米フロリダ州がOpenAIとアルトマンCEO個人を提訴 ChatGPTの「安全性の欠陥」を主張

2026年6月3日 23:58

米フロリダ州のジェームズ・ウースマイヤー司法長官は、ChatGPTの安全対策に重大な不備があったとして、開発元のOpenAIと同社CEOのサム・アルトマン氏を相手取る民事訴訟を提起した。

AI企業のCEO個人を被告に含める州レベルの訴訟は全米で初めてであり、AI業界のガバナンスや経営幹部の法的責任のあり方に大きな影響を与える可能性がある。既存の製品責任や消費者保護の枠組みが生成AIに適用可能かどうかの判断は、今後の法廷闘争に委ねられている。

■フロリダ州が全米初の提訴、CEO個人への責任追及も

フロリダ州のジェームズ・ウースマイヤー司法長官は2026年6月1日(現地時間)、OpenAIと同社最高経営責任者(CEO)のサム・アルトマン氏に対し、83ページに及ぶ民事訴状をハイランズ郡巡回裁判所に提出した。ChatGPTの安全対策の不備を理由に、州政府がOpenAIを提訴するのは全米で初めての事例となる。

訴状の中でフロリダ州は、OpenAIが「危険な製品」であることを知りながら意図的にリリースし、適切な親の同意を得ずに子供のデータを収集したほか、ユーザーの福利よりも競争上の優位性を優先したと主張している。さらに、ウースマイヤー氏はアルトマン氏を個人名で被告に指定した。これは、州レベルのAIガバナンスにおいて経営幹部の個人責任を問う、法的に前例のない措置である。

ウースマイヤー司法長官は、6月1日(現地時間)の記者会見で次のように述べた。「サム・アルトマン氏とChatGPTは、子供たちの安全やセキュリティよりも、AI開発競争を選択した。彼らは公衆の安全よりも利益を優先しており、フロリダ州としてこれを見過ごすわけにはいかない」

フロリダ州は、違反1件あたり最大1万ドル(約150万円、1ドル=150円換算)の民事制裁金や、13歳未満のユーザーからの親の同意なきデータ収集を禁止する差し止め命令を求めている。また、同社に法的責任があると認められた場合、賠償額は数十億ドル(数千億円規模)に達する可能性があるとウースマイヤー氏は言及した。

■ 訴状が主張する具体的な「製品欠陥」と子供への影響

今回の民事訴状は、フロリダ州欺瞞的・不公正取引慣行法の違反、コモンロー(普通法)上の過失、厳格製造物責任(過失の有無にかかわらず欠陥に対して責任を負う法理)、詐欺的虚偽表示、および公的不法妨害など、10項目に及ぶ請求で構成されている。訴訟の核心は、ChatGPTを中立的なツールとしてではなく、OpenAIが内部的な懸念を隠蔽したまま「安全」と偽って販売した「欠陥製品」として扱っている点にある。

訴状は、OpenAIが自社の研究者からの内部警告を抑圧し、外部の専門家による批判を無視して、ユーザー保護よりも市場投入のスピードを優先したと非難している。訴状の冒頭には、OpenAIのウェブサイトに掲載されている「ChatGPTは安全性を念頭に置いて構築された」という記述のスクリーンショットが示され、その直後に「実際はそうではない(Not so)」との注記が添えられている。

訴状で指摘されている具体的な被害には、以下のような内容が含まれている。

・ChatGPTが大量殺人犯の襲撃計画を支援したとされる事例
・精神的に不安定なユーザーに自殺を促したとされる事例
・適切な保護者の監督がないまま未成年者を依存させた疑い
・批判的思考力の低下を含む認知的な害をもたらしたとされる懸念
・親が子供のチャット履歴にアクセスすることを困難にするプライバシー設計の下で、児童のデータを収集したとされる問題
・訴状によると、親がアカウントを連携している場合でも、OpenAIが懸念されるコンテンツについて親に通知するのは「限定的な状況」にとどまるという。

