電力大手4~9月期、ガス会社の電力事業に攻め込まれる

2016年11月4日 14:23

 ■今期中、家庭用電力シェアの3%を都市ガスに切り取られそうな情勢

 10月31日、電力大手3社(東京電力HD<9501>、中部電力<9502>、関西電力<9503>の4~9月期(第2四半期/中間期)決算が出揃った。火力発電の燃料費の低下で、各社ともおおむね4~6月期決算と比べて減収幅、減益幅が圧縮。高浜原発の運転差し止めで料金値下げができなくなった関西電力は最終2ケタ減益から最終増益に変わった。

 電力小売の完全自由化から半年が経過。4~9月期末の9月30日までの6カ月間の実績を電力広域的運営推進機関(広域機関)が10月7日に公表している。電気の購入先を切り替える「スイッチング開始申請」件数は累計188万4300件で、全国の電力総契約数6260万件の3.0%に達した。東京電力(東京電力パワーグリッド)管内は108万1000件、関西電力管内は38万900件、中部電力管内は14万6300件で、この3電力管内で全国の85.3%を占める。

 東京電力管内では10月24日時点で東京ガスの契約が50万件を突破し、夏に40万件から引き上げた年度目標53万件をまもなく達成しそうな勢い。関西電力管内では大阪ガスが10月26日、家庭用契約が21万件に達したと発表した。年度目標の20万件はすでにクリアしている。東京ガス、大阪ガスの電気事業は両社合わせて、年度内に東京電力、関西電力の家庭用電力シェアの約3%(約80万件)を切り取れそうな情勢。KDDIと提携して東京電力管内で電力小売に参入したJX日鉱日石エネルギー(エネオスでんき)も新電力では「大手」で、東京ガス、大阪ガス、JXの3社で全国の契約切り替え全体の約半数を占めている。

 電力小売の自由化で、東電、中電、関電の間でお互いのエリアの契約者を取りあう「越境供給」も活発化した。その主戦場は巨大な需要地である東電管内の首都圏だ。

 年が明けると2017年4月には電力から1年遅れて都市ガスの小売が完全自由化される。電力大手3社は東京電力は日本瓦斯(ニチガス)、中部電力と関西電力は岩谷産業と手を組み、そのサービスネットワークを取り込みながら「都市ガス自由化で電力のリベンジ」を狙う。

 ■燃料費が安くなっても販売電力量が落ち込んでは、減収減益やむなし

 2016年4~9月期の業績は、東京電力HDは売上高15.5%減、営業利益23.9%減、経常利益24.9%減、四半期純利益66.3%減。中間配当は前年同期比と同じく無配とした。

 4~9月期はコスト(経常費用)の30%を占める燃料費が前年同期比で41.8%減少したが、経常収益の86%を占める電気料収入が8.8%減では2ケタの減収減益もやむを得ない。原子力損害賠償費6兆5256億円の前期見積額との差額1685億円を特別損失に計上。中部電力との包括的アライアンスで、7月に既存の燃料事業(上流・調達)、海外火力IPP事業、火力発電所のリプレース・新設事業をそれぞれ新会社のJERAに承継させたことで、持分変動利益364億円を特別利益に計上したが、最終利益は前年同期比で6割以上も減少した。

 中部電力は売上高11.8%減、営業利益24.3%減、経常利益22.2%減、四半期純利益2.1%減で2ケタ減収、最終減益。四半期純利益の通期業績見通しに対する進捗率は127.5%で、すでにオーバーしているが、この先、本決算までに特別損失などで大きく減少することはありうる。中間配当は前年同期比で5円増配し15円とした。

 省エネの影響で販売電力料の減少が115億円、燃料費調整額の減少が2175億円の減収要因。経常利益ベースでは、燃料価格の低下に伴う燃料費と燃料費調整額の期ずれ差益の減少で大幅減益となった。停止中の浜岡原発は2基が原子力規制委員会の新規制基準の適合性確認審査を受けている。

 関西電力は売上高7.6%減、営業利益4.2%減、経常利益3.7%減、四半期純利益6.1%増で、4~6月期から減収幅、減益幅が圧縮し、最終利益は2ケタ減益から増益に変わった。中間配当は前年同期比と同じく無配とした。

 販売電力量は614億キロワット時で5%減少。4~9月期としては26年ぶりの低水準で、630億円の減収要因になっている。新電力への乗り換えの勢いは衰えず、前年度に2段階で値上げし、高浜原発の再稼働が差し止められて値下げができなくなったため、工場など法人では節電ムードもひろがった。減益幅の圧縮は原油価格の低下と為替の円高で火力発電の燃料費が1300億円減ったことが効いている。最終増益の要因は水力発電用の渇水準備金を取り崩したことで、あまりいいことではない。

 2017年3月期の通期業績見通しは、東京電力HDは全機停止している柏崎刈羽原発の運転計画を示せないため未定のまま。柏崎刈羽原発6、7号機は安全審査に必要な資料を12月に提出し、合格は来年4月以降になる見通し。しかし10月の新潟県知事選挙で原発再稼働に慎重な候補者が当選し、再稼働への道はいっそう厳しくなっている。年間配当予想は無配の見通し。

 中部電力は7月の第1四半期発表時点に続き今期2回目の通期業績見通しの修正を行った。売上高は200億円減で前期比8.6%減から9.3%減に、営業利益は100億円増で52.6%減から49.1%減に、経常利益は100億円増で55.0%減から51.1%減に、それぞれ修正している。当期純利益は修正なく32.3%減のまま。年間配当予想は5円増配の30円で修正していない。

 売上高の下方修正の理由は販売電力料の減少、燃料費調整額の減少を見込んだためで、2期連続の減収。営業利益、経常利益の上方修正の理由は経営効率化の効果が出ることを見込んだため。それでも経常利益は2014年3月期以来3期ぶりの減益になる見通し。浜岡原発の再稼働のメドは立っていない。2017年4月の家庭向けガス小売の全面自由化に向けて、サービスネットワークを持つ岩谷産業と提携交渉に入っている。10月には20人規模の専門部隊を発足させた。まず中部地区から参入し、5年間で20万件のガス供給契約獲得が目標。なお、関西電力も岩谷産業と提携している。

 関西電力は「原子力プラントの具体的な再稼動時期が見通せないことなどから、現時点では一定の前提を置いて業績を想定することができない」という理由で、業績も配当見通しは全て未定のままとした。新電力への対抗策で10月から新電力プランを導入した。月に350キロワット/時の電気を使う標準的な3人世帯で月に約3%、約300円安くなるという。(編集担当:寺尾淳)

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