「手袋をはめた猫はネズミを捕まえられない」? 猫にまつわる英語イディオム (18)
2025年8月25日 16:43
イギリスやアメリカのことわざには、猫を題材にしたものが少なくない。猫の狩猟本能や動作の特徴が人間の振る舞いの寓意として用いられ、さまざまな教訓的な表現を生んできた。
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今回取り上げる「a cat in gloves catches no mice」もその一例で、猫の狩りをめぐるイメージから人間の行動原理を説いたことわざである。
■A Cat in Gloves Catches No Mice
この表現を直訳すれば、「手袋をした猫はネズミを捕まえられない」とでもなるだろう。意味は、「礼儀正しすぎたり遠慮深すぎたりすると、目的を達成できない」というものだ。
猫が爪を隠してしまえば、当然ながら獲物を仕留めることは難しくなる。加えて手袋は、西洋文化における礼儀や上品さの象徴でもある。
ここから転じて、過剰な上品さや礼節にこだわると実利を逃す、という意味になるわけだ。
■由来と歴史的背景
英語における初出は明確ではないが、14世紀のフランスで、「Un chat ganté n’attrape jamais de souris(手袋をした猫は決して上手にネズミを捕まえない)」ということわざが確認されており、これが源流と考えられている。
このことわざは、18世紀から19世紀のヨーロッパやアメリカに広がり、実用的な処世訓としてしばしば引用されてきた。商談や政治交渉の場など、強い意思表示が不可欠な場で用いられることが多かった。
この表現が暗示するのは、単純な強さや攻撃性といったものではなく、必要な場面での実行力である。英語圏の文化では、控えめな態度は礼儀として尊ばれる一方、肝心な場面での自己主張の欠如は欠点と見なされ得る。つまりこのことわざは、「機会を逃さぬためにはためらうな」という教えでもあるのだ。
今日では日常会話で頻繁に耳にする表現ではないが、古風な響きを残すことわざとしてスピーチに登場することがある。
例文
・He won’t close the deal unless he speaks up, because a cat in gloves catches no mice.
(彼が声を上げなければ契約はまとまらない。遠慮していては成果は得られないのだ)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る)