銀行が精彩を欠くのは、顧客との接点減らしビジネスチャンスも失ったから?

2022年6月13日 08:40

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 景気低迷が続くと企業の設備投資意欲が低下して、経済活動が活気を失うことは経済の初歩である。不特定多数の人から預金を集めて、若干の金利を上乗せして(利ザヤ)貸出をすることが主業である銀行にとって、経済活動の低迷は貸出先の減少に直結する。

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 金利の低下を決定付けたのが、2013年に黒田日銀総裁が打ち出した大規模な金融緩和策だ。国債などの買入を大幅に増やして大量の資金を市場に供給する政策は、「異次元」とも、「黒田バズーカ」とも大仰に言われたが、足掛け10年を経過しても未だに出口戦略は見えない。

 米国のFRBが金利の引上げを着々と進め、9日の理事会では欧州中央銀行も11年振りの利上げを決めて、世界の大勢が金利引上げへと向かっているのに、日銀が大規模緩和の出口戦略を持っているように見えないのは何故なのか。

 貸出が低迷する銀行は、投資信託や保険の窓販を始めたり、固有のサービスに手数料を求めるようになった。銀行が窓販を始めた動機は、手数料を稼ぐためだ。窓販商品の手数料には結構な凸凹があったが、高い手数料が稼げる商品は当然高リスクである。

 銀行が行内で定めた手数料の目標は金額で表示される。営業店も職員も、手っ取り早く手数料を稼げる商品を顧客に勧めるようになり、商品のリスクを考えて営業活動をする行員は変人扱いされたりもした。

 ところが、窓販商品には元金の毀損リスクがあった。研修会で、リスクがあることを教えられた銀行員も、その銀行員からリスクの説明を受けた顧客も、本気で「元金が減るかも?」と受け止めていたのは少数だったようだ。

 だから銀行員は、目標という名のノルマをこなすため、手数料が多い商品(リスクも多い)を顧客に勧め、顧客は(リスクの説明を受けながらも)期待される利益の多寡で商品を選択した。結果、多くの顧客が「火傷」を負い、狼狽した銀行員は足が遠くなって顧客との接点が減少した。

 通貨を日銀から受取り市中へ供給すること、市中の通貨を回収して日銀へ送ることは、銀行だけに認められた固有の業務である。銀行の原型が両替商と言われることを考えると、祖業であると言ってもおかしくない大事な機能だ。その両替で手数料が徴収されるようになって久しい。

 両替は枚数によって支払う手数料が決められている。ある銀行では、101枚から500枚の手数料が440円となっていたので、1円硬貨を200枚両替してもらうと、440円の手数料が必要になるから、240円損をする計算になる。これはもう両替とは言わない。処理に困った不用品を、経費を掛けて処分するようなものだから、通貨を冒涜するような行為ではないのか?

 バーコードのある納付書で支払う場合、コンビニではあっという間に手続きが終わるのに、銀行では番号札を受取って呼ばれたら伝票に名前を記入して、現金と納付書を預けて暫く待ってやっと支払いが終わる。旧態依然とした仕事振りを変えようとしないから、コンビニで間に合う支払いを銀行に持ち込む人は減少した。

 銀行が窓口の混雑を嫌って、ATMの利用を勧奨していた時代の主導権は明らかに銀行にあったが、現在は顧客が窓口に近寄らなくなってしまった。しがらみがなく給料や年金の受け皿として銀行を利用しているような人は、毎月1度か2度の、キャッシュコーナーだけで用が足りる。

 色んな形で顧客との接点が減少させて来た銀行の、ビジネスチャンスが縮小するのは当然の成り行きだ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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