相場展望8月14日号 米国株: トランプ関税で、財政赤字縮小でなく拡大、関税負担は消費者へ 日本株: 海外短期投機筋の先物買い相場だけに、急落に注意
2025年8月14日 14:48
■I.米国株式市場
●1.NYダウの推移
1)8/12、NYダウ+483ドル高、44,458ドル
2)8/13、NYダウ+463ドル高、44,922ドル
【前回は】相場展望8月12日号 米国株: FRBは、雇用回復の「利下げ」よりも、「インフレ対策」を優先へ 日本株: 日経平均はNYダウ比で「割高」、海外短期投機筋の暗躍で注意
●2.米国株:トランプ関税で財政赤字縮小でなく拡大、関税負担は消費者へ
1)米国財政赤字の黒字化を狙ったトランプ関税、7月は逆に赤字拡大
・米国財務省が8/12発表した7月の財政収支は▲2,910億ドルの赤字、前年同月比で赤字が▲19%増となった。関税輸入が大幅増加したにもかかわらず、歳出の伸びが歳入を上回ったことで、財政赤字が約▲2割拡大した。(ロイター)
・トランプ氏は「関税で数兆ドルの収入がある」という。さらに「関税が、インフレやその他の問題を引き起こしていない」。むしろ、「関税が莫大な現金となり財務省の金庫に流れ込んでいる」と主張した。
・しかし、関税は外国製品を輸入する米国企業が支払うものであり、最終的には価格転嫁されて米国の消費者が負担することになる。そのことを、トランプ氏は説明していない。
・また、トランプ氏がいう「関税で数兆ドルの収入」というが「10年累計」の数値であり、1年の収入と勘違いするような言い方をしている。
・また、7月の関税収入は前年同月比+273%増の280億ドル(約4.14兆円)。この7月の数値を10年間に換算すると3兆3,600億ドルでしかない。
しかも、日本車は7月で27.5%の関税を支払ったが、15%に下がるという。中国とも交渉次第で関税が引き下げられる可能性がある。トランプ氏が主張する「10年で数兆ドル」には届かない可能性が濃厚である。
2)トランプ米国大統領は「関税の消費者負担は認めない、輸出者が負担」と強調
(1)トランプ大統領が「関税」で強調した主張
・数兆ドルの関税収入が米国に入っており、これが株式市場や国富に大きく貢献している。
・関税はインフレを引き起こさずに、米国財務省の国庫を増加させているだけだ。
・現時点では、関税のほとんどが、外国企業や外国政府が負担している。そのため、米国の消費者には負担がかかっていない。
(2)トランプ氏は「消費者への転嫁」は許さないと脅迫している
・トランプ氏の激高しやすい性格から、とばっちりを回避するため、関税の消費者への価格転嫁は慎重になっている。
・また、輸入者は消費者の値上げ受け入れを様子見している。
・競争者との間でも、価格転嫁のタイミングを見計らっているため、徐々に値上げすることになると予想する。GMなど米国自動車メーカーは、メキシコ・カナダ・韓国からの輸入が多く関税負担に耐える体力は小さい。まして、自動車関税は日本・韓国は15%でるが、カナダ・メキシコはそれ以上の高関税となっている。したがって、トヨタなどは、GMなどがしびれを切らして値上げするのを待っていると思われる。
(3)関税の負担者は3者であるが、最終的には消費者負担の方向へ
・関税の負担可能者
製造業者:当初は輸出時の値引き対応するが、値上げ時期を様子見。
輸入業者:利益の範囲で負担しているが限界がある。
消費者 :結局、価格転嫁され負担することになる。
・米国の生活必需品の多くが中国からの輸入に頼っており、中国製品のシェアが高い。そのため、価格の主導権は中国側にある。
・トヨタは1台当たり+270ドル(約4万円)の値上げを公表した。値上げ幅は自動車関税に比べて少額であるが、販売代理店に対する販売奨励金などの減額でも関税の一部対応ができる。米国の自動車購入者への値上げ圧力が増すのはこれからだと思われる。
