晩発性パーキンソン病で神経変性がゆっくり進行するメカニズムを解明

プレスリリース発表元企業:順天堂大学

配信日時: 2015-09-11 09:30:00

 順天堂大学の服部信孝教授、今居譲先任准教授ら、および京都大学の高橋良輔教授らの研究グループは、晩発性パーキンソン病の原因遺伝子LRRK2 (ラーク2)(*1)に病因変異があると、細胞内の小胞輸送に異常が起こることを明らかにしました。さらに小胞輸送の異常が、パーキンソン病同様、加齢と共に徐々に神経変性をもたらすことをモデル動物で示しました。この成果はパーキンソン病の原因の一端を明らかにし、これからのパーキンソン病の予防・治療法の開発に大きく道を拓く可能性を示しました。本研究成果は9月11日付で科学誌PLoS Geneticsオンライン版に発表されました。

【本研究成果のポイント】
・晩発性パーキンソン病原因遺伝子LRRK2シグナルに関わる新規分子HERC2、NEURL4を同定
・LRRK2、HERC2、NEURL4は、協働でNotchシグナル関連分子Deltaの小胞輸送を制御する
・Deltaの輸送異常はNotchシグナルの変調を引き起こし、加齢をリスクとする神経変性の原因となる

【背景】
 パーキンソン病は中脳ドーパミン神経(*2)の変性を特徴とする難治性の神経変性疾患です。LRRK2遺伝子にSNP(*3)や変異が入ると、パーキンソン病を発症します。2004年、パーキンソン病を頻発する家系の解析からLRRK2遺伝子が原因遺伝子として見つかりました。多くの遺伝性パーキンソン病の発症年齢は比較的若いという特徴がありますが、LRRK2遺伝子変異によるパーキンソン病は、平均発症年齢が50歳程度と晩発性であること、臨床症状が一般的なパーキンソン病のそれと類似しているという特徴があります。またSNP解析からも、パーキンソン病のリスク遺伝子であることが証明され、パーキンソン病全体の発症原因を理解する上で重要な遺伝子であると考えられています。LRRK2遺伝子変異は日本人を含め世界中の人種で見つかっており、グーグル創業者の一人がこの遺伝子の病因変異をもつことからも、身近な問題であることがうかがわれます。遺伝子産物であるLRRK2はGTPase(*4)ドメイン、セリンスレオニンキナーゼ(*5)ドメインなど複数の機能ドメインをもつタンパク質です。しかし、LRRK2遺伝子の変異がどのようにゆっくりと神経変性を起こすかは明らかでありませんでした。

【内容】
 今回、私たち研究グループは、LRRK2がGTPaseドメインやセリンスレオニンキナーゼドメインを持つことから細胞内のシグナル伝達に関係するタンパク質であると想定し、京都大学の高橋良輔教授らのグループと共にLRRK2に結合する分子を精製しました。結合分子は200以上みつかり、その中で神経の生存性へ関与する分子のスクリーニング(篩い分け)を行いました。培養細胞とショウジョウバエを用いてスクリーニングを行った結果、HERC2(ハーク2)、NEURL4(ニュウラル4)という2つの分子が絞り込まれました(図1)。HERC2は小胞輸送を制御するユビキチンリガーゼで、NEURL4はアダプター分子(*6)だと考えられ、両分子はNotchシグナルに関係するドメインを有する共通点がありました。LRRK2との関係を調べた結果、HERC2、NEURL4は、LRRK2をNotchシグナル制御に向かわせる橋渡し役をしていることが分かりました。Notchシグナルは神経幹細胞の維持に重要なシグナル伝達経路の1つですが、成熟した神経においての役割は分かっていませんでした。本研究では、ショウジョウバエ成虫脳ドーパミン神経において、神経活動に応じてNotchシグナルが活性化することを見出し(図2)、LRRK2変異によるNotchシグナルの過剰な抑制が徐々に神経変性を導くことを世界で初めて明らかにしました(図3、4)。

【今後の展開】
 ドーパミン分泌が低下し、パーキンソン病の運動症状の原因となるドーパミン神経変性は、一度起こると元に戻らないため、早い段階での対処が必要になります。しかし、LRRK2のように遺伝子に変異をもっていても何十年も発症せずに正常に生活が送れることから、神経細胞内でどのような異常がおこっているかを検出することは容易ではありません。今回、私たちが明らかにしたLRRK2の役割によって、パーキンソン病全体のリスクとなる神経細胞障害の全貌が明らかになることが期待されます。
 今後は、徐々に神経変性が起こるショウジョウバエモデルを利用して、神経変性に関係するNotchシグナル下流分子を明らかにし、Notchシグナルがドーパミン神経の生存性維持にどのように関わるのか、さらなる研究をしていく予定です。

【用語解説】
*1 LRRK2 (Leucine-Rich Repeat Kinase2)
LRRK2遺伝子から作られるタンパク質は、同名のLRRK2と名付けられている。混乱しないように、ここでは、遺伝子はLRRK2遺伝子、タンパク質はLRRK2と表記する。LRRK2 遺伝子は優性遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子の一つで、 LRRK2 変異は遺伝性および孤発性パーキンソン病患者から数多く見つかっている。

*2 中脳ドーパミン神経 
パーキンソン病において神経変性が起こる神経。この神経が変性するとパーキンソン病で見られる運動機能障害(手足の震え、筋肉の硬直、姿勢制御の障害など)が起こる。

*3 SNP(Single Nucleotide Polymorphism:一塩基多型)
ゲノム配列の1塩基変異で、遺伝子の発現に重大な影響があるものから全く影響しないものまで様々な変異がある。

*4 GTPase 
グアノシン三リン酸(GTP)を加水分解する酵素群で、細胞内の多様なシグナル伝達に関与する。

*5 セリンスレオニンキナーゼ
タンパク質のセリン、スレオニンにリン酸を付加する酵素群で、細胞内の多様なシグナル伝達に関与する。

*6 アダプター分子
タンパク質とタンパク質の間を取り持つ分子。ここでは、NEURL4がLRRK2とHERC2を一つの複合体にする役割をもっている。

発表誌:PLoS Genetics  
タイトル:The Parkinson’s disease-associated protein kinase LRRK2 modulates Notch signaling through the endosomal pathway
日本語訳:パーキンソン病関連キナーゼLRRK2は、エンドソーム経路を介してNotchシグナルを修飾する
著者名 :Yuzuru Imai, Yoshito Kobayashi, Tsuyoshi Inoshita, Hongrui Meng, Taku Arano, Kengo Uemura, Takeshi Asano, Kenji Yoshimi, Chang-Liang Zhang, Gen Matsumoto, Toshiyuki Ohtsuka, Ryoichiro Kageyama, Hiroshi Kiyonari, Go Shioi, Nobuyuki Nukina, Nobutaka Hattori and Ryosuke Takahashi

なお、本研究は科学研究費補助金 新学術領域、戦略的創造研究推進事業チーム型研究、厚生労働科学研究費補助金、細胞科学研究財団、大塚製薬の研究助成を受け、順天堂大学大学院医学研究科パーキンソン病病態解明研究講座の今居譲先任准教授、井下強助教、荒野拓研究員、神経変性疾患病態治療探索講座の貫名信行教授、神経学講座の服部信孝教授、生理学第一講座の吉見建二准教授、京都大学大学院医学研究科臨床神経学の高橋良輔教授、京都大学ウイルス研究所増殖制御学研究分野の影山龍一郎教授、大塚俊之准教授、との共同研究で行ったものです。




詳細はこちら
プレスリリース提供元:@Press