PC市場が2年ぶり縮小、AI向けメモリ優先で供給不足に――Appleは「MacBook Neo」好調でシェア10%に迫る
2026年7月10日 14:37
米調査会社IDCが発表したデータによると、2026年第2四半期の世界のPC出荷台数は前年同期比4.9%減の6,820万台となり、9四半期連続で続いていた成長がストップした。この減少は消費者需要の減退によるものではなく、AI向けメモリ(HBM)への生産シフトに伴う世界的なメモリ不足と価格高騰が原因とみられている。主要なWindows PCベンダーが軒並み出荷台数を減らす中、Appleだけは低価格ノートPC「MacBook Neo」の好調により、前年同期比10.1%増の成長を記録し、世界シェア9.9%に達した。
■MacBook NeoがAppleの成長を牽引、ただし価格改定も
Appleの市場シェア急上昇は、ほぼ全面的に「MacBook Neo」の貢献によるものだ。同製品は、iPhone 16 Proと同じ「A18 Pro」チップを搭載したノートPCで、2026年3月4日に発表され、同3月11日にMacのノートPCとしては史上最安値となる599ドル(約9万7,000円、1ドル=162円換算)で発売された。この低価格設定が、これまで価格面でMacの購入を見送っていた新規ユーザーや教育関係者の需要を捉えた。
IDCのデータによると、MacBook Neoは発売初四半期(2026年第1四半期)において、わずか3週間ほどの販売期間であったにもかかわらず、すでに110万台を出荷していた。第2四半期にはフルでの出荷体制に入り、その勢いがデータに色濃く反映された形だ。
IDCのコンシューマーデバイス担当バイスプレジデントであるジャン・フィリップ・ブシャール氏は、「Appleのシェア拡大は最新製品であるMacBook Neoの投入時期と重なった。同社は市場全体の傾向に合わせて値上げを行ったものの、同様のコスト圧力に直面している競合他社に対して依然として有利なポジションを維持している」と指摘している。
ただし、発売時から変化した点もある。Appleは2026年6月25日、メモリコストの上昇を自社で吸収しきれなくなったとして、MacBook Neoの小売価格を599ドルから699ドル(約11万3,200円)へと100ドル値上げした。なお、教育向け価格は599ドルに据え置かれている。そのため、第2四半期の好調な出荷実績は、主に値上げ前の価格設定時に築かれたものと言える。
■出荷減少の背景:AIがノートPC用RAMを「侵食」
PC市場を揺るがしているメモリ危機は、一般的なサプライチェーンの混乱とは異なる。これは、世界のDRAM生産の93%以上を支配する主要3社(サムスン電子、SKハイニックス、マイクロン・テクノロジー)による、意図的な生産能力の割り当て変更(リアロケーション)に起因している。
この割り当て変更を促しているのが、NvidiaやAMDのAIグラフィックスプロセッサ(GPU)に直接積層される超高速メモリ「HBM(高帯域幅メモリ)」だ。IDCの分析によると、1ギガバイトのHBMを製造するには、ノートPCなどに使われる標準的なDRAMを製造する場合の約3倍のシリコンウェハー容量を消費するという。マイクロソフト、グーグル、メタ、アマゾンなどのハイパースケーラーが、2026年のデータセンターインフラに総額約7,250億ドル(約117兆4,500億円)もの巨額予算を投じる中、メモリメーカーは需要が高く利益率の良いHBMの生産を最優先している。その結果、コンシューマー向けDRAMの供給が圧迫されるゼロサムゲームが起きている。
市場調査会社SigmaIntelのデータによると、薄型ノートPCに採用される「LPDDR5X」メモリの価格は、2026年第2四半期だけで89%も急騰した。標準的な「DDR4」の価格も同四半期に49〜51%上昇している。2026年を通じてPCの平均販売価格は17〜18%上昇すると予測されており、IDCは、将来的にメモリの生産体制が拡大したとしても、2025年の水準まで価格が下がる可能性は低いとみている。供給不足の本格的な解消は、2027年末以降になる見通しだ。
IDCのコンシューマーデバイス担当リサーチディレクターであるジテシュ・ウブラニ氏は、「ここでの本質的な動きは、出荷台数と売上高の乖離にある。出荷台数は減少しているものの、ベンダーが需要の減少を上回るペースで値上げを転嫁しているため、業界全体の売上高は増加している」と分析している。
■なぜMacBook NeoはWindows機より安く提供できるのか?