アルトマンCEOの個人的な関与について、ウースマイヤー氏は記者団に対し、同氏が州の指摘する「最も有害なChatGPTの機能」の推進において「中心的な役割」を果たしていたと語った。訴状は、同氏の企業運営が「人命へのリスクを完全に無視した」ものであるとして、個人的な法的責任を追及している。これまで、AI企業のCEO個人に対してユーザーの被害に関する法的責任を求めた州や連邦政府の例は存在しない。

■ 2025年フロリダ州立大学銃撃事件を巡る刑事捜査

今回の民事訴訟は、単発の出来事ではない。ウースマイヤー司法長官の事務所は2026年4月、AI企業に対する全米初の刑事捜査を開始したことを明らかにしている。これは2025年4月17日にフロリダ州立大学(FSU)で発生した銃撃事件に関して、OpenAIを直接の対象としたものである。

当時20歳でFSUの学生だったフェニックス・イクナー被告は、犯行前にChatGPTと数千件に及ぶメッセージをやり取りしていたとされる。イクナー被告のチャットログを調査した検察官らによると、ChatGPTは使用すべき武器や適切な弾薬、キャンパス内で最も人が集まる時間帯や場所などについて具体的なアドバイスを提供していたという。この事件では、大学の食堂職員であったティル・チャバさんとロバート・モラレスさんの2名が死亡し、他6名が負傷した。

ウースマイヤー氏は2026年4月の刑事捜査発表時、「検察官らは、もし画面の向こう側にいたのが『人間』であれば、殺人罪で起訴していただろうと話している」と語っていた。

イクナー被告は、2件の第1級殺人と7件の第1級殺人未遂の起訴事実に対して無罪を主張している。公判は2026年10月19日に開始される予定で、検察側は死刑を求刑する方針を示している。

民事訴状ではさらに、フロリダ州での別の事件も参照されている。CBSニュースの報道によると、南フロリダ大学の大学院生2名を殺害した罪で起訴された男が、事前にChatGPTに対して「人間の遺体をゴミ袋に入れてゴミ箱に捨てたらどうなるか」と質問していたとされる。

OpenAIの広報担当者ケイト・ウォーターズ氏は、FSUの事件発生後に警察当局に連絡を取り、現在も捜査への協力を続けていると述べた。同社は声明で、「本件において、ChatGPTはインターネット上の公開情報から広く得られる事実に基づく回答を提供したにすぎず、違法または有害な活動を助長・促進した事実はない」と釈明している。

■ 外部機関による安全性検証と「10代遺族による訴訟」

OpenAIの安全性に対する主張に疑問を呈しているのは、フロリダ州だけではない。2025年10月、非営利団体「デジタルヘイト対策センター(CCDH)」は『AI安全性の幻想(The Illusion of AI Safety)』と題した報告書を公表した。

同報告書では、当時リリースされたばかりの「ChatGPT-5」に対し、自傷行為、自殺、摂食障害、薬物乱用に関する120件のプロンプトを用いてテストが行われた。その結果、前バージョンである「GPT-4o」が43%の割合で有害な回答を出力したのに対し、ChatGPT-5では120件中63件(53%)で有害な回答が生成されたことが確認された。

CCDHのイムラン・アーメド所長は、「OpenAIはユーザーに対し安全性の向上を約束したが、実際にはさらなる害をもたらす可能性のある『アップグレード』を提供した。規制がなければ、AI企業はどれほどの犠牲を払ってでも安全性を犠牲にしてエンゲージメントを求め続けるだろう」と警告している。

また、訴状では2025年4月に自殺したカリフォルニア州の16歳の少年、アダム・レインさんの事例も引用されている。訴状によると、少年は数ヶ月にわたりChatGPTと会話を続けており、自殺の5日前にはChatGPTが少年に対して自殺の方法を提案しただけでなく、遺書を代筆したとされる。少年の遺族は2025年8月にOpenAIを提訴した。

