Google「Gemini 3.5 Pro」が3度目の延期か、ハルシネーション問題で暫定版投入の観測も

2026年7月17日 14:46

Google DeepMindの次世代AIモデル「Gemini 3.5 Pro」のリリースが、当初目標とされた6月、そして7月17日の期限を超え、3度目の延期に直面していると報じられている。非公式のリーク情報によると、再設計された同モデルは依然としてハルシネーション(事実とは異なる情報の生成)や出力の不整合といった信頼性の課題をクリアできていない模様だ。競合他社が2026年のフラッグシップモデルを相次いで実戦投入するなか、Googleは暫定的なモデルのリリースで急場をしのぐ可能性も浮上している。

■Google I/Oでの約束と「事前学習のやり直し」という重い決断

タイムラインの始まりは2026年5月19日の「Google I/O」だった。CEOのサンダー・ピチャイ氏は開発者に対し、「来月(6月)まで待ってほしい」と呼びかけた。しかし、6月はリリースなしに終わり、目標は7月に再設定された。その後、HackerNoonやGeeky Gadgetsなどの海外メディアは、この遅延が単なる微調整ではなく、より抜本的な問題によるものだと報じた。Google DeepMindは完成間近だったモデルを破棄し、ネイティブな「Gemini 3」基盤の上で、ゼロからの事前学習(プレトレーニング)のやり直しを命じたとされる。

この「事前学習のやり直し」という決断の持つ意味は極めて重い。事前学習は、最先端AIモデル構築において最もコストがかかる初期フェーズであり、モデルの根本的な能力の限界値(天井)を決定づける。微調整(ファインチューニング)や人間のフィードバックによる強化学習(RLHF)は、その限界値の範囲内でモデルを洗練させることはできても、天井そのものを引き上げることはできない。Googleが微調整ではなく事前学習の再実行を選んだということは、初期モデルの能力上限そのものに構造的な欠陥があったことを認めたに等しい。

■再設計の裏にある技術的ボトルネック

HackerNoonが匿名の内部情報源を引用して報じたところによると、破棄された初期バージョンのGemini 3.5 Proには、2つの明確な致命的欠陥があったという。1つは、複雑で多層的なSVGシーンレイアウトを生成する際に構造的な一貫性を維持できないこと。もう1つは、複雑で再帰的なツール呼び出し環境(エージェントが1つのツールを呼び出し、その結果を使って別のツールを呼び出すといった、数十ステップに及ぶ連続的な意思決定チェーン)において動作が破綻することだった。

これらは決して表面的な不具合ではない。再帰的なツール呼び出しの安定性は、自律型コーディングエージェント向けモデルにとって極めて重要な機能であり、これこそがGoogleがGemini 3.5世代で覇権を握ろうとしていたユースケースそのものだった。すでに軽量版の「Gemini 3.5 Flash」は、Terminal-Bench 2.1(76.2%対70.3%)やMCP Atlas(83.6%対78.2%)において、旧世代の「Gemini 3.1 Pro」を上回るスコアを叩き出しており、Googleも公式発表でこれを認めている。上位モデルであるはずのProがこれらのタスクで下位モデルに劣るようでは、フラッグシップとしての面目が立たない。

再設計されたモデルでは、Gemini 2.5 Proの2倍となる200万トークンのコンテキストウィンドウ、多ステップの論理的思考を可能にする「Deep Think」推論レイヤー、そして複雑なコーディングやツール利用タスクを連携させる自律型ワークフロー機能の搭載を目指しているとされる。ただし、これらはすべて第三者の報道やリークに基づくスペックであり、Googleの公式ドキュメントには一切記載されていない。現時点で、公開されているGemini APIのドキュメントに「gemini-3.5-pro」の記載はなく、確実な事実は、このモデルが開発中であり、内部で稼働しているものの、外部向けのリリース目標を3回連続で逃したということだけだ。

■コンテキストウィンドウの「サイズ」と「品質」の乖離

仮に200万トークンというコンテキストウィンドウが実現すれば、技術的には大きな成果だ。しかし、コンテキストウィンドウの「サイズ」と「品質」は全くの別物であり、独立した研究機関の調査では、その間に大きな乖離があることが一貫して指摘されている。

Chromaが2025年に実施した「Context Rot(文脈の劣化)」調査によると、テストされた18の最先端モデルすべてにおいて、コンテキストが長くなるにつれて例外なく性能が低下し、多くの場合、公表されている上限値に達するはるか手前で急激な劣化が始まることが分かっている。学術的にも「Lost in the Middle(中央での埋没)」現象として知られており、長い入力の中央付近に重要な情報がある場合、最初や最後に配置されている場合と比べてタスクの処理精度が著しく低下する。現行のGemini 3.1 Pro(100万トークン対応)でもこの傾向は見られ、独立ベンチマークでは、128Kトークンを超えるとコンテキストの想起品質が急落し、100万トークンのフルレンジでは約26%まで低下することが確認されている。再設計された3.5 Proが、単なるサイズ拡張だけでなく、長文コンテキストにおける推論品質の課題を克服できているかどうかが、開発者にとって最初の評価基準になるだろう。

