敗北(1)【中国問題グローバル研究所】

2026年6月10日 10:10

*10:10JST 敗北(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)フレイザー・ハウイーの考察を2回に渡ってお届けする。


※この論考は5月31日の< Defeat>(※2)の翻訳です。


期待薄そのままの成果
我々は素晴らしい関係を築いてきた。うまくやっている。問題があったときも解決してきた。私が電話すれば、あなたも電話をくれる。あまり知られていないが、問題が生じるたびに我々は速やかに解決してきた。

我々は共に素晴らしい未来を築いていくことになるだろう。私は中国に敬意を持っているし、あなたが成し遂げてきたことにも敬意を持っている。あなたは偉大な指導者だ。皆に言っていることだが、あなたは偉大な指導者だ。私がそう言うのを嫌がる人もいるが、それでも言う。それが真実だからだ。私は真実しか言わない。それから、我々の素晴らしい代表団全員に代わって言いたいのだが、ここには最高のビジネスマンが揃っている。

その一人一人があなたと中国に敬意を表すためにここに来ており、貿易やビジネスをすることを楽しみにしている。

2026年5月、ドナルド・トランプから習近平に向けた会談冒頭の発言抜粋

米国にとって最大の問題は中国だと述べた大統領のものとは思えない発言だ。トランプ1期目の中国に関する率直な物言いは、経済・貿易・安全保障における対中強硬策で広く超党派の支持を得た。中国は依然として共和党と民主党を結束させ得る唯一の問題と言えるが、トランプの訪中の成果は乏しかった。だがトランプは絶えず嘘をつき、発言の途中でも態度を変える人物だということを忘れてはならない。そのため習への称賛はすべて、特にイランに関して中国側からより有利な条件を引き出すためだけになされたかもしれない。とはいえ何の効果もなかった。中国側はホルムズ海峡の開放を望んでいるとの発言を繰り返した。その海峡封鎖はトランプの無謀な戦争のせいだ。中国はイランに武器を供与しないと約束したが、中国は武器システムに転用可能な部品をイランやロシアに頻繁に供給しており、そうした約束の効果は限定的だ。戦争が始まる前、中国はイランの主要な経済支援国だったが、その状況は変わっていない。変わったのは、最終的にどのような和平合意や停戦協定が結ばれるにせよ、中国のパートナーであるイランの立場が強まったということだ。

中国は米国の農産物購入を増やすと言明し、双方は機微性の低い通商問題を協議する貿易委員会と、投資関連の問題を協議する投資委員会を設置することで合意した。これらの問題について米国政府から公表されたのは、おおむねこれくらいだ。だが率直に言ってそれに何の意味があるのだろう?米国から中国への農産物輸出が減少したのは、トランプの無謀な貿易政策と関税という強硬策が原因だ。これらの委員会はどちらも、両国の根本的な緊張関係を解消する上で何の役にも立たない。

一方、習の最大の関心事は台湾だ。新華社によると、非公開協議の場で習はトランプに対し、「対応を誤れば両国は衝突し、紛争に至る可能性もあり、中米関係全体を極めて危険な状況に追い込むことになる」と警告したという。ルビオ国務長官は会談後も米国の台湾政策に変更はないと述べたが、保留している140億ドル規模の台湾への武器売却を承認するかどうかがトランプの対応を見極める最大の判断材料になるだろう。

トランプが北京を去って数日後、同じレッドカーペットと兵士たちが再び配置され、ウラジーミル・プーチンを出迎えた。米露両大統領の相次ぐ訪中は、対中関係が間違いなく大国間政治の鍵を握る要素であることを示しているが、新たな多極的世界秩序について美辞麗句を並べたプーチンもまた、大きな成果を上げることはできなかった。プーチンの目的はガスパイプライン「シベリアの力2」について中国の正式な確約を得ることだったが、中国側は確約を避けた。ウクライナ戦争が5年目に突入し、ロシアは政治的にも経済的にも中国への依存を一段と強めている。両首脳は、トランプが米国の国際的評価を大きく損ない、国内制度をも崩壊させている状況を喜んでいるに違いないが、中露間の緊張は根強く、消えることはない。習とプーチンは友好関係を口にするが、習もプーチンもトランプも友人などではない。他の指導者が直面する課題や不安の中に自分自身を重ねて見ることはあるかもしれないが、そこに普通の意味での友情はない。

したがってトランプもプーチンも、今回の訪中でその称賛や友情に見合う成果はほとんど得られなかった。これは習が中国の未来について独自の計画を持つことを如実に表し、その内容は5カ年計画の中でも改めて明確に示されている。中国の自給率を高め、他国がローテク・ハイテク製品や重要素材の製造拠点として中国に依存する未来だ。


戦争での敗北
トランプが認めずとも習にとって明らかなのは、米国がイランでの戦争に負けたという現実だ。確かに封鎖は続いており、爆撃や攻撃がまだあるかもしれないが、イラン戦争は米国にとって完全な戦略的失敗だった。トランプは今になって、目的はイランに核爆弾を持たせないことだと主張するかもしれないが、米国とイスラエルは昨年の時点でイランの核能力を完全に破壊している――そうトランプは言っていたはずだ。イラン最高指導部の排除を狙ってイスラエルが主導した攻撃は成功したが、体制変革にはつながらず、むしろイラン指導部の強硬派をさらに勢いづかせ、イランがホルムズ海峡を封鎖すれば最小限の負担で容易に世界経済を危機に追い込めることを証明してしまった。

トランプの狂気の戦争はイランに変化をもたらすどころか、米国の同盟関係、特に欧州の同盟国との関係を致命的に弱体化させた。また、特にアジアのパートナー諸国は経済的に大きな打撃を受けた。中東地域でのイランの立場を強めたほか、台湾防衛に必要な膨大なハイテク軍事力を浪費している。さらには、議会が(その意思がないために)大統領府を監視も抑制もできないという点で、米国の政治体制が完全に機能不全であることを露呈した。2026年2月28日以前の世界はもう戻らない。「パックス・アメリカーナ」は死んだ。

本稿執筆時点では、停戦合意が間近との期待がやや高まっている。トランプは必死で出口戦略を探っているが、イラン側はそれに応じず、より有利な条件を要求し続けている。トランプはまた、イランが米国の条件を黙って受け入れないなら「片を付ける」(それが何を意味するかは不明だが)よう求める米国内の伝統的な対イラン強硬派からの圧力にさらされている。合意という言葉さえ、実態を誇張しているように思える。米国側はわずか1ページの覚書で基本合意することを目指しており、詳細は後回しだ。一方、供給網への打撃を考えると、経済的混乱は2028年まで続くだろう。


「敗北(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。

中国の習近平国家主席と米国のドナルド・トランプ大統領が、北京の天壇を訪問した際に祈年殿の前でポーズをとった(写真:ホワイトハウス)


(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://grici.or.jp/7344《CS》

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