米Google、AIインフラ拡大で電力消費が過去最大の37%増 再エネ証書の限界とScope 3の壁
2026年7月6日 12:29
米Googleが発表した2026年版の環境報告書によると、同社のAIインフラ構築に伴う2025年の電力消費量は前年比37%増と過去最大の伸びを記録した。同社は「100%再生可能エネルギー」を掲げているものの、この会計上の数値はサプライチェーン(Scope 3)における膨大な炭素排出をカバーできていない。AIインフラ競争が地球環境に与える実質的な負荷と、その構造的課題が浮き彫りになっている。
■ニュージーランドの年間消費量に匹敵する電力需要
Googleが2026年6月30日に公開した環境報告書によると、同社の2025年における総電力消費量は前年比で37%増加し、同社史上最も急激な上昇を記録した。これにより、2019年からの累積増加率は250%を超えている。2025年単年で同社のデータセンターだけで約4200万メガワット時(MWh)の電力を消費しており、これはニュージーランドの国全体の年間電力消費量に匹敵する規模だ。
この報告書が発表された同じ週に、米Amazonもサステナビリティ報告書を公開し、2025年の排出量が16%増加したことを明らかにした。これら2つの報告書は、AIインフラ競争が地球にもたらしている実際のコストを並べて示す初のデータとなった。そして両社の文書は、同じ構造的課題を指し示している。それは「再生可能エネルギー証書の購入では到達できない炭素排出」の存在だ。
■会計上の「再エネ100%」が覆い隠す物理的現実
Googleは9年連続で電力消費量の100%に相当する再生可能エネルギー証書(REC)を調達し、自社が直接管理するScope 1およびScope 2の温室効果ガス排出量を前年比2%削減したと報告している。帳簿上は有意義な進展に見えるが、物理的な実態はそれよりも限定的だ。
企業が再エネ証書を購入することは、送電網のどこかで風力、太陽光、原子力、水力などのクリーンな水源から1MWhの電力が発電されたという「権利」を帳簿上で主張することを意味する。しかし、実際にデータセンターに流れ込む物理的な電子は、化石燃料を大量に燃やしている可能性のある共有送電網の他の電子と区別がつかない。
学術誌『Nature Climate Change』に掲載された査読済み研究によると、このような会計手法は「実際の排出削減につながる可能性が低い」と指摘されている。同研究は、企業による証書の広範な利用が気候変動対策の進捗を過大評価させており、現在の傾向が続けば、約束された排出削減量の42%が現実世界の緩和につながらないと結論づけている。
さらに構造的な問題として、地理的なズレがある。アイオワ州やテキサス州で購入された再エネ証書では、台湾やベトナムの半導体ファウンドリ(受託製造工場)がGoogleのデータセンター向けGPUを製造する際に排出する炭素を相殺することはできない。証書と工場は全く異なる会計システム上にあり、このギャップこそがGoogleの「Scope 3」排出量が蓄積する場所となっている。
■AIの「炭素債務」が潜むScope 3の実態
国際的な温室効果ガス排出量の算定基準である「温室効果ガス(GHG)プロトコル」では、企業の排出量を3つのカテゴリに分類している。Scope 1は企業が直接所有・管理する排出源からの排出、Scope 2は購入した電力に伴う排出(再エネ証書が適用される領域)だ。そしてScope 3は、購入した製品やサービス、施設の建設資材、サーバーやチップの製造、それらの輸送など、バリューチェーン全体におけるその他のすべての排出を指す。
Googleにおいて、Scope 3は現在、総炭素フットプリントの約80%を占めている。このカテゴリは2025年に前年比25%増加し、データセンターの建設だけでも約230万二酸化炭素換算トン(t-CO2e)の排出をもたらした。同社のScope 3総排出量は、基準年である2019年比でほぼ倍増している。
