TSMC、米国投資を2650億ドルに拡大 アリゾナでCoWoS能力と半導体工場4棟を追加へ

2026年7月18日 14:33

台湾の半導体受託製造大手TSMCは7月16日、米アリゾナ州への投資を1000億ドル追加し、米国での投資総額を2650億ドル(約42兆9300億円)に引き上げると発表した。計12施設に及ぶ計画で、外国企業による米国への直接投資としては史上最大規模となる。世界最大の半導体受託製造会社である同社は、これと同時に5四半期連続となる過去最高の四半期純利益を発表した。

今回の拡張では、半導体工場4棟に加え、AIアクセラレータ供給の主要なボトルネックとなっている先進パッケージング技術「CoWoS」の専用生産能力をアリゾナに追加する。建設時期などは確定しておらず、TSMCは顧客需要に応じて拡張を進める方針だ。

■過去最高益を背景とする2650億ドルの巨額投資

TSMCの会長兼CEOである魏哲家(C.C. Wei)氏は、台北で開催された2026年第2四半期決算説明会において、1000億ドル(約16兆2000億円、1ドル=162円換算、以下同)の追加投資計画を明らかにした。これにより、同社の米国における投資総額は2650億ドル(約42兆9300億円)に達する。

同四半期の純利益は前年同期比77.4%増の7065億6000万台湾ドル(約220億ドル、約3兆5640億円)、売上高は同36%増の1兆2700億台湾ドル(約402億ドル、約6兆5124億円)となった。いずれも過去最高で、ウォール街の市場予想である売上高1兆2640億台湾ドル、純利益6326億4000万台湾ドルを上回った。

粗利益率は前四半期から1.5ポイント上昇して67.7%に達した。コスト改善と最先端ノードの稼働率向上が寄与した。ウェハ売上高の77%を7ナノメートル(nm)以下のプロセスが占め、5nmが33%、3nmが30%となった。また、AIアクセラレータを含むハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)部門は四半期売上高の66%を占め、前四半期から20ポイント上昇した。

CFOの黄仁昭(Wendell Huang)氏は、最先端プロセス技術に対する絶え間ない需要が業績を牽引したと説明し、2nmプロセスの急速な立ち上げがすでに進んでいると述べた。2026年第3四半期の売上高見通しは446億〜458億ドル、営業利益率は56%〜58%とした。2026年通期の売上高成長率については、米ドルベースで従来の「30%超」から「40%をやや上回る」水準へと見通しを引き上げた。

2026年の設備投資見通しも、従来の520億〜560億ドルから600億〜640億ドル(約9兆7200億〜10兆3680億円)へと大幅に引き上げられた。この予算の約70%〜80%が先端プロセス技術に充てられる予定である。

ゴールドマン・サックスのアナリストはすでに、TSMCの生産能力が短期的には急増するAI需要に追いつかない可能性が高いと指摘していた。このため設備投資の増額は予想されていたものの、短期保有の投資家から必ずしも歓迎されたとは限らない。

記録的な決算にもかかわらず、同日のTSMCの米国上場株は2%以上下落した。JPモルガンの株式トレーダーは、この下落について悪材料によるものではなく、AIへの期待を背景とした過去数カ月の株価上昇により、半導体セクターに対する投資家の期待水準が極めて高くなっていたためだと分析している。

■AI半導体のボトルネック「CoWoS」をアリゾナへ

今回発表されたアリゾナ拠点の拡張で重要なのは、単に半導体工場の床面積を増やすだけでなく、「CoWoS(Chip on Wafer on Substrate)」と呼ばれる先進パッケージング技術の専用生産能力を追加する点である。

CoWoSは、TSMCの2.5D先進パッケージング技術である。GPUやカスタムAIアクセラレータなどの高性能ロジックダイと、複数の高帯域幅メモリ(HBM)を、消費電力と遅延を抑えながら極めて高いデータ転送速度で接続する。

パッケージの中心にあるインターポーザには、高密度の金属配線とシリコン貫通電極(TSV)が配置されており、プリント基板上では再現できないチップ間のデータ経路を実現する。NVIDIAの「H100」「H200」「B100」「B200」「GB200」や、AMDの「MI300」「MI400」はいずれもCoWoSを採用しており、このパッケージング工程を経なければ出荷可能な製品にならない。

現在、NVIDIAやAMD、大手クラウド事業者が顧客に供給できるAIアクセラレータの数量を大きく制限しているのは、シリコンウェハの製造能力ではなく、CoWoSの生産能力である。今回のアリゾナにおけるCoWoS能力の拡張は、この制約を直接緩和することを狙っている。

