アップル、EUデジタル市場法(DMA)を巡る裁判で全面敗訴。他社への影響も不可避に
2026年7月10日 14:45
欧州連合(EU)一般裁判所は2026年7月9日(現地時間)、アップルがデジタル市場法(DMA)に基づく「ゲートキーパー」指定の取り消しなどを求めていた3つの訴訟すべてを却下する判決を下した。この判決により、同社が2年間にわたり展開してきた法廷闘争は全面敗訴に終わった。さらに裁判所は、指定されたゲートキーパー企業が具体的な是正命令を受ける前にDMAの義務自体を抽象的に争うことを禁じる手続き上のルールを確立したため、アルファベットやメタなど他の対象企業にも大きな影響が及ぶとみられる。
■アップルは「5つの別サービス」と主張するも、裁判所は却下
ルクセンブルクに本拠を置くEU一般裁判所の第8部(裁判官5人制)は、現地時間2026年7月9日朝に判決を言い渡した。同裁判所は「一般裁判所はアップルが提起したすべての訴えを却下する。App StoreおよびiOSに関する同社のゲートキーパー指定を支持する」と発表した。
この判決は、2023年5月に施行されたDMAが直面した中で最も重要な法的試練となった。欧州委員会にとっては、指定されたゲートキーパー各社が具体的な不利益処分を受けるまで義務自体を争えなくなったため、巨大テクノロジー企業に対する取り締まりを加速させる道が開かれたことになる。
今回の判決は、アップルとその子会社であるアップル・ディストリビューション・インターナショナルが、iOS、App Store、Safariをゲートキーパー義務の対象となる「コアプラットフォームサービス」に指定した欧州委員会の2023年9月の決定の取り消しや縮小を求めた3つの訴訟(T-1079/23、T-1080/23、T-214/24)を対象としている。
アップルの主な主張は、同社のデバイスとアプリ配信エコシステムのカウント方法に関するものだった。同社は、iPhone、iPad、Mac、Apple Watch、Apple TV向けの各App Storeは、単一の指定として統合されるべきではなく、それぞれ個別のサービスとして扱われるべきだと主張していた。この主張が認められれば、DMAの規制範囲は大幅に縮小し、数十億ドル規模のコンプライアンス義務を回避できる可能性があった。
しかし、裁判官らの判断は揺るがなかった。ユーザーがどのデバイスを所有しているかに関わらず、5つのApp Storeはすべて「アプリ開発者とエンドユーザーを接続し、ソフトウェアアプリケーションの配信を促進する」という同一の目的を果たしている。裁判所は、この機能的な一体性に基づき、欧州委員会がこれらを一括して単一のコアプラットフォームサービスとして扱ったことは妥当であると判断した。
なお、iMessageを「番号に依存しない対人通信サービス(NIICS)」に分類した欧州委員会の決定の取り消しを求めた3つ目の訴えについては、異なる理由で却下(不適法)とされた。欧州委員会が最終的にiMessageをゲートキーパーサービスとして正式指定しなかったため、この分類はアップルに対して拘束力のある法的効果を生じさせておらず、したがって法廷で争うことはできないと判断されたためである。裁判所は「iMessageは指定決定において重要なゲートウェイとしてリストされていないため、DMAが定める義務は一切適用されない」と説明している。
■ゲートキーパー6社すべてに影響する「先例」の確立
今回の判決で最も影響が大きいのは、裁判所が下した判断そのものよりも、判断を避けた部分、そしてその選択がすべてのゲートキーパー企業に対して作り出す構造的なルールにあるかもしれない。
裁判所は、アップルが争おうとしていたのはゲートキーパーの指定そのものではなく、そこから生じる「相互運用性の確保義務」であると指摘した。この義務は、個別の是正決定において初めて具体化するものであるため、現段階でこれらの異議を審理するのは時期尚早であると結論付けた。これにより、「指定されたゲートキーパーは、具体的な是正命令によって特定の要件に従うよう指示される前に、抽象的な形でDMAの義務を争うことはできない」という順序のルールが確立された。
