ワンメイクレースと自動車作りの技量

2021年2月11日 16:33

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Photo:GAZOO Racing 86/ BRZ Race

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 モータースポーツの世界には「ワンメイクレース」というジャンルがある。

【こちらも】テスラ過大評価論

 2020年も、Porsche Carrera Cup Japan、Mini Challenge Japan、86&BRZ /富士86BRZチャレンジカップ、ロードスターカップといったレースが開催された。

 トヨタは2021年からは、新ワンメイクレースシリーズの「Yaris Cup(ヤリスカップ)」を開催することを発表している。

●ドライバーの技量

 単一車種で競うレースで、もしタイヤも同一メーカー、同一銘柄の完全ノーマルの車で競い合えば、最終的にはドライバーの技量が勝負の鍵を握る。

 逆に、クローンみたいな全く同じ腕前のドライバーが2人いたとして、ここでタイヤだけ自由化したとする。タイヤメーカーの違い、同メーカーであっても個別銘柄によって異なるタイヤコンパウンドをはじめとする個々のタイヤの性能や、天候や路面の状態によって、正しくタイヤチョイスした方が勝利を得るだろう。

●一部の条件を変えたら

 もう1歩進んで、エンジンは全く同一条件で封印して、タイヤも自由、足回りも自由にセッティングしても良いとすれば、同じ技量のドライバーが操縦した場合、セッティング技術に優れたチームが勝利を収めるのは明白だ。

 「自動車作りの技量が優れたチームか否か」が、勝負の鍵を握るのだ。

●共通支給部品でレースカーを作ったら

 さて、規格量産品のモーターと、同一規格の車載用電池を供給して、手を挙げたメーカーが各社独自のコンセプトでEVを生産すると仮定しよう。

 単純にいえば、内燃機関のエンジンがモーターに置き換わり、燃料タンクとその周辺のディバイスが車載電池に置き換わっただけの様に見えるが、「自動車」を生産するということは、そんなに単純なものでは無い。

●「日産」vs「テスラ」なら?

 例えば、日産とテスラに同じモーターと車載電池を支給してEV車を作らせたら、1充電走行距離等の自動車としての未完成な部分に目をつむれば、どちらが完成度の高い車を作れるかは明白だろう。

 テスラの企業概要を調べるとは、2次電池式電気自動車と電気自動車関連商品、ソーラーパネルや蓄電池等を開発・製造・販売している自動車会社であるとの記述がある。

 かってサファリラリーに君臨し、サーキットで活躍した日産に比べて、テスラは「自動車会社」として、一般的に認められる様な車を市場投入した実績は無い。

●「自動車メーカー」が作ったEV車

 ポルシェが、ポルシェ・タイカン(Porsche Taycan)という電動車両を投入した。

 この車なら、以前から内燃機関を搭載した、れっきとした「自動車」を生産していたメーカー製だ。各種レポートを参照すると、操縦性能も評価に値する出来の様だ。

 勿論、価格も1,448万1,000円~2,454万1,000円とスペシャルだ。

 これは、あくまで実績・経験豊富な「スポーツカーメーカー」であるポルシェが、従来の内燃機関に電動モーターを置き換えたからこその評価であろう。

 それでも、アメリカで発表されたポルシェ「タイカン ターボ」の航続距離がEPA基準で201マイル(約323km)であることからも、1充電走行距離の課題は残ったままである。

●車作り経験の蓄積が重要

 ゴルフ場の電動カートであっても、斜路での安定性や、多様な条件をクリアして成立する。今までゴルフカートを作った経験の無いメーカーに、まともなゴルフカートは作れない。

 「自動車」には、「エンジン」と「足回り」が相俟っての総合性能が、製品としての評価を決定づける。「走る」、「曲がる」、「止まる」の総合性能が、「自動車」の評価指標なのだ。

 EV車の唯一の利点は、モーターの立ち上がりであり、単純な加速性能の比較だけであれば、内燃機関搭載車両を凌ぐことも容易だ。

 しかし、高速コーナリングであったり、ワインディングロードでのステアリングの追従性、ダートでの走破性といった性能が伴ってこそ、完成した「自動車」となるのだ。

 扉が電動で跳ね上がったり、ドア開閉時にドアハンドルが出たり引っ込んだり、運転席のディスプレイが凝っていたりするのは、素人受けを狙った単なるまやかしだ。

 「自動車」の基本はあくまで「走る」、「止まる」、「曲がる」の総合性能なのだ。

●後発のEV参入を模索する企業

 ここへ来て、EV車参入を目論むとされるアップルが、自動車メーカーに接触して、生産委託を模索しているとの情報が散見されるが、既存の自動車メーカーが確立した「車作り」のノウハウを活用しようとする姿勢は、「EV車が自動車として成立するか否かの課題」を別にすれば、正解だろう。

●一般的なユーザーの選択肢

 「電動車」「電動車」と騒がしいが、モーターで走るということに拘るなら、「ハイブリッド(HV)」か、発電専用車載エンジンを使ってモーター走行する「シリーズHV」までしか一般ユーザーに選択肢は無い。

 たとえ経済的な余裕が有り余っていて、スポーツカーメーカーであるポルシェのタイカンを購入しても、自宅に充電設備を設置して、長距離の旅行等に使用可能な車を、別にもう1台保有できなければ、タイカンを「ファーストカー」として所有するのは諦めるべきだろう。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る

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