■3度目の延期:ハルシネーションと信頼性の壁

さらに深刻なのは、3度目の延期のニュースだ。Geeky Gadgetsが7月15日(現地時間)に報じたところによると、Gemini 3.5 Proは主要なベンチマークテストで競合の「GPT-5.6」に及ばず、生成出力における頻繁なハルシネーションや、実務ワークフローにおける出力の不整合といった課題に直面しているという。これらは、最初の再設計の原因となったSVGやツール呼び出しの問題とは異なるフェーズの課題だ。この報道が事実であれば、再設計によって初期のハードルは越えたものの、今度はハルシネーション率や実用的な信頼性という別の壁にぶつかり、リリースを阻まれていることになる。

同報道は、Google DeepMindが「Gemini 3.6 Flash」や「Gemini 3.5 Flash Light」といったモデル名を登録したことも伝えており、Proの開発時間を稼ぐために暫定的なモデルのリリースを準備している可能性を示唆している。これらは未確定の情報であり、モデル名の登録から実際の製品化まで数ヶ月かかることもあれば、計画自体が立ち消えになることもある。しかし、もしProに先んじて暫定的なFlashのバリアントがリリースされれば、Googleがフラッグシップモデルの長期化を受け入れ、出荷可能な製品で競合とのギャップを埋めようとしているシグナルとなる。

また、Geeky Gadgetsの分析によれば、Googleは3.5 Pro世代を完全にスキップし、リソースを「Gemini 4.0 Flash」に集中させる選択肢も検討しているという。CEO自らがタイムラインを予告したモデルを公表後にスキップするのは異例の事態だが、技術競争のスピードが極めて速い現在のAI業界においては、数ヶ月の遅れが致命傷になり得るため、あり得ない選択肢ではない。

■競合他社はすでに実戦投入済み

Googleが足踏みをしている間にも、競合他社との格差は急速に広がっている。Anthropicの「Claude Fable 5」は、輸出管理規制の審査を経て7月1日にリリースされた。OpenAIの「GPT-5.6」も7月9日に一般提供が開始され、ChatGPTやAPIを通じて3つのティア(Sol:入力100万トークンあたり5ドル、出力30万トークンあたり30ドル/Terra:同2.50ドル、15ドル/Luna:同1ドル、6ドル。1ドル=162円換算で、Solは入力約810円、出力約4,860円)で展開されている。OpenAIの発表によれば、最上位のSolはTerminal-Bench 2.1で新たな最高スコアを記録したという。

さらに、xAIとSpaceXが統合したSpaceXAIからは、7月8日に「Grok 4.5」がリリースされた。価格は入力100万トークンあたり2ドル(約324円)、出力6ドル(約972円)と非常にアグレッシブだ。イーロン・マスク氏によれば、1.5兆パラメータの「V9」基盤モデルをベースにしているとされる(ただし公式ドキュメントにパラメータ数の記載はなく、未検証の主張として扱う必要がある)。Grok 4.5は、SpaceXAIが2026年6月に買収合意を発表したコーディングエディタ「Cursor」の開発者セッションデータを用いて共同学習されており、エージェントによるコーディングワークロードに特化している。独立評価機関のArtificial Analysisは、Grok 4.5をインテリジェンス指標で4位に位置づけている。

結果として、主要なAI開発企業の中で、自社CEOが約束した期日までに2026年のフラッグシップモデルを一般提供できていないのはGoogleだけという状況になっている。

■予測市場に広がる懐疑論

予測市場もこの3度目の延期シグナルに反応している。PolymarketのGemini Pro予測市場(取引高32万3,000ドル超)では、最新データによると「7月31日までのリリース」の確率が81%に低下し、別の「次のGemini Proモデルのリリース時期」を予測する市場では「8月7日」が73%の確率でリードしている。これは、市場参加者が7月17日や7月24日のリリースはないと見て、リアルなお金を賭けていることを示している。

■現場を支える「Gemini 3.5 Flash」

Proの再設計が長引くなか、5月19日のリリース以来、実際の開発現場を支えているのは「Gemini 3.5 Flash」だ。Googleの公式発表によると、FlashはTerminal-Bench 2.1で76.2%、MCP Atlasで83.6%、CharXiv Reasoningで84.2%を記録し、すべての指標でGemini 3.1 Proを上回っている。価格は入力100万トークンあたり1.50ドル(約243円)、出力9ドル(約1,458円)で、競合の最先端モデルの4倍の速度で動作する。Flashは、エージェントのループ処理や高速なコード生成など、ミリ秒単位の応答が求められるエンタープライズツール向けに最適化されている。一方、将来リリースされるであろうProの役割は、複数ファイルにまたがるコード修正や長文ドキュメント解析など、より長い推論チェーンを必要とする複雑なタスクの処理になる。

■DeepSeekの「7月24日」移行期限は待ってくれない

Googleのスケジュールに関わらず、開発者が猶予なく対応しなければならないのが「DeepSeek」のAPI移行だ。旧モデルのエイリアスである「deepseek-chat」と「deepseek-reasoner」は、日本時間の7月25日午前0時59分(UTC 7月24日15時59分)をもってサポートを終了する。これらのエイリアスを使用している開発者は、期日までに「deepseek-v4-pro」または「deepseek-v4-flash」へ移行する必要がある。コード内のパラメータを1箇所変更するだけで対応可能だ。

