VR体験でがん患者らの痛みを緩和 鎮痛剤使わず 順大とパルスが特許出願

2019年6月12日 12:01

 バーチャルリアリティ(VR)体験によって、がん患者らの痛みを緩和する研究を行っている順天堂大学(東京都文京区)と、VRコンテンツ開発会社のパルス(東京都渋谷区)は11日、研究成果に基づく医療用VRシステムの特許を共同で出願したと発表した。VR体験に没入することで、患者の不安や恐怖、痛みなどを取り除く効果が期待でき、鎮痛剤を使わずに痛みの治療ができる可能性があるという。パルスは研究を進めるため、順大以外にもシステムをパイロット提供する。

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 通常、がん患者らの慢性的な痛みを取り除くには、鎮痛剤が用いられるが、医療用麻薬など海外では乱用が社会問題となっている鎮痛剤があり、副作用を引き起こす可能性もある。このためVRの技術を使い、仮想体験をすることで痛みが緩和できないか、2018年4月から共同で研究を開始。既に特別にデザインされたVRを視聴すると、痛みが減少することが報告されているといい、その理由や効果などを検証してきた。

 今回開発したVRシステムは持ち運びが楽なモバイル一体型で、「うららかVR」と名付けられた。仰向けに寝た状態でも使用できるため、自宅や入院時のベッドの上など、どこでも、どんな姿勢でも視聴が可能。コンテンツは、順大での臨床試験の結果、効果が期待できるものを複数収録しており、今後も追加していくという。また患者の利用状況は、端末に記録され、そのデータを医師がインターネットを通じて確認することもできる。

 VRの研究、開発にあたっているのは、順天堂大学大学院医学研究科の堀江重郎教授と同大医学部の井関雅子教授、パルスの木下将孝・開発責任者VRデザイナーの3人。堀江教授は泌尿器科医でがん緩和医療にも詳しい。井関教授は麻酔科医で痛みの緩和の治療では、日本のリーダー的存在となっている。

 堀江教授によると、ビデオゲームを行うことで、不安や恐怖、痛みに関わる脳内の「扁桃体」という領域に作用し、不安や恐怖、痛みが減ることが分かっているという。またゲームで報酬を得ると、痛みや恐怖を抑えるドーパミンという脳内ホルモンが生み出されることも、最近の研究でわかってきたという。教授は、「VRでのゲームは、恐怖や痛みを抑制する脳への作用を強化すると考えられる。また、VRで周囲の環境を瞬間的に変えることで、痛みへの集中、執着から患者を切り離す可能性がある」と、VRの効果に期待している。

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