(4)したがって、トランプ氏の「ビッグ・マウス」が暴かれることに
・米国市場で競争力のある製品・商品では、関税は消費者に価格転嫁されることになる。消費者は関税で高くなったモノを買わないと生活できない。
・価格上昇は、インフレ率の引上げという形で表面化する。
・トランプ氏発言の「関税の負担は輸出企業・国が負担する」というのは彼の「はかない希望」にすぎない。「関税の多くは、消費者への価格転嫁」で収束することになろう。
●3.米国財務長官、対中国半導体売上の15%の米国政府受取を「他分野にも拡大可能」 (ロイター)
1)米国政府に支払われる中国販売から得られる売上高見合いは、米国債務の返済に充てるとした。
●4.米国・7月消費者物価指数は前年同月比+2.7%上昇、データ内容に懸念(ロイター)
1)変動の大きい食品とエネルギーを除くコア指数は前年同月比+3.1%上昇し、6月の+2.9%上昇から加速した。予想は+3.0%だった。
2)関税の影響を受けやすい品目の価格が上昇。
■II.中国株式市場
●1.上海総合指数の推移
1)8/12、上海総合+18高、3,665
2)8/13、上海総合+17高、3,683
●2.中国の新規融資、7月は20年ぶりにマイナス、個人・企業の需要鈍い(ブルームバーグ)
●3.中国、観光など消費者向けサービス業に借入負担軽減策、利子1%補助(ロイター)
1)これとは別に、自動車や電子製品など5万元未満の物品購入のローンについて1%の利子を補助する。
■III.日本株式市場
●1.日経平均の推移
1)8/12、日経平均+897円高、42,718円
2)8/13、日経平均+556円高、43,274円
●2.日本株:海外短期投機筋の先物買い相場だけに、急落に注意
1)直近の日経平均は、海外短期筋の先物買いが主導して上昇
・8/12、日経平均+897円高も、3銘柄で+523円押し上げ
・3銘柄、ソフトバンクG、アドバンテスト、ファーストリテイリング。
+194円 +179円 +149円
・海外短期筋の積極的な先物買いが、売り方の損失覚悟の買い戻しを誘発し、大幅高。
・8/13、日経平均+556円高
・海外短期筋の先物買いが主導するなか、売りが薄く、日経平均は上昇。
2)日経平均の最近の上昇は「海外短期筋による先物買い」が要因
・海外短期筋の先物買いで踏み上げられた、売り手が「損失覚悟」で買い戻しを掛けたことで、日経平均は急騰した。いわゆる「踏み上げ相場」となった。
・相場の状況
・空売りは手を引っ込め、空売り率は極めて低水準に落ち込んでいる。したがって、買い方次第で日経平均は上昇しやすい。
8/04 39.6
8/12 34.6
8/13 35.1
・同時に、好決算銘柄に買いが継続
ソフトバンクG
ただ、ソフトバンクGも5日連騰で、6営業日ぶりに反落するなど、市場に過熱感もみられるようになってきた。
3)日経平均は「海外短期投機筋」が主導権を握っているため、彼らの動向に注目
・海外短期投機筋は、株価先物を使って日経平均を動かしている。彼らのお題目は、(1)米国利下げ期待(2)米国インフレ圧力弱い、である。決して、日本株の状況優位を睨んでいない。日本のファンダメンタルズに着目した「買い」ではない。また、売り方の買い戻しを迫る「踏み上げ相場」となっているため、海外短期投機筋の逃げ足の速さは定評があり、警戒したい。
●3.アシックス、今期の営業利益予想1,200⇒1,360億円に上方修正、増配も(ロイター)
■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)
・2423 エムスリー 業績順調
・3865 北越 業績好調
・9508 九州電力 業績好調
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