AMDのRadeonドライバに「FSRマルチフレーム生成」の記述が浮動、最大8倍(AIフレーム7枚)に対応か
2026年7月14日 14:52
AMDの最新Radeonドライバパッケージから、最大8倍のマルチフレーム生成比率を示す隠しエントリーがサードパーティ製ユーティリティによって発見された。これは、AMDがNVIDIAのAIフレーム生成技術に対抗しようとしている最も具体的な証拠とみられている。現時点では機能は動作せず、AMDからの公式発表もないが、ドライバの記述は将来的な性能上限を示唆している。
■ドライバの記述から判明した内容
今回の発見は、AMDの標準「Adrenalin」ソフトウェアの軽量なオープンソース代替ツールである「RadeonTuner」によってもたらされた。Chiphellフォーラムのユーザーが、2026年6月22日にRadeon RX 7000シリーズ向けにFSR 4.1アップスケーリングを提供した「Adrenalin 26.6.2 WHQL」ドライバに対して同ツールを実行したところ、「実験的設定を表示(Show Experimental Settings)」トグルの奥に、これまで見られなかった実験的コントロール群が埋め込まれているのを発見した。
特に注目を集めたのは、機能を有効にする「MfgOverride」と、比率を選択する「MfgRatio」の2つのエントリーだ。MfgRatioでは、アプリケーション制御モードのほかに、1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍の選択肢が用意されている。RadeonTunerはこの機能を「FSR Multi Frame Generation」と分類しており、実験的コントロールの対象をRDNA 4以降のハードウェア(Radeon RX 9000シリーズ)に制限している。また、同ドライバビルドには「FSR Ray Regeneration」や「FSR Neural Radiance Caching」のオーバーライドコントロールも含まれており、AMDがこれらをドライバレベルで幅広く有効化するアプローチを計画している可能性が示唆されている。
■現時点では動作しないものの、意図的な実装
コミュニティによる検証の結果、これらの新しいエントリーは現時点では機能しないことが確認されている。「RX 9070 XT」および「RX 9060 XT」を使用し、『Forza Horizon 6』『Pragmata』『Resident Evil 9』『Crimson Desert』『Death Stranding 2』でテストが行われたが、どの比率でもアクティブなマルチフレーム生成は出力されなかった。必要なAIモデルファイルやFSRソフトウェアコンポーネントが、現在のドライバパッケージに同梱されていないためだ。
RadeonTunerの開発者である「Dumbie」氏は、AMDが機能の正式リリース数ヶ月前にドライバオプションを事前に挿入し、アプリケーションのインターフェースを前もって準備しておくことは日常的であると指摘している。このパターンには前例があり、2026年4月に静かにリリースされたAMDの「ADLX 1.5 FidelityFX SDK」アップデートには、カスタムMFG比率を読み書きするためのAPIメソッドがすでに文書化されていた。
■「実レンダリング1枚に対し、AI生成7枚」の計算
8倍のマルチフレーム生成比率とは、ネイティブでレンダリングされた1つのフレームをAIパイプラインに投入し、モデルがその周囲に7つの中間フレームを生成することで、1回のレンダリングサイクルあたり計8フレームを出力することを意味する。GPUOpenのドキュメントによると、FSRフレーム生成は、ゲームエンジンからのオプティカルフロー推定とモーションベクトルデータを使用してピクセルごとの動きを予測し、それをモーションベクトルの再投影とブレンドして、前後のフレームと一貫性のある中間フレームを合成する仕組みだ。
この計算をネイティブ60fpsの出力に適用すると、理論上は480fpsに達する。これは、2025年から2026年にかけて市場に登場し始めた480Hzや540Hzの超高リフレッシュレート対応ゲーミングモニターにおいて極めて意味のある数値となる。この比率では、ディスプレイに表示される映像のわずか12.5%のみがGPUによって実際にレンダリングされ、残りの87.5%はAIの推論出力となる。
■フレームペーシングという技術的課題
単純な倍率の数値を上げることは容易だが、アグレッシブなフレーム生成において真に困難なのは「フレームペーシング」の制御だ。レンダリングされたフレームと生成されたフレームの配信間隔を均等に保ち、スタッター(カクつき)やティアリング、遅延のスパイクを発生させずにディスプレイに届ける必要がある。
NVIDIAは「DLSS 4」において、Blackwell世代の「RTX 50シリーズ」ディスプレイコントローラに「ハードウェア・フリップ・メータリング」を導入することでこの問題を解決した。これにより、フレームペーシングのロジックがCPU上のソフトウェアからディスプレイエンジンハードウェア自体に移行し、極めて精密なタイミング管理が可能になった。CES 2025で発表されたDLSS 4は最大4倍(生成フレーム3枚)に対応し、2026年3月下旬の「DLSS 4.5」では最大6倍(生成フレーム5枚)に拡張されたが、これらはハードウェア依存の機能となっている。
