物流革命進行中 進むロボット導入 人の仕事は無くなるのか

2019年4月9日 17:18

 世界中で拡大するEコマースにより物流が大規模な変革を求められている。工場や配送センターの荷役作業の人手不足が深刻な問題になり始めているのだ。この倉庫及び物流の生産性向上を機械化によって解決しようという動きが、大手の物流会社やロボット関連メーカーで進められている。

【こちらも】次世代物流システム・サービス市場拡大、「宅配ボックス」や「ドローン」が牽引

 荷役ロボットを実現するための技術的な要素については、様々なコンポーネントやソフトウェアが世界中のベンチャーで開発されている。流通に関わる大手企業は大規模な投資を行ってこのような芽の出たばかりの技術を活用、時には購入して自社の配送センターの効率化に向けて実証実験を進めている。

 一方で、梱包やパレット積みなどの労働がロボット化されることで、このような仕事に従事する人たちの仕事が失われることを憂慮する声も多い。今回は流通業の機械化におけるロボット導入の動きについてみてみたい。

●急激に拡大するロジスティックスロボット市場

 製品の荷詰めや梱包、パレット積みを行う作業は、これまで工場や倉庫で必須の業務として、人間が行ってきた。重量物を扱う単純作業とみなされていたこの業務は、これまでも機械化が進められてきたが、ここへきて一層の機械化へ向かう動きが見られる。

 大きな変化はネット販売の爆発的拡大だ。アメリカのフォレスター・リサーチ社によれば、小売業のオンライン売上は欧米では年率10%、アジアでは更に高い成長率で拡大している。中国一国だけでも、そのオンライン販売額は2020年には米英日独仏の5カ国を合わせた額に匹敵するという。

 Eコマースの販売では、個々のオーダーに対する出荷は小口梱包だが、その件数は極めて大きな数字だ。この荷作り作業をするための労働力確保が、重要な問題となる。先進国を中心に人口縮小と高齢化が進むことを考えると、肉体労働が求められる倉庫労働者を大量に集めることは難しくなるであろうことが予測される。

 このような将来の課題を見据えて、大手の物流企業や流通部門ではこの梱包や開梱、倉庫内物流と言った作業にロボットを導入する試みが多数行われている。

●倉庫業務のロボット化

 2015年に、アメリカでアマゾンが自社の配送センター内の物流管理にモバイルロボットを使った配送システムを導入した。巨大な倉庫の中の一つひとつの商品を、モバイルロボットが搬送し、作業員が並ぶ梱包ステーションまで持ち運ぶ。作業員はロボットがもってきた商品を箱詰めにして出荷、ロボットが商品をピッキングすることで在庫管理も自動的にアップデートされる仕組みだ。

 国際ロボット連盟(IFR)のサービスロボットレポートによれば、2017年には世界で6万9,000台の物流ロボットが導入されている。対前年で162%という急激な増加だ。2018年には更に66%の成長が予測され、2019年から2021年の3年間に世界中で48万5,000台を販売、年率18%の成長となる見込みだ。

 単に倉庫内の製品の搬送だけではなく、作業員との協働による生産性向上を実現するロボットも現れている。アメリカ・マサチューセッツ州のシックス・リバー・システムが開発した「チャック」は、商品を積んだロボット・カートが場内を移動、オーダーに合わせて複数の作業員の間を動き回り、梱包作業を効率化する。これまでに10事業所に100台を納品し、年内に600台のロボットを販売する目標だ。

●ロボットと作業員の協調作業

 このようにロボットが人間の作業員を補助する場合、ロボットと人間が同じ作業領域で作業をすることが必要になる。従来ロボットが工場で作業を行う場合は、人と作業空間を分けて工程を処理することが必要だった。このため従来のロボットの周囲には保護柵が設けられていた。今後のロボットではこの柵を取り除き、人とロボットが作業を分担して処理を進めることが求められている。協働ロボット(コボット:コーポラティブ・ロボット)と言われる所以だ。

 ABIリサーチ社によるとコボットの需要は2020年には10億ドル(約1,100億円)に達するという。人とロボットが隣り合って作業をするような現場では、ロボットが誤って人を傷つけたりしないような新しい安全策が必要だ。多くのロボットはセンサーを内蔵しているが、コボットたちは稼動時の強さやスピードを低くして、軟らかい材質で覆われており、人に当たった時にはは即座に動きを止めるようになっている。

 コボットはすでに経済的に導入しやすい価格で提供されている。コントローラ付きのコボットを1台3万4,000ドルで提供しているデンマークのUniversal Roboticsは、軽合金で作られた重さ18kgのコボットを販売、年率70%の成長を遂げている。同社のコボットを導入したBMWは、コボットが人間を代替するものではなく、補完するものと位置づけている。

 ボストン・ダイナミクス社が開発した「ハンドル」はパレットの積み替えを人間の補助なしで行うことができる移動型ロボットだ。吸盤で製品の箱を持ち上げ、荷受側のパレットまで工場内を自力で移動して梱包を置く。この作業を繰り返して「ハンドル」はパレットの上に製品をパレタイズすることができる。

 工場内のパレタイズや倉庫の梱包作業は、低賃金の労働力が活用されている現場だ。このような作業は重量物により体を痛めたり、怪我をする危険性が高い。高齢になると作業が難しくなると言う点からも、ロボット化により労働環境が改善することは喜ばしいことだろう。企業にとっては、ロボットを導入することで作業のダウンタイムを減らし、設備を24時間稼動とすることで生産性を極限まで上げることができる。

 しかしながら、これは同時に人間の作業員が不要になる可能性を示唆している。

 世界3位の流通企業DHLでは、コンテナに入った梱包を取り出し、個別の梱包を製品別に倉庫の棚に配置させるロボットシステムの導入を検討している。このシステムが導入されれば、工場のピッキング作業員の50%は、仕事が不要になるという。

 同社が描く未来の物流センターの予想図には人間の作業員は数えるほどしかいない。コボットの導入が本格化する時には、コボットが協働する相手は、別のコボットとなるかも知れない。(記事:詠一郎・記事一覧を見る

関連記事

最新記事