トランプ政権、カナダ製品に50%の追加関税を課す大統領布告に署名 1930年通商法「338条」を77年ぶり発動へ
2026年7月22日 11:59
トランプ米大統領は2026年7月20日、1930年関税法338条に基づき、約200億ドル(約3兆2600億円、1ドル=163円換算)相当のカナダ製品に50%の追加関税を課す3つの大統領布告に署名した。この措置は2026年8月19日に発効する予定だが、大恐慌を深刻化させたと歴史家が指摘するスムート・ホーリー法に含まれる、長く使われてこなかった権限の復活により、法的有効性を巡る議論や訴訟への発展が予想されている。自動車、アルコール飲料、乳製品に関連するカナダの慣行を対象としているが、電子機器や機械など幅広い製品が関税の対象に含まれ、北米のサプライチェーンに大きな影響を及ぼす可能性がある。
■1930年関税法338条を再び適用
トランプ大統領は2026年7月20日、大恐慌を深刻化させたと歴史家が指摘するスムート・ホーリー法の一部である1930年関税法338条を発動し、約200億ドル(約3兆2600億円、1ドル=163円換算)相当のカナダ製品に50%の追加関税を課す3つの大統領布告に署名した。ホワイトハウスのファクトシートによると、追加関税は署名から30日後の2026年8月19日に発効する。貿易専門の弁護士らによる338条の休眠状態に関する法的分析では、同条の適用が最後に確認されたのは1949年で、それ以降にこの権限が行使されたことを示す公的記録は見つかっていないという。
トランプ政権が338条を選択したのには明確な理由がある。同条には手続き上の要件がないからだ。ナショナル・ロー・レビュー(National Law Review)による関税権限の手続き比較解説によると、米国通商代表部(USTR)による調査を義務付ける1974年通商法301条や、正式な国家安全保障上の判断を必要とする1962年通商拡大法232条とは異なり、338条では大統領布告だけで措置を講じることができる。発動の要件は、外国が米国の通商を差別的に扱っていると大統領が認定することだ。同法が認める上限税率は、トランプ氏が今回課した税率と同じ50%であり、この点は338条に基づく措置に関するUSTRの声明でも確認されている。
シンクタンクのケイトー研究所で一般経済学担当バイスプレジデントを務めるスコット・リンシコム氏は、「われわれはルビコン川を渡った」と述べた。同氏は338条の発動について、「トランプ関税にとって核の選択肢だ」と表現している。
■対象となる製品と除外される製品
3つの大統領布告はそれぞれ、自動車、アルコール飲料、乳製品に影響を与えるカナダの慣行を対象としている。しかし、サプライチェーン・ダイブ(Supply Chain Dive)による付属書の検証では、対象品目はこれら3業界をはるかに超え、ワイン、セメント、衣料品、家具、化学品、電子機器から、ホッケースティック、釣りざお、プール、クリスマスオーナメントまで多岐にわたる。電子機器、機械、工具なども含まれるため、テクノロジーハードウェアの調達チームは直接影響を受ける可能性がある。
重要なのは、ホワイトハウスのファクトシートが確認している通り、これらの関税が、通常であれば米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づく免税扱いを受ける製品にも適用されることだ。USMCAに基づく優遇措置より今回の関税を優先することは、単なる法的な付記ではない。2020年7月に発効した同協定の優遇枠組みは、まさにこの種の北米貿易を規律するために設けられたものだからだ。トランプ政権は、その枠組みを、多国間貿易秩序が成立する前に議会が制定した1930年の法律に従属するものとして扱っている。
一方、複数の品目は338条に基づく関税から明示的に除外されている。ホワイトハウスのファクトシートによると、エネルギー製品、カリ肥料、魚類および一部の水産物、重要鉱物、さらに、すでに232条に基づく関税の対象となっている製品が除外される。232条は国家安全保障を理由とする関税権限で、これまで鉄鋼、アルミニウム、自動車に使用されてきた。重要鉱物の除外は、北米のバッテリーサプライチェーンを維持するために意図的に設けられた例外とみられている。
■2026年2月の最高裁判決との関連性
トランプ政権による338条の選択は、その背景を抜きにしては理解できない。SCOTUSblogの報道によると、米連邦最高裁判所は2026年2月、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて課されたトランプ氏の広範な関税措置を無効とする判決を下した。最高裁は、IEEPAは大統領に対し、広範な輸入関税を一方的に課す権限を付与していないと判断した。この判決により、政権は最も柔軟な関税手段を失った。338条をIEEPAに代わる選択肢として分析する通商アナリストらが指摘するように、第二次世界大戦後の貿易法体系より前に制定され、調査や公聴会を必要としない338条が、代替となる法的根拠になった。
