「フライパンの中の猫をひっくり返す」? 猫にまつわる英語イディオム (26)

2025年11月2日 18:42

 英語には猫の比喩を用いたイディオムが非常にたくさんある。猫のしなやかさや気まぐれなところなど、その習性や気質にちなんだものが多いが、今回紹介する「to turn the cat in the pan(フライパンの中の猫をひっくり返す)」のように、謎めいたフレーズも少なくない。

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■To turn the cat in the pan

 「to turn the cat in the pan」とは、「寝返る」「手のひら返しをする」という意味の古いイディオムだ。「何事もなかったように立場を急に変える」「利益や状況に合わせて態度を変える」といった、ずる賢さを含むニュアンスがある。

 この表現の最古の記録は15世紀に遡るとされるが、17世紀以降は政治的な裏切りや寝返りの意味が強まり、「turncoat(変節者)」に近い使い方が定着した。

 この言い回しには、語源をめぐる議論がある。18世紀の俗語辞典編集者Francis Groseによると、この「cat」は、本来「cate(cakeの古い形)」だったものが変化した形だと説明している。

 当時のイギリスでは、四旬節前の火曜日(「Shrove Tuesday」、パンケーキ・デイ、毎年2月~3月ごろ)に、家庭でパンケーキを焼き、それをフライパンで放り上げてひっくり返す腕前を競う風習があった。

 そこから「ひっくり返して裏の面を見せる」、つまり「裏切る」という比喩として、「to turn the cate in the pan」というイディオムが生まれたという。それがいつしか、「cate」が「cat」となり、定着したという説だ。

 一方で猫そのものに由来するとする説もある。猫が常に足から着地する習性にちなみ、自分の利益になる側につく人物を指すという考えだ。

 しかし料理文化とことわざの歴史、また初期文献の綴りを考えると、「cate」由来説の方が信憑性が高い。

■古風なイディオムだが

 文学や歴史的言及、引用などを除き、現在ではほとんど使われなくなったイディオムだが、意味するところは現代にも通じる。立場や意見をくるりと変え、まるで最初からそちら側だったかのように振る舞う様子は、政治や職場など、どの時代にも見られる人間の行動だからだ。

 同じニュアンスを表す現代的な言い回しとして、「changing one’s tune(態度を変える)」、「doing a 180(意見を180度変える)」、「jumping on the bandwagon(人気側に乗り換える)」などがある。(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る

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