「野良猫の道徳心」とは?猫にまつわる英語イディオム (22)

2025年9月29日 09:26

 英語には猫にまつわるイディオムが数多く存在するが、そんな中で、「alley cat(野良猫)」は負のイメージを伴って使われることが多い。

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 日本語の「野良猫」は、どちらかというと自由気ままさを連想させるのに対し、英語の「alley cat」は放縦、無責任、さらには、性的に奔放な人間を形容する婉曲表現として定着してきた。

 その延長線上にあるのが、今回取り上げたい「morals of an alley cat」という言い回しである。直訳すれば「路地裏の猫の道徳心」だが、実際には何を意味するのだろうか?

■Morals of an Alley Cat

 英語で「野良猫」というと、「stray cat」という言い方を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。こちらは一般的に、「飼い主のいない猫」を意味するニュートラルな表現だ。

 一方「alley cat」は、「路地裏の猫」と直訳できるように、都市の裏路地に住み着く猫のイメージが強い。単なる野良猫ではなく、「不潔」「下卑た」「奔放」という否定的なニュアンスがこもる。

 「alley cat」という言い方は、19世紀後半からあったが、当初から単に「野良猫」以上の意味を持っていた。

 飼い主の管理を離れ、自由に交尾する存在として、特に女性に対して「尻軽」「淫乱」という侮蔑的ニュアンスを含めて用いられた経緯がある。つまり、「morals of an alley cat(野良猫の道徳心)」とは、道徳心がないことを比喩的に表したイディオムなのだ。

■近年の使用例

 現代でも「morals of an alley cat」はしばしば使われる。その一例が、2024年の米大統領選討論会でのジョー・バイデン前大統領の発言である。

 対立候補のドナルド・トランプ現大統領を批判する中で、女性関係のスキャンダルを引き合いに出し、「You have the morals of an alley cat.」と断じたのである。

 討論直後の集会や選挙運動においても繰り返しこのフレーズが用いられたため、一時、ネット上では広く拡散した。古風で皮肉の効いた罵倒表現をあえて選ぶことで、バイデン氏が自分の言葉を印象付けようとした意図が読み取れる。

 ただしこの表現は、現代英語で広く使われる一般語ではない。上記の例のように、政治家やコラムニストが強い批判を込めるときに使うことはあるが、やや古風な響きを持つ慣用句であり、日常会話で耳にする頻度は高くない。それでもなお、比喩としての力は明快であり、「野良猫に道徳心を期待するのは無理だ」という強い意図が伝わる。

 例文
 ・The tabloids accused the celebrity of having the morals of an alley cat.
 (タブロイド紙はその有名人を、節操のない人物だと非難した)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る

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