相場展望5月9日 独裁国家ロシアの連想で、中国離れ進む 米国株は、FRBのインフレ対策の進展で株価軟調局面

2022年5月9日 08:48

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1) 5/6、NYダウ▲98ドル安、32,899ドル(日経新聞より抜粋
  ・米4月雇用統計が労働市場の需給逼迫と高い賃金上昇を示した。インフレ高止まりが意識され、米連邦制度理事会(FRB)の積極的な金融引締めが続くと警戒する売りが広がり、一時▲523ドル安まで下落した。前日もインフレ懸念で▲1,023ドル安と約2年ぶりの大幅安で、短期的に売られ過ぎと見た買いが入って下げ渋る場面もあり、値を戻しては下げるという不安定な動きだった。
  ・市場では5/11の米4月消費者物価指数(CPI)で物価動向を見極めたい投資家も多い。
  ・雇用統計では失業率が3.6%と前月から横ばいとなり、新型コロナ前の低水準になる。平均時給の上昇率は前年同月比+5.5%と高い伸びが続き、市場では「FRBのタカ派姿勢の継続を裏付ける内容だった」との声が聞かれた。
  ・米長期金利が一時3.13%と、2008年11月以来の高さになったのも相場の重荷だった。
  ・インフレが消費を増やすとの見方から消費関連の売りが目立ち、ウォルマートナイキ、アメックスが下落、長期金利上昇が嫌気され高株価のハイテクの主力株が下げた。反面、安定成長が望めるディフェンシブ株のアップル、P&Gが買い優勢となり、原油高を受けて石油のシェブロンは+3%高。

【前回は】相場展望5月6日 米FRB利上げ「+0.75%」⇒「+0.5%」で楽観となり株は急騰したが⇒本質は『金融引締め』の実施決定である

●2.米国株 : 逼迫した雇用で賃金上昇、高インフレ抑制でFRBは金融引締め強化⇒株安へ

 1)主要指数の動き: インフレ高水準、金利上昇とドル高、原油高止まりが続く
  ・米国株: 強い雇用統計を受け賃金上昇が止まらず物価上昇が続く見通し。FRBはインフレ対策としての現行の利上げ方針を維持するとの見方が強まり、株式市場は売り方優勢。SP500は、約1年ぶりの安値を付け、長期下落局面。
  ・米国債: 米10年債利回りは+3.13%に上昇し、債券価格は下落。
  ・ドル円: 米金利上昇による金利差拡大で、ドル高・円安が9週連続。
  ・NY原油: EUがロシア産原油の禁輸に向かう逼迫感で、3日間上昇。

●3.FOMC後に揺れた世界の金融市場、中国リスクにも警戒強まる(ブルームバーグより抜粋

 1)(1)米利上げ (2)インフレ懸念 (3)ウクライナ戦争 が重なり、世界の株式市場は週を追うごとに売り圧力が強まっている。歴史的な下落相場はまだ終わっていない(BofA ストラテジスト)

 2)中国共産党指導部が打ち出した、「ゼロコロナ戦略で徹底的抑え込み」姿勢の強化も市場のセンチメントを一段と損ねている。中国本土株の指標であるCSI300指数は、5/5に▲2.5%下落し、年初来で▲21%安。人民元も18カ月ぶりに6.7元まで下落し、世界的な株安と密接に関係してきた人民元安サイクルが再び起きている。中国の(1)共同富裕 (2)国家再生の目標 (3)ゼロコロナ優先、の中国政策当局者の姿勢は、株式市場のパフォーマンスと利益最大化にとって妨げとなる恐れがある。

●4.米4月雇用統計、就業者+42.8万人増加で市場予想+40万人をやや上回る(NHKより抜粋

 1)失業率は3.6%と前月と同じ。
 
 2)労働者の平均時給は前年同月比+5.5%増加と高い伸びが続いており、人手不足に悩む企業が賃上げを進めていることがうかがえる。

 3)米国の中央銀行にあたるFRBは、記録的なインフレを抑えるために、5/4に22年ぶりとなる+0.5%の大幅な利上げを決め、今後も大幅利上げを続ける可能性を示している。