このルールはアップルだけでなく、指定されたゲートキーパー6社(アルファベット、アマゾン、アップル、バイトダンス、メタ、マイクロソフト)すべてを縛ることになる。アルファベットは、2026年7月27日までに期限を迎える検索データの共有やAndroidのAI相互運用性に関する欧州委員会の2つの手続きに直面している。アマゾンとマイクロソフトは、クラウドインフラ分野でのゲートキーパー指定の可能性を巡り調査を受けている。バイトダンスはTikTokにおけるDMA準拠について監視されており、メタは2億ユーロ(約324億円、1ユーロ=162円換算)のDMA関連の制裁金に対して控訴しつつ、同意アーキテクチャに関する別の手続きを進めている。今回の判決により、これらの企業はすべて、DMAの義務内容に実質的な異議を唱えるには、具体的な是正決定が下されるまで待たなければならないという制約を課されることになる。
ブリュッセルのホワイト&ケース法律事務所で競争法を専門とするパートナー、アシマキス・コミノス氏は、この判決の核心的なメッセージを「手続き上の障害」と表現し、欧州委員会が具体的な是正決定を下す前にアップルが相互運用性要件を争おうとしたことは「時期尚早だった」と述べた。また、モントリオール大学の法・イノベーション部門長であるピエール・ラルーシュ氏は、このアプローチによってアップルの最も強力な実質的抗弁は将来の手続きに先送りされたと指摘し、「DMAの相互運用性義務に対するアップルの主張を裁判所が退けたことは、これらの主張が別の訴訟で再び提起されることを意味する」と述べた。
一方で、この結果を懸念する見方もある。アムステルダム自由大学の法・テクノロジー助教であるアルバ・リベラ・マルティネス氏は、この手続き上のアプローチが広範な影響を及ぼす可能性を警告し、欧州委員会がDMA市場調査を終了する決定を下した場合、それが裁判所で一切控訴できなくなる可能性があり、これは「極めて危険」な制限であると指摘している。
■アップルのこれまでの対応と、敗訴がもたらす打撃
アップルがこれまでDMAに対して示してきた順守姿勢は、必ずしも誠実なものとは言えず、その実績が今回の判決による影響をより具体的なものにしている。
欧州自由ソフトウェア財団(FSFE)の相互運用性調査によると、2026年3月22日の時点で、アップルがDMA第6条第7項に基づいて受け取った56件の正式な相互運用性要求のうち、実際に機能する解決策に至ったものは1件もなかった。アップルがアクセスを拒否した機能には、Just-in-Time(JIT)コンパイル、NFCプロトコル、Bluetooth Low Energy Audioなどが含まれており、同社はこれらの要求が「法の適用範囲外である」と繰り返し主張してきた。
欧州委員会は2024年と2025年にiOSの接続性と相互運用性の透明性に関する2つの手続きを開始した。また、2025年4月23日には、開発者がApp Store外のより安価な購入オプションにユーザーを誘導することを制限した(ステアリング制限)として、DMA史上初となる5億ユーロ(約810億円、1ユーロ=162円換算)の制裁金をアップルに科し、同日に第6条第4項に基づく調査の予備的認定を発表した。アップルはこの制裁金を不服としてEU裁判所に控訴中だが、第6条第4項調査の最終決定によっては、さらなる罰金が科される可能性がある。
アップルはDMAの要求に従い、iOS 17.5やiPadOS 18からEU域内で代替アプリストアや外部決済リンクを容認するなど、エコシステムの一部を競合他社に渋々開放してきた。しかし開発者らは、これらの変更に新たな手数料や警告画面が伴うため、実質的なメリットの大部分が損なわれていると批判している。
判決を受け、アップルの広報担当者は従来の主張を繰り返した。「私たちは、DMAの命令が適法かつ比例的な範囲を超えており、当社が築き上げてきた数十年にわたるプライバシーとセキュリティの保護を損ない、ユーザーを新たなリスクにさらす恐れがあると確信している。今後も欧州の顧客が享受すべきイノベーションとプライバシーのために主張を続けていく」。同社は欧州司法裁判所(CJEU)に控訴する権利を残しているが、これは法律問題に限定され、事実関係の再審査を求めることはできない。
■5億ユーロの制裁金、イタリアでの調査、英国での集団訴訟
今回の判決は、アップルが欧州で抱える唯一の闘いではない。同社は、開発者がApp Store外の安価な購入オプションにユーザーを誘導することを妨げたとして、2025年4月に欧州委員会から科された5億ユーロ(約810億円、1ユーロ=162円換算)の制裁金について、別途争っている。
