金利上昇、住宅ローンに揺らぐ家計 日銀の「静かな出口」が映す思惑
2025年11月11日 17:09
2025年11月11日時点で長期金利は1.05%前後で推移し、主要銀行の固定型住宅ローン金利も上昇が続いている。日銀の「静かな出口戦略」が金融市場に定着する一方で、家計や住宅購入の現場には微かな揺らぎが広がりつつある。
【こちらも】財政政策諮問会議新メンバー選出で見えた、高市内閣積極財政への本気度
長期金利の上昇が静かに続いている。10年国債利回りは1%台を維持し、主要行の固定型ローンは1.8%前後、変動型は0.475%と、いずれも前年より0.1~0.2ポイント高い水準だ。超低金利に慣れた住宅ローン利用者にとっては、わずかな上昇でも返済負担の変化を実感する局面となってきた。
日本銀行の植田和男総裁は11月8日の講演で、「金利調整は自然な動きであり、経済・物価情勢に応じて柔軟に対応する」と語った。金融政策の“静かな正常化”を示唆する発言だが、物価上昇率はCPIで前年比2.6%と、依然として目標を上回る。市場では、年末の金融政策決定会合を前に「もう一段の調整があるのでは」との観測もくすぶる。
一方、住宅販売の現場では顧客心理が変わり始めた。ある大手不動産会社では、「金利見直しを前に固定型を選ぶ相談が増えている」との声が聞かれる。20~0代の新規購入層にとって、1%台の金利は“新常態”ともいえる。金利上昇が購買意欲を鈍らせるというより、むしろ“借り得”の終わりを意識させる節目となっている。
金融機関側では、金利上昇を追い風に貸出金利や運用利回りの改善が進む。メガバンクは利ざや拡大による収益改善を見込むが、同時に「金利正常化の速度が家計の心理を冷やしかねない」との慎重論もある。金利が経済に与える影響は、もはや市場だけでなく生活者の財布を通じて波及している。
次回の金融政策決定会合では、賃金と物価の連動性が焦点となる。日銀は「急速な利上げではなく、持続的成長と両立する金融環境の整備」を掲げるが、家計はその“静けさ”の中に次の変化を感じ取り始めている。静かな出口は「安定」と「緊張」のはざまにあり、経済全体の空気を微妙に震わせている。