キャピタル・エコノミクスのチーフ北米エコノミスト、スティーブン・ブラウン氏は、CNN Businessが引用した調査ノートで、「一歩引いて見ると、トランプ政権が関税を実施するために新たな手法に手を伸ばしていることは驚くべきことだ」と述べた。同氏は、338条が法廷での争いを乗り切れば、将来の貿易交渉における恒久的な手段になる可能性があると付け加えた。
■カナダに対する3つの不満
トランプ政権は、差別的だと位置づけるカナダの3つの具体的な慣行を挙げている。ホワイトハウスのファクトシートによると、自動車分野では、カナダが他国からの自動車には適用していない関税や輸入割当を米国製車両に課していると指摘した。政権は、この割当が米国の自動車メーカーに対し、米国内の工場ではなくカナダでの生産に投資するよう事実上強いていると主張している。同ファクトシートによると、2025年4月から2026年3月までのカナダによる米国製自動車の輸入は、前年同期と比べて約22%、金額にして約56億ドル(約9128億円、1ドル=163円換算)減少した。
アルコール飲料分野では、USTRの声明が詳述している通り、以前の米国の関税措置に対する報復として、カナダの各州が米国産蒸留酒を店頭から撤去したことを問題視している。乳製品分野では、カナダの供給管理制度が、米国産乳製品より欧州産チーズを優遇していると政権は主張している。
■338条の法的有効性を巡る議論
338条が現在も法的に有効かどうかは、通商弁護士らにとって中心的な論点となっており、見解は分かれている。バージニア大学の名誉歴史教授で、以前のIEEPA訴訟にも関わった弁護士のフィリップ・ゼリコウ氏は、338条は1962年通商拡大法および1974年通商法301条によって置き換えられたと主張する。
同氏の論拠は、338条の報復関税権限が依然として有効なら、議会が1962年と1974年に設けた手続き上の要件が無意味になってしまうというものだ。大統領が1930年の規定を根拠にそれらを回避できるのであれば、議会が詳細な調査や公聴会の要件を制定する必要はなかったはずだという。ゼリコウ氏は、ブログ「Volokh Conspiracy」に掲載された以前の分析で、338条は「少なくとも1962年以降、長く死んだ状態にある」と述べている。
ピーターソン国際経済研究所(PIIE)のアナリストらは、338条を過度に広く適用すれば、「最高裁が不当だと判断したばかりの権限に似た代替権限」を持ち出すことになりかねないと警告している。338条を巡る訴訟の見通しを追う通商政策関係者らは、法的な異議申し立てはほぼ確実だとみている。これまで338条を解釈した裁判例はなく、その有効性を支持する、または無効とする拘束力のある判例も存在しない。
トランプ政権が対象をカナダに限定し、特定の分野で文書化された差別的慣行を挙げるという絞り込んだアプローチを採用したのは、司法審査を乗り切る可能性を最大化するためとみられる。ただし、この設計が成功するかどうかは、裁判所が判断を示すまで分からない。
■338条の復活が貿易環境を変える理由
今回の措置が持つ最大の意味は、カナダだけにとどまらない。米議会調査局(CRS)による338条の立法経緯の分析によると、同条はもともと最恵国待遇の原則、すなわち第一次世界大戦後に形成された、各国はすべての貿易相手に同一の関税を適用すべきだという考え方を徹底させるために制定された。
スムート・ホーリー法は338条を圧力手段として組み込んだ。ある国が米国製品より別の国の製品を優遇した場合、大統領が報復できるという仕組みだ。つまり、貿易相手国の間で平等な扱いが行われる世界を築くために設計されたものだった。
しかし、トランプ氏は今回、338条を逆の目的に用いた。最恵国待遇の原則に反する、特定国を対象とした制裁的な関税を課したからだ。こうした逆方向の利用が法的に可能なのは、338条の条文がそれを認めているためである。
また、今回の措置が法廷での争いを乗り切った場合、大統領が米国の通商を差別的に扱っていると位置づける政策を採用する欧州連合(EU)、中国、日本、その他の貿易相手に338条を適用することを、同法の条文上妨げるものはないとアナリストらは指摘している。338条の広範な適用可能性を論じた「Weaponized Economy」の分析でも、その可能性が取り上げられている。
外交問題評議会(CFR)のブラッド・セッツァー氏は、338条に基づくカナダの扱いについて、「トランプ氏の第2期の通商政策に対する強力な告発だ」と指摘した。セッツァー氏によるカナダと中国への関税対応の比較分析では、政権が同時に中国への姿勢を軟化させている点が特に問題視されている。
338条は、もはや歴史上の遺物ではなく、現に行使される大統領権限となった。最終的に司法審査を乗り切れるかどうかにかかわらず、その復活は、通商執行を巡って行政府が自らに認められていると主張できる権限の範囲を塗り替える。
■オタワの慎重な対応と地政学的背景
