「血管新生」引き起こす因子を細菌から初めて発見 創薬などに期待 藤田医科大

2020年7月20日 15:08

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バルトネラ属細菌が血管内皮細胞に作用する仕組み(画像: 藤田医科大学の発表資料より)

バルトネラ属細菌が血管内皮細胞に作用する仕組み(画像: 藤田医科大学の発表資料より)[写真拡大]

 既存の血管から新しい毛細血管が形成されることで、体の損傷部位の治癒が促される「血管新生」。進行中のガンが他臓器などに転移し、増殖する際に見られる現象だ。

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 藤田医科大学らのグループは、この血管新生に関する研究を細菌学の観点で実施した結果、バルトネラ属に含まれる2種類の病原菌由来の血管新生因子を発見したと発表した。細菌由来の血管新生因子の発見は世界初という。グループは今後、本研究の応用を進め、虚血性疾患の治療薬開発や再生医療分野の発展に役立てる。

 血管新生は、ケガをして傷が治る創傷治癒のように常に起きる訳ではない。体には、無駄な血液形成を防ぐ制御機構が働いているからだ。だがガンが体内にある場合は例外。肥大化に酸素やタンパク質といった栄養素を必要とするガン細胞によって、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と呼ばれるタンパク質が生成され、このVEGFが血管内皮細胞に与える刺激で血管新生が起こる傾向にある。

 血管新生はそうしたメカニズムが働くことから、VEGFが発生機序の解明から分子標的治療薬の開発まで、研究の中心的役割を担う。ただ、VEGFで活性化する受容体(VEGFR)に対して、効果的に作用する低分子阻害薬がまだ世に出ていないなど、医療領域における課題も多い。そんな中、研究グループは、血管腫を形成するバルトネラ属細菌の性質に着目し、さらなる血管新生のメカニズム解明を図ることにした。

 今回の研究で実験対象としたバルトネラ属は、インフルエンザに似た症状を伴う猫ひっかき病の病原菌となる「バルトネラ・ヘンヘレ」と、シラミなどを介して感染する塹壕熱の原因となる「バルトネラ・クインタナ」の2種類。

 いずれも人では、傷口の化膿や発熱、リンパ節の膨張などを引き起こし、血液が充満した袋のような「細菌性血管腫」を作ることもある。同血管腫は、血管内皮細胞の分裂を繰り返して毛細血管を増やす性質があり、研究チームは血管新生の発生メカニズムとの共通項を見出す形で、研究解析を行った。

 研究解析は、遺伝情報を改変するゲノム編集の技術を用いた。すると、ゲノム上で無作為な変異を発生させたバルトネラ・ヘンセレは、菌に感染した後も、細胞増殖が見られなかった。よって、細胞増殖の鍵を握る遺伝子由来のタンパク質をBartonella angiogenic factor A (BafA)と命名。さらに、VEGFの受容体に作用し、血管新生のシグナル活性化の流れを明らかにしたことから、研究グループは「BafAは、初めて発見された細菌由来の血管新生因子」とした。

 生物学の原理から考えると、ガンは哺乳類から魚類まであらゆる生物に確認されるため、血管新生の発生源となるVEGFがあらゆる生物に総じて存在することは自明のことだった。しかし今回、裸眼で確認できない病原菌にVEGFが見つかり、尚且つ、VEGFRの作用機序の知見も得た。

 病原菌を用いた血管新生の基礎研究は始まったばかりとはいえ、今回の研究が後発研究に好影響をもたらすのは間違いないだろう。(記事:小村海・記事一覧を見る

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