現在ノートPCの購入を検討しているユーザーにとって、このエンジニアリング的な理由は重要だ。MacBook Neoが現在の699ドル(当初は599ドル)という低価格を実現できている背景には、競合するWindows PCメーカーが容易に模倣できないいくつかの要因がある。
まず、同製品はTSMCが製造する3ナノメートル(nm)プロセスの「A18 Pro」チップを採用しているが、これはiPhone 16 Proに搭載されているものと同じシリコンだ。重要なのは、AppleがMacBook Neoに「ビニング(選別)」されたA18 Proダイを使用している点だ。これはiPhone向け生産ラインで一部のGPUコアに不具合があり、本来なら廃棄されるか割引販売されるはずのチップを再利用したものだ。iPhone 16 ProのGPUが6コアであるのに対し、Neoは5コア仕様となっている。このような半導体ビニングは業界の標準的な手法である。
さらにAppleは、現在のメモリ不足がピークに達する前に確保していたLPDDR5Xメモリの在庫を使用してMacBook Neoを立ち上げたため、部材コストが急騰する前の価格設定が可能だった。
サードパーティによる分解調査の推計によると、同マシンの部品原価(BOM)は200〜290ドル(約3万2,400円〜4万7,000円)とみられ、現在の699ドルの販売価格における粗利益率は50〜58%に達すると試算されている。つまり、MacBook Neoは赤字覚悟の「ロスリーダー(撒き餌商品)」ではなく、十分に利益の出る製品なのだ。Windows競合他社が部材コストの高騰に直面する中、AppleはiPhone規模の調達力を背景に、有利な価格競争力を維持している。
ただし、設計上の大きな制約も存在する。A18 ProのメモリコントローラーはiPhoneの8GB構成向けに設計されているため、メモリの拡張ができない。すべてのMacBook Neoは8GBのユニファイドメモリで固定されており、カスタマイズオプション(BTO)は用意されていない。同価格帯のWindowsノートPCが一般的に16GBメモリを搭載していることを考えると、ブラウザの大量タブ表示や動画編集、ローカルでのAI処理など、メモリを大量に消費する作業を行うユーザーにとって、この「8GBの壁」は無視できない制約となる。
■2026年第2四半期 PC市場データ:ベンダー別シェア
IDCのデータは、調達規模の大きさがそのまま競争力に直結する市場環境を示している。シェア上位5社のうち、前年同期比で有意な成長を記録したのはAppleのみだった。
最も大きな下落を記録したのはHP(マイナス9.0%)と、その他(Others)のカテゴリー(マイナス10.5%)だった。その他に含まれる中堅・中小のPCブランドは、限られたメモリ供給を確保するための調達交渉力が不足しているとみられる。Lenovoは2.1%減少したものの首位を維持し、DellとAsusはほぼ横ばいだった。
IDCのブシャール氏は、「市場環境が悪化するにつれ、サプライチェーン管理とその能力の重要性が増している。購買力とサプライヤーとの長年の信頼関係を持つ大手ベンダーこそが、規模の小さい競合からシェアを奪う上で最も有利な立場にある」と述べている。
■今、ノートPCを購入するユーザーへの影響
WindowsノートPCの購入を検討しているユーザーにとって、当面の見通しは厳しい。メモリ価格の高騰は2026年から2027年にかけて続くと予想され、小売価格への上昇圧力がかかり続ける。米消費者誌『Consumer Reports』は、現行の部材コストで製造された2026年の新システムを購入するよりも、小売店が在庫処分を行っている2025年モデルの既存在庫を狙う方が、コストパフォーマンスが良い可能性があるとアドバイスしている。
