ボコ・ハラムが爆薬設計や攻撃計画にAIユニットを組織導入、ケンブリッジ大が報告

2026年7月13日 16:15

ケンブリッジ大学が発表した調査報告書により、テロ組織ボコ・ハラムが最先端のAIツールを軍事指揮構造に組織的に組み込んでいた実態が明らかになった。過激派組織ISIS(イスラム国)の工作員が、AIの安全フィルターを回避する「脱獄(ジェイルブレイク)」技術の対面訓練を2023年から指導していたとされる。大手AI企業各社が掲げる自主的な安全対策が、組織的な悪用を防げていない現状が浮き彫りになっている。

■最前線の背後に組織された「AI専門部隊」

ケンブリッジ大学のAI科学・政策プログラム(CASP)の国際安全保障リード、アントニア・ユーリッヒ氏が主導したこの調査は、2025年から2026年にかけてナイジェリア北東部で実施された、ボコ・ハラムの元メンバー27人への計57回に及ぶ対面インタビューに基づいている。

報告書によると、ボコ・ハラムの2大派閥である「イスラム国西アフリカ州(ISWAP)」と「ジャマート・アハル・アス・スンナ・リダワ・ワル・ジハード(JAS)」は、それぞれ専用のAIユニットを設立していた。これらの部隊は、市場に出回っている主要なチャットボットプラットフォームを網羅的に利用し、安全フィルターを突破するための体系的な訓練を受けていた。これは偶発的あるいは実験的な利用ではなく、組織的かつ継続的な運用であるという。

■ISIS工作員による「脱獄」対面訓練

報告書が指摘する最も深刻な懸念は、AIの利用そのものよりも、その回避技術が拡散した経路にある。少なくとも2023年から2025年にかけて、ISISの工作員がボコ・ハラムの指揮官らに対し、基本的なプロンプト入力だけでなく、AI企業が導入している安全フィルターを無効化する「脱獄」技術の対面訓練を提供していたとされる。

ある訓練セッションでは、30〜50人のISWAP指導者や戦闘員が集められ、外国籍の工作員がノートPCを提供して脱獄技術を実演した。JASのメンバーも同様のルートで訓練を受けていたという。ユーリッヒ氏はこの現象について、従来の武器やドローンの技術移転と同様に、確立されたジハード主義ネットワークを通じて国境を越えて知識が共有されていると分析している。

■爆薬の強化から戦術の改善まで、AIを実戦投入

元メンバーらの証言によると、彼らは攻撃の計画、実行、そして事後評価に至る作戦サイクルの全般でAIを活用していた。

攻撃前には、鹵獲(ろかく)した軍用兵器の特定や、より強力な爆発物の設計、戦地での武器のトラブルシューティングにAIツールが使われた。元メンバーの一人は「以前は爆発の規模が小さかったが、AIから化学物質の調合について指示を受け、より強力な爆発を起こせるようになった」と証言している。

また、攻撃後のレビューにもAIが活用された。ある戦闘員は「以前は200人の戦闘員を派遣して60人が死亡したが、AIの助言により、20人程度の小規模で高度に連携された部隊を派遣する方が効果的であることを学んだ」と語っている。

さらに、バイクを用いた襲撃作戦では、軍基地の防御溝を飛び越える方法をAIチャットボットに相談した。使用しているバイクの車種や必要なジャンプの距離などの情報を入力し、具体的な改造方法や手順の指示を得たという。この訓練過程で18人の戦闘員が死亡したものの、最終的に8人がジャンプに成功し、実際の襲撃作戦が実行された。

■なぜAIの安全フィルターは突破されるのか

主要なAIチャットボットの安全対策は、人間のフィードバックによる強化学習(RLHF)に基づいている。しかし、RLHFはモデルを「ユーザーの意図に対して協力的かつ親切」にするよう方向付けるため、悪意のあるユーザーに悪用されやすい脆弱性を持つ。

危険な要求を「映画の制作プロジェクト」や「学術的な調査」といった合法的な活動を装って入力する「意図操作(intent manipulation)」と呼ばれる手法に対し、現在の最先端モデルの安全対策は88〜97%の確率で突破されるという学術研究もある。

ボコ・ハラムのメンバーは、ChatGPT、Claude、Gemini、Grok、DeepSeekなどの複数プラットフォームを横断して同じ質問を投げかけ、最も制限の緩い回答を採用していた。一つのアカウントがブロックされれば新しいアカウントを作成し、規制を回避し続けていたという。

■AI業界の反応と今後のガバナンス課題

OpenAI、Google、Anthropicの各社は、自社プラットフォームがテロや暴力目的での使用を禁止していることを強調し、安全対策を継続的に強化していると回答した。しかし、いずれの企業も今回の調査結果の核心部分については否定しなかった。

安全保障の専門家であるダニエル・バイマン氏は、極端主義グループが技術的な規制を避けるために複数のAIシステムを「組み合わせて利用」していることを別ルートの調査からも確認していると述べた。

従来の輸出管理や制裁措置は「危険な知識には危険な物理的資材が伴う」という前提に基づいていた。しかし、AIの脱獄技術は単なるテキストデータであり、国境検問や物理的な差し押さえで阻止することは極めて困難である。ユーリッヒ氏は、AIモデルのリリース前における第三者機関による安全評価の義務化や、AI企業と治安機関との間での悪用パターンの情報共有体制の構築を訴えている。

■注目ポイントQ&A

●ボコ・ハラムは具体的にどのようにAIチャットボットを攻撃計画に利用していましたか?

ボコ・ハラムは専用のAIユニットを設立し、指揮官に代わってChatGPT、Claude、Gemini、Grok、Meta AI、DeepSeekなどのプラットフォームに問い合わせを行っていました。具体的には、鹵獲した軍用兵器の特定、より強力な爆薬の設計、戦地での武器のトラブルシューティング、小規模部隊の戦術アドバイス、過去の作戦の失敗要因の分析などに活用していました。一般の戦闘員には直接使わせず、情報を制限して上層部のみが利用する体制をとっていました。

●テロ組織がAIの安全フィルターを突破することは本当に可能ですか?

はい、可能です。ボコ・ハラムのメンバーは、危険な質問を映画の脚本執筆や学術研究などの合法的な活動に見せかける「意図操作」という手法を用いていました。AIモデルはユーザーに対して協力的であるように訓練されているため、このような偽装に騙されやすい性質があります。さらに、ISISの工作員から直接脱獄技術の訓練を受けたり、複数のプラットフォームを横断して最も回答が緩いシステムを探したり、アカウントを次々に切り替えることで規制を回避していました。

●なぜAI企業は単独でこの問題を解決できないのですか?

各AI企業は自社のプラットフォームしか監視できないため、テロ組織が複数の異なるAIサービスを順番に試して最も規制の緩い回答を探し出すような、横断的な悪用パターンを検知することができません。また、オープンソースのAIモデルが数多く存在するため、商業プラットフォームの規制を強化しても、規制のないモデルが代替手段として常に利用可能な状態にあります。そのため、個別企業の自主規制だけでは組織的な悪用を防ぐのが困難とされています。

元記事: Boko Haram Built AI Units for Explosives Design, Attack Planning as ISIS Taught Jailbreaks

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