アールシーコアCORPORATE RESEARCH(8/16):特殊要因を除けば高効率経営は明らか

2013年6月20日 17:50

*17:50JST アールシーコアCORPORATE RESEARCH(8/16):特殊要因を除けば高効率経営は明らか

■財務状況

◆自己資本比率は41%だが、実態の安全性はそれ以上の実力

アールシーコア<7837>の2012年度末時点の自己資本比率は41.2%、製造業でないことを考えれば、この自己資本比率は決して高い水準にはないが、これは工事未払金や未成工事受入金などの規模が大きいことに拠るため。単価が高く、工事期間も長い住宅業界においてはしばしば散見される状況でもある。特に、同社は施工部隊を敢えて持たないという特性があるため、どうしても工事は外注となり、完成までは未払金が積み上がってしまう仕組みにある。したがって、見かけ上の自己資本比率は実態以上に厳しい数字となる傾向にあり、そういった特性を勘案すると、これらは特に憂慮すべき内容ではないと考えられる。換言すれば、見かけ上低めに計算される特性を考えても、40%超の自己資本比率を確保できている、ということは、財務基盤の実態はそれ以上にあるということを示している。


◆事実上の無借金経営であり・・・

有利子負債残高を見てもその傾向が確認できる。有利子負債の期末残高は24.0億円となっているが、同時に現預金を24億円保有。有利子負債残高から現預金を差し引いたネットの負債(純有利子負債)はほぼゼロであり、事実上は無借金経営に近い状態となっている。自己資本比率を見るまでもなく、実態は非常に安定感のある財務にある。


◆・・・自己資本比率はじりじりと上昇トレンドにある

時系列でみても、多少の変化はあるものの、2009年以降は自己資本比率がじりじりと上昇傾向にあることがわかる。本業の好調を追い風に、純資産額は4期連続で拡大。2012年度末時点で過去最高の35.3億円に到達している(それまでの最高は2007年9月の31.5億円)。これに加え、2012年以降はエスクロー制度(取引の安全確保のために第三者を介在させる仕組み)導入により、これまでアールシーコアが受けていた工事費用の前受金を第三者の管理する信託口座に移管させたため、負債勘定が一気に縮小。これにより自己資本比率も一気に上昇し、こちらも4年半ぶりに過去最高を更新することとなった。依然として、工事未払金や未成工事受入金などが見掛け上の自己資本比率を押し下げている面はあるが、徐々に実態とのギャップは縮小してきている模様である。


◆エスクロー制度導入が負債の攪乱要因になっている

なお、エスクロー制度導入は、純有利子負債動向の攪乱要因にもなっている。現在がほぼ無借金状態であることは前述の通りだが、時系列では直近の資金的余力が急速に縮小してしまっている。ただし、これは前受金である現金が信託口座に移管されたため。財務が急激に悪化したわけではないことには留意が必要であろう。このことを換言すれば、以前は「前受金」という代金先受けメリットがあってようやく実質無借金状態となっていたが、現在はむしろそういった下支えがなくともほぼ無借金状態を維持できていると理解すべきである。しかも、この間にあった首都圏の第二直営展示場(後述)の建設費用負担をこなしてのほぼ無借金状態である。同社の財務安全性がより強固となっていることがうかがえる。


◆資産効率性はそれほど高くないが・・・

むしろ特徴的なのは資産の効率性を示す回転率であろう。同社の2012年度の総資本回転率実績は1.20回。エスクロー制度導入によって資産の圧縮が図られたことで、上場企業ではほとんど見劣りしない水準に到達している。ただし、効率の低い巨大企業を除いたベースで比較すると、非上場会社を含めた製造業や建設業の平均的水準に相当する水準にとどまっている(中小企業庁調べ)。確かに北米に製造部門を抱えるうえ、住宅建設も行っていることを考えれば、特に問題ないとする見る向きもあろう。しかし、(1)施工・工事は外注や販社が主体であり、(2)北米の部材製造も売上全体の一部に過ぎない、(3)アールシーコアはむしろ商社機能が主体であり、かつブランディングなどに注力している、などを勘案すれば、この回転率水準にはやや不満が残る。ちなみに、中小企業庁調べにおける卸、小売業などの総資本回転率は概ね2回程度にも達している。総資本回転率は投下資本の回収スピードを示している以上、同社は設備などの固定資産を抱える製造業並みにカネ回り速度が遅い、ということになる。