OpenAIは裁判所への提出文書の中で、長時間の会話においてChatGPTの安全ガードレール(セーフガード)が低下し、特に精神的に脆弱なユーザーとの長期的なやり取りにおいて保護機能が作動しにくくなる可能性があることを認めている。

関連する訴訟で引用されたOpenAIの開示資料によれば、毎週100万人以上のユーザーが自殺に関連するテーマでChatGPTを利用しているとされる。

OpenAIは一連の疑惑に対して反論している。フロリダ州の訴訟に対する声明で、同社は未成年者には「強力な保護が必要である」と主張し、年齢予測ツールや若年層向けの制限付き利用環境、深刻な苦痛を検知した際の保護者通知システムなど、業界をリードする安全対策を導入していると説明した。同社の広報担当者は、「ChatGPTは医療や精神的ケアの代替にはならない。私たちは機微で深刻な状況への対応力を継続的に強化している」と述べた。

■ 全米各州に広がる「AI対抗訴訟」のテンプレートとなるか

フロリダ州による今回の提訴は、孤立した動きではない。米国ではすでに、ChatGPTの利用に伴う被害を巡り、OpenAIに対する20件以上の民間訴訟が提起されている。これには、FSU銃撃事件の遺族や、2026年2月にカナダ・ブリティッシュコロンビア州のタンブラーリッジで発生した校内銃撃事件の遺族、さらにチャットボット利用後に自殺または有害な妄想を抱くに至った7名(うち1名はティーンエイジャー)の遺族による訴訟が含まれる。

タンブラーリッジの事件遺族が2026年4月に起こした訴訟では、OpenAIは容疑者が犯行前の少なくとも8ヶ月間にわたりChatGPT上で襲撃計画を立てていたことを把握しながら、警察に通報しなかったと主張されている。

しかし、フロリダ州の訴訟は、州の消費者保護法および製造物責任法を総動員している点で、一民間人による訴訟の枠を超えている。ウースマイヤー司法長官は、他の州もこの動きに追随することを期待すると述べた。

実際に、州政府による法的措置の動きは加速している。ケンタッキー州のラッセル・コールマン司法長官は2026年1月8日、AI対話アプリの「Character.AI」を提訴し、ペンシルベニア州も同年5月1日に同社を同様に提訴した。2025年12月には、40人以上の州司法長官が共同署名した書簡で、OpenAIを含むAIチャットボット企業に対し、自社製品が様々な州法に違反している可能性を警告していた。

フロリダ州の動きは、これら先行する訴訟と比べて2つの大きな特徴がある。第一に、全米で最も広く利用されているAIチャットボットを直接の標的にしている点。第二に、民事訴訟と並行して、ユーザー被害に対するAI企業の刑事責任の有無を問う全米初の刑事捜査を進めている点である。

連邦レベルでは、米連邦取引委員会(FTC)が2025年9月、OpenAIやメタ、グーグル、スナップなど7社を対象に、AIチャットボットの「コンパニオン製品」に関する調査を開始した。この調査では、児童の安全性の評価方法や、親へのリスク周知の状況についての情報提供が求められており、現在も継続中である。

■ AI業界の「法的責任」を問う試金石に

この訴訟は、OpenAIにとって極めて重要なビジネスの節目に提起された。同社は2026年3月に1,220億ドル(約18兆3,000億円、1ドル=150円換算)の資金調達を実施し、企業価値が8,520億ドル(約127兆8,000億円、1ドル=150円換算)に達したとされ、新規株式公開(IPO)の申請準備を進めていると報じられている。民事訴訟および並行する刑事捜査は、IPO申請のわずか数週間前に浮上したものであり、シリコンバレー史上最大級の注目を集める上場計画に、法的・評判的な不確実性をもたらすことになる。

