イスラエルの半導体大手に経産省が1600億円補助、日本でのシリコンフォトニクス増産に約6000億円投資へ
2026年7月16日 10:06
イスラエルノ半導体ファウンドリ、タワー・セミコンダクターは、日本国内におけるシリコンフォトニクスおよびシリコンゲルマニウム(SiGe)の生産能力増強に向け、約6000億円規模の投資計画を発表した。経済産業省がこのうち最大約1600億円を助成する。AIクラスターの高速化に伴い、従来の銅線接続が物理的な限界を迎えるなか、同社は光を用いた次世代接続技術の需要を確実に取り込む狙いだ。
■銅の物理的限界と光接続への必然的移行
タワー・セミコンダクターが賭ける需要は、一時的なサイクルによるものではなく、構造的なものだ。従来の銅線は電子を移動させてデータを伝送するが、高周波数の電子は「表皮効果」の影響を受ける。データ転送速度がテラビット級に達すると、電流が導体の表面に集中し、抵抗、発熱、信号損失が劇的に増加する。
業界関係者や技術文献によると、データ転送速度が毎秒1.6テラビット(Tbps)以上になると、銅線ケーブルでは信号品質を維持できなくなり、AIクラスターのアーキテクチャにおいて必要な帯域を確保するにはケーブルが過度に太くなる一方、実用的に伝送できる距離も短くなり、AIクラスターの配線には適さなくなる。これは銅の材質改善やイコライゼーション技術の向上で解決できる問題ではなく、材料そのものの物理的限界である。AI学習クラスターの規模が拡大し、短い銅線ケーブルでは信頼性の高い接続を維持できなくなったとき、光が唯一の選択肢となる。
■2028年財務目標を大幅上方修正、受注はすでに確定
2026年7月14日に発表されたこの増産計画は、まさにこの市場の物理的要請に基づいている。最高経営責任者(CEO)のラッセル・エルワンガー氏は、今回の拡張を「次世代の光接続要件に対する、急速に高まる長期的な顧客需要」に応えるものと説明した。この表現は、将来の予測ではなく、同社がすでに締結した契約を反映している。
同社は2026年5月時点で、2027年の売上高として13億ドル規模となるシリコンフォトニクス関連契約を締結済みであり、顧客から2億9000万ドル(約469億8000万円)の前受金を受領している。さらに同じ顧客から、2028年については2027年を「大幅に上回る」生産能力の予約を受けているという。
この発表に伴い、同社は2028年のビジネスモデルを上方修正し、売上高目標を従来の28億ドルから36億ドル(約5832億円)に、純利益目標を7億5000万ドルから12億ドル(約1944億円)に引き上げた。これを受けて、同社の株価は翌日の市場前取引で17%以上急騰した。
■シリコンフォトニクスの仕組みと技術的課題
シリコンフォトニクスは、電気信号ではなく光のパルスとしてデータを伝送する技術だが、これを大規模に製造するには、従来の半導体製造とは異なる課題を解決する必要がある。
製造の出発点は、絶縁層である二酸化ケイ素膜の上に薄いシリコン層を形成したSOI(Silicon-on-Insulator)ウェハである。このシリコン層の中に光を導く導波路を形成する。シリコンの屈折率は約3.5、シリカは約1.44であり、この屈折率の差によって光は全反射を繰り返し、幅わずか数百ナノメートルのシリコンチャネル内に閉じ込められて進む。光通信で広く使われる1.55マイクロメートルの波長において、シリコンは透明であり、光は吸収されることなく伝播する。
光にデータを載せる変調方式として商用上広く用いられているのが、マッハツェンダー変調器(MZM)である。タワーの量産プラットフォームもこの構成を採用している。これは光を2つの経路に分岐させ、シリコン内の自由キャリア密度を変化させて片方に位相差を生じさせた後、再び結合させて干渉を起こすことで振幅変調を行う仕組みだ。このアーキテクチャはCMOS互換性があり、標準的な半導体製造装置で製造できる利点がある。
しかし、純シリコンを用いたキャリア空乏型MZMには、電気光学帯域幅が約50GHzに制限されるという物理的な天井がある。1レーンあたり100Gbpsの伝送には十分だが、次世代の200Gbpsや400Gbpsのレーンには100GHz以上の帯域幅が必要となり、シリコン単体では対応できない。同社は2026年3月の光ファイバー通信カンファレンス(OFC)において、米コヒーレント(Coherent)と共同で、シリコンMZMとインジウムリン(InP)レーザーを組み合わせた1レーンあたり400Gbpsのデモを実施した。シリコンが変調を担い、発光効率の低いシリコンに代わってInPレーザーが光源を提供する仕組みだ。
