「床屋の猫のようにうぬぼれた」とは? 猫にまつわる英語イディオム (14)
2025年7月15日 09:03
床屋の客をじっと見つめている猫がいる。まるで自分がこの店の主役だと言わんばかりに、妙に得意げな顔をしている。英語には、猫のそんな様子を比喩にした「conceited as a barber’s cat」というイディオムがあるのだが、これはいったいどんな意味のイディオムだろうか。
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■(As)conceited as a barber’s cat
「conceited as a barber’s cat」を直訳すれば、「床屋の猫のようにうぬぼれた」となるが、「conceited(うぬぼれの強い、高慢な)」とあるように、人のうぬぼれや高慢な態度を強調するイディオムだ。では、なぜ「床屋の猫」なのだろうか?
このイディオムは19世紀後半からイギリスを中心に広まっていったが、床屋の猫は、痩せて落ち着きがなく、どこか自分を特別視しているようなイメージで語られることが多かったようだ。
当時の床屋は、単なる理髪店ではなく、近所の男性が集まり世間話や情報交換をする社交の場でもあった。そのなかで店の猫は、客や店員から注目を集め、どこか自分が主役であるかのように振る舞う存在と見なされていたのだ。
実際、英語スラング分野の権威ある辞書「Green’s Dictionary of Slang」によると、当時の新聞や小説には、「full of wind and piss, like a barber’s cat(床屋の猫のように中身がなく見かけ倒し)」といった表現が用いられていたことが多数記録されている。
床屋にはろくな食べ物もなく、猫は痩せてみすぼらしいのに、なぜか態度だけは妙に大きく見えていた。こうした背景から、実態以上に自分を大きく見せたがるうぬぼれの強い人を、「conceited as a barber’s cat」と皮肉を込めて形容するようになったと考えられる。
なお、この表現は、現代の英語ではかなり古めかしい印象が強い。辞書には今も定義や用例が掲載されており、完全な死語というわけではないものの、日常会話や一般の文章ではあまり見かけることはない。わざと時代がかったニュアンスで、ジョークや皮肉として使われるイディオムと言えるだろう。
例文
・He’s been as conceited as a barber’s cat since the promotion.
(昇進してから、彼はまるで床屋の猫みたいにひどくうぬぼれている)
・She walked in, looking as conceited as a barber’s cat.
(彼女は床屋の猫みたいに得意げな様子で入ってきた)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る)