菅平高原の草原減少、国立公園指定後に加速 過去300年の追跡調査 筑波大

2021年8月22日 07:34

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 世界の草原は過去100年間で急速に減少しており、草原性の動植物の絶滅により生態系が損なわれることが危惧されている。そこで特に重要な自然環境を保全するため、国立公園の指定などが行われてきたが、それがむしろ逆効果である可能性も指摘されてきた。筑波大学の研究グループは20日、長野県上田市の菅平高原の草原について、その減少速度が特に国立公園に指定された後に速くなっていることが明らかになったと発表した。

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 日本の草原は自然環境だけでなく火入れや放牧、草刈りなどといった人の手によっても維持されてきた歴史がある。そのような半自然の草原は生物多様性が高い生態系であるとされている。

 菅平高原の草原分布の調査に用いられたのは、国土地理院の旧版地形図や古地図、航空写真などである。それらを組み合わせることによって、1881年まで遡って詳しい草原面積を追跡することが可能となった。その結果、菅平高原全体の98%がかつては草原に覆われていたことが判明した。また、その86%は森林化によって2010年までに失われていることも分かっている。

 菅平高原は1949年に上信越高原国立公園に指定されているが、そこを境に1割ほど草原の減少速度が速くなったことも明らかになった。国立公園に指定されることで自然保護のための規制は厳しくなるが、その分人の手が加わりにくくなる。そのため、草原の維持に必要な管理活動も行いにくくなり草原が減少したと考察している。

 一方で研究グループは、草原保全への支援策が行われている阿蘇くじゅう国立公園では、他地域より草原減少が抑制されているとも指摘している。一般に国立公園は自然保護のために指定されるが、人の手によって維持されている自然を保護するためには、管理をサポートすることも重要であることが示唆される。

 今回の研究成果は10月にオンラインで先行公開予定であるとしている。また、それに先駆けてリポジトリサーバー「reserchmap」に20日付で原稿が公開されている。

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