東大と積水ハウス、生物多様性と健康の関係明らかにする世界初の試み

2022年12月18日 20:03

2022年12月7日から19日(日本時間20日)までの日程で、国連生物多様性条約第15回締約国会議「COP15」第2部が、カナダのモントリオールで開催されている。今回のCOP15の主な議題は、2010年に名古屋市で開催されたCOP10で採択された「愛知目標」の後継となる2030年までの目標を決定することにある。「愛知目標」では2020年までに取り組む20の目標が合意されたが、国連の報告では、その多くが達成できなかったとなっているため、より具体的で現実的な目標の設定と達成に向けた合意が必要だ。そんな今回のCOP15では、2030年までに世界全体で陸域と海域のそれぞれ30%以上を保全地域とする「30by30」の目標が提示され、それに各国が合意できるかどうかが大きな焦点となる。国家単位での連携や目標設定はもちろん大事だが、その目標を達成するためには、それぞれの国々の、自治体や団体、民間企業など意識の高さや取り組みが大きなポイントになってくるだろう。

 さらに個人レベルの意識変革や行動を促すには、生物多様性が人々に与える効果を明らかにすることも大切ではないだろうか。

 東京大学大学院農学生命科学研究科と積水ハウスは11月30日、生物多様性と健康に関する共同研究を開始することを発表した。共同研究の主なテーマは「都市の自然環境や生物多様性が人の健康や幸せに対してどのような効果をもたらすのか」を検証することだ。生物多様性豊かな庭における身近な自然とのふれあいが、居住者の自然に対する態度や行動及び健康に及ぼす影響を総合的に検証するのは世界初の試みになるという。

 東京大学大学院農学生命科学研究科の保全生態学研究室では、都市の生物多様性の保全や生態系サービスの活用に関する研究に加え、2016年からは緑と健康の関係についての様々な研究を行っており、緑とのふれあいが人の健康促進と関連するという結果を得ているという。その一方で、それらの健康便益が、緑の「量」ではなく「質」によりどれほど変わりうるのかは調査されていなかった。そこで同研究室では2020年、緑地の利用頻度と家の窓からの緑の景色という2つの自然経験の尺度が、都市住民のメンタルヘルス(自尊心、人生の満足度、幸福度、鬱・不安症状、孤独感)とどのように関連しているのかを検証し、緑地の利用頻度が高い人だけでなく、窓から緑が良く見える家に住む人においても、メンタルヘルス尺度が良好な状態にあるという結果を得ている。

 また、積水ハウスは20年以上にわたって取り組んできた、地域の在来樹種を中心とした生物多様性に配慮した庭づくり・まちづくり「5本の樹」計画を共同研究に活かす。

 本共同研究に際し、東京大学大学院農学生命科学研究科の曽我昌史准教授は、「積水ハウスの保有する全国の植栽データによって、これまで検証が難しかった「庭の生物多様性と健康および自然に対する考え・行動の関係性」が世界で初めて総合的に検証されることになる。これまで自然がもたらす健康便益に関する議論では、緑地や森林など比較的まとまった緑がある場所が注目されてきたが、今回の研究では「自然と住む」ことの重要性を明らかにしたい」と述べており、研究結果を都市の生物多様性保全の推進へ役立てたいと意欲を見せている。

 COP15で新たに採択される目標が2030年に、愛知目標のように達成できない形骸となってしまうのかどうかは、これからの各国の取り組み次第だ。東京大学と積水ハウスの共同研究のような動きがもっと広がり、日本がそのリーダーシップを取れるようになりたいものだ。(編集担当:今井慎太郎)

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