EU域外や各国レベルでも逆風が強まっている。イタリアの競争担保委員会(AGCM)は2026年6月、アップルのiCloud相互運用性に関する調査を開始した。これは、アップルが競合するクラウドサービスに対し、DMA第6条第7項に基づきiCloudと同等のプラットフォームアクセスを拒否しているかどうかを調べるものである。英国では、2025年10月にApp Storeの手数料を巡る集団訴訟(ケント訴訟、最大15億ポンド=約3075億円、1ポンド=205円換算)で一審敗訴し、現在は控訴審が進行中である。さらに、2026年6月に認定されたiCloudに関する別の集団訴訟(Which?による訴訟)は、最大3970万人の英国消費者を対象とし、潜在的な損害賠償額は最大30億ポンド(約6150億円、1ポンド=205円換算)に上るとされている。
今回の判決がこれらの個別手続きに直接影響を与えるわけではない。しかし、DMAとの関係を根本から再構築しようとするアップルの広範な戦略の柱が失われたことは確かである。
■EUのiPhoneユーザーへの影響と、残された課題
EU域内の約1億5000万人のiPhoneユーザーにとっての実質的な結果として、すでに享受しているDMA上の権利(代替アプリストア、サードパーティ決済リンク、ブラウザ選択画面など)が、アップルの訴訟によって覆されるリスクはなくなった。これらの選択肢の提供をアップルに義務付ける法的枠組みは、最大の試練を乗り越えたことになる。
一方で、アップルによる義務順守の「質」と「完全性」については未解決のままである。欧州委員会は、アップルによる第6条第7項に基づく相互運用性の実装が真に効果的であるかどうかについて調査を継続しており、第6条第4項調査の最終決定もまだ下されていない。また、欧州委員会がアップルに対して18カ月間のDMA一括免除を認めなかったため、近くリリースされるiOS 27のローンチ時点では、EU域内のiPhoneおよびiPadでSiri AIの機能がブロックされたままになることが、アップルのニュースルーム発表で確認されている。今回の判決が解決したのは「ゲートキーパー指定」の妥当性であり、アップルの順守状況が十分であるかどうかではない。
アップルは今回の判決を不服としてCJEUに控訴する権利を保持しており、闘い続ける姿勢を示している。しかし、法的な選択肢は狭まっている。確立されたルールにより、アップルはDMAの相互運用性やデータ共有要件に対して実質的な異議を唱える前に、欧州委員会による具体的な是正決定を待たねばならず、そのプロセスには長い時間がかかる可能性がある。
■米テック大手に相次ぐ敗訴
今回の判決は、米国テクノロジー大手がEUの法廷で相次いで敗訴している流れに沿うものである。判決の6日前となる7月2日には、EUの最高裁判所に相当する欧州司法裁判所(CJEU)が、グーグルとその親会社アルファベットによる訴訟(C-738/22 P)の最終上訴を棄却した。これにより、同社のAndroidにおける反競争的行為に対して2018年に科された41億ユーロ(約6642億円、1ユーロ=162円換算)の制裁金が確定し、これ以上の不服申し立ては不可能となった。
ただし、先月には同じ一般裁判所がメタに対して異なる判断を示している。裁判所は、欧州委員会がメタの「Facebook Marketplace」をDMAの対象に指定した根拠が不十分であるとし、同サービスをゲートキーパー指定から除外した(ただし、Facebook Messengerは対象に残された)。これと比較すると、App StoreとiOSの両方の指定において全面敗訴したアップルの結果は、すべての戦線における完全な敗北と言える。
欧州委員会の広報担当者は、今回の判決を歓迎し、「これはDMAの執行、そしてデジタル市場における競争力と公平性の追求に向けた重要な一歩である」と述べた。
消費者団体からはさらに歓迎の声が上がっている。欧州消費者機構(BEUC)の事務局長であるアグスティン・レイナ氏は、この判決はEUのユーザーにとって明白な朗報であるとし、「EU裁判所がアップルをゲートキーパーとして確認したことは素晴らしいニュースだ。そうでなければ、オンラインで消費者の選択肢を増やすというDMAの好影響が損なわれるところだった」と述べた。同氏はさらに、アップルはエネルギーを訴訟ではなく「遅滞なく、完全にDMAを順守すること」に注ぐべきだと付け加えた。
代替アプリストア、接続ハードウェアとの相互運用性、ブラウザ選択画面、開発者の誘導権などを支えるDMAのゲートキーパー制度は、最大の法的試練を無傷で乗り切った。ルクセンブルクの裁判所が示したメッセージは明確である。指定は有効であり、義務は適用される。詳細を争う唯一の場所は、すでに進行中の執行手続きの中だけである。
■注目ポイントQ&A
●今回のEU一般裁判所の判決は、欧州におけるアップルのApp Storeにどのような影響を与えますか?