カナダのマーク・カーニー首相は、大統領布告への署名の前日、ニュージャージー州イーストラザフォードのメットライフ・スタジアムで開かれたFIFAワールドカップ決勝でトランプ氏と同席していたが、即時の報復措置を発表することは避けた。
カナダ首相の公式サイトに掲載された書面声明で、カーニー首相は、カナダは詳細な提案を提示しており、未解決の問題について引き続き協議する用意があると述べた。そのうえで、「いかなる状況においても、カナダは国内の力を高め、カナダの労働者、農家、企業、家族を支援するため、たゆまず取り組み、必要なあらゆる措置を講じる」と表明した。
一方、オンタリオ州のダグ・フォード州首相は、より厳しい姿勢を示した。CNN Businessの報道によると、フォード氏はSNSに「これらの関税が実施されるのであれば、カナダは関税には関税で、1ドルには1ドルで対抗すべきだ」と投稿した。
ホワイトハウス当局者は、ワールドカップでの面会が通商問題を話し合う実務協議だったとの見方を否定した。政権高官は、「実務訪問ではなかった。われわれの側からすれば、貿易や関税について話し合うための訪問ではなかった」と述べた。
ホワイトハウスのファクトシートによると、トランプ政権はカナダを、以前の関税措置に対して交渉ではなく報復を選んだ、中国と並ぶ2カ国のうちの一つと位置づけている。さらに、カーニー首相が2026年1月に北京を国賓訪問した際にカナダと中国が結んだ暫定貿易協定も、今回の対立激化の背景として当局者らが言及している。この訪問は、カナダ首相によるものとしては2017年以来初めてだった。カナダ首相のプレス声明ページでも説明されている通り、これにより今回の問題には地政学的な側面も加わった。
■USMCA見直しへの影響
338条に基づく関税は、北米の通商政策にとって異例のタイミングで導入された。カナダ輸出開発公社(EDC)によるUSMCA見直しの分析によると、USMCAで義務付けられた6年ごとの見直しは、トランプ氏が布告に署名する約3週間前の2026年7月1日に正式に始まった。
同協定は自動的に更新されるわけではない。PBS NewsHourの報道によると、3カ国が延長に合意しなければ、協定は最長10年間にわたる年次見直しへ移行し、2036年に終了する可能性がある。
現在、米国とカナダの間で正式な交渉は行われていない。USTRによるUSMCA共同見直しに関する声明によると、ジェイミソン・グリアUSTR代表は、USMCAを巡る協議に入る条件として、カナダが一部の関税を受け入れなければならない可能性を示唆している。
USMCA上の扱いにかかわらず導入される338条関税は、政権がこの二つを別々の枠組みとみなしていることを示す。USMCAの見直しは交渉の場であり、一方的な関税措置を制約するものではないという認識だ。
8月19日の発効までの30日間は、外交的な解決を図るための、狭いながらも現実的な機会となる。トランプ政権によるこれまでの関税措置のパターンを踏まえると、この期間中に合意が成立する可能性もあれば、合意のないまま関税が発効する可能性もある。
■サプライチェーン管理者が今取るべき対応
カナダからの輸入に依存するテクノロジーハードウェア、自動車、建設分野の調達チームにとって、8月19日の発効日は業務上の期限となる。サプライチェーン・ダイブによる対象製品の分析では、電子機器、機械、工具、化学品、木製品、繊維など対象範囲が広く、国境をまたぐサプライチェーンの多くが何らかの影響を受ける。8月19日までに取り得る対応は次の通りだ。
1. カナダからの輸入状況の把握:大統領布告の付属書と自社の輸入品を照合し、どの製品カテゴリーが3つの布告の対象となり、どれが232条による除外の対象となるかを特定する。
2. 代替調達先の検討:対象製品について、同等の品質とリードタイムを確保できるカナダ以外の調達先があるかを評価する。
3. 輸入着地コストモデルのストレステスト:実効的な関税負担を把握する。338条に基づく50%の関税は、以前の措置ですでに課されている関税に上乗せされるため、一部製品の累積税率は大幅に高くなる。
4. 除外規定の適用可能性の確認:カナダ原産品が、重要鉱物またはエネルギー製品の除外要件を満たすかを確認する。
5. 訴訟動向の監視:関税に対する仮差し止め命令が出れば、訴訟が続いている間の関税徴収が停止されるため、裁判所での動向を注視する。
米関税委員会の記録によると、338条には柔軟な運用を認める規定が設けられている。自動車に関する布告の本文でも確認されている通り、大統領は公益上必要な場合、338条に基づく布告を「停止、撤回、補足または修正」できる。この可逆性が同じ法律に組み込まれているため、30日間の猶予は単なる形式ではなく、実質的な意味を持つ。カナダ独立企業連盟(CFIB)が提供する米国関税リスクに関する企業向けガイダンスにも、自社の選択肢を検討する企業向けの実務的な情報が掲載されている。
■注目ポイントQ&A
●1930年関税法338条とは何ですか?なぜ約1世紀にわたり使われてこなかったのですか?
