ソフトバンクが米国でAIクラウド市場参入――CoreWeave急落のなか「エネルギー」を武器に垂直統合へ

2026年7月6日 12:29

ソフトバンク株式会社とソフトバンクグループ株式会社は2026年7月2日、米国に新たな「ネオクラウド」子会社「SB Neo, Inc.」を設立し、米国の企業やハイパースケーラー向けにGPUコンピューティングのレンタル事業を開始すると発表した。先行するGPUレンタル企業の株価が急落し、ビジネスモデルの脆弱性が指摘されるなかでの参入となる。ソフトバンクは、単なるGPUの調達にとどまらず、電力供給の確保や独自ソフトウェア、OpenAIとの戦略的提携を組み合わせた垂直統合モデルで市場の開拓を狙うとみられる。

■ソフトバンクが米国に設立する新会社「SB Neo」の全貌

SB Neoは2026年7月にデラウェア州で設立される予定で、出資比率はソフトバンク株式会社が51%、ソフトバンクグループ株式会社が49%となり、ソフトバンク株式会社の連結子会社となる。商業向けネオクラウドサービスの開始は、2028年3月31日に終了する2027年度(2027年3月期〜2028年3月期)を予定している。同社が掲げる目標は、2030年ごろまでに10ギガワット(GW)のAIデータセンター容量を配備することであり、これが実現すれば世界最大級のクラウドインフラ事業者となる。

1GWの連続電力は、約75万世帯の同時負荷に相当する。10GWという規模は、中規模な州の夏のピーク時におけるグリッド全体の電力容量に匹敵する莫大なものだ。

ソフトバンク株式会社の宮川潤一社長兼CEOは、今回の参入時期について、GPUの価格動向ではなく、電力確保の見通しが立ったためだと説明している。同氏によると、米国において「10GWの電力を確保するための着実な進展」が得られたことが、今回の設立決定の後押しとなった。これは、ソフトバンクの強みがGPUラックそのものよりも上流のインフラ層、すなわちGPUラックの稼働を可能にする基盤にあることを示唆している。

■独自ソフトウェア「Infrinia AI Cloud OS」の仕組み

SB Neoが米国市場に投入する技術的基盤は、独自開発のソフトウェアスタック「Infrinia AI Cloud OS」だ。ソフトバンクのInfriniaチームは、2026年5月から日本国内において、NVIDIAの「GB200 NVL72」ハードウェアを採用したベータ版の展開を開始している。

Infriniaは、BIOSやRAIDの設定から、オペレーティングシステム(OS)、GPUドライバー、ネットワーキング、Kubernetesコントローラー、ストレージに至るまで、GPUインフラスタックの全レイヤーをカバーする。競合他社の環境では専門のエンジニアチームが手動で行う必要がある作業を自動化するのが特徴だ。この自動化されたハードウェアレイヤーの上で、マルチテナントGPU環境向けの「Kubernetes-as-a-Service(KaaS)」と、OpenAI互換のAPIを介して大規模言語モデル(LLM)の推論を提供する「Inference-as-a-Service(Inf-aaS)」の2つのサービスが提供される。これにより、既存のAIアプリケーションを修正することなく接続できるという。

Infriniaが動作するハードウェアは、まさにこの目的のために設計されている。NVIDIA GB200 NVL72ラックは、18台のホストに72基のBlackwell GPUを統合し、ラック内で毎秒1.8テラバイトの全対全通信を可能にする高速相互接続技術「NVLink」で接続されている。このアーキテクチャにより、各ラックは72個の独立したGPUノードではなく、単一のアドレス可能なメモリプールとして機能する。これは、GPU間の通信遅延がボトルネックになりがちな、超大規模なLLMの学習や推論において極めて重要な意味を持つ。

ただし、この設計にはトレードオフもある。BIOSから上の全レイヤーを自動化し、NVIDIA GB200 NVL72に標準化することで、独自にシステムを構築する場合と比べて総所有コスト(TCO)を削減できる一方、SB NeoのインフラはNVIDIAのハードウェアロードマップに依存することになる。顧客にとっては、Kubernetesの専門知識がなくても初日からOpenAI互換の推論APIを利用できるメリットがあるが、ソフトウェアスタックが特定のハードウェアに依存する形になるという制約も存在する。