TSMCは2023年以降、CoWoSの生産能力を毎年ほぼ倍増させてきたが、需要は供給を上回り続けている。TSMCは2026年5月の北米テクノロジーシンポジウムで、AIアクセラレータ向けウェハの出荷量が2022年から2026年にかけて11倍に増加するとの予測を示した。

業界の分析によると、再配線層に必要なABF(味の素ビルドアップフィルム)を含むCoWoS基板の供給は、TSMCによる現在の拡張を考慮しても、少なくとも2027年後半までAIチップの納期を左右する主要なボトルネックであり続けるという。

アリゾナ州でCoWoSの生産能力を追加することは、このボトルネックを地理的に分散させる。米国内からの調達を求めるハイパースケーラーに対し、工程のすべてを台湾に依存しないAIアクセラレータの調達経路を提供することになる。

■アリゾナ工場の現状と今後のロードマップ

アリゾナ州フェニックス北部の拠点は、将来の計画にとどまらず、すでに稼働している。第1工場(Fab 21 Phase 1)は2024年第4四半期に4nmチップの量産を開始し、AppleやNVIDIAなどの主要顧客に供給している。

アリゾナでの生産による売上高がTSMC全体に占める割合は、2025年の約2%から2027年には4%〜5%へ拡大する見通しである。台湾の国家発展委員会主任委員である葉俊顕(Yeh Chun-hsien)氏によると、同工場は量産初年度となった2025年に161億4000万台湾ドル(約5億1400万ドル、約832億6800万円)の利益を計上した。Appleは2026年に、アリゾナ拠点で製造されたチップを1億個以上購入した。

アリゾナ工場の歩留まりも、懐疑的な見方を上回る結果となっている。第1工場の4nmプロセスにおける歩留まりは約92%に達した。ある報道によれば、台湾にあるTSMCの同等施設をわずかに上回る水準だという。

この数値が重要なのは、台湾で培われた製造規律を米国の新設拠点で再現できるのかという点が、CHIPS法による投資の有効性に対する中心的な疑問だったためである。

第2工場(Fab 21 Phase 2)は、3nmおよび将来的な2nmプロセスの製造を予定しており、2026年4月に建設が完了した。2026年第3四半期には装置の搬入が始まり、量産開始は当初予定の2028年から約1年前倒しして、2027年を目指している。

2nmおよび「A16」プロセスを予定する第3工場は2025年4月に着工しており、2020年代末までに生産を開始する見込みである。

今回発表された半導体工場4棟は、2nm以下の先端プロセス技術を対象とし、これとは別にCoWoSのパッケージング能力も追加される。魏CEOはアリゾナに半導体工場をさらに4棟「おそらく」建設すると述べたが、具体的な建設時期は明らかにしなかった。

発表済みのすべての施設が完成すると、TSMCが世界で保有する2nm以下の先端プロセス生産能力の約30%がアリゾナに配置されることになる。

■FinFETからGAA、そしてA16へ:技術進化の意味

アリゾナで計画されているプロセスノードの移行は、単なる段階的な改善にとどまらない。半導体のプロセスノードを示すナノメートル表記は、数十年前から文字どおりの物理寸法ではなく、世代を表す名称として使われている。ただし、その数字は世代ごとの技術的能力の違いを示している。

現在、第1工場で生産されている4nmプロセスは、22nm世代から主流となっている「FinFET」トランジスタ構造を採用している。3nmプロセスもFinFETを採用するが、同じ消費電力で15%の速度向上、または同じ速度で30%の消費電力削減を実現する。

一方、2nmプロセスは、FinFETから「GAA(Gate-All-Around)」ナノシートトランジスタへの構造的な転換点となる。GAAでは、ゲートがチャネルを3方向ではなく4方向すべてから囲む。これにより静電制御を向上させ、トランジスタが原子に近い尺度へと微細化するなかで電流リークを抑制する。

台湾・高雄にある第22工場(Fab 22)では、2025年後半に2nmの量産が始まった。2nmウェハの価格は現在3万ドル(約486万円)を超え、4nmウェハのほぼ2倍に達している。技術的な複雑さと供給の制約を反映した価格である。

さらにその先にある「A16」(1.6nmクラス)プロセスでは、シリコンウェハの表面ではなく裏面に電力配線を設ける「裏面電源供給(backside power delivery)」技術が導入される。これにより表面を信号配線に使えるようになり、表面側から電力を供給する方式より高いトランジスタ密度を実現できる。