 4)FRBはインフレ対応に専念して金融引締めを加速させる方針ですが、米国では賃金の上昇を伴う形で物価上昇の勢いが増しており、その抑制は簡単ではないとの指摘もある。

●5.米リッチモンド連銀バーキン総裁5/6、+0.75%の利上げの排除を望まず(ブルームバーグ)

 1)「需要は極めて力強く、インフレ率はかなり高く、これは利上げが可能で、しかも比較的迅速な利上げが可能な方向を指している」と述べた。

●6.国連食糧農業機関(FAO)、露軍が穀物70万トン略奪、海上封鎖で供給懸念も(共同通信より抜粋

 1) ロシア軍がウクライナから略奪した穀物をトラックでロシアに運び入れている事例を確認、トラクターなどの農業機械も盗んだほか、穀物の貯蔵施設も破壊している。

 2)ロシア軍による海上封鎖で黒海沿岸の港湾施設から船舶が出航できないため、世界的な穀物の供給悪化と価格高騰に拍車がかかると、FAOは懸念を示した。

 3)世界食糧計画(WFP)は5/6、「世界的な食糧危機を引き起こさないために、ウクライナの港の再開を求める」との緊急声明を出した。(朝日新聞) ウクライナは世界有数の穀物輸出国で、トウモロコシは世界4位、小麦は世界5位の輸出量を誇る。ウクライナの首相が「ロシア軍の港湾封鎖で、穀物9,000万トンの輸出が止まっている」と述べたと、ウクライナ国営通信ウクルインフォルムが報じた。

●7.BMW、1~3月期純利益は1兆4,015億円と約3.6倍増益(レスポンス)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1) 5/6、上海総合▲66安、3,001(亜州リサーチより抜粋
  ・内外環境の不透明感が嫌気される流れとなった。
  ・中国では、新型コロナ感染対策の行動抑制長期化が一段と警戒されている。国務院は5/5の常務会議で、「ゼロコロナ」政策を堅持する方針を改めて確認した。
  ・一部地域で新規感染者数の鈍化はあるが、外出制限などの完全な解除にはほど遠い。中国景気の先行きも不安視され、外部環境では米金利高がネガティブ。積極的な米金融政策の引締め懸念が再燃し、昨夜の米10年債権利回りは騰勢を強め、一時+3.10%と2018年11月以来の高い水準まで上昇した。
  ・業種別では、不動産が安く、消費関連も下げが目立ち、空運も急落した。反面、「中国当局が中央政府や国有企業に対し、外国ブランドのパソコン(PC)を国産の基本ソフト(OS)で動く中国産PCに置き換えるように命じた」との報道でソフトウェアや電子部品の一角が物色された。

●2.中国株: 西側諸国企業の独裁国家リスク回避で、中国離れが進む流れ

 1)相場の現状: 中国本土株式指数は長期下落基調が続く
  ・上海総合指数は昨年9/13の3,715を天井に、現在は長期下落の途上にある

 2)懸念材料: 中国は、(1)景気後退 (2)世界の工場から失速、に直面している
   ・中国は景気後退に直面している。ゼロコロナ政策の厳格実施で、都市封鎖の拡大と長期化による生産・消費・供給網が混乱し、経済低迷が進んでいる。中国政府は、金融支援と景気対策をテコに支援策を講じ方針と表明するが、実施事項は、思い切った内容ではなく、小出しにとどまっている。中国人民銀行による金融緩和も小幅なものとなっており、景気刺激効果は小さい。

  ・中国政府発表の統計数値は膨らましているとの疑念が高まり、中国への不信感強まる
   中国国家統計局が発表する統計数値が、実態から離れた都合の良い数値に膨らましているとして、信頼性が低下している。

  ・独裁国家・中国として、ロシアとの連想で見られ始め、リスク回避の動きが始まる
   独裁国家ロシアによるウクライナ侵略で、西側諸国はリスクを感じ、世界経済は後退している。同様に独裁国家の中国を見る目が、ロシアと同様になってきている。

