相場展望1月31日号 米国、長短金利幅縮小し平坦化が示唆する金利高 景気後退の『スタグフレーション』?

2022年1月31日 08:51

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)1/27、NYダウ▲7ドル安、34,160ドル(日経新聞より抜粋
  ・午前中に一時+600ドル強上昇した後は、急速に伸び悩み下げに転じて終わった。
  ・米連邦公開市場委員会(FOMC)の金融引き締めに前向きな方針を示したが、引き締めペースに不透明感が強く、金融政策の先行きが読めず、不安定な相場展開が続いた。
  ・1/26のFOMCでは、3月の利上げ開始を示唆し、利上げ後に保有資産の圧縮を始める方針も示した。
  ・市場参加者は、金融政策はタカ派方向に傾くとみているが、利上げや資産圧縮ペースは想定しにくい。市場では「金融政策への不透明感が高まった」との声が多く、相場が上下に振れやすくなっている。
  ・米債券市場の変動も大きくなっており、1/16に1.88%に上昇した長期金利が1/27に1.78%まで低下する場面があった。長期金利の低下を受けて、高PERのハイテクが買われたが、午後は急速に伸び悩んだ。
  ・決算発表で失望されたインテルが▲7%安、景気敏感株のアメックスが売られた。
  ・投資家心理を測るVIX恐怖指数は、前日から低下したが、20を大幅に上回っており、投資家の先安懸念が強かった。

【前回は】相場展望1月27日号 米金融政策転換で、過剰マネー相場から縮小へ 市場リスクと向き合う段階に

 2)1/28、NYダウ+564ドル高、34,725ドル(NHKより抜粋)
  ・企業業績の先行きへの期待感から買い注文が膨らみ、NYダウは+564ドル高と大幅な値上がりとなった。
  ・取引開始後は一時▲300ドルを超える値下がりとなったが、IT大手のアップルの決算が好調だったことから、企業業績の先行きへの期待感が広がって、買い注文が膨らみ、値上がりに転じた。
  ・IT関連の多いナスダック総合指数も+3.1%の大幅上昇となった。
  ・市場関係者は、「このところの長期金利の上昇もひとまず、歯止めが掛かっていることも安心材料となる。一方、FRBが金融引き締めペースを速めることや、ウクライナ情勢への警戒心は根強く、株価は乱高下の傾向が続いて、金融政策とウクライナ情勢が当面の焦点になっている」と話した。

●2.米国経済は、金利高と景気後退の『スタグフレーション』へ向かい始めたか?

 1)FRBは、市場へのマネー供給を3月まで継続し、過剰マネー総額は増加している。その多くの資金は株式市場に流入している。
  ・FOMCで今後の金融政策を1/26に示したが、金利引上げの実行は3/26以降である。
  ・FRBの資産圧縮による余剰資金の回収は、早くても3/26以降となる。
  ・従って、3月下旬までは、金融政策の予想を巡って心理が強気・弱気の繰り返しで株式市場は乱高下を繰り返すものと思われる。
  ・しかも、3月下旬までは、余剰マネー相場にある事実は変わりがない。日替わりメニュー的に乱高下を繰り返しながら下降局面を辿っていく相場展開が続くと思われる。よって、上昇局面では「売り」スタンスが望ましいと思われる。

 2)米10年国債利回りが1.8%割れ、利回り曲線が平坦化
  ⇒ 米10年国債金利は、1/19に一時1.901%に急上昇した。その後、1/28には1.770%まで低下した理由は、株式市場から比較的安全資産とみられる債券市場に逃避した一時的なものみられる。
  ⇒ FRBは金融政策をインフレ抑制に舵を切り、FOMCで金利上昇へと転換した。従って、長・短金利は上昇するものの、短期金利の上昇の方が急ピッチになるだろう。つまり、長・短金利幅は縮小し、フラット化していくだろう。
  ⇒ 債券市場は、米国の景気後退を見込んだ動きか?
  ⇒ 米国は『スタグフレーション』(景気後退のなかの金利高)で悪い方向に行く可能性?に身構えた方が良さそうと思われる。
  ⇒ 株式市場は、「金利上昇とは相性が悪い」という経験則がある。
    金利の推移    1/4   1/18   1/28 伸長率
     2年国債利回り 0.760% 1.043   1.170  53.9%増:FRB利上げに反応
     10年国債利回り 1.647  1.874   1.770   7.5%増
     金利差    0.887  0.831   0.600 ▲32.4%減:金利平坦化⇒景気後退見込む

