「猫を振り回すスペースもない」? 猫にまつわる英語イディオム (15)

2025年7月21日 15:41

 英語のことわざや慣用表現には、時に想像もつかないような発想がある。今回の猫にまつわる英語イディオムも、そうした奇妙な発想がもとになっている。身動きできないほどの窮屈さをユーモラスに描写する「no room to swing a cat」というイディオムだ。

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■No Room to Swing a Cat

 「no room to swing a cat」を直訳すると、「猫を振り回す空間がない」となる。その意味する通り、このイディオムは身動きが取れないほど狭い空間を形容する際に用いられる。混雑した車内、忙しいオフィスの一角など、日常のさまざまな場面で使われてきたイディオムだ。

 日本語にも「猫の額」という慣用句があるが、こちらは猫の前頭部の小ささになぞらえて空間の狭さを表現したものである。一方、英語の場合、「猫を振り回す」という奇妙な比喩になっているのが興味深い。では、なぜそんな比喩表現が生まれたのだろうか?

■由来

 このフレーズの成立背景については諸説あるが、有名な説の一つが、17世紀イギリス海軍で使われたという「cat-o’-nine-tails」(九尾の猫)」に由来するというものだ。

 「cat-o’-nine-tails」とは、かつてイギリスの海軍や陸軍で使用されていた処罰用の鞭である。持ち手の先から9本の細い革紐が垂れており、それぞれが皮膚を傷つけるように作られていた。この鞭で背中を打つことで、規律違反をした兵士を厳しく処罰していたという。これで打たれると猫にひっかかれたような傷が残ることから、この呼び名がついたとされる。

 当時の海軍の船内は非常に狭く、鞭を振るうスペースさえなかった。そこから転じて「no room to swing a cat」という表現が生まれたという説だ。

 ただし、これを由来とするには確たる証拠がなく、後から広まった俗説という見方が強い。一方、動物の猫を物理的に振り回すというイメージの方が、語句の成立時期や文献上の証拠とも矛盾がない。

 実際、「cat-o’-nine-tails」という言葉が初めて文献に登場したのは1695年だが、「no room to swing a cat」という表現はそれ以前から使われていた。したがって、本来は単純に「猫を振り回せるだけの広さもない」という比喩だった可能性が高い。

 いずれにせよ、「no room to swing a cat」というイディオムは19世紀のイギリスで広く用いられるようになり、それが現代まで続いている。ちなみに、派生形として「not enough room to swing a cat」や「barely room to swing a cat」といった言い方もある。

 例文
 ・The elevator was so crowded that there was no room to swing a cat.
 (エレベーターはとても混んでいて、猫を振り回すスペースもなかった)
 ・There’s barely room to swing a cat in my new apartment.
 (新しいアパートは、猫を振り回せるかどうかというくらい、ぎりぎりの広さしかない)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る

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