アップルによるゲートキーパー指定に対する2年間の異議申し立ては全面的に却下されました。これにより、代替アプリストアの容認、外部の安価な決済リンクへの誘導許可、競合他社へのiOSハードウェア・ソフトウェア機能の相互運用性提供など、DMAが定めるApp Storeへの義務は引き続き有効となります。新たな義務が追加されるわけではありませんが、欧州委員会が具体的な是正決定を下す前に、アップルが訴訟を通じて既存の義務を遅らせたり縮小したりすることはできなくなりました。EUのiPhoneユーザーは、代替アプリストアやブラウザ選択画面の利用など、すでに確保されているDMA上の権利を引き続き維持します。
●アップルは今回の判決に対してさらに控訴できますか?その場合、勝訴の可能性はありますか?
アップルはEUの最高裁判所である欧州司法裁判所(CJEU)に控訴することができますが、これは法律問題(法の適用に誤りがあったか否か)に限定され、事実関係の再審査を求めることはできません。一般裁判所が下した「アップルの5つのApp Storeは一体として単一のコアプラットフォームサービスを構成する」という判断や、「拘束力のある義務を生じさせない分類は独立した司法審査の対象にならない」という判断は、EU行政法の確立された法理に基づいています。法的な専門家らは、相互運用性要件に関するアップルの実質的な主張は、完全に退けられたわけではなく、今後の具体的な執行手続きの中で争われることになると指摘しています。
●今回の判決がアップルだけでなく、グーグル、メタ、アマゾン、マイクロソフトにとっても重要であるのはなぜですか?
この判決により、DMAのゲートキーパーに指定されたすべての企業に適用される「順序のルール」が確立されたためです。ゲートキーパー企業は、欧州委員会が具体的な是正決定を下す前に、抽象的な形でDMAの義務自体を争うことはできません。この原則は現在進行中の手続きに直接影響します。例えば、グーグルは2026年7月27日までに検索データの共有やAndroidのAI相互運用性に関する決定を控えており、アマゾンやマイクロソフトはクラウドインフラ分野での指定を巡り調査を受けています。これらの企業は、具体的な不利益処分が下される前に、予防的な訴訟を起こして義務の執行を遅らせる戦術が使えなくなりました。
●この判決により、EUのiPhoneでSiri AIがブロックされている問題は解決しますか?
解決しません。iMessageに関する訴えは、正式にゲートキーパー指定されなかったため却下されましたが、Siri AIの問題は全く別の事案です。これはiOSという指定プラットフォームにおけるDMA第6条第7項の相互運用性義務に関わるもので、欧州委員会はアップルが提示したAIアシスタントの相互運用性案が不十分であると判断しました。欧州委員会はSiri AIに関する正式な不順守手続きをまだ開始していませんが、今回の判決で確立されたルールに基づくと、アップルがこの要件を裁判で争うには、具体的な是正決定が下されるまで待つ必要があります。そのため、EUのiPhoneおよびiPadユーザーは、iOS 27のローンチ時点でSiri AIを利用できない見通しです。
元記事: Apple Loses DMA Gatekeeper Fight: EU Court Closes Interoperability Challenge Window