同社のロードマップはこの限界を見据え、薄膜ニオブ酸リチウム(TFLN)や有機電気光学ポリマー、InP集積型変調器など、3.2テラビット世代のトランシーバーに求められる200GBaud超の動作領域に対応する次世代変調器プラットフォームの開発を進めている。
■300mmウェハへの移行とCPOへの対応
受光部(検出器)側では、シリコンが光を吸収できない1.55マイクロメートルの波長を効率よく吸収するため、ゲルマニウム光検出器が使用される。これが、同社のプラットフォームにおいてシリコンフォトニクス(SiPho)とシリコンゲルマニウム(SiGe)が一体の技術スイートとして提供されている理由である。
また、製造コストにおいて300mmウェハへの移行は極めて重要だ。200mmから300mmウェハに移行することで、ウェハ1枚あたりの面積は約2.25倍になり、固定費をより多くのチップに分散できる。同社の魚津工場(富山県魚津市、旧第7工場)は、2024年に稼働した同社初の300mm SiPho対応施設である。今回の6000億円規模の拡張計画はすべて300mmウェハを前提としており、新井工場(新潟県妙高市、旧第6工場)の転換や、魚津工場の隣接地に計画されている新工場の建設もこれに含まれる。
さらに、データセンターのアーキテクチャは、従来の着脱式トランシーバーモジュールから、光エンジンをスイッチASICパッケージに直接統合する「コパッケージド・オプティクス(CPO:Co-Packaged Optics)」へと移行しつつある。CPOは電気配線長をほぼゼロにすることで消費電力を劇的に削減する。同社のプラットフォームは、着脱式とCPOの両方をサポートするように設計されている。
■リスク管理を徹底した2トラック戦略
今回の拡張計画は、タイムラインとリスクプロファイルの異なる2つのトラック(並行路線)で進められる。
「トラック1」は、かつて半導体組み立てに使用されていた新潟県の新井工場を、300mm SiPhoおよび先進パッケージング拠点へと転換する計画だ。同社は2027年第4四半期までに量産準備を全面的に整えることを目指しており、同時に富山県の魚津工場の生産能力を最大化する。同社が発表した2028年の財務目標は、このトラック1のみに基づいている。
「トラック2」は、より規模が大きく、不確実性を伴う投資だ。魚津工場の隣接地に全く新しい300mm製造棟を建設する計画だが、これはまだ開示されていない契約の締結と完了を前提としている。この新工場はSiPhoおよびSiGeの生産能力を「数倍」に引き上げるもので、2029年以降に本格的な収益貢献が期待されている。
この2トラック構造の背景には、徹底したリスク管理がある。トラック1は、すでに収益を上げ、顧客からのプロセス認定を終えている魚津工場の既存ラインを拡張する形をとる。そのため、増産された最初のウェハは、通常1〜2年を要する新たな顧客認定プロセスを経る必要がない。トラック2は並行して新棟の建設とツール導入を進めるが、ゼロから立ち上げるのではなく、すでに認定済みのプロセス基盤をベースにする。エルワンガーCEOは、これを新設工場でゼロから顧客認定を取得する場合や、工場間で製品を移管する場合のように「何サイクルもの学習と検証」を必要とする手法とは対照的であると強調した。
プロジェクトの総コストは、経産省からの約10億ドルの助成金を差し引いて約30億ドルとなる。同社の開示情報では、装置のリードタイム、許認可、助成金の交付条件(違反した場合は資金の一部または全部を失うリスクがある)、トラック2の最終契約の締結といった、この規模のプロジェクトに伴う標準的なリスクが挙げられている。また、2026年に適用が始まったOECDの「第2の柱」による15%の最低法人税率も追加的な税負担要因となる。主にイスラエル事業が影響を受け、同事業は従来7.5%の優遇税率を享受していた。
■日本政府がイスラエル企業を支援する産業論理
経産省による約1600億円の助成金は、単一企業への支援としては巨額だが、これは日本政府が2021年の世界的な半導体供給不足以降、緊迫感をもって進めてきた半導体・AI産業支援策の一環である。経産省は2026年度予算において、半導体・AI関連プログラム向けに前年度の約3.7倍となる1兆2,390億円を確保した。