A16はアリゾナの施設で生産が計画されているプロセスの一つであり、同拠点は商用半導体製造で最も先進的なプロセス技術の生産拠点となる見通しである。

バークレイズのシニア半導体アナリストであるダニエル・モーガン氏は、2nmへの移行について「段階的な変化ではなく、変革をもたらすものだ」と述べた。電力効率の向上だけでも、ラック当たりのAI学習処理能力を30%高められる可能性があり、「データセンター投資の経済性を根本的に変える」としている。

■投資を支える米台貿易協定の枠組み

今回の投資を形づくった枠組みが、米国在台協会(AIT)と台北駐米経済文化代表処(TECRO)を通じて交渉され、2026年1月15日に成立した米台貿易・投資協定である。

協定に基づき、台湾の半導体・テクノロジー企業は、米国の半導体、エネルギー、AI生産能力に最低2500億ドル(約40兆5000億円)を直接投資することを約束した。台湾側は、さらなる拡張を支援するため、別途2500億ドルの信用保証を提供する。これに対し、米国は台湾製品に対する相互関税を20%から15%へ引き下げた。

ハワード・ラトニック米商務長官は、「トランプ大統領のリーダーシップが、企業による米国製造業への投資を促している。台湾との歴史的な貿易・投資協定に続く、TSMCによる1000億ドルの追加投資発表は、数万人の米国人雇用を創出し、先端半導体製造を米国に取り戻すことになる」と述べ、政権の通商政策による成果だと強調した。

魏CEOも台北で、「トランプ政権、ラトニック長官、そして米国の主要顧客による強力な協力と支援に感謝する」と述べた。

アリゾナ州のケイティ・ホッブス知事は、同拠点を「先端半導体製造とイノベーションにおける全米の中心地」と表現した。同州は2020年以降、サプライチェーン全体で総額3140億ドル(約50兆8680億円)を超える、70件以上の半導体関連拡張案件を誘致したという。フェニックスのケイト・ガレゴ市長は、今回の計画を「米国史上最大の取引」と呼んだ。

2022年に成立した「CHIPSおよび科学法(CHIPS法)」は、米国内への半導体製造誘致を後押しした。TSMCのアリゾナプロジェクトは2024年11月、米商務省のCHIPSプログラムオフィスから、最大66億ドル(約1兆692億円)の直接補助金に関する最終決定を受けた。この支援は最初の3工場を対象としている。今回追加された投資に適用される条件は、まだ開示されていない。

■浮き彫りになる実行リスクと地政学的サプライチェーンへの影響

一方、魏CEOは建設スケジュールを確約せず、拡張の速度は顧客需要に連動すると慎重な姿勢を示した。この留保は、同拠点が引き続き直面している運営上の制約を反映している。

2026年5月、台湾の国家発展委員会主任委員である葉俊顕氏はアリゾナ拠点を視察した後、4つの主要な課題を挙げた。インフラ面の制約、特に砂漠地帯であるアリゾナでの水供給、複雑な規制、ビザ発給の遅れ、労働力不足である。

3年間の任期でアリゾナに派遣された1000人以上の台湾人エンジニアが契約満了に近づいており、高い歩留まりを実現した専門人材を継続的に確保できるかが課題となっている。

水利用は現実的な制約だが、危機的な状況ではない。TSMCの3工場は年間約60億ガロンの水を使用すると推定され、再生利用率は65%〜90%とされる。使用量は、年間2兆3000億ガロンに上るアリゾナ州全体の水使用量の約0.26%に相当する。

半導体業界では2030年までに、世界で100万人の人材が不足すると推定されている。台湾の高精度な製造を支える組織的知識を米国で再現することは、アリゾナ拠点にとって最も長期的な運営課題であり続ける。

最先端製造に必要な極端紫外線(EUV)露光装置でTSMCの主要サプライヤーとなっているASMLは、TSMCの発表前日に当たる7月15日、2026年の業績見通しを引き上げた。アプライドマテリアルズのゲイリー・ディッカーソンCEOも、今後数年間にわたり生産能力の拡張が続くと公に予測している。サプライヤーのエコシステムも、この増強計画と足並みをそろえて動いている。

台湾は世界の最先端半導体の90%以上を生産しており、防衛当局やサプライチェーン担当者は、この地理的集中を構造的な脆弱性とみなしてきた。気象、インフラ障害、地政学的緊張の激化によって台湾の生産が中断すれば、短期的な代替手段がないまま、世界のAIアクセラレータ供給が鈍化することになる。

