Metaの初有料AIモデル「Muse Spark 1.1」、独立系ベンチマーク公開―競合比3分の1のコストで同等性能
2026年7月13日 16:59
独立系評価機関のArtificial Analysisは、Metaが2026年7月9日にAPI提供を開始したAIモデル「Muse Spark 1.1」のベンチマークデータを公開した。このデータは、同モデルが4月の初期バージョンから大幅に向上したことを示す一方で、最先端のコーディングエージェントモデルとの間には依然として9ポイントの性能差があることを明らかにしている。しかし、競合モデルの約3分の1という圧倒的な低コストは、コスト効率を重視する開発者チームにとって強力な選択肢となりそうだ。
■競合モデルの3分の1のコストで同等性能を達成
独立系評価機関のArtificial Analysisが発表したベンチマークデータによると、Metaの「Muse Spark 1.1」は、同機関の総合評価指標「Intelligence Index」において「51」を記録した。これは中国・智譜AIの「GLM-5.2」やOpenAIの「GPT-5.4」と同じスコアである。
特筆すべきはそのコスト効率だ。Artificial Analysisの試算によると、同インデックスの評価スイートを完了するまでの1タスクあたりのコストは、GPT-5.4が0.89ドル(約144円)、GLM-5.2が0.37ドル(約60円)であるのに対し、Muse Spark 1.1は約0.26ドル(約42円)に抑えられている(1ドル=162円換算)。
このコスト差は、単なる計算上の誤差ではない。評価スイートの完了までに生成された出力トークン数が、GPT-5.4の1億9000万トークン、GLM-5.2の1億4100万トークンに対し、Muse Spark 1.1は9400万トークンと大幅に少なかったことが要因だ。これにより、最も効率的な競合モデルと比較しても、出力トークン数を33%削減しつつ、より低いトークン単価を実現している。
なお、Artificial AnalysisはMetaを含むAI各社のベンチマーク評価を請け負っており、Muse Spark 1.1の正式リリース前評価においてMetaを支援したことを公表している。同機関はすべてのモデルに同一の固定手法を適用しており、Intelligence Indexにおける信頼区間は±1%未満としているため、ベンダー発表値よりも制御された比較が可能だが、解釈の際にはこの事前評価における協力関係に留意する必要がある。
■3ヶ月で8ポイント向上、弱点だった領域を重点的に強化
Muse Spark 1.1が記録した「51」というスコアは、4月の初期バージョンの「43」から8ポイント向上している。Artificial Analysisによると、この向上は科学的推論、コーディング、知識の各領域に集中している。これらは、初期バージョンをテストした開発者から弱点として指摘されていた領域だった。
具体的には、Intelligence Index内のコーディングサブスコアが59から71へと12ポイント上昇した。また、科学的推論ベンチマーク「SciCode」では58%を記録し、評価済みモデルの中でClaude Fable 5(60%)、Gemini 3.1 Pro Preview(59%)に次ぐ3位にランクインした。難関試験ベンチマーク「Humanity's Last Exam」では45%に達し、Claude Opus 4.8(46%)に迫り、GPT-5.5(44%)やGrok 4.5(40%)を上回った。
さらに、コンテキストウィンドウは初期バージョンの約26万2000トークンから100万トークンへと大幅に拡張され、リポジトリレベルのコーディングタスクへの実用性が向上した。Metaの自社APIにおける出力速度は中央値で毎秒約114トークン、最初のトークンが出力されるまでの時間(TTFT)は約2.1秒となっており、同等クラスの推論モデルの中央値よりも高速である。
■「単発のコーディング」と「自律型エージェント」の評価は別物
開発チームがMuse Spark 1.1をコーディングエージェントとして採用検討する際、ベンチマークデータにおける2つの異なる評価指標を区別することが重要になる。
1つ目は、Intelligence Index内の「コーディングサブスコア」だ。これは「LiveCodeBench」に基づいており、LeetCodeやAtCoderなどの競技プログラミングプラットフォームから、コンテスト終了後に新鮮な問題を収集して評価する。これにより、モデルの学習データにテスト問題が含まれている「データ汚染」を排除できる。Muse Spark 1.1はこの評価で「71」を記録した。
2つ目は、より実践的な「Coding Agent Index」である。これはモデルにソフトウェア開発用の実行環境(OpenAIモデル用のCodex CLI、Anthropicモデル用のClaude Code、その他用のOpencodeなど)を組み合わせ、複数ステップの自律的なソフトウェア開発能力を測定するものだ。この指標では、Codex環境の「GPT-5.6 Sol」が80で首位に立ち、Claude Code環境の「Claude Fable 5」と「GPT-5.6 Terra」が77で続いている。Muse Spark 1.1は「69」にとどまっており、首位とは9ポイントの明確な差が存在する。
バグの自己診断や大規模コードベースへの機能実装など、自律的なワークフローを構築する場合は、このCoding Agent Indexの数値がより重要となる。
■ハルシネーション率は低下したが、精度向上ではなく「回答拒否」によるもの
事実の正確性とハルシネーション(嘘の出力)を測定するベンチマーク「AA-Omniscience」において、Muse Spark 1.1のスコアは4から18へと4倍以上に向上した。しかし、開発者はこの向上の背景にあるトレードオフを理解する必要がある。
Artificial Analysisの分析によると、この向上はモデルの回答精度自体が上がったからではなく、「わからない質問への回答を拒否するようになった」ためだという。回答試行率は95%から82%に低下した一方、ハルシネーション率は35ポイント低下して38%となり、正解率は41%〜45%とほぼ横ばいだった。つまり、以前のように自信満々に誤った回答(知ったかぶり)をしなくなったことで、結果的に正解の割合が高まった形だ。