■オハイオ州とテキサス州における物理インフラ計画

SB Neoのコンピューティング能力は、ソフトバンクグループがすでに開発を進めている2つの大規模インフラプロジェクトに依拠する。

中核となる拠点は、オハイオ州パイク郡の「ポーツマスAIテクノロジーキャンパス」だ。ソフトバンク傘下のエネルギー企業であるSB Energyが、冷戦時代のウラン濃縮施設であった旧ポーツマス気体拡散プラントの米国エネルギー省(DOE)所有地をリースし、データセンターキャンパスを建設している。2026年3月20日にクリス・ライト米国エネルギー長官やハワード・ラトニック商務長官の立ち会いのもと発表されたこのプロジェクトは、10GWのフル稼働時には、データセンター棟、AI半導体、関連電力インフラを含めて総額最大5000億ドル(約80兆5000億円、1ドル=161円換算)の投資を見込んでいる。第1フェーズとなる800メガワット(MW)規模の建設には、SB Energyが100億ドル(約1兆6100億円)を投じ、2028年ごろの稼働開始を予定している。また、SB Energyはオハイオ州南部において、アメリカン・エレクトリック・パワー(AEP)とともに42億ドル(約6762億円)規模の新たな送電インフラの建設も進めており、プロジェクトが地域の一般家庭の電気料金に負担をかけないよう配慮している。

2つ目のプロジェクトは、テキサス州ミラム郡に建設予定の1.2GW規模のデータセンターで、OpenAIとの合弁事業「Stargate」の一環として共同で建設される。

両拠点の電力戦略は、主にガス火力発電に依存している。SB Energyは、オハイオ州のプロジェクトの一環として、9.2GW規模の新規天然ガス発電容量の確保を確約している。宮川氏は、電力源について「主にガス火力発電所から電力を確保する能力」がソフトバンクの競争優位性になると明言しており、GPUの調達力だけでなく、ギガワット規模の電力を制御できることこそが差別化要因であるとの認識を示している。

■ネオクラウドモデルが直面する市場の圧力

SB Neoが参入するこのセクターは、2025年に250億ドル(約4兆250億円)以上の売上高を記録し、同年第4四半期には前年同期比200%以上の成長を遂げた。しかし、その成長を支えるビジネスモデルは構造的に不安定であると指摘されている。

マッキンゼー(McKinsey)が2025年11月に発表した分析によると、多くのネオクラウド企業が採用しているベアメタル・アズ・ア・サービス(BMaaS)モデルは、減価償却前の粗利益率が約55〜65%に達するものの、人件費、電力費、ハードウェアの減価償却費を差し引いた後は14〜16%にまで低下する可能性があるという。特に重要なのは稼働率であり、これが80%を下回ると収益は横ばいになる。NVIDIA H100クラスのハードウェアのGPUレンタル価格は、2023年のピーク時から約50%下落しており、供給の正常化に伴いさらなる価格低下が予想されるなか、単にGPUを調達して再販するだけのモデルを維持することは極めて困難になりつつある。

マッキンゼーが指摘する実存的なリスクは、かつての「クラウド1.0」の歴史に酷似している。2000年代初頭、特化型のコンピューティングスタートアップが、AmazonやMicrosoft、Googleが迅速に対応できなかった隙間を埋めたものの、ハイパースケーラーが追いつくにつれて、そのほとんどが買収されるか、淘汰されるか、あるいはニッチな役割への縮小を余儀なくされた。

2026年6月30日の週には、その懸念を裏付ける出来事が起きた。7月1日、米メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)が、自社の余剰AIインフラを商用化する「Meta Compute」という取り組みを開発中であるとブルームバーグ(Bloomberg)が報じた。この報道により、CoreWeave(NASDAQ: CRWV)の株価は13.92%下落して85.69ドルで取引を終え、Nebius Group(NASDAQ: NBIS)も17.01%下落して229.18ドルとなった。この急落により、CoreWeaveの株価は52週高値の166.22ドルから約48%下落した水準となった。

CoreWeaveの2026年第1四半期決算は、同社が抱える構造的な緊張を浮き彫りにしている。売上高は前年同期比2倍以上の20億8000万ドル(約3348億円)に達し、受注残高は994億ドル(約16兆34億円)に上った。しかし、純損失は7億4000万ドル(約1191億円)に拡大し、総負債は約249億ドル(約4兆90億円)に達している。同四半期における支払利息だけで5億3600万ドル(約862億円)に上り、これは調整後EBITDAの約46%を占める。同社はキャッシュを創出しているものの、自社の成長ペースを維持するための資本支出が膨大であり、競合による市場の混乱に対処する余力がほとんど残されていない状態だ。