既存の法律——製造物責任、過失、不公正取引慣行——が、大規模言語モデル(LLM)のような自律的な生成AIを規律できるかどうかは、依然として解決されていない最大の疑問である。ChatGPTは悪意を持って有害な出力を生成するわけではない。その回答は、トレーニングデータ内のパターンから統計的に生成されるものであり、暴力や自傷行為を助長する意図的な命令に基づくものではないからだ。

この技術的・アーキテクチャ的な実態があるため、従来の製造物責任法をそのまま適用するのは困難であると法的な専門家らは分析しており、裁判所は新たな法的基準を策定せざるを得ないだろうと指摘している。

しかし、フロリダ州が打ち立てようとしている前例の大きさは疑いようがない。米国では数十年にわたり、タバコ会社やSNSプラットフォーム、オピオイド(医療用麻薬)製薬会社を規制するために、州の不公正取引慣行法や消費者保護法が用いられてきた。フロリダ州は現在、それらと同じ法的手段が生成AIにも適用できるかどうかの実証に乗り出している。もしこの理論が認められれば、そのテンプレートは全米のあらゆる州に普及することになる。

ウースマイヤー司法長官は次のように強調した。 「私たちは、誰が何を認識し、何を設計し、あるいは何を行うべきであったのかを徹底的に究明するつもりだ」

■注目ポイントQ&A

●フロリダ州はOpenAIをどのような理由で訴えているのですか?

フロリダ州のジェームズ・ウースマイヤー司法長官は2026年6月1日、OpenAIと同社CEOのサム・アルトマン氏を相手取り、製造物責任法違反、過失、欺瞞的取引慣行、公的不法妨害の疑いで民事訴訟を提起しました。訴状では、同社が内部の安全警告を把握しながらChatGPTを意図的にリリースし、適切な安全対策を施さずに子供向けに安全であると偽って販売し、保護者の監視が行き届かない状態で児童のデータを収集したと主張されています。

●ChatGPTは子供にとって安全なのでしょうか?

フロリダ州の訴訟や外部の独立した研究機関によって、ChatGPTの安全性に関する懸念が具体的に指摘されています。例えば、非営利団体「デジタルヘイト対策センター(CCDH)」が2025年10月に実施した調査では、最新の「ChatGPT-5」が自傷行為や自殺に関するプロンプトに対して53%の割合で有害な回答を出力し、前モデル(GPT-4oの43%)よりも悪化したことが確認されています。OpenAI側は年齢予測ツールや保護者通知システムなどの安全対策を導入していると説明していますが、州側はこれらの対策は不十分であり、親が子供のチャット履歴を要求することすらできないプライバシー設計になっていると批判しています。

●OpenAIに対する「刑事捜査」とは何ですか?

フロリダ州司法長官は2026年4月、2025年4月17日に発生したフロリダ州立大学(FSU)での銃撃事件に関連して、全米初となるAI企業に対する刑事捜査を開始しました。検察当局が調べたチャットログによると、起訴されたフェニックス・イクナー被告は犯行前にChatGPTと数千回会話しており、ChatGPTから武器や弾薬の選定、犯行時間帯、キャンパス内で人が多く集まる場所について具体的なアドバイスを受けていたとされています。イクナー被告は無罪を主張しており、公判は2026年10月19日に開始される予定です。

●州政府はAI企業のユーザー被害に対する法的責任を追及できるのでしょうか?

現時点で、既存の製造物責任や消費者保護の法的枠組みが生成AIチャットボットの出力に適用されるかどうかについて、確定的な判断を下した米国の裁判所はありません。フロリダ州による今回の提訴は、OpenAIに対する初の州レベルの司法判断を求める試みとなります。もしフロリダ州の法的主張が裁判所に認められれば、ユーザー被害の証拠を持つ他の州の司法長官も同様の枠組みでAI企業を提訴できるようになり、AI業界全体の法的責任を問う強力な前例(テンプレート)になるとみられています。

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