「見て触れる」経験をすると、脳内の視覚刺激が手触りを反映したものに変化する―NIPS郷田直一氏ら

2016年3月30日 17:20

 自然科学研究機構生理学研究所(NIPS)の郷田直一助教と小松英彦教授らの研究グループは、サルを用いた研究によって、様々な新しいものを実際に「見て触れる」経験をさせると、その後は、ものを見た際の視覚刺激が素材の手触りを反映したものに変化することを明らかにした。

 脳には、視覚、聴覚、触覚などのさまざまな感覚情報を処理するための、各々の感覚情報処理に特化した領域(感覚野)がある。ものを見たときは、後頭葉にある「視覚野」で入力された視覚情報を分析し、そのものが何なのか、どのような素材でできているかなどを認知・判断している。

 今回の研究では、サルに「さまざまな素材で作られた棒状の物体を実際に見せ、そして触れさせる」課題を遂行させ、それら素材の見た目と手触りを十分に経験させた。そして、「見て触れる」経験をさせる前と後で、サルが各素材の写真を「見ている」時の脳活動を、機能的磁気共鳴画像法を用いて計測した。

 その結果、「見ている」時の脳の視覚野の下側頭皮質後部の活動が、「見て触れる」経験によって素材の外観や手触りの印象をよりよく反映した反応パターンを示すことがわかった。つまり、「見て触れる」経験後に素材を見ると、手触り(滑らかさ、硬さ、冷たさなど)の似た素材に対しては似たような反応をし、手触りの違う素材に対しては異なったパターンの反応を示す結果となった。

 下側頭皮質後部は、視覚の情報処理に特化した脳領域で、聴覚や触覚などといった他の感覚刺激に影響を受けないと考えられていたが、こうした従来の説を覆す結果と言える。

 研究グループは、今回の成果について「視覚野がより高度な発達を遂げるためには視覚だけでなく他の感覚の経験が非常に大切であることが判った」「『脳が様々な物を認識したり質感を感じるメカニズム』の全容を解明するための重要な足がかりになる」としている。

 なお、この内容は「Current Biology」に掲載された。論文タイトルは、「Crossmodal association of visual and haptic material properties of objects in the monkey ventral visual cortex」。

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