 3)今週の米株式市場は、「FOMCイベント」⇒『決算発表イベント』にシフトすると予想
  ・従って、10~12月期の個別決算発表を中心に物色されると思われる。
  ・米金融政策の不透明感がくすぶるなか、FOMCの結果発表も通過したため、個別決算発表を材料とした物色が主体となる流れを想定する。
  ・少数の個別材料に資金が集中しやすく、ボラティリティの高い相場になりやすい。

●3.米10~12月期GDP+6.9%で、予想+5.3%・7~9月期+2.3%を上回る (フィスコ)

 1)2021年度の成長率+5.7%と、1984年以降37年ぶりの大幅な伸びを記録(フィスコ)

●4.米先週分新規失業保険申請件数26万件と、予想26.5・前回28.6より改善(フィスコ)

●5.金融引き締めに後れを取ったFRBは、批判を免れず=エアリアン氏(ブルームバーグより抜粋

 1)FOMCは資産購入を直ちに停止し、より明確な利上げサインを発すべきだった。
 2)今回のFRBの発表内容では、今後の経済的困難が増す危機を増やした。

●6.米アップル、10~12月期純利益+346.3億円(約4兆円)、前年同期比+20%増(共同通信)

●7.テスラ、純利益7.7倍、供給網の混乱をしのぎ販売好調(共同通信)

 1)米電気自動車(EV)大手のテスラが1/26発表した2021年12月期決算は純利益が前期比7.7倍となる55億1,900万ドル(約6,300億円)だった。
 2)世界的な環境規制強化を背景に販売が好調、世界販売は+87.3%増の93.6万台。主要自動車メーカーの仲間入りの目安となる100万台に近づいた。

■III.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)1/27、上海総合▲61安、3,394(亜州リサーチより抜粋
  ・米金融引き締めの動きを警戒する流れとなり、半年ぶりの安値水準に落ち込む。
  ・米当局者が早期の利上げやバランスシート縮小に積極的なスタンスを示すなか、米金利の先高観が強まり、新興国からの資金流出が懸念された。
  ・中国企業の成長鈍化がネガティブ材料で、2021年12月全国工業企業による利益総額が前年同期比+4.2%増にとどまり、伸び率は11月の+9.0%から大幅に鈍化。
  ・春節(旧正月)の大型連休を前にして、買い手控えられた側面もある。
  ・業種別では、IT・ハイテク・消費関連が下落するなど、全般に売られた。

 2)1/28、上海総合▲32安、3,361(亜州リサーチより抜粋
  ・朝高後に、売られる流れとなった。
  ・上海総合指数は前日に心理的節目の3,400を約6カ月ぶりに割り込んだこともあって、値ごろ感に着目した買いが先行した。
  ・ただ、大型連休を前に積極的な売買が手控えられるなか、上値は重く、指数はほどなくマイナス圏に沈んだ。
  ・中国では、春節(旧正月)の大型連休が週明けからスタートするが、本土市場は1/31~2/4まで休場となる。
  ・業種別では、造酒・石炭・金融の下げが目立ち、反面、ホテル・観光は高い。

●2.北京冬季五輪を控え、投信やメディアを総動員し、株式相場の下支えに動く(

 1)1月に入り、売りが1兆2,000億ドル(約139兆円)近く膨らんだCSI300指数は調整入りした。ただ、ここ数日間は株式を買い入れる動きが投信に広がった。協調行動とみられる。

 2)国営メディアは最近、バリュエ―ションと政策支援を理由に、中国株の魅力に触れる記事を多数配信している。証券時報は投信の動きを「良き手本」だと持ち上げた。

 3)中国証券監督管理委員会は1月、株式市場を安定させるためにさまざまな措置を講じると表明した。北京冬季五輪の開催を控え、中国当局は市場の混乱回避を目指している。

 4)上海証券報は1/28、今年に入り70社余りのオーナーが自社株買を行ったか、株式保有を増やしていると報道し、「士気を高め自信を強める実践」だと伝えた。

 5)中国の成長や不動産市場の問題を巡る懸念から、中国の早期回復シナリオに疑問を投げかける向きもある。

●3.中国景況感が3カ月ぶり悪化、コロナ対策強化の影響も(産経新聞)

 1)中国国家統計局と中国物流購買連合は1/30、景況感を示す製造業購買担当者指数(PMI)が、1月は12月より▲0.2低い「50.1」だったと発表した。

 2)好不況を判断する節目の「50」は、なんとか上回ったものの、3カ月ぶりに低下した。中国国内では、(1)感染拡大による防疫措置の強化 (2)春節(旧正月)の前後に労働者の帰省で工場の操業が鈍るため、1~2月は製造業の景況感は低迷する傾向がある。