タワーのシリコンフォトニクス生産能力の拡張は、日本の半導体3本柱戦略において独自のニッチを埋めるものだ。TSMCとソニーによる熊本での共同事業(JASM)は成熟ロジックを対象とし、政府支援のラピダス(Rapidus)は北海道で2ナノメートルの最先端ロジック製造を目指している。しかし、どちらのプログラムもシリコンフォトニクスやシリコンゲルマニウムの大規模製造はカバーしていない。
タワーの魚津工場は、日本国内におけるシリコンフォトニクスの拠点としてすでに機能していた。300mmの認定済みプロセス、生産設備、そして2014年にパナソニックの半導体事業から買収したことで引き継いだ、数十年にわたるアナログプロセスの知見を持つ人材が揃っている。経産省の助成金は、この卓越した技術拠点を日本国内に留め、さらに拡張させるための投資と言える。
また、今回の規模の投資を可能にした前提条件の一つが、2026年3月に合意されたタワーとヌヴォトンテクノロジージャパン(NTCJ)の日本国内合弁事業の再編である。再編は規制当局の承認などを条件に、2027年4月1日前後に完了する予定だ。この合意に基づき、タワーは300mmの魚津工場を全額出資の日本法人傘下で単独所有し、NTCJは200mmの砺波工場を単独所有することになる。このガバナンスの明確化が、取締役会と株主が30億ドルの投資に踏み切る前提条件となった。
■競合他社を一歩リードするタワーの立ち位置
300mmシリコンフォトニクスに注力しているファウンドリはタワーだけではない。しかし、同社が築いた先行優位性は極めて大きい。
グローバルファウンドリーズ(GlobalFoundries)はシンガポールのAMFを買収して技術を獲得し、200mmから300mmへのアップグレードを計画している。STマイクロエレクトロニクス(STMicroelectronics)はイタリアの工場でタワーと300mmラインを共有しており、UMCも300mm計画を立ち上げている。しかし、業界の分析によると、競合他社はシリコンフォトニクス集積回路の分野において、依然としてタワーの後塵を拝しているとされる。
今回の日本における6000億円の投資計画と、すでに確保されている13億ドルの確定契約は、競合他社がタワーのポジションを模倣するのをさらに困難にするだろう。タワーにはグローバルファウンドリーズからの特許侵害訴訟というリスクも残るが、同社はこれを事業継続に対する致命的な脅威ではなく、継続的な法的問題として処理している。
ハイパースケーラーやインフラ企業が、シリコンフォトニクスを単なる調達品ではなく戦略的物資として扱い始めるなか、タワーの巨額投資はすでに需要側から裏付けられた賭けとなっている。今後の焦点は、同社が計画通りのスケジュールで建設、装置導入、そして顧客認定を遂行できるかどうかに移っている。
■注目ポイントQ&A
●シリコンフォトニクスとは何ですか?なぜAIに必要なのですか?
シリコンフォトニクスは、従来の半導体製造でも使われるSOIウェハプロセスを利用して、光のパルスでデータを伝送・処理する光学部品を製造する技術です。AIデータセンターにおいて、従来の銅線接続は毎秒1.6テラビット以上の速度になると物理的な限界(表皮効果による発熱や信号損失の急増)を迎えます。光接続は、銅配線と同じ帯域幅と伝送距離のトレードオフを受けにくいため、AIクラスターの規模拡大において物理的に不可欠な技術となっています。
●タワー・セミコンダクターの2028年売上目標36億ドルは、どのような根拠に基づいていますか?
この目標は単なる予測ではなく、すでに締結された契約に基づいています。同社は2026年5月時点で、2027年分として13億ドルの供給契約を結び、2億9000万ドルの前受金を受領しています。また、この目標は新潟の新井工場の転換と富山の魚津工場の最大化(トラック1)のみを前提としており、新設予定の製造棟(トラック2)の売上は含まれていません。
●シリコンフォトニクスは通常の半導体と何が異なり、どのような課題がありますか?
電子ではなく光を制御する点が異なります。課題としては、シリコン自体が効率よく発光できないため、外部のインジウムリン(InP)レーザー光源を組み合わせる必要がある点です。また、純シリコンの変調器は帯域幅が約50GHzに制限されるため、次世代の超高速通信に向けて、薄膜ニオブ酸リチウム(TFLN)などの新材料をシリコン基盤上に統合する技術開発が進められています。
元記事: Tower Semiconductor Commits $3 Billion to Silicon Photonics: Japan Backs the Bet