人間の監視が限られるコーディングエージェントの構築において、誤ったコードを自信ありげに生成するよりも、不確実性を検知して確認を求めてくるモデルの方が実用的であり、これは有意義な改善と言える。一方で、あらゆる質問に回答することが期待される一般的な対話型ユースケースでは、18%の確率で回答を拒否する挙動は、前バージョンとは異なる製品特性として捉える必要がある。
■Metaが「原価割れ」とも言える価格設定を維持できる理由
MetaのAPI利用料金は、入力100万トークンあたり1.25ドル(約203円)、出力100万トークンあたり4.25ドル(約689円)に設定されており、同等性能を持つAnthropicやOpenAIのモデルを大きく下回る。この構造的な低価格の理由は、技術的な秘密ではなく、ビジネスモデルの違いにある。
AnthropicやOpenAIは、モデル開発や企業運営の資金をAPIの利益マージンに依存している。そのため、API収入だけで諸経費を賄う価格設定にせざるを得ない。一方、Metaは広告事業から年間600億ドル以上の利益を上げており、API単体での黒字化を必要としない。同社にとって「Meta Model API」は、WhatsApp、Instagram、Facebook、Ray-Banスマートグラスなどを含む自社の開発者エコシステムに顧客を引き込むための戦略的なチャネルであり、製品であると同時に配信プラットフォームとしての役割を担っている。
この構造的なコスト優位性は持続可能であり、API専業のAIスタートアップが模倣できるものではない。そのため、開発者はMetaの価格設定を一時的なキャンペーン価格ではなく、長期的に維持されるものとして予算計画に組み込むことができる。
■自己申告値と第三者評価の乖離、そしてMetaの戦略転換
最先端モデルの発表時には常に、ベンダーの自己申告スコアと第三者による測定値の乖離に注意を払う必要がある。例えば、Metaは自社レポートで「Terminal-Bench 2.1」のスコアを「80.0」と発表したが、Vals AIが独立した環境で実施した検証では「69.29」と、10ポイント以上の開きがあった。この乖離は7月9日のリリース直後から指摘されているが、現時点で公的な説明はなされていない。
また、Metaの過去のモデルファミリーでも同様の議論があった。2026年4月にリリースされた「Llama 4」ファミリーのベンチマーク結果について、2025年11月にMetaのチーフAIサイエンティストを退任したヤン・ルカン氏は、Financial Timesに対し「特定の評価向けに調整された特殊なモデルバージョンが使われており、実際に提供された汎用モデルはそれより性能が低かった」と指摘している。さらに、今回のMuse Spark 1.1の評価レポートにおいて、Metaの安全対策チーム自身が、特定の緩和策を講じない場合、化学・生物兵器やサイバーセキュリティの分野で「高リスク」な能力しきい値に達する可能性を排除できないと言及している点にも留意すべきである。
Muse Spark 1.1は、Metaが従来のオープンウェイト(モデルの重み公開)戦略である「Llama」から方針を転換し、チーフAIオフィサーのアレクサンダー・ワン氏率いる「Meta Superintelligence Labs(MSL)」のもとで開発した2番目のモデルである。ダウンロード数が12億回を超えたLlamaファミリーとは異なり、クローズドなホスト型API製品として提供され、Metaは初めてAnthropicやOpenAIと直接的な収益化競争に突入した。
社内で「Watermelon(スイカ)」とコードネームで呼ばれる次世代モデルもすでにトレーニング中と報じられている。7月2日の社内集会でワン氏は、WatermelonがMuse Sparkの約10倍の計算資源でトレーニングされており、社内評価では「GPT-5.5」と同等の性能に達していると主張した。ただし、この主張を裏付ける具体的なベンチマーク名やリリース時期は明らかにされておらず、第三者による検証も行われていない。
■注目ポイントQ&A
●独立系ベンチマークにおいて、Muse Spark 1.1とGPT-5.4の性能差はどのくらいですか?
Artificial Analysisの総合評価指標「Intelligence Index」では、両モデルとも「51」を記録しており、総合的な実力はほぼ同等と評価されています。しかし、コスト面では大きな差があり、Muse Spark 1.1の1タスクあたりの推定コストは約0.26ドルと、GPT-5.4の約0.89ドルに比べて3分の1以下に抑えられています。
●Artificial Analysisのベンチマークは完全に中立ですか?
Artificial Analysisはすべてのモデルに対して同一の固定された評価手法を適用しており、ベンダーの自己申告値よりも信頼性の高いデータを提供しています。ただし、同機関はMuse Spark 1.1の正式リリース前にMetaの評価支援を行っていたという商業的関係を公表しており、データを解釈する際にはこの点に留意する必要があります。
●コーディングのベンチマークによってスコアが異なるのはなぜですか?
測定しているタスクの性質が異なるためです。「LiveCodeBench」などの単発のコーディング評価(Muse Spark 1.1はスコア71)は、1回限りの問題解決能力を測定します。一方で「Coding Agent Index」(同モデルはスコア69)は、コードの記述、実行、エラーの修正を自律的に繰り返す複数ステップのソフトウェア開発能力を測定します。用途に合わせて参照する指標を分ける必要があります。
●Meta Model APIの利用料金とアクセス権について教えてください。
料金は入力100万トークンあたり1.25ドル、出力100万トークンあたり4.25ドル(キャッシュヒット時は100万トークンあたり0.15ドル)です。新規アカウントには20ドル分の無料クレジットが付与されます。現在は米国限定のパブリックプレビュー段階で、ウェイトリストへの登録が必要です。APIはOpenAIのライブラリと互換性があるように設計されています。
元記事: Meta Muse Spark 1.1 Earns 71 on Independent Coding Benchmark at One-Third Rival Cost