「転職が失敗だった」と言う人に共通していると思うこと

2018年10月18日 18:17

 多くの企業で人手不足が顕著になり、求人数は過去最高レベルが続いています。「転職バブル」などとも言われているようで、確かに転職を考える人は増えていますし、実際に転職する人も多いと感じます。

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 会社側では、採用難で人が採れないだけでなく、せっかく入社までこぎつけてもすぐ辞めてしまう早期退職の問題などもあり、悩みは大きいものの、その解決策は見出せずにいます。

 その一方、転職した人がみんなハッピーかというと、決してそんなことはなく、「転職したが思い通りではなかった」「転職が失敗だった」という人は、こちらも数多く見かけます。
 今のような雇用環境であれば、仮にうまくいかなかったとしても、より良いところを探してまた転職することができるでしょうが、転職回数を重ねることにはデメリットがありますし、転職の繰り返しが、果たして意味がある努力なのかという根本的な問題もあります。

 私も人事という仕事柄で、転職に関する相談を受けることがあります。だいたいは「今の会社に将来性がない」「やりたい仕事でない」「雰囲気が悪い」といった現状否定の話から始まり、「だから転職したい」となります。この考え方自体はごく普通のことで、現状否定がまったくない転職をする人は、私は今まで本当に数えるほどしか出会ったことがありません。
 ただ、私が見ていて思うのは、この現状否定の感情が強いままで転職する人に、「思ったようにいかなかった」「失敗だった」という人が多いことです。

 私が転職に関するアドバイスを求められたときに、必ず尋ねることがあります。それは「転職すると何がどのくらい良くなるのか」ということです。そして、「転職によって良くなると思われること」と合わせて、「悪くなること」や「失われること」がいくつあるのかを考えてほしいといいます。
 それぞれの項目を挙げて、良くなることの方が少なくとも5項目以上、できれば10項目はプラスでなければ、転職しない方が良いと伝えています。

 現状否定の感情が強いままでの転職は、言い方を変えると現状逃避の性格が強くなります。「とりあえず辞めたい」なので、辞めることによって失われるものに目が向いていません。転職して初めて失われたものに気づき、そこから「思い通りでない」「失敗だった」となっています。

 ひどいブラック企業なら、一刻も早く逃れることが優先するときもありますが、一般的な転職であれば、少なくとも「何かが良くなること」を求めて転職します。
 ですから、みんな「良くなると思われること」にはそれなりの意識があります。給料があがる、会社の知名度が上がるなどは一番多いことです。
 しかし、どんなに小さい会社でも、給料が高くない、知名度がない会社であっても、辞めれば失う物が必ずあります。これは、みんな考えているようで、意外に考えていません。

 転職というのは、働く環境の全面交換なので、仕事に関連することは基本的にはすべて変わり、当然ですが良くなることも悪くなることもあります。勤務場所や給料ほかの労働条件だけでなく、仕事の進め方は変わりますし、人間関係も全面的に変わります。今までの知識や経験が通用しないかもしれませんし、身近にいるのは気が合う人ばかりではないでしょう。

 仕事の進め方や業務知識などは、自分が学ぶことで解決できますが、人間関係の相性など自分では変えられないこともあります。ここで、今の会社と転職先の会社の差し引きがプラスでなければ、良い転職ではありません。

 私は会社に対しては、退職者対策や採用対策を一緒に工夫しますが、これは社員が「是非働き続けたい」と思ってもらえる環境作りに努力するしか方法はありません。また、どんなに努力しても、辞める人がいなくなることはありません。

 転職希望に対しては、したければどんどんすればよいと言っています。嫌々で会社にしがみつく必要はないし、それは不幸なことだと思うからです。ただ、転職がしやすくなると、安易な転職が増え、「こんなはずではなかった」という人が増えていきます。これも同じく不幸なことです。

 転職を考えるにあたっては、確実に良くなることが5個以上、できれば10個上回るかどうかを考えてみてください。今のように転職しやすい環境だからこそ、よく考えなければならないことだと思います。

※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら

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