと規制上の要件が最も少ないV1Gから英国で提供を開始します。V2HとV2Gは、提携体制の整備や充電器の認証が進んだ後に追加される予定です。
●V2Gに参加した場合、車のバッテリー保証はどうなりますか?
ヒョンデ自動車グループは、英国でのAllDayEnergy展開に適用する具体的なV2G保証条件を、まだ公表していません。米国では、ヒョンデとキアはE-GMPプラットフォーム車両に10年または10万マイルのバッテリー保証を提供し、製造上の欠陥や、容量が当初の70%を下回る劣化を保証対象としています。
V2Gへの参加が保証範囲に影響するかどうかは、英国のV2Gサービスを正式に開始する際にヒョンデ自動車グループが定める条件によって決まります。参加を希望する場合は、登録前にディーラーへ保証条件を確認する必要があります。
元記事: Hyundai and Kia Launch AllDayEnergy to Let EV Owners Sell Power Back to Grid