338条は、米国の通商を差別的に扱っていると認定された国からの輸入品に対し、大統領が最大50%の追加関税を課すことを認めるスムート・ホーリー関税法の規定です。調査や公聴会などの正式な手続きを必要とせず、大統領布告だけで発動できます。
第二次世界大戦後、最恵国待遇の原則を中心とする国際貿易秩序が構築され、1947年にはGATT(関税および貿易に関する一般協定)として制度化されました。その後、1962年通商拡大法252条や1974年通商法301条など、通商上の差別に対処するための具体的な手続きが整備され、338条は使われなくなりました。法的分析によると、最後に適用された記録は1949年です。最高裁がIEEPAに基づく関税権限を無効と判断したことで、338条は利用可能な法的根拠として再び浮上しました。
●どのカナダ製品が今回の関税の対象となり、どの製品が除外されますか?
対象は多岐にわたり、ワイン、ビール、衣料品、家具、電子機器、機械、工具、化学品、木製品、紙、セメント、ホッケースティック、釣りざお、プール、クリスマスオーナメント、かつらなどが含まれます。
一方、エネルギー製品(石油、ガス、電力)、カリ肥料、魚類および一部の水産物、重要鉱物、さらに、すでに232条に基づく関税の対象となっている鉄鋼、アルミニウム、自動車および一部の関連製品は明示的に除外されています。USMCAに基づく優遇措置は今回の関税からの保護にはならず、布告ではUSMCA上の扱いにかかわらず関税を適用することが明示されています。
●338条が法廷での争いを乗り切った場合、EUや中国にも適用される可能性がありますか?
はい。338条の規定は、適用対象をカナダに限定していません。大統領が米国の通商を差別的に扱っていると認定すれば、どの国からの輸入品に対しても最大50%の関税を課すことができます。
「Weaponized Economy」のアナリストや、外交問題評議会のブラッド・セッツァー氏を含むエコノミストらは、EU、中国、日本など、米国に対して国別の政策を適用する貿易相手も、政権が差別的な扱いだと認定すれば、原則として338条に基づく布告の対象になり得ると指摘しています。ただし、338条が1962年に置き換えられ、現在は効力を失っているかどうかという法的問題があり、裁判所が判断を示すまでは解決しません。
●カナダからの輸入に関係する企業は、8月19日までに何をすべきですか?
まず、自社のサプライチェーンを大統領布告の付属書と照合し、どの製品が3つの338条布告の対象となり、どれが232条による除外の対象となるかを早急に特定してください。
今回の50%の追加関税は既存の関税に代わるものではなく、上乗せされるため、累積税率を算出してコストへの影響を試算する必要があります。カナダ以外の代替調達先を検討し、重要鉱物やエネルギー製品の除外要件に該当するかも確認してください。
また、訴訟でUSMCA原産品の区別が問題となる場合に備え、米国由来の原材料・部品の比率に関する計算資料を整備しておく必要があります。関税徴収が一時停止される可能性のある仮差し止め命令など、裁判所への申し立ても注視してください。過去のトランプ政権の関税措置では30日間の猶予期間中に状況が動いた例があるため、外交交渉の動向も継続して確認する必要があります。カナダ独立企業連盟(CFIB)の米国関税に関する情報ページでは、影響を受ける企業向けの最新ガイダンスを確認できます。
元記事: Section 338 Tariffs Target Canada at 50%: Trump Revives a 1930 Law for Trade War