Google DeepMindからトップ研究者6名がMetaやOpenAIらへ移籍、背景に「商用コーディング重視」への戦略転換か

2026年6月29日 18:58

Google DeepMindから、2026年2月以降に少なくとも6名の著名なAI研究者がMeta、OpenAI、Anthropicなどの競合他社へ移籍したことが明らかになった。この異例の人材流出の背景には、単なる引き抜きや待遇面だけでなく、同社が推進する「コーディング支援AIの商用化」と、研究者らが重視する「世界モデルによる汎用人工知能(AGI)の追求」との間の戦略的対立があると報じられている。本稿では、離脱した主要メンバーの功績と、DeepMind内部で起きている研究優先順位の地殻変動について解説する。

■相次ぐトップ研究者の離脱と移籍先

2026年2月以降、Google DeepMindから6名の著名な研究者が競合他社へ移籍した。この異例の人材流出は、単なる引き抜きや待遇面の問題にとどまらず、同社がどのようなAIを構築すべきかという方向性を巡る内部対立が原因であると報じられている。

MetaのSuperintelligence Labには、Google Brainの推論研究チーム創設者であるデニー・周(Denny Zhou)氏や、AIセキュリティスタートアップ「Virtue AI」の共同創設者であるドーン・ソング(Dawn Song)氏らが加入した。Anthropicには、AlphaFoldの研究で2024年ノーベル化学賞を共同受賞したジョン・ジャンパー(John Jumper)氏や、コーディングAIを率いたジョナス・アドラー(Jonas Adler)氏、アレクサンダー・プリッツェル(Alexander Pritzel)氏が移籍している。さらにOpenAIには、著名な論文「Attention Is All You Need」の共著者でGeminiプロジェクトの共同リードを務めたノーム・シャジール(Noam Shazeer)氏が移籍した。Googleは2024年にシャジール氏を呼び戻すために約27億ドル(約4,374億円、1ドル=162円換算)を投じたとされるが、2年足らずでの再離脱となった。

■「推論の王」デニー・周氏が遺した功績

周氏のMetaへの移籍は、公には大きく報じられなかったものの、技術的に極めて重要な意味を持つとみられている。周氏が率いたGoogle Brainの推論研究グループは、現代のLLM(大規模言語モデル)に不可欠な3つの手法を開発した。

1つ目は「Chain-of-Thought(思考の連鎖)プロンプティング」であり、モデルに中間的な推論ステップを示すことで、段階的に問題を解かせる手法である。2つ目は「Self-Consistency(自己整合性)」で、複数の推論経路をサンプリングし、最も頻出する回答を採用する。3つ目は「Least-to-Most(最小から最大へ)プロンプティング」であり、複雑な問題をサブ問題に分解して順次解決する。これらの手法は、モデルの重みを変更することなく、推論時に文脈を構造化するだけで推論能力を引き出すものであり、現在の主要なAI研究所の基盤となっている。

■「AIコーディング突撃チーム」の結成と戦略シフト

関係者や報道によると、流出の背景には2026年4月に結成された「AI Coding Strike Team(AIコーディング突撃チーム)」の存在がある。同チームは、Anthropicの「Claude」やOpenAIのコーディングツールに対抗するため、Geminiのコーディング能力向上を課せられた。共同創設者のセルゲイ・ブリン氏やDeepMindのCTOコレイ・カヴクチュオグル氏も直接関与していると報じられている。

チームの役割は、モデル構築の中間段階である「ミッドトレーニング(midtraining)」の変更にまで拡大した。これはプロンプトの改善にとどまらず、モデルの重みレベルでコードや数学の知識を再構築することを意味する。この商用コーディングへのリソース集中に伴い、シャジール氏のプロジェクトに割り当てられていた計算資源がロンドンのDeepMindチームに再配分されたことが、同氏の離脱の直接的な契機になったと報じられている。

■「世界モデル」を巡る研究方針の分裂

多くの離脱研究者にとって、今回の戦略シフトはDeepMindに参加した本来の目的と矛盾するものだったとされる。デミス・ハサビス氏やMetaのヤン・ルカン氏らは、真の推論や計画能力を持つAGIの実現には、環境の内部表現を構築する「世界モデル(world models)」が不可欠だと主張してきた。

しかし、内部事情に詳しい関係者によると、計算資源がコーディング性能の向上に集中する中で、世界モデルの研究は停滞し、優先順位が下げられているという。ハサビス氏は2026年6月のインタビューで、「主要な研究所間での人材の流動は激しいが、我々は最大の研究層を擁している」と述べ、競争の激しさを認めている。

■Geminiへの短期的・長期的影響

アナリストの分析によれば、今回の離脱がGeminiの性能に即座に悪影響を与えるわけではない。開発されたモデルや重み、インフラはGoogleに留まるためである。ジェフリーズのアナリスト、ブレント・ティル氏は、今回の離脱を「ノイズ」と呼び、Alphabet株の買い推奨を維持している。

一方で、D.A. Davidsonのギル・ルリア氏は「現在の最先端の競争はAnthropicとOpenAIの間で起きている」と指摘。また、SignalFireの報告書によると、DeepMindからAnthropicへの転職傾向は逆の11倍に達しているという。Googleは豊富な計算資源とユーザー基盤を持つが、基盤技術を築いたトップ研究者らの喪失は、次世代AI開発における長期的な競争力に影響を与える可能性がある。

■注目ポイントQ&A

●2026年にGoogle DeepMindからAI研究者が相次いで離脱している理由は何ですか?

財務的要因と戦略的要因の双方が影響しています。競合のAnthropicやOpenAIが新規株式公開(IPO)を控えて魅力的な株式報酬を提示できる一方で、DeepMind内部では「AIコーディング突撃チーム」の結成に伴い、リソースが商用コーディング分野へ集中しました。これにより、世界モデルなど長期的な汎用人工知能(AGI)研究を重視する研究者との間で方針の不一致が生じたと報じられています。

●Google DeepMind内部で起きている戦略的な対立とはどのようなものですか?

既存のTransformerモデルを商用コーディング向けに最適化(ミッドトレーニングの実施など)しようとする実用重視の路線と、真の推論や計画能力を持つAGI実現に不可欠とされる「世界モデル」などの基礎研究を追求する路線の対立です。リソースが前者に偏ったことで、基礎研究を志向するメンバーの離脱につながったとされています。

●Metaに移籍したデニー・周氏の功績と、その影響は何ですか?

周氏はGoogle Brainで推論研究チームを率い、現在のLLMの基盤となっている「Chain-of-Thought(思考の連鎖)」「Self-Consistency(自己整合性)」「Least-to-Most」という3つの画期的なプロンプティング手法を開発しました。これらはモデルの再学習なしに推論能力を引き出す技術であり、同氏のMeta移籍は、Metaが推論能力開発において強力な優位性を得る契機になるとみられています。

●今回の人材流出により、GoogleのGeminiはすぐに悪化しますか?

短期的には悪化しないとみられます。研究者が開発したモデルや重み、学習データはGoogleに留まり、同社は依然として膨大な計算資源とユーザー基盤を保持しているためです。ただし、基盤技術を築いた核心的な人材を失ったことで、次世代モデルの開発競争において長期的に他社に遅れをとるリスクが指摘されています。

元記事: Google DeepMind’s Coding Pivot Lost Six Researchers to Meta, OpenAI, and Anthropic

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