AppleのMacBook Neo(699ドル)は、依然として新品で買える最も安価なMacだ。6月の100ドル値上げによって、599ドル時点ほどの圧倒的な価格優位性は薄れ、Dell XPS 13のエントリーモデルと同等、一部のChromebookよりは高い水準となった。それでも、現在1,299ドル(約21万円)からとなっているMacBook Airに比べれば大幅に安い。また、学生向けの教育割引を利用すれば、現在も発売当初の599ドルで購入可能だ。
価格が下がるのを待って購入を先延ばしにしている場合、IDCは2027年末までメモリ価格の緩和を予想しておらず、生産拡大後も2025年の価格水準には戻らないと明言している。2026年8月の新学期(バック・トゥ・スクール)シーズンにはセールが行われる可能性があるが、部材コストそのものが下がっているわけではない。
また、IDCは別のリスクも指摘している。メモリコストの高止まりが続けば、デバイス上でのAI処理(オンデバイスAI)への関心が高まっているにもかかわらず、PCの買い替えサイクル自体が停滞する可能性がある。新しいPCが2024年モデルに比べて大幅に高価であるために消費者が買い替えを控えた場合、これまで9四半期続いていた市場の回復基調が再び軌道に乗るまでには、供給不足の解消以上の時間がかかるかもしれない。
■PC価格が下がるのはいつになるのか?
今回のPC市場におけるメモリ不足は、一時的なサイクルによるものではなく、構造的な問題だ。地震や工場の火災、パンデミックによる物流の混乱といった一般的な供給障害は数四半期で解決する傾向があるが、今回は異なる。新しいDRAM製造棟(ファブ)の建設には、着工から量産開始まで2〜3年を要する。
マイクロンのアイダホ新工場や、SKハイニックスの龍仁(ヨンイン)クラスターでのDRAM生産開始は、いずれも2027年以降になると報じられている。さらに、これらの新施設が稼働しても、初期の生産分はHBMや最先端のサーバー向けDRAMに割り当てられ、一般のノートPC向けLPDDR5Xの供給が劇的に改善するのは早くても2028年以降とみられる。2026年にノートPCの購入を決定する場合、現在の価格を「一時的な高騰」ではなく「今後の基準値(底値)」として捉えるべきだろう。
■注目ポイントQ&A
●2026年第2四半期にPCの出荷台数が減少したのはなぜですか?
AI向けメモリ(HBM)の需要急増に伴い、主要メモリメーカー3社が生産能力をそちらにシフトしたため、一般PC向けのDRAMが深刻な供給不足に陥り、部材価格が高騰したためです。LPDDR5Xメモリの価格は同四半期だけで89%上昇し、PCメーカーが製品価格を値上げしたことで、出荷台数は前年同期比4.9%減となりました。
●MacBook Neoは699ドルでも買いですか?
新品のMacとしては依然として史上最安値であり、iPhone 16 Proと同じ3nmプロセスのA18 Proチップを搭載しているため、日常的な作業やApple Intelligenceの利用には十分な性能を持っています。ただし、メモリが8GB固定でアップグレードできないという制約があるため、高負荷な作業を頻繁に行う場合は注意が必要です。
●ノートPCの価格はいつ頃下がりますか?
短期間での値下げは見込めません。メモリメーカーの新工場が稼働し、供給不足が本格的に緩和されるのは2027年末以降と予想されています。IDCは、生産が拡大した後も2025年の価格水準まで戻る可能性は低いと指摘しており、現在の価格帯が今後の標準になるとみられます。
●なぜAppleだけがメモリ不足の中でも低価格を維持できたのですか?
Appleには、iPhone 16 Pro向けチップの製造過程で生じた一部不具合のあるダイを「ビニング(選別)」してMacBook Neoに再利用するという独自のコスト削減策がありました。また、メモリ価格が高騰する前に部材を大量に確保していたことや、巨大な調達規模を背景にした価格交渉力も影響しています。ただし、Appleも2026年6月25日に100ドルの値上げを行っています。
元記事: Apple Nears 10% of PC Market as Memory Shortage Ends Two-Year Growth Run