 3)非製造業は、12月から▲1.6低い「51.1」だった。運輸関係などで景況感が悪化し、コロナ対策による移動制限措置の強化が響いた。

 4)一方、中国経済メディア「財新」と、英調査会社HISマークイット発表の民間版製造業PMIは、1月は前月より▲1.8低い「49.1」と、2カ月ぶりに下落し、節目の「50」を下回った。

 5)中国当局は、(1)金融緩和 (2)減税 (3)インフラ投資 を進めることで、景気を下支えする方針を強調している。

●4.米エリオット、香港の東亜銀行への出資(出資比率8.43%)を引き揚げ(ブルームバーグ)

 1)売却総額は約29億香港ドル(約430億円)となる見込み。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)1/27、日経平均▲841円安、26,170円(日経新聞より抜粋
  ・2020年11月以来の1年2カ月ぶりの安値水準。
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)が1/26まで開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)を受け、金融引き締めに積極的なタカ派色が一段と高くなることを警戒した売りが膨らんだ。下げ幅は一時▲900円を超えた。
  ・パウエルFRB議長の、「賃金インフレなどの警戒感を強調し、保有資産の大幅縮小の必要性に言及」したことに、「相当なタカ派との印象を受けた」という声が聞かれた。
  ・CTA(商品投資顧問)と中長期の海外投資資金が売り仕掛けをした。金利高で割高感意識からハイテクを中心に下落が目立った。一方、国内の個人投資家は値ごろ感から下値で買い入れたため、日経平均26,000円に接近すると下げ渋った。
  ・サイバー・ソフトバンクG・スクリンが下げ、ファナック・丸紅が高い。

 2)1/28、日経平均+547円高、26,717円(日経新聞より抜粋
  ・前日まで日経平均が▲1,400円を超える下落となったため、自律反発をねらった買いが優勢となった。
  ・為替は115円台半ばと円安・ドル高と推移し、自動車など輸出関連を中心に追い風となった。
  ・米株価先物が堅調に推移したことも、日経平均を押し上げた。
  ・東京株式市場では、売り方の買戻しを巻き込み、一時上げ幅を+600円に迫った。
  ・ソフトバンクG・トヨタ・ソニーが買われ、一方、東エレク・富士通が下げた。

●2.日本株は、内外短期筋の売買仕掛けで急落・急騰し、翻弄される展開

 1)1/27の▲841円の急落
  ・国内大手(みずほ・野村・大和)の先物売りが炸裂し、空売り比率も52.9%となり、底割れを示現。

 2)1/28の+547円の急高
  ・野村+6,720枚、モルガンスタンレー+4,387枚の買い、空売り比率は46.5%。
   アムロ▲9,193枚の売り(外人合計では▲622枚の売り)
  ・野村主導の相場展開が続く。

 3)日本株は米国株との相関性が高いため、基調は米国株をみながらの対応となる
  ・米国株は、大型株から小型株まで広範囲に売られて下落している。結果として、SP500の予想PERは23倍⇒19倍台まで低下し、割安感が出始めた。
  ・しかし、FRBの金融引き締めは『転換方向について公表されたが、まだ実行されていない』段階である。
  (1)金利引上げ回数(2022年は3回なのか、6回なのか不明)
  (2)金利引上げ幅(0.25%なのか0.50%なのか不透明)
  (3)FRB保有資産縮小(時期、金額ともに不明)
  従って、米FRBの政策決定に警戒感を持って対処したい。

●3.企業動向

 1)マツダ 米アラバマ州で10年ぶりにトヨタとの共同工場で車両生産開始(広島テレビ)
 2)キッコーマン 「デルモンテ」ケチャップなど73品目を3~10%値上げ、5/1から(FNN)

●4.企業業績

 1)日東電工  3月通期純利益+950億円黒字、前期比+35%増(日経新聞)
 2)サイバー  10~12月期営業利益+198億円黒字、前年同期比2.8倍(日経新聞)
 3)信越化   3月期純利益+5,000億円、前期比+70%増、予想4,555(日経新聞)
 4)富士電機  3月期純利益+720億円、前年比+48.2%増、予想686(ロイター)
 5)アドテスト 3月期純利益+863億円、前年比+245増、予想839(日経新聞)
 6)弁護士COM 4~12月期純利益+5.2億円、前年同期比4.7倍(日経新聞)
 7)中部電力  3月通期純損失▲450億円に下方修正(日経新聞)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・2607 不二製油   業績堅調
 ・2726 パル     業績好調
 ・2685 アダストリア 業績好調

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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