Googleはこの増加の主な要因として、ハードウェアの製造と物流を挙げており、特に台湾、日本、ベトナム、インドなどの化石燃料依存度の高い送電網を利用する半導体サプライヤーの影響を指摘している。Googleがどれだけ再エネ証書を購入しても、これらファウンドリが稼働する現地の送電網の炭素集約度を変えることはできない。同社は報告書の中で、「当社のAIインフラ構築のペースは、現在、送電網の脱炭素化よりも速く進んでいる」と率直に認めている。
サステナブルAIグループ(Sustainable AI Group)の共同創設者兼チーフサイエンティフィックオフィサーであるサシャ・ルッチョーニ氏は、より厳しい評価を下している。「私たちは本質的に気候危機に直面しており、本来であれば排出量を一切増加させるべきではない。それにもかかわらず、データセンターは逆の方向に進んでいる」
■「1クエリあたりの効率化」では解決できない理由
Googleは、AIの個々のクエリ(質問)が環境に与える影響は極めて小さいと説明しようとしてきた。2025年8月に公開された技術論文の推計によると、同社のAIモデル「Gemini」におけるテキストプロンプトのエネルギー消費量の中央値は0.24ワット時(Wh)であり、これはテレビを9秒間視聴するよりも少ないエネルギーに相当するという。モデルの効率化により、プロンプト1回あたりの炭素フットプリントは過去12ヶ月で44分の1に減少したとされる。なお、Googleはこの論文を独立した第三者による査読に提出していない。
この効率性の数値自体は事実であるが、分析の単位としては適切ではない。重要なのは、1クエリあたりの影響ではなく、インフラ全体の総需要である。
モデルレベルでの効率向上は、総電力消費量の削減にはつながっていない。むしろ、AIの実行コストが下がったことで普及が加速し、結果として総負荷が増加している。Google自身のデータがこれを示しており、1プロンプトあたりの効率が数十倍に向上した2025年において、電力消費量は同社史上最大の37%増を記録した。これら2つの傾向は矛盾しておらず、密接に関連している。計算コストが下がれば、より多くの計算が求められるようになる。これは経済学において19世紀から研究されている「ジェボンズのパラドックス」と呼ばれる現象だ。
水資源の消費についても同様の傾向が見られる。2025年のデータセンター運用における水消費量は、高性能AIサーバー群の冷却需要により、前年比34%増の109億ガロン(約4126万キロリットル)に達した。オレゴン州ザ・ダレスにおける地元紙『The Oregonian』の調査報道によると、Googleは同地域での水消費量を2012年から2025年の間に5倍に増やし、約5億5000万ガロン(約208万キロリットル)に達した。これは同市の年間総水使用量の約40%に相当する。
■クリーンエネルギーへの取り組みとその限界
もっとも、Googleのクリーンエネルギーへの取り組みが無価値というわけではない。同社は2025年単年で、過去最大となる12ギガワット(GW)以上の新規クリーンエネルギー購入契約を締結した。これには、アイオワ州にある出力600メガワット(MW)のデュアン・アーノルド原子力発電所の再稼働に向けたNextEra Energyとの提携や、Brookfieldとの3GW規模の水力発電枠組み合意、Commonwealth Fusion Systemsとの核融合エネルギー購入契約などが含まれる。総電力需要が37%増加したにもかかわらず、Scope 1およびScope 2の排出量を2%削減できたことは、技術的な成果と言える。
しかし、これらの取り組みの規模こそが、ギャップの大きさをも物語っている。単年で12GWもの新規契約を結んでもなお、Googleの電力需要と送電網の脱炭素化ペースとの乖離は広がり続けている。同社の環境報告書には「当社の気候変動に対するムーンショット(大胆な挑戦)は難易度を増している」との表現がある。これは予測ではなく、現在の軌道をそのまま表した言葉だ。
Amazonも同様の状況にある。同社は2025年に世界で最も多くのデータセンター容量を追加したと報告しており、第4四半期だけで1.2GW以上を追加した。なお、Microsoftの2026年版サステナビリティ報告書は、本記事の執筆時点では公開されていない。