一方、AMDのRDNA 4アーキテクチャはソフトウェアベースのフレームペーシングを採用している。2026年1月に「FSR Redstone」のMLフレーム生成がテストされた際には、フレームタイムのスパイクや入力遅延が報告されており、AMDは2026年7月初旬の「FidelityFX SDK 2.3」およびドライバ「26.6.4」でこの問題に対処した。ハードウェアによる支援なしに、ソフトウェアベースの制御だけで8倍という高比率のフレームペーシングを安定してスケールさせられるかどうかは、今後の大きな焦点となる。
■AMD、NVIDIA、Intelの技術比較
マルチフレーム生成の競争は急速に進んでいる。NVIDIAは2026年3月にDLSS 4.5で最大6倍の動的MFGを実現し、Intelの「XeSS 3」は最大4倍をサポートしている。これに対し、AMDが現在正式に提供しているのは、RDNA 4ハードウェア上のFSR Redstoneによる1枚生成(合計2倍出力)のみである。
もし今回の8倍設定が実用化されれば、数値上はNVIDIAの現在の6倍という上限を追い抜くことになる。NVIDIAも将来的に最大16倍を目指すことを技術プレゼンテーションで示唆しているが、現時点で6倍を超えるものは出荷していない。ただし、単純な倍率比較だけで画質や遅延の優劣は決まらない。2026年にComputerBaseが実施した約7,000人のゲーマーによるブラインドテストでは、DLSS 4.5の好感度がFSR 4を約2倍上回っており、AMDはこの格差を次世代技術「FSR Diamond」で埋めようとしている。
■オープンソース戦略とハードウェア制限のジレンマ
AMDのFSRは、NVIDIAのDLSSとは異なり、競合他社のGPUでも動作するハードウェア非依存のオープンソース設計を特徴としてきた。しかし、今回のドライバに記述された「MfgRatio」および「MfgOverride」は、RDNA 4以降のハードウェアに制限されている。AMDがこの8倍MFGをRadeon独自のドライバレベル機能として維持するのか、あるいは将来的にGPUOpen FSR SDKを通じて他社製GPUにも開放するのかは不明である。RDNA 4限定となればRadeonの強力な競争優位性となるが、オープン化されれば他社製GPUユーザーも恩恵を受けることになる。
■今後の展望:FSR DiamondとRDNA 5
AMDの長期ロードマップには、すでに「FSR Diamond(FSR 5と目される)」という名称が存在する。2026年3月のGDCにて、AMDのジャック・フイン(Jack Huynh)氏は、Microsoftの次世代Xbox(コードネーム:Project Helix)と密接に連携した共同開発技術としてFSR Diamondを発表した。これはMLベースのマルチフレーム生成やニューラルレンダリングを含む次世代技術とされている。
ハードウェアリーカーのKepler_L2氏によると、FSR Diamondは2027年登場予定の「RDNA 5」アーキテクチャ専用になるという。その理由は、RDNA 5で導入されるニューラルシェーダーのデータウィンドウの大幅な拡張(従来の100キロバイト未満から約25メガバイト以上へ)が必要となるためだ。これにより、フレームを細分化せずに大単位でAI処理できるようになり、画質の向上が期待できる。
AMDのロードマップは、現在のRDNA 4によるソフトウェアベースのアプローチと、将来のRDNA 5による専用ハードウェアアプローチの2系統で進んでいる。今回発見された8倍のドライバ記述はその中間に位置しており、現行ハードウェアでどこまで実現できるか、あるいはRDNA 5の登場を待つことになるのか、今後の動向が注目される。
■注目ポイントQ&A
●AMDが計画している8倍マルチフレーム生成は、NVIDIAのDLSS 4.5とどう違いますか?
NVIDIAのDLSS 4.5は最大6倍(実フレーム1枚に対しAI生成5枚)ですが、Blackwell世代のハードウェアによる「フリップ・メータリング」機能を用いて精密なフレームペーシングを行っています。一方、AMDのドライバから見つかった記述は最大8倍(AI生成7枚)と数値上は上回りますが、RDNA 4はソフトウェアベースのフレームペーシングを採用しており、スタッターや遅延を抑えて安定動作させられるかが課題となります。
●RX 9070 XTやRX 9060 XTなどのRDNA 4ユーザーは、実際に8倍フレーム生成を利用できるようになりますか?
利用可能になる可能性はありますが、確定していません。ドライバ内の記述はRDNA 4以降に制限されているため、AMDが検証を行っていることは確かですが、次世代の「FSR Diamond」はRDNA 5専用になるとも噂されています。RDNA 4向けには制限付きで提供され、完全な8倍機能はRDNA 5向けに予約される可能性もあります。
●FSRはオープンソースですが、この8倍フレーム生成はNVIDIAやIntelのGPUでも使えますか?
現時点では自動的に使えるわけではありません。FSRのSDK自体は他社製GPUでも動作する設計ですが、今回発見された8倍MFGのエントリーはAMDのRadeonドライバ内にあり、RDNA 4以降のハードウェア制限がかけられています。将来的にオープンなSDKとして公開されるかどうかは、AMDの公式発表を待つ必要があります。
元記事: AMD Radeon Drivers Reveal FSR Multi-Frame Generation Ceiling: Seven AI Frames Per Render