  ・中国からリスク回避の動き
   西側諸国から中国に投資され、中国は世界の工場になり、輸出力が急激に付いた。しかし、独裁国家ロシアのウクライナ侵略と核使用への対応を見た西側諸国は、中国に同様のリスクを見ることにつながった。結果、中国投資のリスク対策として、(1)中国への既投資の引上げ (2)新規投資の慎重姿勢 (3)中国から他国への生産基地移転、へと連鎖が始まりかけている。中国株式と債券市場から資金流出が確認でき、それが人民元安につながっている。但し、人民元安を為替管理の厳格な中国政府が容認しているのは、低迷する中国景気を支える輸出競争力の強化策として捉え、あえて放置していると思われる。

●3.中国は、外国製OSを拒否し、政府機関などに国産PCへの交換指示(ブルームバーグより抜粋

 1)中国は、中央政府の機関や国有企業に対し、2年内に外国ブランドのパソコン(PC)を国産に置き換えるよう5/5に命じた。中央政府レベルだけで少なくとも5,000万台のPCが交換されるという。

 2)米国のHPやデルの売上げに直接影響を及ぼす。両者は中国PC市場で中国レノボ(聯想集団)に次ぐ大きなブランドになっている。

 3)こうした措置は、後で、地方政府にも拡大され、やはり2年間の移行期間が設けられる。

●4.在中国のEU企業の23%が中国撤退など検討、「ゼロコロナ」対策を敬遠 (産経新聞より抜粋

 1)上海に工場を持つ日本企業54社のうち63%が「工場は全く稼働していない」と回答。企業は「出勤不能」、「生産停止、日本向け加工品の輸出が完全ストップ」と苦境。

 2)対中投資は2月に、海外投資家による中国債券の保有残高が約3年ぶり減少に転じた。上海株式市場では4/26、上海総合指数が約1年11カ月ぶりの安値となった。

 3)中国共産党の習近平指導部は5/5、党政治局常務委員会議で「ゼロコロナ政策の堅持」を改めて示した。

●5.ホンダ、中国4月販売が前年同月比▲36%減、2カ月連続、上海封鎖で供給混乱(共同通信)


■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)5/6、日経平均+185円高、27,003円(日経新聞より抜粋
  ・(1)国内主要企業の好決算への期待 (2)輸出関連企業には円安基調への期待 (3)値頃感のある割安株を中心に買いが入り、上げ幅は一時+200円を超えた。
  ・岸田首相が5/5、英国で(1)コロナ水際対策の緩和 (2)原子力発電の再稼働に意欲を燃やしたため、ANA、東電などのインバウンド関連や電力株に買いが入った。
  ・コマツ・三井物・日揮・トヨタ、三菱重工・第一三共・三菱UFJが高く、資生堂は▲9%安・楽天・エムスリー・リクルートが下落した。

●2.日本株 : 直近1カ月、米国株の下落に比べ、相対的に堅調で強い日本株

 1)米国株が下落基調のなか、先物では外資系手口はやや弱く、国内勢主導で株価堅持。好決算発表を材料にしたに個別株の選別買いの流れ。そのため、全体的には牽引役不明で「強い相場」というイメージはない。

 2)決算発表シーズンが終わる5/16以降の相場見通し
  ・米FRBは6月FOMCで連続利上げとなる可能性が高く、注目は利上げの上げ幅。流れからは「+0.5%」と思われるが、「+0.75%」であればサプライズ。
  ・米FRBは6月から「量的縮小(QT)」開始、月額475億ドル(約6兆2,000億円)の市場から資金吸収が始まる。9月からは2倍の月額950億ドルとなり、株式市場は「利上げ」と「資金引上げ」 のダブルインパクトを受けることになる。
  ・日本株は、米金融引締めの影響は米国株に比べ小さかったが、本質的には米国株との連動性が高いため、来週以降から6月相場にかけて注意したい。


■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・1332 日本水産   業績好調。
 ・2607 不二製油   業績回復期待。
 ・2502 アサヒ    業績堅調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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