2026年第1四半期に売上高が前年同期比684%増の3億9900万ドル(約642億円)に達したNebius Groupも、同様の構造的課題に直面している。同社はMetaと5年間で最大270億ドル(約4兆3470億円)規模の契約を結んでいるが、そのMeta自身が現在、競合となるインフラの開発を進めていると報じられている。

■ソフトバンクが賭ける「垂直統合」の勝算

一般的なネオクラウド企業の戦略は、NVIDIAのGPUを調達し、AIラボと長期の利用契約(take-or-pay契約)を結び、その契約を担保に資金を借り入れ、ハードウェアが陳腐化する前に資金を回収するというものだ。しかし、ソフトバンクが描くアーキテクチャはこれとは大きく異なる。

コンステレーション・リサーチ(Constellation Research)のバイスプレジデント兼プリンシパルアナリストであるホルガー・ミューラー(Holger Mueller)氏は、SB Neoの発表を受けて、市場がAIの「学習」から持続的な「推論」へと移行しつつあるタイミングでソフトバンクが参入したと指摘する。同氏は「SB Neoには、企業向けの推論特化型ネオクラウドのあり方を再定義する機会がある。鍵となるのは、企業のデータにほぼリアルタイムでアクセスできるか、あるいは関連する企業データへの極めて高速なデータレプリケーションアクセスを確保できるかだ」と述べている。

ソフトバンクがコモディティ化の罠を回避するために用意した構造的な解決策には、単なるGPUの賃貸業者には容易に模倣できない4つの要素がある。

第1に「電力の制御」だ。SB Energyは、市場価格で電力会社から電力を購入するのではなく、自社でガス火力発電所を所有し、大規模な発電能力を確保している。データセンター事業者が電力契約の確保に奔走するなか、この上流工程の制御は、10GW規模において強力なコスト優位性をもたらす。

第2に「連邦政府の土地とエネルギー省(DOE)との提携」だ。ポーツマス敷地での提携により、SB Energyは送電網への接続や、環境浄化済みの連邦政府所有地といったインフラへのアクセスを得ている。これはCoreWeaveやNebiusのような企業が民間取引で再現できるものではない。また、DOEとの関係は、複数の大統領政権にまたがる長期プロジェクトにおける政治的な保険としても機能する。

第3に「独自のソフトウェア」だ。「Infrinia AI Cloud OS」は、ハードウェアのコモディティビジネスになりがちなクラウド事業において、ソフトウェアによる参入障壁を築く試みだ。フルスタックを自動化し、OpenAI互換のAPIコールを受け付けるInf-aaSを設計することで、ソフトバンクはInfriniaを単なる社内インフラではなく、将来的に他のデータセンター事業者へ展開可能なプラットフォームとして位置づけている。

第4に「OpenAIとのアンカーテナント関係」だ。ソフトバンクグループによるOpenAIへの累計投資額は約650億ドル(約10兆4650億円)に達している。この出資関係により、SB Neoは商業サービス開始時に、最初の強力な大口顧客(アンカーテナント)を確保できる可能性が高い。OpenAIはオハイオ州の拠点の容量をリースする交渉を行っているとも報じられている。このアンカーテナント関係は、複数年の長期契約を担保にした債務構造を機能させるための仕組みだ。これがない場合、実績のない顧客基盤を前提に巨額の借り入れを行う新規参入者は、貸し手からの厳しい目にさらされることになる。実際、ソフトバンクのOpenAI向けマージンローン(株式担保融資)は、今年初めに100億ドルから60億ドルに引き下げられた後、7月1日時点で新たな企業保証条件のもとで再び100億ドルに戻された経緯がある。

ジャパンタイムズ(Japan Times)が報じた関係者の話によると、米国でのネオクラウド事業が成功すれば、ソフトバンク株式会社の年間営業利益は3倍から4倍に増加し、185億ドルから250億ドル(約2兆9785億円〜約4兆250億円)規模に達する可能性があるという。これは宮川氏が、現在の通信事業とは「桁違い」の利益になると表現した規模に相当する。