■鉄鋼、セメント、そして証書では解決できない建設炭素
半導体だけでなく、Googleが新しいデータセンターを建設するたびに、最初のサーバーが設置される前から炭素コストが発生する。鉄鋼やセメントの製造は、世界で最も排出量の多い産業プロセスの一部だ。これらの材料の低炭素代替品は試作段階にあるものの、ハイパースケールデータセンターの建設プログラムが必要とする規模では供給されていない。Googleが新しいデータセンターを建設する際、前述の半導体製造時の排出に加え、資材レベルで化石燃料由来の炭素を消費することになる。
Googleはサプライチェーン側での対策も進めている。同社の「クリーンエネルギー補足条項(Clean Energy Addendum)」では、主要なハードウェアサプライヤーに対し、2029年末までに100%クリーン電力を使用することを求めており、報告書公開時点で75社以上のサプライヤーが署名している。同社はこのプログラムにより、サプライチェーンの排出量を最大800万t-CO2e削減できると試算している。しかし、これらの削減がAIインフラの建設ペースに間に合うかどうかは、同社が掲げる「2030年のネットゼロ目標」の成否を分ける未解決の課題である。
■注目ポイントQ&A
●Googleの「再生可能エネルギー100%」という主張は正確ですか?
この主張は会計上の処理に基づくものであり、物理的な実態とは異なります。Googleは消費電力と同等の再生可能エネルギー証書(REC)を購入していますが、これは特定のデータセンターにクリーン電力が直接供給されていることを保証するものではありません。また、この証書は同社の炭素フットプリントの約80%を占めるサプライチェーン(半導体製造やデータセンター建設など)の排出をカバーしていません。学術誌『Nature Climate Change』の研究でも、こうした証書ベースの会計手法は現実の排出削減につながりにくいと指摘されています。
●Scope 3排出量とは何ですか?なぜGoogleは削減に苦戦しているのですか?
Scope 3とは、製品の原材料調達、製造、輸送など、自社の事業活動の枠外で発生する間接的な温室効果ガス排出のことです。Googleの場合、台湾、日本、ベトナム、インドなどの化石燃料依存度が高い送電網地域にある半導体ファウンドリでのチップ製造が大きな割合を占めています。Googleが他国で再エネ証書を購入しても、これら現地の送電網の炭素集約度を直接下げることはできません。自社が所有・運営していない施設のエネルギー構成を変える必要があるため、削減は容易ではなく、同社もネットゼロへの道筋は「直線的ではない」と認めています。
●GoogleのAIツールを使用すると、ユーザーも炭素排出の責任を負うことになりますか?
Geminiでの1回のテキスト質問で使用される電力は約0.24ワット時(テレビを9秒間視聴するのと同等)であり、個人レベルの影響は極めて軽微です。しかし、AIインフラ全体の維持・拡大にかかる環境負荷(データセンターの建設、サーバーやチップの製造、前年比37%増という規模での電力調達など)が、Googleの環境影響の大部分を占めています。問題の本質は、個々のクエリではなく、それらを可能にするための巨大なインフラ全体の総需要にあります。
●IT大手のAIによる炭素フットプリントはいつピークアウトしますか?
現時点で確実な見通しはありません。Googleの報告書によれば、AIインフラの構築ペースが送電網の脱炭素化を上回っており、効率が向上しても総排出量は増加し続けています。国際エネルギー機関(IEA)は2026年4月に、世界のデータセンターの電力消費量が2030年までにほぼ倍増すると予測しています。Googleが掲げる2030年のネットゼロ目標は、現在の送電網の脱炭素化やサプライチェーン転換のペースでは達成が困難であると同社自身も認めています。
元記事: Google AI Electricity Up 37%: Renewable Certificates Cannot Cover the Supply Chain Carbon