なお、DeepSeek V4を長期的な技術スタックとして検討するにあたり、同社が中国に本社を置いている点は留意すべきである。中国の国家情報法(2017年)に基づき、すべての組織および市民は国の情報活動への協力を義務付けられている。この法律は、サーバーの所在地やプライバシーポリシーの内容に関わらず適用されるため、機密性の高いビジネスデータやユーザー情報を扱う場合は、この法的リスクを考慮に入れる必要がある。

■開発者が今取るべきアクション

7月17日のGemini 3.5 Proリリースを前提に計画を立てていた開発者チームは、6月時点と同様のスタンスを取るべきだ。モデルは突如リリースされる可能性もあるが、確実な依存先として計画に組み込むべきではない。公式なリリースシグナルは、公開されているGemini APIドキュメントに「gemini-3.5-pro」が一般提供モデルとして掲載されることだけだ。リークや未確認の内部情報はリリースを意味しない。

Vertex AIを利用しており、どうしてもProクラスの機能が必要な場合は、Googleの担当者にエンタープライズプレビューへのアクセスについて問い合わせることをお勧めする。また、コンテキストウィンドウが100万トークン以内に収まるワークロードであれば、すでに利用可能なGemini 3.5 Flash、GPT-5.6 Terra、あるいはClaude Fable 5が現実的な選択肢となる。そして、DeepSeekの移行期限(7月24日)については、Googleの動向に関わらず最優先で対応を完了させるべきだ。

■Googleが置かれた戦略的ポジションと人材流出の影

短期的なリリースの成否以上に重要なのは、検索、Android、Workspace、Vertex AIといったGoogleの圧倒的な配信・流通チャネルの強みが、3度のリリース延期によって生じた遅れをカバーできるかという点だ。開発者がリアルタイムに技術スタックを固定化しつつある現在、Googleはすべてのベンチマークで首位を取る必要はないが、妥当な価格で「十分に信頼できる」モデルを、開発者が他社ツールへの移行を決断してしまう前に提供する必要がある。

この遅延の背景には、深刻な人材流出も影を落としている。Transformerの共同執筆者であり、Googleが2024年にCharacter.AIから27億ドル(約4,374億円)を投じて呼び戻したGeminiの共同リード、ノーム・シャジール氏が6月に再び退社し、OpenAIに移籍した。その翌日には、AlphaFoldの開発に貢献したノーベル賞受賞者のジョン・ジャンパー氏がAnthropicへ移籍。さらに同じ週、GoogleのAIコーディング部門のジョナス・アドラー氏や、事前学習スペシャリストのアレクサンダー・プリッツェル氏もAnthropicへ去った。これらの一連の離脱を受け、Alphabetの株価は約5〜7%下落し、時価総額にして約2,250億ドル(約36兆4,500億円)が消失した。DeepMindのCEOデミス・ハサビス氏は「我々には他社を圧倒する最大かつ広範な研究者層がある」と語るが、人員の多さがそのまま開発スピードに直結するかどうかは、今後のGemini 3.5 Proの仕上がりにかかっている。

■注目ポイントQ&A

●Gemini 3.5 Proは現時点でリリースされていますか?

いいえ、リリースされていません。一般公開されているGemini APIドキュメントには掲載されておらず、現在はVertex AI上で限定的なエンタープライズプレビューが提供されているのみです。7月17日という日程はリークに基づく予測であり、ハルシネーションや信頼性の課題により3度目の延期に直面していると報じられています。

●なぜGemini 3.5 Proのリリースは3回も延期されているのですか?

延期ごとに理由が異なります。1回目(6月)はコーディング性能や推論能力の微調整、2回目は再帰的ツール呼び出しやSVG生成における構造的欠陥による「事前学習からのやり直し」、そして今回の3回目は、再設計されたモデルにおいてもハルシネーション率や実用的な信頼性基準が競合(GPT-5.6など)のレベルに達していないためと報じられています。

●噂されている「入力1,000万トークンあたり15ドル」という価格は競合と比べてどうですか?

この価格は未確定の予測値ですが、もし事実であれば競合より高価になります。現在提供されているOpenAIの最上位モデル「GPT-5.6 Sol」は入力100万トークンあたり5ドル、SpaceXAIの「Grok 4.5」は2ドルで提供されており、Gemini 3.5 Proがこの価格設定で競争力を維持するには、ベンチマークで圧倒的な差を示す必要があります。

●Googleの動向に関わらず、開発者が対応しなければならない直近の締め切りはありますか?

7月24日(日本時間では7月25日午前0時59分)に、DeepSeekの旧APIエイリアス(deepseek-chatおよびdeepseek-reasoner)が廃止されます。これらを利用しているシステムは、期日までに「deepseek-v4-pro」または「deepseek-v4-flash」へ移行する必要があります。

元記事: Rebuilt Gemini 3.5 Pro Misses Third Deadline: Google Eyes Stopgap Release

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