■市場と企業バイヤーへの影響

投資家にとって、SB Neoの参入はネオクラウドの投資テーマを裏付けると同時に、競争を複雑化させる要因となる。連邦政府の土地やガス火力発電へのアクセスを持つ資金力豊富なコングロマリットが、10GW規模のAIクラウド需要を本物かつ持続可能と判断したことは、市場の正当性を裏付ける。一方で、既存のプレーヤーにとっては、大口顧客が競合へと転じる懸念があるなかで、強力なライバルが新たに加わることを意味する。

コンピューティングベンダーを検討している企業バイヤーやAI開発者にとって、SB Neoの発表は現時点では将来的なシグナルにとどまる。商業サービスが開始されるのは2027年度(2027年4月以降)であり、ポーツマスのデータセンターが稼働するのは2028年ごろと予想されているためだ。現時点でSB Neoは調達の選択肢ではなく、戦略的な指標として捉えるべきである。

電力やインフラ層における垂直統合が防御可能なポジションを築くのか、あるいはハイパースケーラーが最終的にすべてを自社構築するのかという業界の根本的な問いに対する答えは、SB Neoの最初の顧客が稼働するまで明らかにはならない。しかし、今回の発表は、ソフトバンクがその答えを「イエス」と信じ、資金、政府との関係、そしてソフトウェア開発リソースを投じる決意を示したことを物語っている。

■注目ポイントQ&A

●SB Neoとはどのような会社で、いつサービスを開始しますか?

SB Neo, Inc.は、ソフトバンク株式会社(51%)とソフトバンクグループ株式会社(49%)が共同で設立する米国のネオクラウド子会社で、2026年7月にデラウェア州で設立されます。米国の企業やハイパースケーラー向けに、2027年度(2028年3月31日までに終了する期間)中に商業用GPUクラウドサービスを開始する計画です。長期的な目標として、2030年ごろまでに10ギガワット(GW)のAIデータセンター容量を配備することを目指しています。

●ネオクラウドとは何ですか?AWSやGoogle Cloudなどのハイパースケーラーと何が違いますか?

ネオクラウドとは、ハイパースケーラーが提供するような広範なソフトウェアエコシステムや管理サービスを提供するのではなく、AIの学習や推論ワークロード向けのGPUコンピューティングに特化したクラウドプロバイダーのことです。一般的に、同等のシリコン(半導体)においてハイパースケーラーより50〜85%安い価格でベアメタルGPUへのアクセスを提供します。ただし、統合サービスやグローバルリージョンが少なく、GPUレンタル市場の成熟に伴う価格下落の影響を受けやすいというトレードオフがあります。

●CoreWeaveの株価が52週高値から約48%下落したのはなぜですか?

ネオクラウド株全体への市場の圧力に加え、メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)が独自のAIコンピューティング容量を販売するインフラ「Meta Compute」を開発中であると2026年7月1日に報じられたことが直接の要因です。MetaはCoreWeaveにとって2032年までの210億ドルの大口契約を結ぶ顧客であると同時に、将来的にGPUレンタル市場での競合になる可能性があるため、構造的な懸念が生じました。また、CoreWeaveは約249億ドルの総負債を抱え、2026年第1四半期に7億4000万ドルの純損失を計上しており、市場の混乱に対処する財務的余力が乏しいことも影響しています。

●Infrinia AI Cloud OSは、一般的なクラウドインフラソフトウェアと何が異なりますか?

Infrinia AI Cloud OSは、ハードウェアレベルのBIOSやRAID設定から、OS、GPUドライバー、ネットワーク、Kubernetesコントローラー、ストレージに至るまで、GPUインフラスタック全体を自動化します。これにより、専門のエンジニアチームが各レイヤーを手動で設定する必要がなくなります。マルチテナント環境向けのKubernetes-as-a-Service(KaaS)や、OpenAI互換のAPIを介したInference-as-a-Service(Inf-aaS)を提供し、既存のAIアプリをコード変更なしで接続できます。NVIDIAの「GB200 NVL72」ハードウェア向けに最適化されており、ラック内の72基のBlackwell GPUをNVLinkにより毎秒1.8テラバイトで高速相互接続します。

元記事: SoftBank Launches SB Neo as CoreWeave Slides 48%: Energy Is the New Moat

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