アリゾナの投資計画がすべて完了すれば、TSMCの2nm以下の先端プロセス生産能力の30%が米国に置かれる。台湾への集中が完全に解消されるわけではないが、商業生産される最先端ノードにとって、初めて意味のある地理的なリスク分散手段となる。

魏CEOは、米国への拡張が台湾の生産能力を空洞化させるのではないかとの懸念にも言及した。TSMCは同じ期間に、台湾で13棟の先端プロセス工場および先進パッケージング工場を計画しているという。台湾は引き続きTSMCの主要な製造拠点であり、アリゾナの能力は台湾を代替するのではなく、追加されるものである。

投資家やサプライチェーンの計画担当者にとって、2026年だけで600億〜640億ドルに達する設備投資への上方修正は、AI需要のサイクルが少なくとも2029〜2030年まで続くというTSMC経営陣の判断を示す。これは魏CEO自身が公に示した予測でもある。

投資期間中のフリーキャッシュフローの圧迫を懸念する投資家にとって、第2四半期のフリーキャッシュフロー2873億6000万台湾ドルは十分な規模である。一方、設備投資額はTSMCが過去3年間に投じた金額の合計を上回る水準となっており、市場は両者のバランスを注視している。

魏CEOは、今回の投資計画を発表した台北の会議室で、TSMCの前途には大きな機会があるとの自信を示した。

■注目ポイントQ&A

●TSMCのアリゾナ投資は、AI半導体の供給にどのような影響を与えますか?

7月16日に発表された計画で最も直接的な影響を持つのは、ウェハ工場の増設だけでなく、CoWoSの先進パッケージング能力が追加される点です。CoWoSは、AIアクセラレータのダイと高帯域幅メモリ(HBM)を接続し、NVIDIAのH100やH200などを出荷可能な製品にするために不可欠な2.5Dパッケージング技術です。現在、AIアクセラレータの供給を制限している主要な要因はシリコンウェハの製造能力ではなくCoWoSの能力であり、業界分析では、この制約は少なくとも2027年後半まで続くとみられています。アリゾナにCoWoS能力を追加することは、ハイパースケーラー向けAIハードウェアの納期を左右するボトルネックの緩和を直接狙うものです。

●アリゾナで製造される4nm、2nm、A16チップの違いは何ですか?

これらは単なる寸法の縮小ではなく、それぞれ異なる世代の技術とトランジスタ構造を示すプロセスノードです。現在第1工場で生産中の4nmと、2027年の量産開始を目指す第2工場の3nmは、FinFET構造を採用しています。一方、2nmはGAA(Gate-All-Around)ナノシートトランジスタへ移行します。ゲートがチャネルを4方向から囲むことで制御性を高め、3nmと比べて10%〜15%の速度向上、または25%〜30%の消費電力削減が可能になります。A16(1.6nmクラス)では、さらに裏面電源供給技術を導入し、ウェハ表面を信号配線に使うことでトランジスタ密度を高めます。2nmとA16はいずれもアリゾナでの生産が計画されており、実現すれば同拠点は米国で生産された商用半導体として最も先進的なプロセスを扱うことになります。

●アリゾナ工場が完全に稼働し、最先端チップが量産されるのはいつですか?

第1工場(4nm)はすでに量産しており、黒字を計上しています。第2工場は2026年第3四半期に装置搬入を開始し、3nmの量産時期を当初予定の2028年から2027年へ約1年前倒ししました。2025年4月に着工した第3工場は2nmとA16を対象とし、2020年代末までに生産を開始する見込みです。今回発表された4棟の半導体工場には、確定した建設スケジュールがまだありません。魏CEOは、拡張のペースを顧客需要に連動させるとしています。発表済みの施設すべてを完成させる計画は、2030年代まで続く長期プロジェクトです。

●アリゾナ工場の拡張を遅らせる可能性のある主なリスクは何ですか?

TSMC側が挙げている主要な制約は、アリゾナの砂漠環境における水供給、複雑な規制、海外の専門エンジニアに対するビザ発給の遅れ、労働力不足の4点です。3年間の任期で派遣された1000人以上の台湾人エンジニアが契約満了に近づいており、専門人材を継続的に確保できるかも課題です。また、新工場の建設時期は、巨額の設備投資を正当化できるほどAI関連の顧客需要が堅調に推移するかどうかに左右されます。設備投資の加速によりフリーキャッシュフローが圧迫される可能性も、投資家が注視する要因となっています。

元記事: TSMC Lifts Arizona to $265 Billion After Record Quarter: Four Fabs Target AI Packaging Bottleneck

関連記事

最新記事