◆・・・これは代官山展示場の規模が大きいことに拠る

しかし、これは借入金と現金が両建てで資産/資本に計上されていることで総資本が膨らんだ形となっていることが主因である。また、直営の代官山展示場への投下資本が大きかったことの影響も大きい。具体的に数字で見ると、有利子負債が現預金と両建てで約24億円、総資産を膨らませているうえ(相殺すれば本質的にはゼロ)、代官山展示場の土地が簿価で23.4億円(2013年3月末時点)にも上る規模にあるということ。この2要因合計で47億円にも達し、現総資産85億円の実に55%を占めることになる。このうち例えば、負債を現金で相殺したネットベースを総資本として計算すると、回転率は1.67回まで改善することになる。が、それでも卸・小売業の2回程度という水準にはまだ及ばない。これは偏に代官山の影響。もちろん、代官山は都内の超一等地であるため、土地価格まで含めた絶対額に違和感はないが、それでも総資産に占める割合の大きさ故に効率性が低くなってしまっているのである。敢えて厳しい言い方をすれば、代官山展示場は(事業規模に比べて)かなり背伸びをした資産とも言うことができよう。


◆特殊要因を除けば、高効率経営は明らか

これは報告セグメントからも十分読み取れる。報告セグメントでは、代官山を含む直営展示場の土地などは、各セグメントに帰結する資産から分離されて全社ベースの調整項目に計上されている。具体的には、全社の総資産85.1億円に対し、スクエア部門が10.2億円、販社部門は8.0億円、全社調整分が54.3億円といった具合である(全社調整分には現預金なども含まれる)。報告セグメント基準による資産回転率を見ると、主力の販社部門で実に8.2回。直営のスクエア部門でも2.3回にも達しており、十分に高効率であることがわかる。すなわち土地などを除く正味の基準ではカネの回りは十二分に早く、これが前述した事実上の無借金経営の実現に大きく寄与したものと思われる。

とすれば、猶更、代官山展示場の土地の資産の大きさが気にかかる。例えば代官山とは別の場所におよそ現在簿価の3分の1程度のコストで展示場を取得していれば、総資本回転率は1.47回まで上昇する。負債を現金で相殺した実質ベースでは2.23回となり、効率性は卸・小売業に匹敵する水準に達する。代官山展示場が全社の財務に与えている影響は非常に大きいことがうかがえる。


◆代官山は効率性では重石ながら、成長戦略上は無形の貢献大

しかし、上記の試算も机上の空論であろう。そもそも、BESS商品が現在の売上規模にあるのには代官山展示場の無形の貢献が非常に大きい。実際、代官山展示場への来訪者、成約者の数はその他の展示場の中においても出色のポジションにある。別の場所に(例えば郊外などに)展示場を設置していた場合、果たして現在のようなブランド力、集客力、発信力に達していたかは甚だ疑問である。府中から代官山に展示場を移転させたのが1999年。その超一等地での展開を以てしても、現在のブランドを構築するのに10年超の時間を要している。別の場所であれば、少なくとももっと時間を要していた可能性は高い。代官山展示場があったからこそ現在のアールシーコアがあると考えれば、資産効率という観点では確かに重石ではあるものの、それ以上の効果があったとも位置づけられる。当時ではむしろ相当思い切った経営決断であったと推定されるが、この決断こそがこれまでの急成長の実はもっとも重要な分水嶺であったのだと考える。


株式会社エヌ・ジー・アイ・コンサルティング
長井 亨


※続きのアールシーコアCORPORATE RESEARCH(9/16)~(16/16)につきましては21日(金)に配信致します。《FA》

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